-ジャマル・ジャマー-
28歳。ニューヤーク出身。「J.J.」の渾名で呼ばれている好戦的なパイロットであり、上官のアントニオ・カラス大佐も手を焼いているアイアングース隊の隊長。ガンダムに内蔵された教育型コンピューターの元でパイロット教育を受けた第1号生であり、オデッサ作戦での初陣から高い操縦技術を発揮している。ガンキャノンIIに搭乗する。階級は中尉。
※原案は神谷主水先生。
-ミランダ・ヴェルテ-
19歳。テキサスコロニー出身。マルティナ・テキサスの従妹だが、出自故にアイアングース隊では差別的な扱いを受けており、日常生活でも戦場でも不条理な扱いを受け続け、心身ともに疲弊している。それでも生き延びるために戦い続けていたのだが……。ミデアに搭載されていた陸戦型ガンダムに搭乗する。階級は軍曹。
※原案は速水厚志先生。
-ポーラ・テルミット-
23歳。アンマン出身。「氷魔の蒼弾」ことガリウス・ブリゼイドと共に戦った過去を持ち、慣れない地球の環境に辟易しつつも強かに戦い続けている青年。グフカスタムに搭乗する。階級は准尉。
※原案はバッフロン先生。
ルークの予感通り、「森夜叉」の精鋭達は連邦軍の増援によって徐々に追い詰められ始めていた。ゴールドホーク隊だけでも手練れの集まりだったというのに、それ以上の強者達が群れを成して押し寄せて来たのだ。この劣勢も、ある意味では当然なのだろう。
物量の差を覆して来た「質」によって保たれていた優位性さえ、濁流のように飲み込んでしまうほどの「数」。そのうちの僅か一部にでも「質」が伴うようになれば、もはやジオンの優位性は完全に崩壊してしまう。
長期化した戦いの中で成長した連邦軍の兵士達は、もはや数だけの有象無象ではない。「質」を得た兵士達が群れを成せば、元々の物量で大きく劣るジオンは為す術が無くなってしまうのだ。今宵の戦いはいわば、この戦争が迎えつつある終局の縮図なのだろう。
『く、くそったれ……! こんなジメジメした森に突っ込まされた挙げ句、あんな奴らから逃げ回るハメになるなんてよッ……! アイツら、死ぬまでこっちを追い詰める気だぜッ……!』
MS-07B-3「グフカスタム」を駆り、闇夜の森林を走り続けているポーラ・テルミット准尉も、劣勢に立たされたジオン兵の1人だった。月やコロニーには無い地球特有の過酷な環境に馴染めず、多大なストレスを抱えながらも戦い続けて来た彼は、自分達を付け狙う「刺客」の影に戦慄している。
(何かと貧乏クジばかり引かされ続けて来た俺だが……こりゃあ、とうとう年貢の納め時って奴なのかも知れねぇなッ……!)
