機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第4話 勇猛の新兵 -キアラ・パーシング-

 時間稼ぎを引き受けたミックとダイトの機体は、戦闘開始から僅か数分で満身創痍となっていた。半壊したシールドや、全身に残る黒ずんだ弾痕が、そのダメージを物語っている。

 

『はぁ、はぁッ……!』

『くッ……!』

 

 こちらの攻撃は一向に当たらないのに、向こうの攻撃には簡単に当たってしまうのだ。まるで、吸い寄せられているかのように。

 圧倒的な技量差に由来するその現象は、若手パイロット達に「三獣鬼」の力を十二分に思い知らせている。一方で、彼らを追い詰めた修羅達の方も、未だに継戦能力を維持しているミック達のタフネスには嘆息していた。

 

『ほぉ……こいつら、なかなか良いスジしてるじゃねぇか。俺達に付いて来れねぇようにも見えるが、直撃だけは辛うじて避けていやがる』

『あぁ、センスだけは認めてやらねばなるまい。……だが、そろそろ限界のようだな。その健闘に免じて、楽に消してやるとしよう』

『そうだなァ……いつもならたっぷりといたぶってるところなんだが、お前らは特別だ。痛みを感じる暇もない、幸せな最期にしてやるよ』

 

 並のパイロットなら10秒も持たない猛攻に、数分()持ち堪えている。そんな2機のMSに、ダンテは口笛を吹きながら――ザクマシンガンの銃口を向けていた。

 やがて彼に続き、とどめを刺そうとしていたゼレド機とグルス機が、引き金に指をかける。だが、その時。

 

『……あァ?』

 

 ダンテ機の足元に飛んできたビームの熱が、彼ら3機を僅かに後退させるのだった。それは丘の上からビームスプレーガンを構えていた、キアラ機の奇襲だったのである。

 

『う、動かないで! 動いたら今度こそ当ててやるんだからっ!』

『キアラ……!』

 

 ルゥトゥ達への増援要請を終えた彼女は、ミック達の窮地に耐え切れず、力不足を承知で飛び出して来たのだ。そんな彼女の勇気にミックが驚嘆する一方、ダンテとゼレドは冷ややかに口元を歪めている。

 

『なんだ、まだ逃げてなかったのか。コイツらが足掻いてる隙に、さっさとケツまくってりゃ良かったのによ』

『挙動からして、ただの臆病な新兵だとばかり思っていたが……どうやら評価を改める必要があるようだな。わざわざ死にに戻ってくるとは』

『誰が死ぬもんですか! あんた達を全員倒して、全員で帰投する……それが私達の任務なんだからッ!』

 

 結論から言って、まずキアラに勝ち目はない。

 戦時中から様々な死線を潜り抜けてきたミックとダイトでさえ、彼らには通用しなかったのだ。先の「星一号作戦」で初陣を飾ったばかりの新兵に、敵う道理などない。

 

『だ、ダメだ……! キアラ、コイツらの強さは尋常じゃないんだぞ!』

『もう間も無く増援も来るはずです……! キアラ伍長、ここは自身の安全を……!』

『……今にも死にそうなあんた達に、そんなこと言われたくないわよッ! カッコつけの自己犠牲なんて、今時流行んないんだからッ!』

『キアラ……』

『絶対、絶対死なせない……! 私の隊長は、あんた以外あり得ないんだからね! ミック少尉ッ!』

『……これはまた、大胆な告白ですね』

『だったら普段からちゃんと言うこと聞いて欲しいんだけどな……』

 

 それでも彼女には、退けない理由と想いがあるのだ。この土壇場で、その胸中にあるもの全てをぶちまけてきた彼女の言葉に、ミックもダイトも複雑な笑みを零していた。

 

『おーおー、モテる男は辛いねえ。……今からてめぇのツレが、バラバラに吹き飛ぶんだからよ』

 

 そんな彼らの様子を眺めていたダンテ達は、それほど死にたいならお望み通りに――とばかりに。ザクマシンガンの銃口を、彼女のジムに向ける。

 

『――そこまでだ』

 

 だが、ダンテ達の銃口がそこで火を噴くことはなく。彼ら3機は同時に、迫る「熱源」を悟りその場から飛び退くのだった。

 彼らが立っていた地点に降り注ぐ、ブルパップマシンガンの弾雨。それは上空から弾幕を張りながら現れた、「新手」の仕業だったのである。

 

 ルゥトゥ機のジムスナイパーIIと、ジルバート機のジムコマンド。彼らの愛機もようやく、このブリゼイドタウンに到着したのだ。

 マシンガンによる牽制射撃を繰り返しながら、丘の斜面に着地した両機は。損傷しているミック機とダイト機を片腕で助け起こし、体勢の立て直しを図っていた。

 

『ルゥトゥ大佐、ジルバート中尉……!』

『ミック、ダイト、キアラ……無事だったようだな。……よくぞ、持ち堪えてくれた』

『ここからは我々も戦線に加わる。これ以上被害が拡大する前に、奴らを仕留めるぞ!』

『……はいッ!』

 

