『こいつらッ……ぐうッ!?』
コバルトキャリバー隊の3機は、明らかに勢いを取り戻している。対してアスピード機は片足を斬られたことで機動力が鈍り、持ち味を失いかけているようだった。
その劣勢に追い討ちを掛けるように、連邦海軍の「増援」が視界に映り込んで来る。両肩部のマイクロミサイルと魚雷を連射しながら、2機のアクアジムが急接近して来たのだ。
『コバルトキャリバー隊の人達だけじゃありません! あなた達「四海竜」に苦しめられて来た、全ての人々のためにも……私達だって、負けられないんですっ!』
『マイナ! 感情的になるのは良いが、迂闊に前に出過ぎるなよ! ……奴らは強い。冷静かつ確実に、訓練の成果を発揮して見せろ!』
ボブカットの茶髪とEカップの乳房を揺らして、活発な声を上げているマイナ・ウミノ曹長。そんな彼女を後方から指揮しつつ、デチューンされた専用の偏向ビームライフルも連射している、レイノ・シヴォネン少尉。
片足のハイドロジェットしか機能していない今のアスピード機では、彼らの猛攻をかわしきることは叶わず。白桜色のザクマリンタイプは、瞬く間に左腕を消し飛ばされてしまう。
さらにマイナ機とレイノ機を追い越すように、第3の増援機がアスピード機に迫ろうとしていた。
『これ以上この海で暴れられると、私の
『連邦の「悪魔喰らい」か……! ええい、次から次へとッ!』
一芸に秀でた隊員で構成された特殊部隊を出自とする、ドミナウ・ハウ少尉。彼女が駆る深緑のRGM-79U「ジムスループ」は、巧みな水中機動でサブロックガンをかわしていた。
肩部に「タコを咥えたイルカ」のエンブレムを描いているその機体は、MSM-10「ゾック」のデータから得た専用の大型兵器「試作型フォノンメーザーライフル」を携行しており。サブロックガンの弾頭を回避しつつ、その狙いをアスピード機の右腕に集中させていた。
『ぐぉあぁッ!? これは……ゾックの火力かッ!?』
『デカ過ぎて取り回しが悪いのが玉に瑕なんだが……当たりさえすりゃあ、こっちのもんよ!』
その銃口から放たれた一閃は、咄嗟にかわそうとしたアスピード機の右腕を、サブロックガンごと吹き飛ばしてしまう。ドミナウ機は、メーザーライフルの巨大な銃身に違わない「火力」を、これでもかと見せつけていた。
『この一撃で……今度こそ終わらせるッ!』
『ぬッ……!? これは……フリージーヤードだとッ!?』
さらに。両腕を失ったアスピード機に追い討ちを掛けるべく、ミコト機はまだ生きている彼の片足に、専用のハープーンガンを撃ち込むのだった。
その銛はMSM-03「ゴッグ」のフリージーヤードから着想を得た特殊弾であり、着弾点からは赤いゲル状の物質が膨張し始めていた。やがて硬質化したその物質はアスピード機の片足を封じ、彼の持ち味を完全に殺してしまう。
『よし、畳み掛けるなら今ッ……!?』
『ミコト、油断するなッ!』
だが、ザクマリンタイプにはまだ胸部のロケットポッドがある。その奥の手を解放して来たアスピード機の不意打ちは、一瞬の油断を的確に突いていた。
しかしその奇襲も、咄嗟に飛び出したゼファー機がミコト機を抱えて回避したことで、事なきを得る。その時にはすでに、ヒートナイフを構えたヴィオレッタ機が決着を付けるべく、アスピード機目掛けて猛進し始めていた。
『……あなたにも、戦う理由になり得る大切な人がいるのですね』
『うるさいッ……! お前達に……お前達に何が分かるッ!』
『分かるはずです。……戦友、なのでしょう?』
『……ッ!』
自分達はとうに最後の一線を超えている。もはや殺し合う以外に道はない。それでも最期に魂だけは救えまいかと、ヴィオレッタはアスピードに語り掛けていた。
故郷の町を焼かれ、居場所を失った自分を救ってくれた、かつての上官を父と慕う彼女には。カリュブスのために命を懸けているアスピードの姿が、どうしても他人だとは思えなかったのである。
(身寄りのない私を引き取り、育ててくださったライゾウ・ホリウチ大尉。私などのために、愛を誓ってくださったジルバート・ブーガンヴィル中尉。彼らのような「想い」が、きっとこの人にもあるのでしょう。……だから、戦うしかないというのですね)
かつては一切の感情を持てず、自分の思いすら何一つ表現出来なかった彼女だが。自分を拾った「育ての親」や、不器用ながらも懸命にアプローチして来る青年士官など、多くの人々と出会い、触れ合って行く中で。少しずつ、その「心」も変わり始めていたのだ。
冷たい人形のようだった自分すらも変えてしまった、誰かを想う「心」。それが彼にもあるのならば、最期の瞬間だけでも分かり合えるのではないか。そんな淡い期待を乗せた言葉が、彼女の艶やかな唇から零れ落ちているのだ。
