機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-番外編からの登場人物-

-レビー・ハートマン-
 28歳。サイド2出身。レゾルグ・バルバの部下としてア・バオア・クー防衛戦に参加していたが、コロニー落としに故郷を利用された過去があり、密かにザビ家への復讐を目論んでいた。ビグロに搭乗する。階級は准尉。
 ※原案は八神優鬼先生。

-アヤメ・マツカゼ-
 15歳。サイド3出身。クーディア・ブリゼイドと同じく学徒兵の1人であり、レゾルグの部下だったがパニックになるあまり、レビーに連れられ戦場から逃亡してしまう。ビグロに搭乗する。階級は伍長。
 ※原案は黒子猫先生。



番外編 身中の毒牙 -レビー・ハートマン-

 宇宙世紀0079、12月31日。「星一号作戦」と呼ばれる、ジオン軍最後の宇宙要塞ア・バオア・クーを舞台とする最終決戦の渦中。

 

『き、貴様ァッ……!』

『……これで最後だ。ケリを付けてやるッ!』

 

 「五指」の1位とも称される「魔王」ことレゾルグ・バルバ大尉率いるビグロ隊と、ケンジロー・カブト少尉を筆頭とする攻撃隊の戦闘は、より激しさを増しつつあった。

 絶え間なくビームと実弾が飛び交う、烈火の戦場。その修羅場を舞台に、双方は殺意という名の刃をさらに研ぎ澄ませていく。

 

 ――だが。彼らの死闘に背を向け、この宙域から逃げ出していく者達もいた。レゾルグに追従していたビグロ隊のうちの2機は、要塞の方向を目指して離脱していたのである。

 

『ま、待ってください、レビー准尉っ! わ、私、これからどうしたらっ……!』

『つべこべ抜かすな、アヤメ伍長! 今すぐ殺されたくなければ、大人しく俺に従えッ!』

 

 MA-05「ビグロ」を駆るレビー・ハートマン准尉は、後方を飛んでいるアヤメ・マツカゼ伍長の機体に怒号を飛ばし、全速力での逃亡を図っていた。レゾルグの部下として戦線に加わっていながら、上官を無視して現場から離れている彼らは、いわば敵前逃亡の現行犯である。

 

(俺は逃げているのではない……! むしろ、逃がすまいとしているのだ! 奴らを……ザビ家の連中をなッ!)

 

 それでもレビーが、パニックに陥っている新兵まで連れて行動を起こしている背景には――「復讐」という理由が秘められていた。

 

 故郷のサイド2をコロニー落としに使われ、家族を虐殺された過去を持つ彼は。ジオン軍に拾われて以来、内部からの報復を胸に戦い続けてきたのである。

 そのためなら、ザビ家の狂信者という忌まわしき存在であるレゾルグの下でも働いてきた。しかしそのレゾルグも今や劣勢であり、ジオン軍自体も敗色が濃厚となっている。

 

 ザビ家の誰もが、ソロモンで殿を務めていたドズルのような武人ではない。ギレンやキシリアなら、死に瀕した部下達など容易く見捨てて要塞を放棄する。少なくともレビーは、そう考えていた。

 故に彼は、この混沌に紛れてレゾルグの目から逃れつつ、ザビ家の者達を仕留めるべく要塞方面を目指しているのだ。正常な判断が出来なくなっていた新兵(アヤメ)を、「弾除け」に引き連れながら。

 

『クーディア……ロメリー……皆、どこに行ったのっ……? 助けて、助けてよぉっ……!』

 

 そんな上官の思惑など、知る由もなく。アヤメは同期の学徒兵達に想いを馳せながら、泣きじゃくるしかなかった。

 すでにこの時、ゲルググに乗っていたクーディア・ブリゼイドはケンジローのジムに救助され。リックドムに乗っていたロメリーという少女兵は、リュート・カドクラのジムライトアーマーに蹴り飛ばされていたのだが。戦場に背を向けてしまった彼女にはもう、それを知る術がない。

 恐怖に支配され判断力を失い、言われるがままレビーに連れ出されてしまった彼女は、その傀儡と成り果てていた。

 

 やがて、両機の視界を要塞の巨躯が覆い尽くしていき――内部へと続く入り口が見えて来る。そこで、幼気な少女兵を利用することも厭わない復讐鬼が歪に口元を吊り上げた、その時。

 

『おやおや……いけませんなぁ、准尉殿。レビー・ハートマンともあろう御仁が、この土壇場で敵前逃亡とは』

『……! 貴様らはッ……!』

 

