機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第8話からの登場人物-

-サワイ・キサミン-
 28歳。島根出身。飄々とした佇まいだが、数多くの激戦を潜り抜けてきた名将であり、部下達からの信頼も厚い第1部隊の指揮官。鹵獲されたザンジバルの艦長を務めている。階級は少佐。
 ※原案はザッキーハマー先生。



第8話 放蕩の智将 -サワイ・キサミン-

 ――その頃。サイド3内部の遥か上空では、1隻のザンジバル級機動巡洋艦が、ブリゼイドタウンを目指して航行していた。

 ジオン共和国の首都・ズムシティに拠点を置く、第1次サイド3進駐軍第1部隊。その管理下に置かれている同艦は、第8部隊の隊長・ルゥトゥの要請を受け、ブリゼイドタウンを襲っているというテロリストの鎮圧に動き出しているのだ。

 

「『三獣鬼』……ですか」

「そうそう。開戦当初から、誰もが手を焼いていた血狂いの猛獣達。そんな風にも言われていた連中だよ」

 

 その艦橋(ブリッジ)の中央で、気怠げに艦長席に座している1人の男――サワイ・キサミン少佐は。この件の中心にいる「三獣鬼」の影に、深々と溜息をついている。

 1隻の艦艇を統べる艦長としての振る舞いとは思えない姿だが、オペレーターの役割を担う彼の部下達は、その佇まいには全く口を出していない。もう慣れているのだ。彼は、そういう男なのだと。

 

「そんな連中が今まで野放しにされていたのですか?」

「終戦から今日までは意外と大人しくしてたもんだから、共和国軍の皆様もすっかり油断してたみたいだねぇ。で、密かに牙を研いでいた彼らに後ろからズドン、ってわけだ」

「でも、結局はたった3機のザクなんでしょう? 第8部隊だけならともかく、第6部隊と第3部隊まで動いてるっていうのに……我々第1部隊まで出向く必要があるのでしょうか」

 

 一度も地球に降りることなく終戦を迎えた「三獣鬼」の脅威は、直接戦った一部の部隊しか把握していない。故にオペレーター達の疑問も当然のことであり、サワイは仕方ないな、と言わんばかりに頭を掻きむしっていた。

 

「『三獣鬼』のうちの2人なら、恐らくそれで事足りたさ。けど、奴らのリーダー……ダンテ・ヴォルフルクだけは別格だ。私がルゥトゥ大佐の立場でも、きっと同じ判断を下していたよ」

 

 先の戦争――チェンバロ作戦及び、星一号作戦の渦中。コロンブス級宇宙輸送艦の艦長を務めていた彼は、2度に渡り「三獣鬼」の襲撃を受けていたのだ。

 同艦の搭載機だったジムスナイパーIIと、そのパイロットを務めていたルゥトゥの存在がなければ、何度殺されていたか分からない。

 

(共和国軍のお偉方からも、聞いたことがある。オデッサで猛威を振るっていたエースパイロット集団……「十指」。そのツートップにいた「魔王」レゾルグ・バルバと、「聖騎士」ジルベルト・ロードボルトにも匹敵し得る、「三獣鬼」最強の猟犬こそが……奴ってことだ)

 

 その経験があるからこそ、サワイは要請の必要性を疑うことなくザンジバルを発進させたのだ。一見ぼんやりとしている表情だが、その眼だけは刀のように鋭く研ぎ澄まされている。

 そんな彼の眼の色から、今回の事態の深刻さを悟ったオペレーター達は、ため息混じりに不敵な笑みを溢していた。

 

「……どうやら、我々が期待していたほど楽な仕事にはならないようですね」

「本件さえ片付ければ、いやというほど楽になるよ。悪い芽を摘む良い機会だと思って、ポジティブに行こうじゃないか」

「ははっ……全く、艦長の能天気ぶりは戦争が終わってからも治る気配がありませんね」

「むしろ、より悪化しているようにすら思えますぞ」

 

 事態の重さを理解しているからこそ、その重圧に飲まれぬよう振る舞い、最善を尽くす。時には、軽口の一つも叩く。それが、第1部隊を預かる指揮官のやり方であった。

 

