-ベルノ・ブラック-
65歳。出身地は不明。密かに「森夜叉」に雇われていた流浪の傭兵であり、元連邦軍人でもある老齢の無頼漢。右腕をヴァッフのものに換装した現地改修機のグフカスタムに搭乗する。傭兵であるため階級を持たない。
※原案は蹴翠 雛兎先生。
『隊長、このまま彼女を行かせるわけには! 直ちに追いましょう!』
『……』
『隊長……?』
部下のミランダに脱走され、鎮痛な面持ちで天を仰いでいるJ.J.。そんな彼の姿に胸を痛めたのか、スキキル機のグフカスタムはこのまま逃すわけには行かないと進言し、意気込んでいる。そんな彼女を一瞥したJ.J.機は、無言でグフカスタムの肩を掴んでいた。
『……お前に言われるまでもねえ。だが、アイツは俺1人で追う。お前は周囲を警戒しつつ、この地域を確保しておけ。ジオンのクソ共がこの辺りをウロつけないようにな』
『そんな……いくら隊長でも、単独なんて危険過ぎます! 彼女を止めるためにも、是非この私をッ……!?』
あくまで自分独りでミランダを追い掛けようとしているJ.J.。そんな隊長の判断に抗議しているスキキルは、彼の身を案じるように嫋やかな声を漏らしていた。しかし、J.J.の鋭い眼光で射抜かれた彼女は、目を剥いて身体を強張らせてしまう。
『スキキル……てめえ、なぜこの事態を俺に黙っていた? なぜすぐに俺を呼ばなかった』
『それは……申し訳ありません。連絡よりも攻撃を優先しなければ、眼前の被害がより拡大してしまう恐れがありましたので……』
『お前がここに到着した時点で、ミランダ以外の全員が死んでいたのにか?』
『……!』
先に現場を目撃していたはずのスキキルが、自分への報告を怠ったこと。その理由を口にした彼女の「欺瞞」を即座に見抜いたJ.J.は、静かな憤怒を帯びた眼光で彼女の瞳を貫いていた。有無を言わさぬ力強い眼差しを向けられた聖女は、慄くように艶やかな唇を震わせている。
『……お前には後でたっぷりと、つまらねえ「言い訳」を聞かせて貰う。休む時間なんざくれてやるつもりはねえ。朝から晩まで、ブッ壊れる寸前まで可愛がってやる。覚悟しておくんだな』
『……わかり、ました……』
この戦いの後に始まる「お仕置き」を冷酷に宣言した後、J.J.機はミランダ機を追うように闇夜の密林へ飛び込んで行く。そんな隊長機の背中を見送った血紅色のグフカスタムは、何も出来ずその場に立ち尽くしていた。
「……ん、はぁ、あっ……J.J.、隊長っ……」
隊長による苛烈な「お仕置き」。聖女と謳われた色白の柔肌を、
彼女が身動ぎするたびに、豊かな乳房と桃尻がぷるんっと揺れ動いていた。ノーマルスーツの内側に隠された色白の裸身は、香しい汗の匂いを帯びている。プラチナファルコン隊のヴィルヘルミーナにも劣らぬ色香が、彼女の全身から分泌されていた。
「くっ……はぁ、あぁあっ……んんっ……!」
恍惚の色を帯びた彼女の貌は甘く蕩けており、ノーマルスーツに覆われた柔肌は興奮に火照り始めている。彼女の心身はあろうことか、J.J.による「お仕置き」に対し「恐怖」するどころか、「歓喜」しているのだ。汗ばむ肉体と銀髪から匂い立つ甘美な雌のフェロモンが、彼女の「悦び」を物語っている。
(あぁ……聖女の異名など気にも留めず、私の欺瞞を徹底的に暴き、容赦なく嬲り、然るべき罰を与えんとするその剛毅な眼……素敵ですわ。そんなあなただから、私はっ……)
殺人衝動に囚われた人格破綻者と言えども、生来の優しさや慈悲深さを忘れたわけではない。そうであるからこそ、彼女は「聖女」という自身の歪みに苦しめられている。
優しく在りたいのにそれが叶わず、叶わないというのに「聖女」だと持て囃される。その歪みにどれほど狂わされて来たか。どれほど苦しめられて来たか。
「あぁ、隊長、隊長ぉっ……!」
そんな彼女にとって、J.J.という男はまさしく理想の「ご主人様」なのだ。表の顔や見た目だけの美貌など意にも介さず、自分の中に在る歪みを見抜き、虚飾に塗れた偽りの「聖女」に、求めていた罰を与えてくれる。この忌まわしき本性を見逃すことなく、然るべき裁きを授けてくれる。
