ブリゼイド邸を守るように展開している第8部隊のMSと、「三獣鬼」最後の1機であるダンテ機のザク。
長きに渡る双方の激戦にも、いよいよ終止符が打たれようとしていた。蓬色のザクを狙う激しい射撃の嵐は、その装甲を徐々に、そして確実に削り取っている。
『ちッ……出来る奴らばかりが揃ってると、射撃の質も段違いだぜ』
『ふん。獣と揶揄されるだけあって、嗅覚だけはなかなかのようだが……気付くのが遅かったな』
『先程までの立ち回りで、貴様の挙動パターンは分析できている。我々の弾切れを期待して回避に徹しているのだろうが、それまで持つとは思わんことだ!』
ルゥトゥ機とジルバート機はダンテ機を挟むような位置に立つことで、どの方向に逃げようとも必ず数発は命中するように、ブルパップマシンガンの狙いを定めていた。
ジルバートの言う通り、すでにダンテ機の被弾はかなりのものとなっている。このままでは2機の弾薬が尽きる前に、ザクのボディが蜂の巣になってしまうだろう。
――だが、この2人はまだ見ていなかったのである。スラスターを重点的に強化している「三獣鬼」のザクが持つ、本気の加速力を。
『ハッ、言えてるぜ。……だったらお望み通り、仕掛けに行ってやろうかいッ!』
『なにッ……!?』
『だ、ダメです! 大佐、中尉、下がってください! こいつの速さはッ――!』
ダイト機が喰らった飛び蹴りの光景から、その「本気」の発露を予感したミックが声を上げる間も無く。一瞬のうちに視界から消え去るほどの急加速で、ダンテ機はルゥトゥ機とジルバート機を跳ね飛ばしてしまうのだった。
『ぐぉあぁあッ!?』
『ごぁあッ!』
『……それまで持つかどうか、分からねえのはてめぇらの方だったなァ』
スパイクアーマーの棘に乗せられた「加速」と「質量」の威力は、第8部隊のエース達すら凌駕している。丘の坂道から転げ落ちていく2人の愛機は、その各部から火花を散らしていた。
『くッ!』
『ぬぅッ!』
それでも、負けるわけにはいかないと素早く立ち上がり。両機は坂道を駆け上りながらビームサーベルを構え、殺意を込めた一閃を放つ。
だが、ヒートホークまで規格外なのか。ダンテ機のザクはルゥトゥ達の光刃を、己の得物一振りだけで受け止めていた。
『おいおい、こっちはたかが1機のザクなんだぜぇ? ……カッコつかねえからマジにもなれねぇってかァッ!?』
『本当にただのザクなら、どれほど楽な仕事だったかッ……!』
『いちいち癪に触る奴だッ!』
そこから始まった剣戟は、衝撃の余波で屋敷が揺れ動くほどの苛烈なものであったが。2対1という構図でありながら、ルゥトゥ達の方が押されていたのである。
接近戦が長引けば長引くほどに、こちらの装甲が削り取られていく。その別格さを目の当たりにした2人は、改めて間近に迫る「死」を覚悟していた。
『済まないヴィオラ、君に会うことはもう叶わんかも知れん……! それでもせめて、この男だけはッ!』
『死の間際に女の名前かァ? いいねぇ、好きだぜそういうの! ぶち殺し甲斐があらァッ!』
その最中、
例え己が犠牲になろうとも、眼前の仇敵を確実に屠れる「隙」を作り出すために。その「陽動」にジルバートの覚悟を見たダンテ機も、敢えて乗ってやるとばかりにヒートホークを振りかぶっていた。
『ぐッ……!?』
『もうあんたの好きにはさせないッ……!』
『ジルバート中尉、ルゥトゥ大佐ッ!』
しかし、その前に。射撃に参加していたダイト機とキアラ機が、同時に背後からダンテ機に組み付き、ヒートホークによる斬撃を阻止してしまう。
自分が犠牲になるような戦い方を認められる者など、第8部隊には1人もいないのだ。チャンスは、全員で作る。それが、第8部隊の基本戦術なのだから。
『……感謝するッ!』
『これで終わりだァッ!』
そんな部下達の献身に、改めて謝意を述べつつ。ルゥトゥ機とジルバート機は、2機掛かりで羽交い締めにされているダンテ機を仕留めるべく、ビームサーベルの切っ先を突き出していく。
『……足りねぇなァッ!』
『なに……ッ!?』
『きゃぁッ!?』
