機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第2話 女流の記者 -ミシュリーヌ・ル・ベーグ-

 

『雑魚共がノコノコと出て来てくれて、嬉しい限りだねぇ……! 全機、あの虫ケラ共にご挨拶してやりなァッ!』

 

 ブロンズコンドル隊のMSを捕捉したビアンナ機の合図に応じて、20機以上ものリックドムが同時にジャイアントバズを撃ち放つ。その砲弾をかわすべく、3機のMSは即座にスラスターを噴かして散開していた。

 

 だが、連邦軍の精鋭達も負けてはいない。ビーム兵器による応射を受けて、「蛮紅隊」のMS隊も隊形を崩して回避に専念する。カプセルを人質に取る暇すら与えない速攻の射撃に、リックドムの群れは出鼻を挫かれていた。

 

 後方に配置されていたブロンズコンドル隊だが、その実力はスターイーグル隊のエース達にも全く引けを取らない域に達しているのだ。

 「楽に狩れる」という「蛮紅隊」の目論見は、彼らが現れた時点で破綻していたのである。

 

 その隙に3機のMSはカプセルを庇える位置に移動し、「蛮紅隊」の攻撃からミシュリーヌ達を守る盾となった。

 そんな彼らの勇姿に、カプセルの機内から歓声が上がる。ミシュリーヌも両手で口元を覆い、感涙を流していた。

 

『……なんだい。楽に狩れる相手かと思えば……存外、やるじゃあないか。だけど、ちょっと腕が立つ程度じゃあ「狩る側」には回れないよッ!』

 

 その光景にスゥッと目を細めるビアンナは、ブロンズコンドル隊が容易い相手ではないと即座に悟り、操縦桿を強く握り締める。

 

 彼女のザクは一気にスラスターを噴かして急接近すると、3機のMS目掛けてザクマシンガンの弾雨を浴びせた。その加速力は並外れており、意表を突かれながらも咄嗟にカプセルを庇った3機は、全弾をまともに浴びてしまう。

 

 ビアンナはブロンズコンドル隊の実力を理解した上で、自分達の勝利を確信しているのだ。ただ楽には(・・・)狩れないだけであり、負けるような相手ではないのだと。

 

「う、うわぁああっ……! し、死ぬかと思った……!」

「おっ、おい見ろ! 先頭の隊長機が……!」

 

 カプセルの機内から悲鳴が上がる中、その勢いのまま急上昇したビアンナ機を追うように、ブロンズコンドル隊の隊長機がスラスターを噴かして行く。指揮官機を早急に潰して指揮系統を絶てば、多少なりとも敵方に隙が生まれるためだ。

 

『アンタ達はそいつらと遊んでやりな! この隊長機は……アタシの獲物だッ!』

 

 だが、ブロンズコンドル隊の隊長機がそう判断することも、ビアンナは織り込み済みだったのである。敵の指揮官機を真っ先に倒して混乱の隙を突く、という狙いがあるのは彼女も同じなのだから。

 

 その狙い通りにビアンナ機の陽動に応じた隊長機は、赤褐色のザクを追撃して行く。そして残る2機とカプセルは――20機以上ものリックドムに完全包囲されていた。

 

 その窮地を前に、報道クルーの面々はカプセルの機内で固唾を飲んでいる。縦横無尽に飛び回る赤褐色のリックドムは、四方八方からこちらを狙っているのに、防衛に当たっている連邦軍の機体はたったの2機なのだ。

 

 これだけの数で、「蛮紅隊」から自分達を守り切れるのか。その疑問から来る不安はやがて絶望に変わり、機内の空気を重く染め上げて行く。

 

「も、もうダメだ……こんなの、分が悪過ぎるっ! やっぱり後方に回されていたような部隊が、あの『蛮紅隊』に勝てるわけ……あぐっ!?」

 

 その光景に悲観する余り、取り乱していた1人のカメラマンが泣き言を口にした時。

 キッと彼を睨み付けたミシュリーヌが、白くか細い手で彼に平手打ちをお見舞いしていた。その弾みで、Lカップの爆乳と安産型の巨尻がどたぷんっと躍動する。

 

「……何を仰るのですか。連邦軍の皆様が、そんな状況の中でも駆け付けて下さっているという時に、何を仰るのですか」

 

