-ニア・アイマン-
15歳。ヘルシンキ出身。異例の若さで技術士官として認められた天才少女……なのだが、データ収集に夢中になる余り、周りが見えなくなるのが玉に瑕。グレーを基調とするデータ収集用ガンダムヘッドに搭乗する。階級は技術大尉。
※原案はMrR先生。
ダンテ機との死闘に敗れ、焼け野原と化したかつての森林地帯に横たわるMSの群れ。その惨状は進駐軍の敗北という現実を、見る者に容赦なく突き付けていた。
(ど……どうなってるんですか、これ。なんで進駐軍最強の第1部隊が出張っていながら、こんな事態になるんですか!? 計算外ですよ、こんなことっ!)
焼失を免れている林の中に隠れながら、その光景を目撃していたニア・アイマン技術大尉は、予想だにしない展開に瞠目している。滝のような汗を滲ませる彼女の乗機――グレーを基調とするガンダムヘッドは、ダンテ機の目から必死に逃れようと木々に身を隠していた。
外観こそRX-78-3「G-3ガンダム」を想起させるヒロイックなデザインなのだが、その振る舞いは「ガンダムタイプ」と称するにはあまりにも勇ましさに欠けている。データ収集を目的とする偵察用MSであり、そのスペックの実態はジムに近しいのだから、無理もないのだが。
(ら、楽に勝てる戦いだと思ってたから、こんなところまで来てたっていうのに……! は、早く逃げないと私までやられちゃいますよぉっ……! そもそも、なんで皆さっさと逃げなかったんですかぁっ! あんな化け物相手に命懸けで突っ込むなんて、非効率ですっ! 問題外ですっ!)
15歳という若さでMS開発にも携われるほどの才媛である彼女は、「三獣鬼」のデータを取るために第1部隊に同伴していたに過ぎないのだが。その仲間達が倒れた今となっては、「五体満足で動けるMS」はもう彼女の機体しかないのである。
しかし、そうであっても実戦経験などない彼女では、進駐軍の精鋭達を返り討ちにしてきたダンテ機に敵うはずもない。彼女はもはやこれまでとデータ収集を切り上げ、この場から退避しようとしていた。
彼女が開発主任を務めたヘビーガンダム試作1号機ですら、あの猟犬には歯が立たなかったのだから。
『……おいおい。あの小僧の他にもガンダムタイプが居たかと思えば……なんだァ、てめェ。なにドサクサに紛れてトンズラしようとしてくれてんだ』
『ひ、ひぃいっ!?』
だが、その際に発生した僅かな異音を、ダンテに気取られてしまい。半死半生のゲルググは、瞬く間にニア機の眼前へと飛んで来てしまうのだった。
これまで自分に敢然と立ち向かって来ていた者達とは明らかに異なるガンダムヘッドを前にして、獰猛な猟犬は眉を潜めている。一方、蛇に睨まれた蛙と化したニアは涙目になり、その可憐な貌を恐怖に染め上げられていた。
『わ、わわ、私はただデータ収集に来た技術士官で……戦闘力なんてありませんよ!? 私と戦っても、楽しくなんかないですよっ!? この機体、武装なんかないですしっ! ほらこれっ、ジオンのあなたなら分かるでしょうっ!?』
『……CE-16TXカメラガンか。確かに戦闘能力は皆無のようだが……興醒めもいいところだぜ。よりによって影でコソコソしてるだけの見物人が、最後に残ったガンダムタイプだとはな』
ニアはあくまで自分は戦力外だと主張し、命乞いに徹している。ガンダムヘッドからゲルググに差し出されたのは、MS-06E「強行偵察型ザク」が携行しているカメラガンだった。
それを一瞥するダンテはニアの言葉に嘘はないのだと理解し、失望の念を露わにする。自分の最期を彩ってくれるガンダムタイプがついに現れたのだと期待して来てみれば、このような臆病者だったのだから。
『ちッ、もういい。てめぇなんざに残りの力を割く気にはならねぇよ。とっとと失せろメスガキ、殺されたくなかったらな』
『は、はい……見逃して頂き、ありがとうございます……!』
尻餅をつき、戦おうとする素振りも見せないニア機に侮蔑の視線を向けるダンテ機は、「消えろ」と言わんばかりに手を振っている。そんな彼の温情に
(……こ、こいつ〜! 瀕死の分際でベラベラと好き勝手に……! 天才たるこの私の恐ろしさ、思い知らせてあげますっ!)
