機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第4話からの登場人物-

-シロー・カワグチ-
 22歳。福岡出身。過去に幾度となく十指と交戦し、その度に敗北しながらも生き残り続けて来たブロンズコンドル隊の若き隊長。黒を基調とするジムコマンドライトアーマーに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案はヒロアキ141先生。



第4話 青銅の傑士 -シロー・カワグチ-

 

 ビアンナ・ドバルドにとって「十指」という名は、自身の「敗北」を象徴する忌まわしき概念であった。

 

 開戦当初から突撃機動軍屈指の女傑として名を馳せて来た彼女は、地球に降下してからも怒涛の活躍を重ねていたのだが、それでも「十指」と称される域には僅かに及ばなかったのである。

 

 10代という若さでありながら、10位としてそこに名を連ねていたディートハルト・クリーガー少尉にすら、彼女は撃墜数(スコア)で追い付くことが出来なかったのだ。

 無論、撃墜数などというものは所詮「過去の数字」でしかなく、「実績」を証明するものではあっても「実力」に直結するものとは限らない。だが、それは上位に立つ者が口にして初めて意味を成す言葉であった。

 

 少なくとも末端の兵士達は、ビアンナを「10代のガキにも負けたかつての女傑」という目で見るようになっていたのだ。直接的には言われずとも、ビアンナ自身もその評価を肌で理解していた。

 故に彼女は「十指」に比肩し得る技量の持ち主でありながら、彼らへの劣等感と対抗意識を剥き出しにするようになり――やがては撃墜数に拘るあまり、無抵抗の相手にすら容赦なく弾雨を浴びせるようになってしまったのである。

 

 戦局が苦しくなればなるほど、パイロット達は己が命を賭けるに値する「理由」を求めるようになる。その「理由」を、自身のパイロットとしての価値――即ち撃墜数に求めるようになった時。

 

 かつての女傑は羅刹に堕ち、同じ鬱屈を抱えた者達を纏め上げ、「蛮紅隊」という魔窟を生み出してしまったのだ。

 

 そして今、闇に身を沈めたビアンナ・ドバルドは、その「報い」を受けようとしていたのである――。

 

 ◇

 

 大型化されたビアンナ機のスラスターは、通常機のそれを遥かに凌ぐ速度を発揮しており。ブロンズコンドル隊の隊長機――RGM-79GL「ジムコマンドライトアーマー」の射撃を巧みにかわし続けていた。

 

 その機体によるビームガンの連射は、虚しく宙を駆け抜けている。黒を基調とする隊長機の方も、装甲を削ぎ落として機動性を優先した機体だというのに、ビアンナ機の速度はそれすらも上回っていたのだ。

 

『くそッ、まるで「十指」の奴らを相手にしているみたいだ……! 機体の速さも、それを制御している技量も……そこらの連中とは比べ物にならないッ!』

 

 この加速力があったからこそ、ビグザムの特攻に乗じてサラミス級に急接近し、沈めることが出来たのだろう。

 隊長機のパイロット――シロー・カワグチ少尉も射撃に秀でたエースなのだが、彼の狙いでもこの女豹の動きは捉え切れずにいた。開戦初期から戦い続けて来た「叩き上げ」の元戦闘機乗り(ファイターパイロット)ですら、彼女の動きを捕捉出来ずにいるのだ。

 

『あっははは、あんたも結構やるようだが……少々、ハングリーさが足りていないんじゃあないかい!? その程度じゃあ、アタシを捉えることなんざ出来やしないよッ!』

『……ッ!』

 

 必勝の信念を胸に戦うシロー機を嘲笑うかのように、ビアンナ機は目にも留まらぬ速さで縦横無尽に飛び回っている。ライトアーマーの射撃は、その赤褐色のボディを掠めることすら出来ずにいた。

 

 ――自分の腕に絶対の自信を持つエースであればあるほど、そのプライドに拘る傾向が強い。

 

 そういう手合いのほとんどは、自分の腕前に疑問符(ケチ)を付けられかねないような卑怯な手段を嫌っている。だが、この蛮紅隊を率いているビアンナ・ドバルドという女は例外であった。