それでも、まだ足りなかったというのか。ダンテ機は腕だけの力でダイト機とキアラ機を持ち上げると、そのまま眼前に迫るエース達に向けて投げ飛ばしてしまったのである。
ダイト機はルゥトゥ機に、キアラ機はジルバート機に激突させられてしまい、4機は燃える町の中にまで吹っ飛ばされてしまうのだった。
『大方、町への余波を恐れて攻撃に集中できねぇってことなんだろうが……全然「殺意」が足りてねぇッ! こんな程度で祭りになるわけねぇだろうがッ!』
『ぐッ……! 祭り、だと……!?』
『あんたの祭りになんて、付き合う気はないわよッ!』
それでも彼らはすぐに立ち上がり、ビームスプレーガンやマシンガンでの射撃に移ったのだが。これまでのダメージが駆動系に影響しているのか、命中精度に乱れが生じていた。
第8部隊が放つ、実弾とビームの嵐。その豪雨を最低限の動作でかわしながら、ダンテは敵方の中心にいたジムキャノン――ミック機の姿がないことに気付く。
(……あのキャノンタイプのガキは姿が見えねぇな。デカい口叩いておいて、結局はケツまくったわけか。……ま、あのダメージなら無理もねぇ)
気迫も殺意もなかなかのものだった男の姿が見えないことも、ダンテを苛立たせていた。
ジオンの本拠地であるサイド3内での戦闘なら、スペースノイドが憎くてたまらない連邦軍も遠慮はしないはず。そんな「期待」を裏切り続けている彼らに業を煮やしたダンテは――やがて、ブリゼイド邸へと視線を移す。
『……へッ、そうかよ。だったら、付き合う気にさせてやるぜ』
『なッ……!』
そして。邸宅を大上段から殴り潰さんと、その鉄拳を振り上げていた。いつまでも「お行儀の良さ」が抜けない連邦軍の面々を、目覚めさせてやると言わんばかりに。
『守るものから消しちまえば、お前らだって我慢する理由はねぇよなァッ!?』
「ザ、ザクだっ、ザクがぁあぁあっ!」
「いやぁあぁあぁっ!」
ルゥトゥ達がそれを阻止せんと、銃口を向けるよりも早く。恐怖に引き攣った表情を浮かべ、窓辺から悲鳴を上げている町民達を顧みることもなく。
ブリゼイド邸目掛けて振り下ろされたザクの拳が、その屋上に突き刺さる。
『が、ァッ……!?』
――直前だった。邸宅に逃げ込んだ町民達に向けて、凶悪な輝きを放っていた、ダンテ機の
視界を奪われたことでバランスを崩したダンテ機は、丘から転げ落ちていく。その惨状を齎した「砲撃」は――ルゥトゥ達よりも遥か後方から飛んで来たものであった。
『……あのダメージなら、逃げるのも無理はない。とでも、思ったか』
撤退したと見せかけ、町外れの林に潜伏していたミック機の360mmロケット砲が、ついに命中したのである。かつてはサラミス級の機銃射手だけでなく、ガンキャノンのテストパイロットも務めていた彼の本領が、ここに来てようやく発揮されたのだ。
『ふぅッ……なんとか1機撃破、か』
『……とても、ザクとは思えない戦闘力でしたね。これほどの腕を持ちながら、無思慮なテロリストにしかなれなかったとは……』
「や、やった……! 連邦軍が、やってくれたんだ……俺達、助かったんだ!」
「良かった……! ほんとにもう、一時はどうなるかとっ……!」
頭部を失い、力なく倒れ伏したダンテ機を見下ろすルゥトゥ達は、ひとまずの決着を迎え胸を撫で下ろす。ザクの頭が吹き飛ばされていく様を目撃した町民達も、戦いの終わりを悟り歓声を上げていた。
「……ありがとうございます、ミック様っ……!」
白くか細い指を絡ませ、祈り続けていたチトセも。遥か遠方に立つジムキャノンの勇姿を見つめ、感涙を溢れさせていた。
『第6部隊と第3部隊も、無事に仕留めたようだな。……皆、本当によくやってくれた』
ブリゼイド邸の崩壊を免れた第8部隊と町民達の視界には、こちらに向かって集まって来る他部隊の仲間達も映り込んでいる。どうやら彼らも、無事に「三獣鬼」のザクを撃破できたらしい。
『にしても……ミック少尉ッ! 狙い付けるの遅過ぎじゃないッ!? 危うく屋敷が吹っ飛ぶところだったわよッ!』
『さ、最後にはしっかり当てたんだから勘弁してよ……』
『……しょうがないわね。まぁ、最後には勝ったんだから、大目に見てあげる。……ちょっとは、カッコ良かったし』