第3次地球降下作戦で初陣を飾って以降、アジアや欧州各地で戦っていたベテラン兵士。そんな彼は東南アジアの熱帯雨林での戦闘経験があったため、ジャブロー攻略作戦にも参加していたのだが……どうやら彼自身にとっては、それこそが運の尽きだったようだ。
『……ちくしょうがッ! いつまでも良い気になってんじゃあないッ!』
ポーラ機は腕部に装備された3連装35mmガトリング砲で、背後から躙り寄る「敵影」に牽制射撃を試みる。だが、密林の影から迫り来る敵MSはかなりの重装甲なのか、ガトリング砲をものともせず、ゆっくりと接近して来ている。
『……ッ!? こ、こんな時に弾切れかよッ……!』
さらに不運なことに、ポーラ機のガトリング砲はここで弾切れを起こしてしまった。先の戦闘で弾薬のほとんどを消耗していたポーラ機は、ここでとうとう万策尽きてしまったのである。
『……!』
その時。先ほどの射撃で薙ぎ倒された木々を踏み潰しながら、1機のMSが歩み出て来た。ポーラ機を付け狙っていた「刺客」がついに、その全貌を露わにしたのだ。漆黒のボディを持つガンキャノンIIが、そのバイザーを妖しく輝かせている。
『ハッハハハ! シミュレーターのガンダムと比べりゃあ、てんで大したことねぇ奴らばかりじゃねぇか! なあにが「森夜叉」だァ!』
ポーラ機のグフカスタムを狙っていた「刺客」――ガンキャノンII。その機体を駆るジャマル・ジャマー中尉こと「J.J.」は、逃げ惑うしかないポーラ機を嘲るような笑い声を上げていた。
ガンダムに内蔵された教育型コンピューターの元でパイロット教育を受けた第1号生。そして、上官のアントニオ・カラス大佐も匙を投げている問題児。そんなアイアングース隊の若き隊長は、獰猛な笑みを浮かべて舌舐めずりしながら、照準を覗き込んでいた。
『ほらよ、こいつは挨拶代わりだッ!』
『くッ……!』
J.J.機の肩部に搭載されたビームキャノンが、ポーラ機を狙う。かなり接近されているこの状況では、回避などとても間に合わない。その判断に至ったポーラ機は、咄嗟にシールドでの防御を試みたのだが――ビームキャノンの熱線は、シールドごとポーラ機の左腕を吹き飛ばしてしまう。
『うぐぉあぁッ!?』
『良い格好だなァ、捨て駒君。意気揚々とジャブローまで乗り込んでおいて、負けた途端に尻尾巻いてトンズラとはよ。これが笑わずにいられるかァ?』
『て、めぇッ……! 遊びのつもりかッ……!』
あまりの火力に腕部を吹き飛ばされたポーラ機は、そのまま尻餅を着くように転倒してしまう。そんなポーラ機を嘲笑しつつ、J.J.機はゆっくりと敵機に歩み寄って行く。敢えてすぐにはとどめを刺さず、じわじわといたぶるように近付いて来るJ.J.機の姿勢に、ポーラは戦慄していた。
『ゴップから聞いたぜぇ? てめえら「森夜叉」は所詮、シャア・アズナブルの目眩ましだったんだよ! てめえらが担いでた「十指」すら、アイツのための捨て駒だったのさ! ハハハッ!』
『……!?』
『シャアに比べりゃあ、「氷魔の蒼弾」ガリウス・ブリゼイドも取るに足らん替えの効く粗大ゴミなんだとさ! もちろんてめえらもなァッ!』
ポーラが身を置く「森夜叉」のみならず、ジオン地上軍の将兵達が畏敬の念を抱いている「十指」まで愚弄するJ.J.。彼の罵声を耳にしたポーラは、悔しげに操縦桿を握り締めていた。絶望的な状況に立たされているというのに、彼の怒りが恐怖を上回っている。
(ブリゼイド中尉……! あんたは、あんたの命は、こんな奴らのためにッ……!)
「十指」の5位にして、「氷魔の蒼弾」の異名を持つガリウス・ブリゼイド。先の攻略作戦で特攻型グフタンクに乗せられ、死地に送り込まれていた彼の無念を憂うポーラは、操縦桿を握る手をわなわなと震わせている。
(このまま良いように……こんな奴にッ! やられっぱなしで、終われるかよッ!)