 常盤色、銀灰色、そして蓬色。特異なカラーリングで塗装された3機のザクが、彼らの前に立ちはだかったのである。

 それはレビーにとって、レゾルグよりも遥かに憎むべき「仇敵」達であり。3機のザクを前にした彼の貌は、煮え滾る殺意に染め上げられていた。

 

 かつては「悪霊犬(バーゲスト)隊」と呼ばれるアサクラ大佐の私兵として、サイド2への毒ガス攻撃に加わり。その作戦の「完遂」に深く関与していたという、魔犬の群れ。

 「三獣鬼」こと、ダンテ・ヴォルフルク軍曹。ゼレド・ケルベルガー軍曹。グルス・ガルムート軍曹。彼ら3人はまさしく、レビーの家族を皆殺しにした「仇」に等しいのだから。

 

『レゾルグ大尉の指揮から外れて、何をされているのかと思えば……こればかりは失笑ものですな、レビー准尉』

『そんな使い物にもならねぇ新兵まで弾除けにして、どこに行こうってんですかい? この先にはガラクタと焼け爛れた死体しかありませんぜ?』

『「三獣鬼」……! ちょうどいい、貴様らも前々から殺してやりたいと思っていたところだ! 死にたくなければ道を開けろ、などとは言わん。どの道貴様らは消し炭になるのだ、「報い」としてなッ!』

 

 脅す必要すらない。この場でただ抹殺するのみ。そんな殺気に溢れたメガ粒子砲が一条の閃光を描く。

 だが、3機のザクはその攻撃を難なくかわし、メガ粒子砲の砲口にザクバズーカを撃ち込んでいた。発射口を閉じる暇もなく、3発もの砲撃を同時に叩き込まれたレビー機の先端部が、激しく吹き飛ばされてしまう。

 

『ぐぉあぁあッ!? お、おのれぇッ……!』

『おぉ、これはこれは……なんということだろう。俺達はただ上官殿を説得しようとしていただけなのに、よもや攻撃されてしまうとは……あぁ、恐ろしい』

『こうなってしまっては、我々も反撃せざるを得ませんなぁ。悲しい限りですぞ、レビー准尉殿』

『敵前逃亡、部下への攻撃。もはや言い逃れは出来ませんぜぇ? いやぁ、残念、残念……』

 

 次に聞こえてきたのは、あまりにも白々しい言葉を連ねる「三獣鬼」の嘲笑。その技能に反した下劣な振る舞いに、「裏切り者」はさらに青筋を立てる。

 だが、彼らの実力だけは本物であるということは、先程の同時射撃が証明している。それでも、復讐を諦めるわけにはいかない。

 

『伍長ッ! 何をボサッとしている、貴様も攻撃せんかァッ!』

『えっ……きゃあぁあっ!』

 

 ならば、例え新兵であろうとアヤメを利用するまで。そう判断したレビーは、「三獣鬼」の気迫に竦んでいた彼女の機体をクローアームで掴むと、勢いよく3機のザク目掛けて放り投げてしまう。

 予想だにしない行為に悲鳴を上げながら、アヤメは半狂乱になりメガ粒子砲を乱射していた。もちろんそんな攻撃が当たるはずもなく、ダンテ達は紙一重の動作で容易くかわしている。

 

『いやぁあぁっ! 来ないで、来ないでぇえぇえっ!』

『……ただ無理矢理付き合わされてるだけの学徒兵か。チッ、雑魚過ぎて殺す気にもならねぇ』

『ダンテ、あの小娘は俺達が処理しておいてやる。准尉殿の悲しい復讐劇に、もう少しだけ付き合ってやれ』

『おう、任せたぜお前ら』

 

 アヤメ機の対処を引き受けたゼレド機とグルス機に背を向け、ダンテ機は勢いよくレビー機に接近していく。4連装ミサイルランチャーの弾幕でさえも、彼の愛機には掠める気配すらない。

 

『お可哀想に……フラナガン機関の実験動物(モルモット)に成り下がった挙句、何一つ果たせぬまま死んでいくことになろうとは。あまりに哀れで、涙が出る思いですなぁ……准尉殿ォッ!』

『貴様らァアッ! 貴様らがいなければ、俺も……俺もこのようなことにはァッ!』

 

 ダンテの皮肉に怒り狂うレビー機は、クローアームを振るい蓬色のザクを握り潰そうとする。だが、確実に仕留められるはずの間合いでありながら――その白銀の爪で抉り取れたのは、片腕だけであった。

 

