プラチナファルコン隊の意地を賭けた、最後の攻撃。その準備に掛かった隊員達の機体が、素早く動き始めていた。「天使の死神」に引導を渡すべく、彼らは全員の力を合わせようとしている。
『隊長、待たせたね! さぁ、とっとと乗りなッ!』
『よし、頼んだぞカズサッ!』
垂直に降下して来たカズサ機のGファイターに、フランツ機のガンキャノンIIが飛び乗って行く。隊長機を乗せたGファイターは空を裂き、再び夜空へ飛び出して行った。
『ヴィルヘルミーナ中尉、乗ってください!』
『あんたに
『……へ、変な言い方しないでくださいよ!』
ヴィルヘルミーナ機のタイプDも、バストライナーに設置されたフットステップに乗り込んで行った。「FSWS計画」の産物であるフルアーマーガンダムの支援兵器として開発されただけあって、タイプDを載せても難なく高速で移動している。
『……行くぞッ!』
フランツ機から発せられたその一言を合図に、Gファイターとバストライナーが一直線に疾走して行く。Gファイターは上空を、バストライナーは地上を。それぞれの道を行く2機のサポートメカは、仇敵に向かって最大速度に達しようとしていた。
『やるぞ、カズサッ!』
『言われるまでもないさァッ!』
Gファイターの背に乗り、ビームライフルを連射しているフランツ機。その機体を乗せたまま、カズサ機は敵方の弾幕を掻い潜り猛進し続けている。対空ミサイルを発射しながら舞い飛ぶ彼女の愛機は、隊長機を敵の目前にまで運ぼうとしていた。
『カキザキ、遅れるんじゃないわよ! きっちり働いたら、後でいい思いさせてあげるっ!』
『……はいッ!』
地上を疾走するバストライナーに搭載された、ビームランチャーの後端部に位置する照準器。そこから上空に狙いを定めているヴィルヘルミーナ機も、バイザーを妖しく輝かせて引き金を引いていた。強大なビームが閃き、夜空を焼き尽くして行く。
『悪いが……てめぇらを落とさずに、おめおめと逃げ帰るわけには行かなくてなぁあッ!』
そして。砲台の役割を担ったエドガー機のザクキャノンも、肩部の180mmキャノン砲で最後の砲撃を繰り出していた。仇敵に向かって猛進する仲間達の道を切り開くため、彼は力の限り吼えている。
『……多少手を変えてきたところでッ!』
『俺達を止められるものかぁあッ!』
だが、ボルド機とレオンハルト機はこの激しい弾幕を懸命にかわし続けている。左右に飛び、紙一重でビームやミサイルをかわしながら、彼らは実弾の嵐を撃ち放っていた。
しかしカズサ機もカキザキ機も、巧みな操縦でその弾雨を回避している。エドガー機の遠距離砲撃で照準を妨害されているため、ボルド達の狙いも僅かに甘くなっているのだ。
『ちぃいッ……! 連邦め、よくも俺達のザクで邪魔立てをッ……!』
『……気を悪くしねぇでくれよ? 俺には、ジムキャノンよりこっちの方が肌に合うんでねぇ……!』
レオンハルトは鹵獲機のザクキャノンを睨み付け、忌々しげに口元を歪めている。こちらの照準を妨害して来るエドガー機から潰すべき……と言いたいところだが、そのエドガー機は遠く離れた位置から砲撃しているため、レオンハルト達の位置から狙い撃つのは至難の業だ。
それに、そうしている間にも大火力を持ったGファイターとバストライナーが同時に迫って来ている。先にこの2機に対処しなければならないため、ザクキャノンに対しては後回しにせざるを得ない。その状況を利用し、エドガー機はここぞとばかりに砲撃の嵐を見舞っているのだ。
『くッ……速いッ! 何というスピードだ、照準がまるで追い付かん……! あんな鈍重なMSを乗せているというのに、一体どれほどの高出力をッ……!』
『レオンハルト、「将を射んとすれば先ず馬を射よ」だ! あの重戦闘機と移動砲台を優先攻撃目標とする! お前が下、私が上だッ!』
『了解だッ……!』
エドガー機の援護射撃に乗じたカズサ機とカキザキ機は、ついにボルド達の目前にまで迫ろうとしていた。このままでは、敵の射撃を避け切れない距離まで近付かれてしまう。ボルド機はカズサ機に狙いを定め、レオンハルト機はカキザキ機に照準を絞った。
『……そんな重いMSを乗せたままでは、先ほどまでのスピードは出せまい! レオンハルト、今だ!』
『よし……! この距離ならば、如何に素早かろうともかわせまッ……!?』
そして、敢えてカズサ機とカキザキ機を引き付けたところで。ボルド機はグレネードを撃ち放ち、レオンハルト機もザクマシンガンの引き金を引いた。
『今だッ!』
――だが、まさにその瞬間。カズサ機に乗っていたフランツ機と、カキザキ機に乗っていたヴィルヘルミーナ機が。まるで示し合わせたかのように、同時に各々のサポートメカから飛び降りてしまったのである。
錘になっていたMSが離れたことで本来の速度を取り戻したカズサ機とカキザキ機は、瞬時に加速しつつ進路を変えて敵方の迎撃を回避してしまう。ボルド機とレオンハルト機の攻撃は、ここぞというところでかわされてしまったのだ。
(MSが……離れた!?)