 

 「五指」の3位であるサナル・アキト大尉然り。最も厄介なのはエースとしての確かな実力がありながら、卑劣な手段にも躊躇がない手合いなのだ。

 尊大に振る舞いながらも、本心では己の力量がその域ではないと理解しているからこそ。彼女は躊躇うことなく、このような戦法を選べるのである。

 

 カプセルの護衛に戦力を割くしかない状況に持ち込む一方で、シロー機との一対一になっても圧倒出来る実力がある。

 結果を出すためならば、どのような行為も辞さないそんな彼女の貪欲さが、この戦況に現れているのだ。

 

『それでも……捉えて見せるッ! 確かに速いが……「十指」ほどではないんだ、奴らを見て来た俺になら出来るはずだッ!』

 

 だが、若き隊長はそれでも屈することなく照準を覗き込み、ビアンナ機の機影を追い続けている。

 ――その脳裏には、この宇宙に辿り着くまでに味わって来た、数々の苦い記憶が過っていた。

 

 オデッサ作戦、ジャブロー防衛戦、キャリフォルニアベース奪還作戦。これまで参加して来た数多の戦場で、彼は「十指」のエース達と幾度となく遭遇し――その度に惨敗を喫して来たのだ。

 時にはガンダムヘッドの高性能機も任されていたというのに、彼はこれまで「十指」の機体に傷一つ付けることすら叶わず、何度も乗機を撃破されていた。

 

 キャリフォルニアベースの戦いでは、生還出来たのが奇跡と言われるほどの重傷も負った。その時の傷も、まだ完全には塞がっていない。本来なら今も彼は、地上で療養しているはずだった。

 それでも彼は負傷を押して、この宇宙に上がって来たのである。自分が「十指」との戦いに敗れたばかりに、散ってしまった数多の戦友達のことを想えば。痛みを言い訳に引き下がることなど、出来るはずもなかったのだ。

 

 そして、何より。何度も「十指」に敗れた自分を、それでも信じて付いて来てくれた2人の部下を死なせないためにも。自分達ブロンズコンドル隊を信じて、己の命運を託してくれたミシュリーヌのためにも。

 シロー・カワグチという男は何としても、この女豹に勝たねばならなかったのだ。

 

『……あぁ? 誰が……誰ほどじゃないってぇ?』

 

 そんな彼の発言を受け、ビアンナがこめかみに青筋を浮き立たせる。

 「十指」に対する劣等感を原動力にしている彼女にとってシローの言葉は、まさしく最大級の「地雷」だったのだ。

 

 その言葉にならない激昂こそが。彼女の挙動を乱れさせ、この戦局を覆す元凶となったのである。

 ビアンナ機のザクは急激にスラスターの向きを転換すると、真っ向からシロー機目掛けて突撃し始めたのだ。

 

『アタシらの前で……そいつらの名を出すんじゃないよぉおおおおッ!』

 

 どれほど結果を出しても「十指」に届かず、己の価値を証明するために軍人としての誇りも捨てた、かつての女傑。そんな彼女にとって、シローの言葉だけは聞き流せなかったのである。

 

 だが。その怒り故の「隙」が、ついに被弾を招いてしまう。ビアンナ機の肩部シールドが、シロー機の銃口から閃いたビームによって、ついに弾け飛んだのだ。

 

『……ッ!』

『ようやく……慣れて(・・・)来たぞ、お前の動きにッ!』

 

 シローもこれまで、ただ防戦一方になっていたわけではない。

 ザクマシンガンの豪雨にただでさえ薄い装甲を削られ、中破寸前というところまで追い詰められながらも。彼の愛機はビアンナ機の挙動を把握するべく、その「癖」を観察し続けていたのだ。

 

 そして、冷静さを失ったビアンナ機の動きから、彼女の「癖」を完全に把握したシロー機は。とうとう、彼女の動きを捉えることに成功したのである。

 

(こいつッ……もうアタシの動きを掴んだっていうのかいッ!? なんでこんな奴が、こんな後方で燻ってたんだよッ! だけどッ……!)