 ニュータイプの軍事転用を目的とする、フラナガン機関。レビーには、その研究対象として選ばれるほどの素養が確かにあったのだが。彼の先天的な空間把握能力を以てしても、「ただ腕が良いだけ」のダンテ機を捉えることは、叶わなかったのである。

 

 いかにニュータイプといえども。その芽が育つ前に刈り取られてしまうようでは、オールドタイプには勝てないのだ。

 

『俺が……俺が間違っていたとでも言うのかッ! 家族の仇を討つために、ここまで来たこの俺がぁあぁあッ!』

『そんなこと、俺が知るかよ』

 

 やがて。ビグロの巨体の上に取り付き、クローアームが届かない懐にまで迫って来たダンテ機は。その一つ目(モノアイ)を妖しく輝かせ、無防備なレビーを冷酷に見下ろしていた。

 

『この悪魔めぇッ! 畜生めぇえッ! 貴様らは必ず地獄に堕ちるッ! いや、堕ちねばならんのだぁあぁあッ!』

『地獄、か。……そりゃあ、楽しみだ』

 

 怒りの中にも怯えの色が垣間見える、ビグロの眼。その後方にあるコクピット目掛けて振り下ろされる、非情のヒートホークは――復讐に囚われし哀れな魂を、その肉体から解放していく。

 

『俺達も……そこにずっと、行きてえんだからよ』

 

 主人を失ったビグロは力無くダンテ機から離れ、虚空を漂い。程なくして、爆炎の中に消えてしまった。

 

 その最期を見届けたダンテ機が振り返った先では、すでにアヤメ機も大破しており――両腕をもがれた満身創痍の敗残兵が、必死に逃げようとしている姿が窺えた。とどめを刺そうとザクマシンガンを向けるゼレド機の肩を、グルス機が掴んで制止している。

 

『もうあいつはほっとけ、弾の無駄だ。……生きてりゃ儲けモン、くたばるならそれまでよ』

『……ふん、それもそうか。しかしダンテ、あんな雑魚を相手に随分と手こずったようだな』

『雑魚は雑魚だが、執念だけは本物だったからな。……だが、想いなんざで何かが変わるほど、戦場は甘かねえのよ。結局勝つのも生き残るのも、ツキのある強者だけってこった』

 

 殺す価値すらないと言わんばかりに、ふらふらと飛ぶアヤメ機を見逃す「三獣鬼」は、やがて何事もなかったかのように戦闘を再開していく。「魔王」レゾルグの死すらも、意に介さずに。

 

『……行くぞ、お前ら。死に場所なら、まだいくらでもあるんだからよ』

『うむ……そうだな。こんなつまらん舞台では、俺達の墓標は務まらん』

『早く見つけたいねぇ……俺達をぶち殺してくれるような、本物の強者をさァ』

 

 最後に一度だけ、爆散寸前のビグロを一瞥したダンテは。もう2度と会うこともないだろうと背を向け、仲間達と共に飛び去っていく。

 真っ直ぐ飛ぶことすらままならないほどの満身創痍になりながらも、辛うじて生き延びていたアヤメは。そんな彼らのスラスターが描く軌跡を、ただ見送るばかりであった。

 

(助かった……? いや、見逃して貰えたってこと……なのかな)

 

 少なくとも「三獣鬼」の攻撃には、慈悲など微塵もなかった。とどめを刺さなかったのも、優しさというよりは気紛れや侮りに近い。

 それでも、彼らの存在に救われてしまったことだけは。受け入れ難い事実として、残っている。

 

(……私は……)

 

 一命を取り留めた今だからこそ噴き上がる、複雑な思いに葛藤を抱えながら。力尽き、宇宙を漂うビグロの中で――アヤメは撃墜されることなく終戦を迎え、生還していた。

 

 そして、ダンテの見立て通りに。彼らが生きて再会を果たすことは、2度となかったのである。

 

 ◇

 

 ――宇宙世紀0080、3月1日。終戦からしばらくの月日が流れ、徐々に平穏な時間が訪れつつあったこの日。

 退役後、故郷のサイド3へと帰還していたアヤメは三つの花束を手に、とある自然豊かな田舎町を訪れていた。

 

「やっぱり……そうだよね」

 

 この「ブリゼイドタウン」で命を落としたという、3人のテロリスト。誰にもその存在を許されなかった彼らを、弔うために。

 だが、町外れの墓地に彼らの名はなく。平和を乱した「絶対悪」には、墓標すらないのだという現実に直面するばかりであった。

 