(不味いッ……照準がッ……!)
ギリギリまで引き付けられていたのは、ボルド達の方だったのだ。サポートメカの方にロックオンしている状態で飛び降りられてしまっては、そのまま撃っても「本命」には弾が当たらない。そしてこの近距離では、照準を切り替えるための一瞬が命取りとなる。
『……ファルコンッ!』
『サンダークロスッ!』
この一瞬で、回避不可の一撃を叩き込む。それが、プラチナファルコン隊の新戦術「ファルコン・サンダークロス」の真髄であった。
フランツとヴィルヘルミーナが、射撃のタイミングを合わせるために叫ぶと同時に。2機のガンキャノンが、その肩部の砲火を一気に解き放つ。
上空と地上から閃いた二つの閃光。その射線は、ボルド達の座標で
フランツ達の一撃が命中する瞬間、月光を浴びたGファイターの翼が青い光沢を放つ。そこに描かれた雷のパーソナルマークが、その輝きに照らされていた。
『ぬぐぁあぁあッ!』
『うぉあぁッ……!?』
上空と地上。その両方から同時に火を噴いた、ビームキャノンの熱線と240mmキャノン砲の砲弾。絶妙なタイミングで撃ち放たれたその攻撃をかわすには、双方の間合いはあまりに近過ぎた。
レオンハルト機は咄嗟に下半身を振ってドダイを盾にしたものの、1発の砲弾はかわし切れず片腕を吹き飛ばされてしまう。盾に使ったドダイも黒煙を上げ、墜落寸前となっていた。だが、ボルド機の損傷はより致命的であった。
『ハッ……ボ、ボルドッ!』
『ぐぅッ……! ふ、ふふっ……見事にしてやられた……! 月並みだが……敵ながら天晴、としか言いようがない……!』
『そ、そんなことを言っている場合か! 早く脱出しろ、もう機体が持たんぞ!』
ビームキャノンから放たれた熱線をまともに喰らったボルド機は空中で炎上しており、完全に大破していた。いつ機体が爆発しても全くおかしくない状態だ。レオンハルト機のドダイも同様の状況だが、彼は構わず戦友に声を掛けている。
『生憎だが……今のビーム攻撃でハッチが変形したらしい。全く……開かん』
『なッ……!? く、くそッ、ならば俺がこじ開けてやる! そこで待っていろ!』
『いいや……止めておけ。そんな無防備な隙を晒せば、良い的だ。お前も今度こそ助からん。今のうちに……離脱しろ』
『馬鹿を言うな……! また俺に、仲間の死を見送れと言うのか!?』
コクピットの中で己の死を悟ったボルドは、せめて仲間だけでも生かそうと撤退を促している。だが、ガルマ・ザビというかけがえのない戦友を失ったレオンハルトにとって、それは到底受け入れられるものではなかった。ボルドはそんな彼の過去を承知の上で、なおも言葉を紡いで行く。
『……レオンハルト。死者には何も出来んのだ。死者には……今生きている者達のために、戦うことも出来ん』
『何を言って……!』
『その死者が、戦いの役に立てる時とは……立てたと証明出来た時とは、生きている者が死者の思いに応えた時なのだ』
『……!』
『将兵の死を無駄にしないこと。死に意味を与えること。それが死を背負いし生者の使命なのだ。……行け! 我が盟友、レオンハルト・ベルガー!』
それが、炎に飲み込まれて行くボルド・リヒターの最期の言葉だった。黒煙を上げて崩壊して行くフライトタイプは、最後の力を振り絞るようにレオンハルト機のザクを突き飛ばして行く。その弾みでレオンハルト機がドダイから転落した瞬間、ついにボルド機はドダイと共に爆散してしまうのだった。
『……ボルドォォオッ!』
墜落しながらも亡き戦友に手を伸ばし、レオンハルトは絶叫する。だが、いくら叫ぼうと死んだ者が戻って来ることはない。ボルド自身が語った通り、死者には何も出来ないのだから。
『……ッ! 俺は、生き残って見せるぞ……ボルドッ!』
だからこそ、ここで死ぬわけには行かない。生き残ってしまった者としての使命を果たすため、レオンハルト機は空中で体勢を立て直してスラスターを噴かし、何とか地上に着地する。そして、そのまま一気にホバー移動で闇夜の密林を走り抜けて行った。