 

 だが――それだけで決着が付くわけではない。例え動きを読むことが出来ても、機体の操縦が追い付かなければ意味がないのだ。

 

 肩部シールドを吹き飛ばすのが精一杯だったシロー機は、そのままビアンナ機の接近を許してしまい、スパイクアーマーによるタックルをまともに受けてしまう。

 

『だから……どうだってんだいッ! 戦場ではねぇ、結局最後まで生き残った奴が最強なのさッ! 何機落としたとか、何隻沈めたとか、そんなもんただの数字ッ! 今生きているこのアタシこそが……最強なんだよぉおおッ!』

『うぐぅうッ……!』

 

 腹部に渾身の一撃を受けたシロー機はくの字に折れ曲がり、大きく体勢を崩してしまう。ビアンナ機を追い詰めたビームガンも、その手を離れてしまっていた。

 ザクマシンガンを投げ捨てながらシロー機の肩を掴み、逃げられない体勢に持ち込んだビアンナ機が、ヒートホークを振り上げたのはその直後だった。

 

 このまま為す術もなく、やられてしまうのか。シローがそう覚悟した――その時。

 

「……!? おい、カメラ! カメラあっちに向けろ、凄いことになってるぞッ!」

「何だよこんな時にッ……!?」

 

 ブロンズコンドル隊の奮戦により、辛うじて守られているカプセルの機内で。

 戦況を撮影していた報道クルーの1人が、遠方の宙域で繰り広げられていた「歴史的瞬間」を目の当たりにしていたのである。

 

 それはまさしく、アムロ・レイの駆るガンダムが、ドズル・ザビのビグザムにビームサーベルの一閃を叩き込む場面だったのだ。

 

 この極限状態の中でも、彼らはジャーナリズムの精神を武器に、その瞬間をカメラに収めて見せたのである。

 彼らと共にその光景を目の当たりにしたミシュリーヌも、瞠目しつつ眼前の景色に声を震わせていた。

 

「し……信じられません、たった1機のMSが……あのガンダムが、あれほど巨大な機動兵器を仕留めてしまいました! 我々は今、間違いなく……歴史的瞬間を目撃しているのですッ!」

 

 そして彼女は戦場ジャーナリストとして、この戦争の運命を揺るがす光景を「実況」する。戦いの行方を見届ける報道クルーとしての彼らの働きは、会話の内容を傍受していた周囲のMSにも届いていた。

 

『なッ……!? ド、ドズル閣下のビグザムがガンダムに……!?』

 

 それは当然、ビアンナ機も例外ではない。シロー機にとどめを刺す寸前だった彼女は、ミシュリーヌの言葉に思わずヒートホークを止めてしまったのである。

 ビグザムの威力をよく知っている彼女だからこそ、ミシュリーヌの言葉は聞き捨てならなかったのだ。

 

 それは時間にして、僅か1秒足らずの隙だった。

 

 だが――そのたったの1秒が、ミシュリーヌの「報道」が、彼女の運命を狂わせたのだ。

 

『し、しまッ……!?』

『生き残った奴が、最強だというのならッ……!』

 

 ミシュリーヌの叫びにペースを乱された、その瞬間。シロー機は逆手に構えたビームサーベルを、横一閃に振り抜いていたのである。

 

『それは、俺達ブロンズコンドルだぁあぁあッ!』

 

 ライトアーマー系統のMSが最も得意とする、一撃離脱戦法が決まろうとしていた。バーニアを全開に噴かすシロー機は、すれ違いざまにビアンナ機の胴体へと、灼熱の刃を沈めて行く。

 

『ち、ちくしょぉおおおがぁあぁあぁーッ!』

 

 もはや、全てが手遅れだったのである。

 深紅に染まり、焼き切られて行くコクピットの中で。ビアンナ・ドバルドは歪められた己の運命を呪い、断末魔の声を上げる。

 

 ビームサーベルによって両断された赤褐色のザクが、カプセルの頭上で爆ぜたのは、それから間も無くのことであった――。

 




 残りの3名は次回に登場します! 最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و
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