 思わぬ衝撃に尻餅を着いてしまった彼を、絶世の美女は冷たく見下ろしていた。自分達を救うために命を懸けている、ブロンズコンドル隊の隊員達を想うからこそ、彼女は静かな怒りを燃やしていたのだ。

 

「私達はジャーナリストです。ならば、彼らの勝利を信じて……その勇姿を人々に届けるのが、私達の責務でしょう」

「ミ、ミシュリーヌさん……」

「……いつまでも終わらないこの戦争のせいで、今地球に居る多くの人々が、明日の希望を見出せずにいます。そんな彼らに少しでも……光明を伝えるために、私達が来たのです。その私達が先に絶望して、どうするのですか。まだ希望を捨てていない方々が、命を懸けているという時に!」

「は、はぃい……」

 

 冷淡な声色の奥に、煮え滾るような義憤を宿して。ミシュリーヌは淑女の誇り(レディーズ・プライド)を胸に、気高い眼差しでカメラマンの男を射抜いていた。

 

 そんな彼女の凛々しさと気迫に圧され、すごすごと立ち上がったカメラマンは戦況を報じるべくカメラを抱え、ブロンズコンドル隊のMSを映していく。

 その様子を一瞥するミシュリーヌは、ビアンナ機を追って飛び出して行った隊長機の背に視線を移し――うっとりと目を細めていた。

 

「……どうか、ご武運を……!」

 

 そんな彼女の貌は、まさしく。圧倒的な雄の力強さと逞しさに魅入られた、雌のそれであった。

 

 ◇

 

 ――最愛の妹であるヴィヴィアンヌが連邦軍に志願した時。ミシュリーヌは、それに続くことが出来なかった。銃を持つということ、人の命を奪うということへの恐れを、振り切ることが出来なかった。

 

 それでも何か、妹の力になりたい。妹を守ってくれているという、頼もしい連邦軍の仲間(リュータ・バーニング)達のために出来ることがしたい。その一心で彼女は、日々戦場に立つ兵士達の勇姿を報じ、彼らを鼓舞する戦場ジャーナリストとなったのである。

 

 ペンは剣よりも強し、とは限らない。それでも剣が握れないなら、ペンを握るしかない。両親や幼馴染の婚約者からは激しく反対されたが、それでも彼女の決断が揺らぐことはなかった。

 虫も殺せない優しい少女だった妹が、悲しみを背負いながらも手を汚す道を選んだのだ。恐怖を言い訳にその現実から目を背けることなど、出来るはずもない。

 

 ――それは僕達がやるようなことじゃない! ヴィヴィーは確かに勇敢で素晴らしい子だけど、君までそうである必要はないじゃないか!

 

 実家を飛び出し、宇宙に発つ前に耳にした、婚約者の言葉が脳裏を過る。幼い頃から共に過ごして来た彼だからこそ、ミシュリーヌの「気負い」を理解していたのだろう。

 

 確かに、彼の言葉は優しく、正しい。ミシュリーヌを守りたいという想い故の言葉だったのだろう。

 ――だがそれは、ミシュリーヌ自身が望む言葉ではなかった。彼女が聞きたかったのは、そんな「正論」ではなかったのだ。

 

 彼は良家の子息として、ミシュリーヌの婚約者として、至極真っ当なことを口にした。だがそれは、ミシュリーヌという「女」に対する「男」としての言葉とは言えない。

 彼には、愛する女と生死を共にするだけの覚悟が足りていなかったのである。故に彼女は制止を振り切り、1人で宇宙に発つことになったのだ。

 

 すでにミシュリーヌは――そんな幼馴染を、「男」として見ることは出来なくなっていた。

 

 大切な幼馴染であることには違いない。間違ったことは何も言っていないし、引き留めることが過ちであるはずもない。そんな彼の優しさに、惹かれていた時もあった。

 だがやはり、自分に付いて宇宙に行こうとはしなかったところに、無視し難い「頼りなさ」があったのだ。それはミシュリーヌという女が本能で欲する男らしさからは、最も遠い選択だったのである。

 

(……ごめんなさい。私、もう……!)

 

 そして、「女」としての本能に忠実な彼女の瞳は。ビアンナ機の銃撃から自分達のカプセルを守り、赤褐色のザクを追っている隊長機へと向けられていたのである。

 




 読者応募キャラ達は次回から本格登場します! どうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
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