「よせよ照れるなぁ、褒めても安酒しか出さんぞ? ……さぁて、そろそろ作戦区域に入る。第1次サイド3進駐軍最強と謳われた、我々第1部隊の力を見せてやろうじゃあないか」

「了解。第1部隊、全機出撃準備完了。ハッチ解放します!」

「目標地点、ブリゼイドタウン近郊! 全機発進どうぞ!」

 

 やがてザンジバルのハッチが開かれると、艦内に搭載されていた第1部隊のMSが続々と降下していく。

 ブリゼイドタウンを目指し、最高速度で現場に急行していく彼らを見守りながら――サワイは、激戦の宇宙に見た「三獣鬼」の狂気を思い返し、鋭く目を細めていた。

 

「ルゥトゥ大佐……我々の戦争は、今日でようやく終えられるのかも知れませんな」

 

 戦争が終わっても、彼らは大人しく矛を収めるのだろうか。平和な時代を、享受するのだろうか。

 そんな危惧を胸の内に抱え、もしもの時に備えながら過ごした戦後は、不本意ながら無駄ではなかったらしい。

 

 恐れていたことは、起きてしまった。再び争いは起き、無辜の民間人が大勢巻き込まれてしまった。

 だからこそ、せめてこれを最後にしなければならないのだ。あの日に終えられなかった戦いに終止符を打ち、今度こそ平和を取り戻すために。

 

 ◇

 

 ザクからゲルググへと乗り換えた、「三獣鬼」最後の1人――ダンテ・ヴォルフルク。その技量を以て発揮される戦闘力はもはや、「魔王」すらも凌駕する勢いを持っていた。

 

 すでにザク3機との死闘で激しく消耗し、機体のダメージやパイロットの疲弊も無視できない状況に陥っていた進駐軍では、戦いにすらなっていない。圧倒的な暴力によって、一方的に蹂躙されるばかりとなっていた。

 

「ゆ、揺れがどんどんヤバくなってきてるっ! まだ向こうでやりあってるぞ、あいつらっ!」

「一体何がどうなってんだよぉっ! もう戦闘は終わったんじゃなかったのかよぉっ!?」

「ひっ、ひぃいっ! MSの部品が、どんどんこっちにっ! チチ、チトセさぁんっ! ここに居たら俺達も危ねえよぉっ!」

「待ってください! 外は先程までよりも、さらに危険な状況なのです! 皆さんはテーブルの下に隠れてくださいっ! 今動いたら、それこそ戦闘に巻き込まれますっ!」

 

 その猛襲の余波はブリゼイド邸にまで及んでおり、邸宅の近辺には幾度となくMSの腕や頭が飛んで来ていたのである。

 いつ屋敷にMSの残骸が直撃するか分からない。そんな恐怖に駆られ、屋敷から飛び出そうとする一部の町民を引き戻しながら、チトセは必死にテーブル下への避難を呼び掛けていた。

 

 玄関前に転がっている、ジムスナイパーII――ルゥトゥ機の黒ずんだ頭部が、この死闘の凄惨さを物語っている。

 

「ママぁあっ! わぁあぁんっ!」

「よ、よしよし、大丈夫。大丈夫だからね。きっと連邦軍の人達がなんとかしてくれるからっ……!」

 

 当然、大の大人でさえ泣き喚くほどの事態なのだ。幼い子供に耐えられるはずもなく、泣きじゃくる我が子を懸命に慰める母親は、希望的観測に縋ることを余儀なくされていた。

 だが、恐ろしくて口にはできないというだけで、本当は町民達も分かっているのだ。もう進駐軍に、勝ち目などないのだと。

 

「……本当に、助けてくれんのかなぁ。だって俺達ずっと、あの人達のこと遠ざけてきたのに……」

「そ、そりゃあ、おめぇ……」

 

 それに。命懸けで自分達を救ってくれると期待できるほど、普段から接点があったわけでもない。

 人口の少なさ故に、個々の信頼関係を重視してきた田舎町ならではの懸念も、彼らの不安を煽っていたのである。ここまで戦って駄目なら、自分達はもう見捨てられてしまうのではないか、と。

