-スキキル・ラインオーバ-
21歳。シドニー出身。銀髪のポニーテール、澄んだ蒼い目、グラマラスな肢体を持つ長身の美女であり、「血紅の聖女」の異名に相応しい清廉な人物として知られているが……。血紅色に塗装された鹵獲機のグフカスタムに搭乗する。階級は中尉。
※原案は翻車魚豆腐先生。
ミランダ機の「叛逆」によって、アイアングース隊に属する十数機のジムが撃破された後。この現場に、1機のグフカスタムが駆け付けて来た。
連邦軍に属する「鹵獲機」であるこの機体は血紅色に染め上げられており、01のナンバーとE.F.Fの文字が胴体の正面と左右に刻まれている。
さらに背面と盾には、識別のために地球連邦軍のマークが描かれていた。その機体を目にしたミランダは、1番見つかりたくない相手に見られてしまったと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
『ミランダ軍曹、何をしているのですか!? あぁ、何ということを……!』
「血紅の聖女」の異名を持つアイアングース隊のエースにして、部隊のアイドル的存在――スキキル・ラインオーバ中尉。銀髪のポニーテールを靡かせ、蒼い瞳を輝かせている長身の美女だ。
透き通るような白い柔肌を持つ彼女は抜群のプロポーションを兼ね備えており、身体にぴっちりと密着したノーマルスーツがその扇情的なボディラインを際立たせている。豊満な乳房と安産型の桃尻は、細く引き締まった腰回りによって蠱惑的に強調されていた。
『あろうことか、共に戦う味方を撃つなんて……! あれほど勇敢だったあなたが、一体どうしてしまったというのですか……!?』
そんな絶世の美女はミランダの「裏切り」に深く嘆き、悲しみの声を漏らしている。大病院の院長だった父をコロニー落としで失った過去を持つ彼女は、それでもスペースノイドのミランダを差別しない数少ない「良心」だった。その彼女が漏らしている嗚咽を耳にして、ミランダは思わず顔を背けてしまう。
『……スキキル中尉。先に私の背中を撃って来たのはコイツらの方です』
『そんな……!』
『最近配属されたばかりの中尉は知らなかったのでしょうけど……私は元々、いつ撃たれてもおかしくないくらいの嫌われ者だったんですよ。でも、本当に撃って来るなんて……私だって、思いたくなかった』
『……もし仮に、そうであったとしても! 明確な意思を持って友軍機を手に掛けてしまったあなたを……それを目にしてしまった者として、見過ごすわけには参りません! 直ちに武装を解除して、こちらに来てください!』
かつての戦友だったミランダの行為を目の当たりにしてもなお、スキキルは涙を拭って投降を呼び掛けている。今ならまだ間に合うはずだと、対話を試みている。そんな彼女の博愛に満ちた姿勢に、ミランダも悲しげな表情を浮かべていた。
『……優しいんですね、スキキル中尉は。J.J.隊長達もそうだった。隊長や中尉達だけは、私の実力を認めてくれていた』
『ミランダ軍曹……』
アイアングース隊の全員が、ミランダの存在を白眼視していたわけではない。実力至上主義のJ.J.や博愛主義のスキキルをはじめ、一部の隊員達はミランダの能力を正しく評価していた。そんな彼らも一緒くたに裏切る形になってしまったことだけが、ミランダの心残りとなっている。
『高潔で慈悲深い「血紅の聖女」様、なんでしょう? 最後の情けで、このまま見逃して貰うわけには行きませんか?』
『……ごめんなさい。憎しみに溺れ、味方すら殺めてしまったあなたを放っては置けないのです。降伏してくださらないのであれば……私は、あなたでさえ撃たなければなりません!』
『……そうですか。なら、これでさよならですねッ!』