ガリウスの生存を知らぬまま、ここまで逃げ延びていたポーラは、このまま黙って倒されるわけには行かないと奮起していた。ここで何も出来ずくたばるようでは、かつての戦友に顔向け出来ない。その一心が、彼の愛機を突き動かした。
『……だらぁあッ!』
『なぁッ……!?』
残された右腕のヒートロッドが、至近距離で唸りを上げる。まだ「手」を残していたポーラ機の反撃に驚いたJ.J.機は、反応が間に合わず左腕を絡め取られてしまう。
『生憎、俺が死ぬ時は……鉄の棺桶じゃなく、ベッドの上のご予定なんでなッ!』
『てめぇッ! この死に損ないがッ――!』
『骨まで痺れやがれぇえッ!』
こうなってしまえば形勢逆転。接近戦ならば、グフカスタムが負けることなどあり得ない。その確信を胸に、ポーラ機はヒートロッドから強烈な電撃を放つ。
『うぐぉあぁぁあッ!? て、てめぇぇえッ……!』
『あばよ連邦、先に地獄に逝きなッ! すぐにお仲間も送ってやるから……よッ……!?』
激しい電流はヒートロッドが絡み付いた左腕を通じて、ガンキャノンIIの全身に伝播していた。その電撃を浴びた敵機の反応に口角を吊り上げたポーラは、自らの勝利を信じて疑わなかった……のだが。
『ば、馬鹿な……! ヒートロッドをまともに喰らったまま、力技で……!?』
『……ドムでも殴り殺せるガンキャノンと、本気でタイマン張ろうってのか? その度胸に免じて、てめえは念入りに潰してやるぜ』
なんとJ.J.機のガンキャノンIIは、ヒートロッドの電撃を浴びながら鞭を掴み、力任せにポーラ機のボディを引き寄せようとしていた。規格外のパワーとタフネスにポーラが瞠目する一方、思わぬ抵抗を受けたJ.J.は静かな怒りを露わにしている。
先のオデッサ作戦では、RX-77-2「ガンキャノン」の拳打でドムを完封したこともあるJ.J.。そんな彼にとっては、接近戦も得意分野なのだ。
砲撃能力と重装甲だけがガンキャノンの取り柄ではない。そのスペックにモノを言わせる物理攻撃も、並々ならぬ破壊力を秘めているのである。
『ブロンズコンドル、シルバーアイビス、ゴールドホーク、プラチナファルコン……』
『……!?』
『他の連中はまともにカッコいい名前を貰ってんのに、俺達と来たらアイアングースだぜ? 鉄のガチョウだぜ? 笑っちまうよなァ? なんで俺達だけがそんなダッセえ名前なのか……分かるか?』
『な、何を言って……!』
やがて、J.J.の怒りを乗せた黒い鉄拳が唸りを上げる。1発目のパンチがポーラ機の顔面に減り込んだ瞬間、グフカスタムの頭部が崩壊していた。その衝撃でヒートロッドも千切れ、電撃も中断されてしまう。
『ご大層な名前でカッコ付ける必要なんざねえくらい! 俺達アイアングース隊が! ぶっちぎりで! 1番強えからさァアッ!』
『ごはぁあぁあッ!?』
無論、これだけでは到底終わらない。グフカスタムのボディを掴み上げて無理矢理立ち上がらせたJ.J.機は、そのまま容赦なく拳打の嵐を叩き込んで行く。
『ぐは、ぁッ……!』
『……おいおい、何勝手に終わった気になってんだァ? お楽しみはこれからだろうがよ!』
『うぐわぁあぁあッ!』
休む暇など与えない、と言わんばかりの苛烈なパンチ。その強烈な鉄拳を浴び続けたポーラ機のボディは無残にひしゃげ、ダメージの深さを物語っていた。さらに追い討ちと言わんばかりに、倒れ込もうとしたポーラ機の脇腹にミドルキックを叩き込んで行く。
『が、はぁ、あッ……!』
『……へッ、ざまぁないぜ。大人しくしてりゃあ優しく殺してやったのによ。それじゃあそろそろ、フィニッシュと行こうか?』
大破寸前の状態になるまで殴られ、蹴られ続けたポーラ機は、ようやくJ.J.機の手から解放され仰向けに倒れ込んでしまう。そんな彼にとどめを刺そうと、J.J.機はビームキャノンの砲口を向けていた。
『……なにッ!?』
だが、その時。J.J.機のレーダーが、この近辺で起きた「異変」を感知する。脅威となる敵機などほとんど居ないはずの地点で、多くの部下達の反応が消えるという怪現象が発生したのだ。この異様な事態に、J.J.は思わず攻撃の手を止めてしまう。
(アイツらの信号が次々と消えて行く……!? だが、あの辺りに大した敵影なんざほとんど無かったはずだ……! なんだァ、一体何が起きてやがる……!?)