 花束を捧げる先を見失い、当てもなく町中を彷徨い歩く彼女の目に映るのは――町民達と笑い合いながら、復興に励む進駐軍の兵士達の姿。彼らがいなければ、「三獣鬼」の手でこの町は地図から消されていたのだろう。

 ここで生まれ育ったクーディアもロメリーも、深く悲しむことになっていた。その光景は、容易に想像できてしまう。

 

「……っ」

 

 まさしく、メディアで公表されている通りの英雄達だ。だからこそ(・・・・・)、「三獣鬼」に救われてしまったアヤメは複雑な思いを抑えきれず、彼らがいる場所から走り去るしかなかった。

 

 やがて、戦場の一つだったという河川にまで辿り着いた彼女は。そこに並び立てられた、三つの岩を目の当たりにする。

 

「え……」

 

 明確に「墓標」だと分かるような作りではない上に、そこには誰の名も刻まれてはいない。しかしその石の前に供えられた花には、確かに鎮魂の意味が込められていた。

 その三つの石の前に片膝を着き、静かに祈りを捧げていた1人の青年は――背後に立つアヤメの気配に気づき、ゆっくりと振り向く。艶やかな金髪を靡かせるその青年士官は、アヤメの手にある花束を一瞥し、微笑を浮かべていた。

 

「……やぁ。まさか俺の他にも、ここに花を持って来る人がいるとは思わなかったよ」

「あの……すみません。この三つの石って、やっぱり……」

「名前を書くと、嫌がる人もいるだろうからさ。あくまで表向きは、誰の墓標でもないただの石ってことにしておこうと思って……ね」

 

 左眼に深い裂傷の痕を残した隻眼の青年は、苦笑を浮かべて三つの石を見下ろしている。やはりこの石は、「三獣鬼」を弔うための墓標だったのだ。

 しかもそれは、どうやら彼らを倒した連邦兵の手によって築かれたものらしい。そのあまりにも意外な真相に、アヤメは目を剥いている。

 

「あの……どうして、連邦軍のあなたがこんなことを……」

「……多分、君と同じだと思う」

 

 死に場所を探し、戦い続けるしかなかった哀れな魔犬達であっても。せめて死後の眠りだけは、安らかなものなのだと信じたい。

 

 だから。穏やかなせせらぎが心地よく響き渡る、この河川を墓標の場所に選んでいたのだ。

 それを悟ったアヤメは、自身の葛藤を分かってもらえるような人間が1人でもいたことに、かつてないほどの安堵を覚え――戦後になって初めて、頬を緩めていた。

 

「あはは……こんなに要らないって、怒られちゃいますかね」

「その時は、あるだけマシだろって言い返してやろうよ」

 

 その感情は、青年士官――ミック・ゴートン少尉にとっても同じだったのかも知れない。

 穏やかに笑い合う2人の眼前では、三つの墓石に捧げられた花束がそよ風に吹かれ、優しげに揺らめいていた。

 




 今回の番外編を以て、本章もようやく真の完結となりました。ここまで読み進めて頂いた皆様、誠にありがとうございますー!(*≧∀≦*)
 第3部においてはレギュレーションの都合から、名前だけチョイと出ていたレビーとアヤメに焦点を当てつつ、悪役VS悪役というテーマで書かせて頂きました。部分的ではありますが、彼ら2人のキャラ付けについては第3弾募集企画当時の原案や、読者の方から頂いたアイデア等を取り入れております(´-ω-`)

 また、今回のお話は「復讐」を軸に、コロニー落としで家族を失ったレビーと、彼と近しい境遇のエイジやリュートとの対比を強調するエピソードでもありました。
 憎しみだけに囚われたレビーでは三獣鬼には勝てず、それを乗り越えたエイジやリュートだからこそ、最後には勝利して生き延びることができた。そういうお話にしたいなーという思いもありましたね(*´꒳`*)

 前回お伝えさせて頂いた通り、本章は第3部と第3.5部の中間辺りに相当するエピソードになりますので、近日中にお話の順番を並び替えていく予定です。なるべく早めに、本章の内容を他のエピソードにも反映させていきたいところですねー(*´ω`*)
 ではではっ、本章の番外編まで見届けて頂き、誠にありがとうございました! 機会がありましたら、またお会いしましょう〜٩( 'ω' )و


Ps
 第3部で初登場して以来ずっと、「リックドムの少女」で通して来た女の子にようやく名前が付きました。当時はこんなにヒロインすることになるとは思いませんでしたねー……(ノД`)
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