だが、天才美少女として持て囃されて来たニア個人のプライドが、そのまま「臆病者」として終わることを許さなかったのである。RX-78の頭部を有しているが故の「武装」は、すでに安全装置を外されていたのだ。
『なんて……言うと思いましたかっ!』
『あァ……!?』
消耗しきっているダンテ機が見せた、僅かな隙を突いて。ニア機が持つ唯一の武器である、60mmバルカン砲が火を噴いたのだ。
万全なコンディションのダンテ機が相手だったなら、蚊が刺した程度のダメージにもならなかっただろう。しかし今はその装甲のほとんどを剥がされた、瀕死の状態。至近距離での攻撃なら、バルカン砲の火力でも致命打になり得る。
『やったぁ! あははっ、ざまぁないですねっ! ざぁこ、ざぁこっ、よわよわジオンっ! この天才美少女ニア様に対して、無礼な口を叩くからっ……!?』
『……あァ、確かに無礼だったぜ。悪かったなァ、ただの腰抜けだと思って文句ばっかり垂れちまってよォ』
だが、不意打ちの成功に狂喜乱舞するニア機の眼前に立つダンテ機は。より「死」に近しい淵に立たされながら、なおも両の脚で大地を踏み締めている。
硝煙の中から現れたゾンビ同然のゲルググを目の当たりにして、ニアは言葉すら失い顔面蒼白になっていた。先程の不意打ちでバルカン砲を撃ち尽くしたことで、彼女の機体は事実上の「丸腰」になってしまったのである。
『今さら卑怯だなんて言う気はねぇ。むしろ感激してるんだぜ? てめぇも立派な、死にたがりの1人なんだってさァ』
『ひ、ひぃぃいっ! だ、誰か……誰かぁあぁっ!』
仕留め切れなかったどころか、手札を使い果たした上にダンテをさらに焚き付けてしまったニアは、恐怖に喚き散らしながら周囲に助けを求めていた。だが、そのSOSに応えられるだけの力を残した機体など、もう残ってはいない。
死屍累々と横たわる機体の中で、進駐軍のパイロット達はニアの「時間稼ぎ」に一縷の望みを託すしかなかったのである。ダンテ機の背後では、ミック機のジムキャノンが最後の力を振り絞り、立ち上がろうとしていたのだから。
(いいぞ……ニア大尉! まさか彼女が最後に残るとは思わなかったが……もう少しだけ時間を稼いでくれ!)
(ミック少尉のジムキャノンが立ち上がろうとしている……! 奴を倒せるのはもう、彼だけだ!)
(あのジムキャノンが背後からビームスプレーガンを撃つまで、奴の気を引いてさえくれれば……必ず勝てるッ!)
(頼むぜ、ニア大尉! あとほんの数秒で……!)
ルゥトゥ、アクセル、マーズ、マクスウェルをはじめとする進駐軍のパイロット達は、達磨にされた愛機の中で懸命に祈っていた。勝利への執念だけが、彼らの意識を辛うじて保たせていたのである。
そんな彼らの想いを汲むように、ついに半死半生のジムキャノンが立ち上がった……その時。
『あっ……ミック少尉ぃっ! 早く、早くやっつけちゃってください! こんな奴、早くうぅっ!』
『なにィ?』
背後からの不意打ちを待たずして。ダンテ機越しにミック機の勇姿を目撃したニア機が、大声で猟犬にその存在を知らせてしまったのである。
――あ、あのバカ! という叫びが、ルゥトゥ達の間に巻き起こったのはその直後であった。
『……ニア大尉に、手出しは……させないッ!』
『ほぉお……! ハッハハハ! なぁんてタフな王子様だよ! 感動のあまり泣いちゃいそうだぜ、なァッ!』
『ぐぅッ……!』
だが、当のミック・ゴートンはニアを責めようとはせず。むしろ彼女を守ろうという一心で、懸命にビームスプレーガンを構えていた。
破片が左眼に突き刺さり、痛みと意識の混濁で目視すらままならない中で。それでも彼は、戦い続けようとしている。
そんな彼の狂気にも近しい闘志に触れ、かつてない昂りを覚えていたダンテ機は、悦びの赴くままにビームスプレーガンを撃ち抜いてしまう。だが、ミック機もバルカン砲での反撃に移り、攻撃を続行していた。
『何がそんなに……可笑しいんだッ!』
『死ぬまで戦うことくらいしか取り柄がねぇってのに、それすらも取り上げられて。そのままお払い箱にされていた俺達が……最後の最後で、これだけ暴れられたんだぜ? これが笑わずにいられるか?』
『あの地獄から……やっとの思いで生き延びて! 出てきた言葉が、それなのかよ!』
『俺達はなァ……生かしてくれだなんて、頼んじゃいなかったのさ!』
だが、バルカン砲を撃つ頭部まで撃ち抜かれてしまい、頼みの綱であるミック機までもが武装を失ってしまった。それでも彼はルゥトゥ達と同様に、捨て身のタックルでダンテ機の懐に飛び込んでいく。
『ニア大尉……君だけでも逃げるんだッ! こいつだけは、必ず俺が止めてみせるッ!』
『い、言われなくたってそのつもりですからっ! 命張って戦うなんて、私の仕事じゃありませんのでっ!』
それがニア機を逃すための時間稼ぎであることは、誰の目にも明らかであった。この期に及んで、自分の勝利よりも仲間の生還を優先するミックの言葉に突き動かされるまま、グレーのガンダムヘッドは戦場に背を向けて走り出していく。
(これでいい……! これでいいんです、ニア・アイマン! 私は何も間違っていない! 私は……置かれている状況を正確に把握して、最適な判断を下した! 私が、私が正しいんだっ!)
それは、決して間違いではない。無理にこの場でダンテを倒そうとするよりは、一旦引き下がって戦況を立て直した方が「効率的」とも言えるだろう。
(……なのに。それなのに、どうして私はこんなにもっ……!)
それでも。それを、頭で理解していても。ニアの心だけは、その結論に付いて来なかったのである。
本来なら今話あたりで決着の予定だったのですが、ちょっと長くなりそうだったので次話と分割しようと思います。もーちょっとだけお待ちくださいませー(><)
Ps
さっさと最終話まで書き上げないと閃ハサ劇場公開までに終わらぬー! 早くしろー! 間に合わなくなっても知らんぞー!( ゚д゚)