『くッ……まさか俺達のフォーメーションで仕損じるとは……! カズサ、追えるか!? 奴の行き先を辿れば、恐らく敵部隊の中枢を狙えるはずだ……!』
『もちろんさ! ……こっちは仲間を大勢殺られて、最高に身体が疼いてんだ。このまま逃す手はない、そうだろ!?』
もちろん、このまま見逃すプラチナファルコン隊ではない。死んで行った仲間達の仇を討つべく、フランツ機を乗せたカズサ機はこのままレオンハルト機を追撃しようとしていた。しかし、激戦で疲弊している他のパイロット達は、これ以上先に進める状態ではない。
『よし……俺とカズサで奴を追う! ヴィルヘルミーナ達は伏兵に備えて、このエリアを確保しておいてくれ! こっちもかなりのダメージを負わされているからな……』
『了解。まぁ、仕方ないわよね。こっちには手負いのおじさんも居ることだし?』
仲間達の状態を鑑みて、フランツはカズサだけを連れて追撃を続行することに決めた。そんな隊長の決断に頷くヴィルヘルミーナは、皮肉めいた微笑を浮かべてエドガー機をちらりと見遣っていた。
『うるせいやぃ、元気が取り柄の若いモンと一緒にしてんじゃねぇ』
『あ、あはは……』
『いい大人が拗ねるんじゃないよ、全く』
一方、ヴィルヘルミーナの蠱惑的な流し目に鼻を鳴らすエドガーは、不貞腐れたようにコクピットに踏ん反り返っている。どうフォローしたものかとカキザキが頬を掻いて苦笑する中、カズサは乳房を揺らしてため息を吐いていた。
『……さぁ、行こう! カズサ、奴を追ってくれ!』
『はいよッ! しっかり掴まってなァッ!』
そんな仲間達の様子を一瞥した後、フランツ機はカズサ機と共に夜空を駆け抜けて行く。天を舞う鋼鉄の翼は空を裂き、地上を疾走するレオンハルト機を追い続けていた。
◇
――その頃。闇夜の密林を駆けていたルーク機のザクに、衝撃的な情報が届けられた。あの「天使の死神」ボルド・リヒターが、撃墜され戦死したというのだ。
『……ボルド機の反応が、途絶えた……! 馬鹿な、奴が……「天使の死神」が敗れたというのか……!?』
シンダー達を上回る戦闘力を持ち、部隊全体の士気高揚にも寄与していた、「森夜叉」にとってなくてはならない存在だったボルド。彼の死が齎す影響は計り知れない。
『……他の仲間達も増援との戦闘で、かなり消耗し始めている。やむを得ん……!』
すでにボルドの死が士気に影響し始めているのか。あるいは、ボルドを倒した者達よりもさらに手強い部隊と交戦しているのか。ジオン地上軍屈指の精鋭が集っているはずの「森夜叉」が、明らかに押され始めている。
部隊全体が陥っているその「窮地」を、ルークは肌で感じ取っていた。機体を通して吹き抜けて来る風が、悪い予感を運んで来るのだ。こういう時ほどよく当たる、悪い予感を。
『……アイゼナッハ、聞こえるか』
『はい、聞こえております大佐』
『シンダー達が敗れ、ボルドも倒された今……もはや手段を選んではいられん。シュヴァルとルティラを出せ』
『……やるしかないのですね。了解しました、直ちに2人をギャロップから出撃させます』
『あぁ……頼む』
もはや手段を選んではいられない。その決意に踏み切ったルークは、「森夜叉」の母艦である陸戦艇ギャロップへ通信を飛ばした。彼に代わってギャロップの艦長を務めているアイゼナッハ・トト中佐は、すでに彼の決断を悟っていたらしい。特に動揺することもなく、上官の命令に服従している。
(……あのフラナガン機関の実験体。そんな過酷な命運を背負った子供達にまで頼るとはな……「漆黒の戦闘鬼」も堕ちたものだ)
ギャロップとの通信を終えた後。独り夜空を仰ぐルーク機は、
連ジDXにハマっていた当時、友達と協力してGファイターに乗っけて貰おうと頑張っていたのですが、地上に降りて待って貰ってる間にビグザムに焼き払われた時はなんとも言えない気持ちになりますた……(ノД`)