 

「大丈夫です。……現に彼らは、ここに来てくれました。数も性能も、彼らの方が圧倒的に勝っているはず。きっと……いいえ、絶対に彼らは負けません!」

「チ、チトセちゃん……」

「だから私達も、彼らより先に挫けてはならないのです。耐えましょう、必ず光は差すはずです! 1年もの間、私達を苛んできた戦争だって、終わったのですから!」

 

 だが、チトセだけは信じている。かつての敵国であり、敗戦国でもあるジオンの民間人であっても、決して彼らは見捨てないのだということを。

 先の戦争に由来する悲しみを抱えながらも、決してそれを「現在(いま)」に持ち込まない彼らなら、この絶望すらも打ち払ってくれるのだということを。

 

「チ、チトセちゃん……あいだだだっ!?」

「……全く、チトセちゃんの言う通りだねぇ。今あそこで戦ってるのはあの人らだってのに、あたしらが先に参っちまうなんて可笑しな話じゃないか。おら男共、いつまでもメソメソしてんじゃあないよっ!」

「か、勘弁してくれよ母ちゃぁああんっ!」

 

 今となっては、その想いを胸に自分達を鼓舞するチトセの姿こそが、町民達にとっての最後の支えとなっているのだ。スカートの裾は足の付け根付近まで破れ、メイド服も泥に塗れている彼女だが、その凛々しい佇まいは神々しさすら感じさせている。

 ようやく少しだけ、屋敷内の雰囲気が柔らかくなってきたことに胸を撫で下ろしつつ。チトセは息子の頬をつねる主婦と微笑み合い、「当主」の傍へと赴いていた。

 

 妻である妙齢の貴婦人や、他のメイド達に囲われている、初老の紳士――シリウス・ブリゼイドの元へと。

 

「……すまない、チトセ。お前には何もかも任せてばかりだな」

「いえ……私はただ、私なりに旦那様のお考えを形にしてきただけのことでございます。……そう、戦争ならもう終わっている。だからガリウス様もお嬢様も、じきに帰って来るはずです。信じましょう、私達が今信じるべきことを!」

「チトセ……そうか、そうだな。我々も、いつまでも塞ぎ込んではいられない。……強くならねばならんのだな、お前のように」

 

 両親がいなかった幼少期の彼女を引き取ってから、今日に至るまで。メイドと主人という一定の距離を保ちながらも、実の娘と変わらない愛情を注いできたシリウスにとっても。

 美しく、凛々しく、そして逞しく成長し、町民達に愛されるメイド長として皆を支えているチトセの姿は。未だ愛息(ガリウス)愛娘(クーディア)が戻らない彼に残された、最後の希望なのである。

 

(……神よ。もしあなたが、この救い難き世界をご覧になっているのであれば……どうか、あの方々に。ミック様に今一度、御加護をっ……!)

 

 そして、敬愛すべき主人にして父でもあるシリウスに、微笑を向けた後。神妙な貌で、今も激戦が続いている町外れの森林地帯へと視線を移したチトセは――両膝を着き、指を絡ませ祈りを捧げる。

 

 ミック・ゴートン。その艶やかな金髪と、自分(ジオン)にも向けてくれた、優しげで爽やかな笑顔に。魂まで溶けてしまうような、情愛の想いを馳せて。

 




 活動報告とあらすじにある通り、連邦軍の新オリキャラ募集企画は5月1日00:00まで続いております。機会がありましたらお気軽にどうぞー(о´∀`о)
 これまで参加されたことがあるという方も、初めてだという方も大歓迎ですぞー(*´ω`*)

Ps
 ここから先は未登場の応募キャラ達で構成される第1部隊がメインになっていく予定ですが、応募キャラ同士の関係性や掛け合いを練る時間も欲しいなーと思いますので、募集期間中の更新はそろそろこの辺りで打ち止めになるかと思われます。閃ハサ劇場公開までにはきちんと完結させる所存ですので、まったりお待ちくださいませ〜(´ω`)
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