交渉は決裂。こうなってしまった以上、もはや戦うしかない。その結論に至ったミランダ機は情けを捨て、ビームライフルをスキキル機に向けようとする。
しかし、それよりも疾く振り抜かれたヒートロッドが大きくしなり、ビームライフルの銃身に巻き付いてしまう。電流を予感したミランダ機は咄嗟にビームライフルを手放し、スラスターを噴かして後方に飛び退いた。
『やむを得ません……! アイアングース隊として、私があなたを討ちますッ!』
『くッ……さすがに、速いッ!』
陸戦型ガンダムの手から離れたビームライフルが爆ぜた瞬間、ミランダ機は距離を取りながらロケットランチャーを構える。そこから撃ち出された砲弾をガトリングシールドで防御したスキキル機は、その盾をガトリングごと破壊されてしまった。
『はぁあぁあッ!』
『きゃあぁあッ……!?』
それでも構わず突進したスキキル機は、前蹴りの姿勢のままミランダ機を踏み倒し、仰向けに転倒させてしまう。ミランダ機の胸部を踏み付けた体勢で、スキキル機はヒートソードを引き抜こうとしていた。
『くッ……! ま、まだっ……こんなところで私はッ……!』
ミランダ機はどうにかこの体勢から逃れようと、両腕に力を込めて起き上がろうとしている。その時、彼女の第6感が悍ましい寒気を察知した。
『……!?』
戦場に立っている時であろうと、常に穏やかな物腰を維持しているスキキルが。部隊の男達から「聖女」と持て囃されている、淑やかな彼女が。数多の男達から絶えず求愛されている、心優しい博愛主義者が。
――モニターの向こうで、妖艶に嗤っているのだ。
(……ふふふ。こうして明確に攻撃した以上は……)
幼少期に頭を打ち付けて以来。後天的な殺人衝動に苦しめられて来たスキキル・ラインオーバは、その衝動を戦場で解消することを選ぶようになった。享楽に耽るためではなく、あくまで対処療法として。
この衝動によって狂わされたせいなのだろう。コロニー落としにより父を失った時でさえ、彼女は本心から悲しむことが出来なかった。
表向きの善性と大義名分を利用し、殺戮を正当化する。そんな虚飾塗れの聖女は、大手を振って殺せる相手に巡り逢えた僥倖に微笑んでいるのだ。
『憎しみに目を曇らせ味方を狙うなんて……もはや、その業に身を任せておられるのですね』
『……スキキル中尉……!?』
『ならばせめて……そのあなたの咎も、私が背負いましょう!』
スキキルは蠱惑的な微笑を浮かべながらも、悲痛な声を漏らしている。そんな彼女を乗せた血紅色のグフカスタムが、ヒートソードを振り上げていた。その異様な光景にミランダが瞠目する中、スキキルは愛しい「獲物」に恍惚の貌を向けている。
(と言うことにして……殺していいですよね?)
(……いつものスキキル中尉じゃない……!? なんなの、この感じ……!)
暗澹とした欲望を露わにした、妖しい笑み。その本性を目の当たりにしたミランダは、戦慄を覚えながらも操縦桿を握り締める。得体の知れない恐怖を前にしたからこそ、生き残らねばという本能が彼女を突き動かしたのだ。
『この衝動を抑える為です。許してくださいね?』
『……ッ!』
夜空に向かって突き上げられたヒートソードの切っ先が、垂直に振り下ろされる寸前。ミランダ機は胸部バルカン砲を至近距離で発砲し、その弾雨をスキキル機の胴体に叩き込む。
『あぁ、やはりあなたは戦うというのですね……! この状況なら、降伏を選んでくださると思っていたのにッ……!』
『降伏なんてするわけないでしょう……! あなたのような眼をした女にッ!』
予想外の反撃に体勢を崩したスキキル機は、よろめきながら後退してしまう。その隙に起き上がったミランダ機は、スラスターを噴かして素早く距離を取った。気味の悪い相手から逃げようとするかのように。
(降伏なさらない……? 嬉しいですよ、殺して差し上げて宜しいのでしょう?)