『ん? ごめんキアラ、最後の方が聞き取れなかったな。通信の具合が良くないみたいだ』
『……良くなくて結構よ、バカッ!』
特にキアラはミックの活躍を人一倍喜んでいるらしく、言葉とは裏腹に優しげな笑みを溢していた。その様子から彼女の胸中を察した上で、静かに瞼を閉じ見ぬふりを貫いているダイト達を他所に、当のミックは「通信が上手くいかない」などと言いながら機材を弄り始めている。
そんな第8部隊の日常が始まろうとしていた……その時だった。
『……!? 待て皆! こいつ、まだッ……!』
『なにッ……!?』
すでに機能停止したものとばかり思われていたダンテ機のザクが、突如立ち上がり――町外れの森林地帯へと全速力で逃走したのである。
『あ、あいつ、まだ動けるのか!?』
『こんのッ……今度こそ仕留めてやるわッ!』
『待て! キアラ伍長、迂闊に深追いするなッ!』
意表を突いたその挙動を1番近くで目の当たりにしたキアラ機は、弾かれるように飛び出しダンテ機を猛追する。ジルバートの制止にも耳を貸さず、彼女は諸悪の根源にとどめを刺すべく、ビームスプレーガンを構えていた。
『ここで奴を取り逃したら、今度はどこで何をするかわかったもんじゃない! 見てなさいミック少尉、私だってやれるってところを――ッ!?』
鬱蒼と生い茂る木々を抜け、一度は見失った蓬色のボディを見つけた瞬間。キアラ機は、そのザクのハッチが開けられていることに気付く。
すでにダンテ本人は、このザクを乗り捨てているのだと判明した頃には。キアラ機のジムは、森の影から飛んで来た
『キアラぁあッ!』
先程の意趣返しだと言わんばかりに、頭を撃ち抜かれたキアラ機はその場に倒れ込んでしまう。ルゥトゥ達と共に駆け付けてきたミック機は、一目散に彼女の愛機を助け起こしていた。
『キアラ、大丈夫かッ!?』
『こ、これくらい……なんてことないわよッ……!』
『しかし今のは……ビーム兵器か!? その系統の武装を携行しているジオンのMS、ということは……!』
幸い、メインカメラを破壊された程度であり、命に別状はない。だがその一撃は、第8部隊をはじめとする進駐軍のエース達に戦慄を齎すには、十分過ぎる威力であった。
『おい、見ろ! あの山の上ッ……!』
『まさか、あれはッ……!』
森の向こうに聳え立つ岩山。そこに現れた1機の「新手」――蓬色のゲルググ。
彼の者の存在と脅威を知らしめるビームライフルの一閃は、これまでとは比較にならない苦闘を予感させていたのである。
『あんなものを隠し持っていたというのかッ……!?』
『なんてこったい……! ザクに乗ってた時でさえ、手が付けられなかったのにッ……!』
この場に合流した第6部隊と第3部隊の兵士達も、リーダー格のダンテがゲルググに乗り換えているという事態に固唾を飲んでいる。直に彼の仲間達と戦い、その強さを肌で味わった直後だからこそ、嫌と言うほど理解できてしまうのだ。
常軌を逸した攻撃性と技量を兼ね備えた猛獣が、高性能機という牙を得た場合、どれほどの脅威となり得るのか。今になってそれが分からない者など、ここには1人もいないのである。
『……まさか今頃になって、これを使っても良いと思える相手に巡り会えるたァ思わなかったぜ。お前達なら……もっと楽しませてくれるんだろう? なァ、白馬の王子様?』
一方。ア・バオア・クー防衛戦の際に受領していながら、「殺してもらえなくなる」という理由で封印していたゲルググを、ついに自らの手で解禁したダンテは。
これまでの死闘で消耗しきっている進駐軍のMS隊を見渡しながら――最後に、より凶悪な眼光でミック機を射抜くと。歪に口元を吊り上げ、厭らしく嗤うのだった。
活動報告とあらすじにある通り、連邦軍の新オリキャラ募集企画は5月1日00:00まで続いております。機会がありましたらお気軽にどうぞー(о´∀`о)
Ps
ラスボスにゲルググを持ってくるのは何気にこれが初めてだったりします。言わずと知れた強力なMSだからこそ、最後の最後まで取っておきたかったのです……(*´꒳`*)