「はぁっ、んはぁあっ……! J.J.隊長っ……ジャマル、様ぁあっ……!」
「聖女」と呼ばれる存在であろうと、一切の忖度も容赦もせず。スキキル・ラインオーバという女の全てを、
◇
一方。かつての仲間達と袂を分かち、アイアングース隊から離反したミランダは、森を抜けた先で1機のグフカスタムと対峙していた。陸戦型ガンダムを捕捉したグフカスタムは、行手を阻むように立ち塞がり
『……ッ! ジオン軍ッ……!』
両腕を失い、先ほどの「別れ」で胸部バルカン砲も撃ち尽くしてしまった今、ミランダ機にはもう戦う術が無い。一か八か、ここで投降するしか生き延びる方法は無いのだろう。
その決心を固めたミランダは、コクピットのハッチを開けようとする。しかし彼女の細い指先が操作スイッチに触れる直前、グフカスタムのパイロットが通信で呼び掛けて来た。
『……生憎だが、少し違うな。鹵獲機然り、ジオンのMSならどいつもこいつもジオン兵……とは限らんだろう?』
『じゃあ、あなたは……連邦の!?』
老境の男性の声がミランダ機のコクピットに響いて来る。相手が連邦軍だとすれば、脱走兵だと気付かれるわけには行かない。その焦燥に冷や汗をかくミランダは、相手の様子を慎重に見つめる。
(あのコンテナは陸戦型ガンダムの……!? でも、あっちの右腕は……!?)
よく見れば、相手の機体はただのグフカスタムではない。右腕がYMS-03「ヴァッフ」のものに換装されており、背部には陸戦型ガンダムのコンテナが装備されている。連邦軍とジオン軍の装備が入り混じった、歪な機体だ。
『それも違う。正確に言えば……ジオンに雇われた元連邦軍の傭兵、と言ったところか。どちらとも言い切れない、中途半端な逸れ者。……要するに、今のお嬢さんと同じってわけだ』
『……ッ!?』
グフカスタムのパイロットである、右眼に傷跡がある銀髪の老兵。その名は、ベルノ・ブラック。かつては連邦軍のパイロットであり、今はジオン軍に雇われた傭兵として働いている流浪の一匹狼。「白銀の魔狼」とも呼ばれている男だ。
どちらでもない逸れ者を自称する彼は、今のミランダが置かれている状況を一目で見抜いていたらしい。彼女にかつての己を重ねているのか、自嘲するような笑みを溢している。
『俺の「雇い主」からの依頼は、この戦闘に参加してジオン兵の撤退を支援すること。そして……有用な人材や物資等を可能な限り掻き集めて来ることだ。とはいえ……まさかお嬢さんのような「典型例」が現れるとはさすがに予想外だったがな』
『……脱走兵の私を招き入れようってこと? 戦力不足に喘いでいるジオン軍のために……』
『決めるのはお嬢さんだ、好きにしたら良い。ただし……人を傷付ける武器に中立は存在しない。どちらに銃口を向けようが、引き金を引けば必ず誰かを傷付ける。そうなれば、どちらでもないなんて言い訳は通用しない。武器を捨てられない限り、その二者択一から逃れる術はない』
『……』
それは、ベルノ自身が長い傭兵生活の中で培って来た経験則なのだろう。銃を持って戦う以上、中立などという曖昧な立場では居られない。そんな在り方は、殺るか殺られるかという殲滅戦争の時代には通用しない。そんな彼の言葉に意を決したミランダは、キッと鋭い表情を浮かべて顔を上げる。
『……私を連れて行って。どこにでも……!』
『ふっ……これで、契約成立だな。ジオンの連中には俺から連絡しておく。さっさと行きな、新入り』
『うん……!』
ベルノの言葉に強く頷くミランダを乗せて、陸戦型ガンダムはスラスターを噴かして前進して行く。差別に塗れた連邦軍を抜け、ジオン軍という新天地に辿り着くために。
『近くに居るのは……ポーラか。連邦軍の脱走兵がそちら側に付きたいそうだ。ルーク大佐のところまで案内してやってくれ』
そんな彼女の機体が自機の傍らを通り過ぎて行った瞬間、ベルノは「雇い主」である「森夜叉」の所属機に通信を飛ばしていた。どうやら、J.J.機の追撃から逃れたポーラ機がミランダ機を出迎えることになったらしい。
『ちッ……またグフ系統のMSかよ。最近流行ってんのかァ?』