だが、このまま易々と「獲物」を逃がすスキキルではない。彼女のグフカスタムは低く腰を落としてヒートソードを構え、赤熱する刃を輝かせている。対するミランダの陸戦型ガンダムも、ビームサーベルを引き抜いていた。
『そんな嬉しそうな顔をして、悲しそうな声だけ出して……! それで聖女!? 笑わせないでッ!』
『私のような薄汚い屑ではなく。心の底から善性を信じ、吐き出すあなたのような人を……私は好ましく思いますよ』
『……このぉおおぉおッ!』
この悍ましい聖女を倒さない限り、自分はここから逃げ出すことは出来ない。その直感に従い、ミランダ機はスラスターを噴かしてスキキル機に突進して行く。水平に構えられたビームサーベルが、その光刃を煌めかせていた。
彼女の陸戦型ガンダムは一気に相手の懐に飛び込み、逆袈裟斬りの要領でスキキル機の脇腹を狙っている。そしてその低姿勢から、ビームサーベルの光刃を振り抜こうとしていた。
だが、スキキル機はそれよりもさらに低い位置にまで腰を落としていた。斜め上方に振るわれたビームサーベルの下を潜るように、ミランダ機の懐に入り込んだスキキル機は、ヒートソードの刃を真下から振るう。
『が、あ……!』
次の瞬間。逆袈裟に振り上げられたミランダ機の両腕が、スキキル機のヒートソードによって斬り落とされた。ビームサーベルを握っていた両腕を失い、ミランダ機は今度こそ決定打を奪われてしまう。
『……せめて、その魂に救いがあらんことを』
もはや、ミランダ機に打つ手はない。その確信を胸に、スキキル機はとどめを刺そうとヒートソードを振り上げる。しかし、その時だった。
『……!』
スキキル機のレーダーが、友軍機の接近を報せる。その瞬間、彼女のグフカスタムは咄嗟にヒートソードの刃を納めたのだが――すでに
『てめぇら……揃いも揃って、何やってんだ……!?』
ミランダ機を貫こうとした彼女の行為は、この場に駆け付けて来たガンキャノンIIに目撃されていたのである。そのパイロットであるJ.J.は、部下達の「仲間割れ」にわなわなと肩を震わせていた。
『あぁ、隊長……。出来ることなら、あなたがこの光景を目にしてしまう前に、私の手で終わらせるべきだったのですが……致し方ありませんね』
『なに……!?』
『ミランダ軍曹の叛逆により、我々アイアングース隊に多くの犠牲が出てしまいました。彼女が降伏を選んでくださるのであれば、このような手荒な真似などせずに済んだのですが……』
『叛逆、だと……!?』
『……』
仰々しく悲痛な声を漏らしているスキキルに対し、ミランダは唇をきゅっと結んで沈黙するばかり。そんな2人を交互に見遣った後、J.J.は周囲の森林を慎重に見渡す。辺りではジムやホバートラックの残骸が黒煙を上げており、スキキルの言葉に嘘が無いことを物語っていた。
(……スキキルがここに到着する前から、この地点では部下達の反応が消失していた。そしてこの辺りに転がっているジオン軍機の残骸は、撃破されてから少し時間が経っているようだ。……そういうことかよ)
部下達の様子と現場の状況を神妙に見つめ、J.J.はここで起きていた異変の全貌を悟る。彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつも、あくまで同じ連邦軍の軍人として、ミランダに声を掛けた。
『J.J.隊長……』
『……ミランダ。てめえは確かに、ジオンと同じスペースノイドなのかも知れねえがな。それでもその腕はホンモノだと、俺は評価してるつもりだった。他の奴にも、腕だけを見ろと言って来たつもりだ』
『……そうでしょうね。でも、結局は
J.J.の言葉に声を荒げるミランダは、沈痛な面持ちで涙声を漏らす。そんな彼女の姿に、J.J.も眉を顰めていた。
ここまでの事態に発展した以上、もはや「戦場の混乱による不幸な誤射の連鎖」で終わらせることは難しい。しかしそれでも、踏み止まれるかも知れない。
その一縷の望みに賭けて。J.J.機のガンキャノンIIは、両腕を失った陸戦型ガンダムに手を伸ばそうとする。血紅色のグフカスタムは、そんな両者の様子を静観していた。
『……投降しろ、ミランダ。これ以上……手を焼かせてくれるな!』
『J.J.隊長……残念ですけど。私、もう決めたんです。誰に何と言われようと、私は生きるためだけに戦うって!』
『ミランダ、待てッ!』
だが、もはやミランダの答えは決まっているのだ。彼女にはもう引き返す道など無く、その意思も無い。それを表明するかのように、彼女の陸戦型ガンダムは胸部バルカン砲での牽制射撃を繰り出して来た。
『ぐッ……ミランダッ! おい、ちょっ……待てよッ!』
しかしその弾雨はガンキャノンIIの足元にのみ着弾しており、本体には掠りもしていない。それが、ミランダなりの別れの挨拶だったのだろう。
『このッ……裏切り者がぁぁ、あッ……!』
J.J.機も咄嗟にビームキャノンを構えたが、その砲口が火を噴くことはなかった。スラスターを噴かした彼女の機体が森の闇に消え去るまで、ついに1発も撃てなかったのだ。
『……ミランダッ……くそッ……!』
今のミランダがそうだったように。彼もまた、「かつての『仲間』を撃つ」という選択を取れなかったのである。苦悶の表情で操縦桿から手を離し、J.J.は独り天を仰いでいた。
グフカスタムのヒートソードで陸戦型ガンダムの両腕を斬り落とす場面は、ガンダムがグフの両腕を斬る名シーンを意識しておりました。逆だったかも知れねェ……(´ω`)