 これで、5対3。頭数でも優位に立った今、ミック達の勝利は盤石なものとなるだろう。ブリゼイド邸へと続く坂道を登っている町民達も、そう期待していた。

 だが、それは相手が並のパイロットであれば……の話でしかない。すでにその域からは遥かに逸脱している「三獣鬼」に対しては、これでも足りない(・・・・)のである。

 

『へっ……いいねぇ、ようやく遊べそうな奴らが揃ってきやがった。見覚えのある輩もいるしよぉ』

『……まさか戦後になって、貴様らと決着を付ける日が来ようとはな』

 

 ルゥトゥ自身も、それは承知の上であった。過去に幾度も命のやり取りを重ねてきたのだから、「三獣鬼」の脅威はその肌で嫌というほど理解している。

 

『しかし俺達も舐められたもんだなァ。たかが5機のMSで狩れると踏まれてんだからよ』

『ふ……その心配なら無用だ。俺の仲間に、お前達を侮るような迂闊な奴など1人もおらん』

『ほぉ……?』

 

 そして彼には、指揮官としての「誇り」はあっても「見栄」はない。

 故に部下達を守り、確実な勝利を手にするためならば、他部隊の手を借りることにも躊躇はないのだ。

 

 ――次の瞬間。さらに複数の「機影」が森を抜けて、視認出来る距離に現れ、「三獣鬼」に対して猛烈な掃射を仕掛けて来た。

 

『あれは……第6部隊と第3部隊!? 来てくれたんだ……!』

『まさか、あの部隊のMSまで動くとは……! ……いや、確かにそれほどの相手か……!』

『そういうことだ。……先の戦争では幾つもの部隊が、たかがザクと侮ったばかりに奴らに滅ぼされた。俺は誰にも、その轍を踏ませるつもりはない』

『そ、そんなにヤバい奴らだったんですね……』

 

 ルゥトゥ達が出撃前に連絡していた第6部隊と第3部隊のMSも、ようやくこのブリゼイドタウンに駆け付けて来たのである。

 町を囲む森を突き抜け、飛来してきた彼らの機体を仰ぐミックとダイトは、改めて事態の深刻さを噛み締めていた。キアラもルゥトゥの言葉に息を呑み、緊張した面持ちで「三獣鬼」の方を見つめている。

 

 一方その「三獣鬼」は、森の影から飛び出して来た新手達の猛攻を巧みにかわしながら、散り散りになろうとしていた。

 

『ぐッ……なるほど、増援は奴らだけではなかったということか』

『ハハッ、やっぱりモテる男は辛いぜ。……ゼレド、グルス。散開するぞ。このまま固まってたら良い的だぜ』

『……いいのかよ、ダンテ。奴らの狙いはそれだろう? 連中、俺達がバラけたところを各個撃破していこうってハラだ』

 

 ゼレドとグルスは、リーダーであるダンテの指示に難色を示している。だが彼は、どこか達観したような笑みを浮かべて、自分達を狙う敵機の群れを見つめていた。

 

『それでくたばっちまうなら、どのみち祭りはそこで終わりさ。……だぁれも付き合ってくれない地獄なんて、つまらねぇと思わねぇか?』

『……ふっ、確かに。愚問であったな』

『言えてるぜ。撃破数(スコア)0で終わる瞬間ほど、だせぇ幕引きもねぇわな』

 

 すでに己の保身も生存も度外視している彼らにとっては、如何に1機でも多く、1人でも多く「地獄」に巻き込めるかが肝要なのだ。そのためなら、仲間の死すらも厭わない。

 そんな狂気を帯びた価値観を、3人全員が共有している。それが「三獣鬼」という知性なき猛獣達を結束させている、唯一の「絆」なのだ。

 

 やがて彼らはルゥトゥと増援部隊の狙い通り、3方向に分かれていく。ダンテ機は屋敷近くの丘へ、ゼレド機は炎上する町の中へ、グルス機は町外れの河川へ。

 

『……ここからが正念場だ。この戦闘で、何としても奴らを仕留める。第8部隊、俺に続けッ!』

『はいッ!』

 

 そしてルゥトゥやミック達をはじめとする、連邦軍の進駐部隊も彼らを撃破するべく、3手に分かれて追撃を敢行するのだった。

 

 ――かくして。ブリゼイドタウンを舞台とする、宇宙世紀の「鬼退治」が幕を開けたのである。

 




 他の読者応募キャラは恐らく次回辺りからお出しできるかと。今しばらくお待ちくださいませー(´-ω-`)
 活動報告とあらすじにある通り、連邦軍の新オリキャラ募集企画は5月1日00:00まで続いております。機会がありましたらお気軽にどうぞー(о´∀`о)

Ps
 先行公開された閃ハサの冒頭、映像の進化が凄過ぎて古い地球人は宇宙猫状態でございます(゚ω゚)
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