自機の地点よりも後方に展開していた部下達の機体が、矢継ぎ早にレーダーから
『……気が変わった。やめだやめだ、面倒臭え』
『な、なに……!?』
『今のてめえなんざ、放って置いても流れ弾でくたばっちまうだろうからな。それに、てめえのような雑魚相手に俺のビームキャノンを使うのも勿体ねえ』
『ど、どういうことだ……!?』
『あばよ、捨て駒野郎』
圧倒的に有利な立場に居ながら、突如攻撃を中止したJ.J.機。その不審な行動にポーラが瞠目している間に、彼のガンキャノンIIは踵を返して来た道を戻り始めて行く。
『……な、なんだか分からねぇが……今のうちに隊長と合流しねぇとッ……!』
J.J.機はそのまま、捨て台詞を残して森の闇に消えてしまった。一体、何が起きているというのか。その疑問に答えを見出せないまま、九死に一生を得たポーラ機はなんとか立ち上がり、反対方向に走り出して行く。今はただ、生き残るために。
◇
一方。J.J.機が居た地点よりも遥か後方に展開していたジムの部隊は、すでに壊滅状態に陥っていた。アイアングース隊の中から現れた、「裏切り者」の手によって。
『お、おい、よせよミランダ! こんなところ隊長に見られたら、お前はもうおしまいだぜ!? だから止めッ――!』
この部隊に属していたRX-79[G]「陸戦型ガンダム」。その機体に装備されていたビームライフルが火を噴き、命乞いしていたパイロットが居るコクピットを撃ち抜いてしまう。物言わぬ鉄塊と化した最後のジムは、轟音と共に斃れていた。
『……名誉の戦死なんて要らない。2階級特進なんかより、私は生きる』
ビームライフルの銃口を下ろし、夜空を仰ぐ陸戦型ガンダム。その機体に搭乗していたミランダ・ヴェルテ軍曹は、ついに「一線」を越えてしまった自身の選択に思いを馳せ、神妙な表情を浮かべている。
コロニー落としで家族を失った者達をはじめ、ジオンに対して深い憎しみを抱く隊員達ばかりで構成されているアイアングース隊。その中に居る唯一のスペースノイドであるミランダは、常に差別と迫害に晒されていた。
それでも、実力至上主義のJ.J.によって部隊全体が厳しく引き締められていたため、今までは単なる「嫌がらせ」以上のことは起きていなかった。しかし、隊長のJ.J.が前線に出たことにより、監視の目から逃れた隊員達がついに「一線」を越えたのである。
――それは、ミランダの背中を狙った意図的な「誤射」。憎きジオン兵を、スペースノイドのミランダ諸共焼き払おうと目論んだ隊員達の蛮行であった。
スペースノイドが巻き込まれても心など痛まないし、戦果が増えるからいいだろう。それが彼らの「言い分」だった。しかも彼らは確実にミランダ機を仕留めるため、陸戦型ジムのミサイルランチャーまで持ち出したのである。
誘導兵器を使ってでも誤射で自分を始末しようとした隊員達は、ミランダ機の背部コンテナやシールドを破壊し、あと1歩というところまで彼女を追い詰めていた。
この地域に残っていた数機のザクを仕留めた後だというのに、彼らは構わずミサイルを撃ち続けていたのである。そのあからさまな「誤射」が、ミランダの「決心」を促す結果を招いてしまった。
アイアングース隊は、自分を敵ごと殺そうとしているのではないか。その疑問が確信に変わった瞬間、ミランダ機は叛逆という名の反撃に動いていた。そして僅か数分で、かつての友軍機だったジムの部隊を壊滅させてしまったのである。
アムロのガンキャノンがザクをブン殴る場面、作者は大好きだったりします( ^ω^ )