すると、この場にJ.J.機のガンキャノンIIが駆け付けて来た。ベルノ機の右腕を目にした彼はポーラ機とは別のグフカスタムであることに気付き、うんざりとした様子で舌打ちしている。そんな彼の登場に、ベルノはにやりと薄ら笑いを浮かべていた。
『……おやおや、もう追手が来たのか。あの娘、よほどの人気者だったらしい』
『なんだと……!? てめぇ、ミランダをどこにやった!』
『どこにやったも何も……。彼女は、自分の意思でジオンに付くことを選んだのだ。俺はただ、ほんの少し背中を押してやっただけのこと。彼女を繋ぎ止められなかったお前の不甲斐なさが招いた結果だ』
『ジオンに……!? くそったれぇえッ!』
自分達の元から去ったミランダが、よりによってジオン軍に寝返ろうとしている。その事実を知ったJ.J.は早急に彼女を取り戻そうと、眼前のベルノ機を排除しようとしていた。しかし歴戦の老兵は、彼の挙動を素早く見抜き「反撃」に動いている。
『どけ! 俺はアイツの上官だぞッ!』
『……覚えておくのだな、連邦の青年よ! それが若さ故の過ちというものだッ!』
ベルノ機の背部に装備された、陸戦型ガンダムのコンテナ。そこから現れたのは、MW-01「モビルワーカー01後期型」の右腕だった。ヴァッフのものになっていた右腕が、その腕部パーツに換装されて行く。
黎明期のMS特有の、アタッチメント交換機能だ。その換装と同時にコンテナがパージされた瞬間、背中の重荷から解放されたグフカスタムの移動速度が急激に上昇する。J.J.機も咄嗟にビームキャノンを構えるが、その砲口が火を噴く頃には、すでにベルノ機は射線から消えていた。
『……!? コイツ、速いッ……!』
『生憎だが……ポーラの奴を一方的に叩きのめすような化け物と、まともにやり合うつもりは無いッ!』
ビームキャノンの一閃をかわされた瞬間、J.J.は思わず瞠目する。換装されたモビルワーカーの腕部に装備されている大型クロー。その右腕が唸りを上げ、ガンキャノンIIの胴体に勢いよく叩き付けられた。反応する暇もないまま、J.J.機は仰向けに転倒してしまう。
『ぐおぉッ!? て、めぇッ!』
『ふふっ……。この一撃でまともな傷も残らんとは大した装甲だが……命が惜しければ、これ以上の深追いは止めておくのだな。連邦の狂犬君』
ガンキャノンIIの重装甲を突き破るには至らなかったが、それでも大きな隙が生まれていたようだ。J.J.機が起き上がろうとしている間に、ベルノ機はスラスターを噴かして森の向こうに飛び去ってしまう。J.J.機は上体を起こしながら再びビームキャノンを撃ち放つが、その熱線がベルノ機に命中することはなかった。
『くそったれめ……! このまま逃してたまるかぁあッ……!』
無論、このまま逃がすわけには行かない。J.J.は怒りの形相で操縦桿を握り締め、ベルノ機が飛び去った方向を睨み付けていた。彼を乗せたガンキャノンIIは力任せに木々を薙ぎ倒しながら、彼のグフカスタムを追跡して行く――。
◇
「すでにゲッカ少佐とユリネ大尉は、ゴールドホーク隊の助太刀に向かったようだな……。こうなった以上、私も続かねばなるまい。陸戦型ガンダムを出せ!」
「無茶ですよ、フィーネ少佐。あなたの機体は先の防衛戦で損耗しているのですから……」
「……ならばやむを得ん。打ち上げ予定の部隊から1機拝借するとしよう。あそこのサラミス級からジム改を降ろせ!」
「しかし……あのジム改はあなたの弟子の、ジャック・オコーネル大尉が受領する予定の機体なのでは?」
「師の私が寄越せと言っているのだ、あいつに文句は言わせん。心配は要らん、傷一つ付けずに返してやればいい話だ」
「……なら、私も行きます。せっかくの新型を傷物にされては、オコーネル大尉が可哀想ですから」
「ふっ……お前も言うようになったな。良いだろう、付いて来いラウラ!」
「どけ! 俺はお兄ちゃんだぞ!」の顔になってそうなJ.J.君の巻。次回はさらに場面が変わり、「炎葬隊」からやって来た刺客を迎え撃つ「森夜叉」の奮闘が描かれる予定です(о´∀`о)