『俺はただ……! 応えたかっただけだッ! 身寄りのない俺を拾って、居場所を与えてくれた、あの人にッ!』
『そうですか……良かった』
最後の最後まで、ロケットポッドから弾頭を放ち続けているアスピード機。その抵抗を紙一重でかわしながら、滑り込むように間合いへと入り込んだヴィオレッタ機は、ヒートナイフの切っ先をコクピットへと突き立てて行く。
『やはりあなたも……私と、同じ気持ちだったのですね』
『……! お前、も……!?』
感情など知らなかったはずの、「菫色の戦乙女」。その雪のように白い頬には、暖かな雫が伝っていた。
微かな微笑を溢すヴィオレッタの貌を、モニター越しに目撃したアスピードは。自分と同じ「眼」をしている少女の姿に瞠目し、理解する。この少女もまた、大切な人のために戦っていたのだということを。
『……そうかよ』
今さら分かり合えたところで、何もかもが遅い。それでもきっと、意味はあったのだろうとアスピードは力無く笑う。
ヴィオレッタが目にした、とある青年の儚い笑顔。それが爆炎に消え行くアスピード・ハブラの、最期の姿だった。
『……もっと早く、こうしていれば良かったのでしょうか』
『そうだな……。だが、俺達に立ち止まっている時間はない。急ぐぞ、ヴィオレッタ』
『せめてボク達コバルトキャリバーの手で、この因縁を断ち切る。今は、それが弔いになると信じるより他ないよ』
『えぇ……行きましょう。ゼファー中尉、ミコト少尉』
爆散し、海底の底へと消えて行く白桜色の残骸。その水葬を見届けるヴィオレッタの美貌は、切なげな色を滲ませていた。彼女のそばに寄り添うゼファー機とミコト機も、その胸中を察している。
だがゼファーの言う通り、彼らに立ち止まっている時間はないのだ。最強にして最後の「四海竜」を討たない限り、連邦海軍はユーコンに追い付くことは出来ないのだから。
『……私も、あなたのように最後まで戦います。命を捧げてでも守りたい、大切な人のために』
やがて、去り際にそれだけを言い残して。白桜色の残骸に背を向けたヴィオレッタ機は、先行するゼファー機とミコト機を追うように、ハイドロジェットを噴かして行く。
せめて1秒でも早く。この海を哀しみに染める戦いを、終わらせるために。
◇
『イーサン、ポルセ……アスピード。皆、逝っちまったか。悪いな、お前らばっかり待たせちまってよ』
だが。その想いだけで制することが出来るほど、「四海竜」最後の刺客――カリュブス・トゥーケスが搭乗している、蘇芳色のザクマリンタイプは甘い相手ではなかった。
あまりに圧倒的過ぎるその「力」を目の当たりにしたバーンとヴァイスは、コクピットの中で固唾を飲んでいる。
『これが「四海竜」を率いる、首魁の力だというのか……!?』
『正真正銘の化け物だぜ、こいつッ……!』
ユーコンの追撃に向かっていたコバルトキャリバー隊を含む、連邦海軍全てのMSは、彼の「迎撃」により満身創痍となっていた。それまでの戦闘ですでに消耗し切っていた機体に至っては、もはや勝負にすらなっていない。
イーサン機の装弾数。
ポルセ機の馬力。
アスピード機の機動力。
その全てを兼ね備えた上に、増加装甲によって強固な防御力まで得ているカリュブス機の体躯は、
本来の機体からは想像もつかないマッシブな印象を与えているその姿は、実際の戦闘力に違わぬ迫力を放っている。それが決して見掛け倒しの類ではないということは、実際に対峙した者達が肌で理解していた。
『……ほうら。俺達の最期に相応しい「お出迎え」が来なすったぜ。見てな、イーサン。ポルセ。アスピード』
そんな彼らには目もくれず。カリュブスは、遥か彼方から水泡を噴かして迫り来る、「連邦海軍最強の刺客達」に口元を吊り上げていた。
コバルトキャリバー隊を率いる隊長と、副隊長。そして彼らが最も信頼している、屈指のエース。
その3機の機影を目の当たりにしたカリュブス機は、バーン達に付けられた増加装甲の傷にも構うことなく、最大の強敵に立ち向かおうとしている。
『この海に……「四海竜」という徒花を咲かせてやるよ』
自分達の「最期」を飾るに相応しい、最高の好敵手。そんな彼らと、雌雄を決するために。
「四海竜」の3人も倒され、残るはラスボスことカリュブスのみとなりました。彼らとの決戦もいよいよクライマックスでございますよー! 最後の最後までどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
Ps
全部盛りは男のロマンでございます(*´꒳`*)