機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第17話からの登場人物-

-クラーク・ランドバック-
 31歳。サイド3出身。卓越した操縦技術を持ちながら飄々とした佇まいで各地を転戦していたベテランパイロットであり、連邦軍からは「黒坊主」という異名で恐れられていた男。一部にプロトタイプのパーツを流用したアッガイに搭乗する。階級は中尉。
 ※原案は試作強化型アサルト先生。

-ルティラ-
 16歳。サイド3出身。元諜報員のボーイッシュな美少女であり、連邦軍から輸送中のガンダムピクシーを奪取してジオン軍に帰還していた。パーソナルマークの十字架を右肩に描き、ダークブルーに塗装された鹵獲機のガンダムピクシーに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案は月影夜葬先生。



第17話 深淵の刺客 -ルティラ-

 

 連邦軍の精鋭部隊による苛烈な追撃を受け、「森夜叉」は多大な損害を被った。しかし、この戦いによる連邦軍側の消耗も決して軽いものではない。

 アイアングース隊はすでに戦力の過半数を失い、プラチナファルコン隊をこの地に運んだミデアも撃墜されてしまった。「森夜叉」の戦鬼達を退けて来た連邦軍のエース達も、過酷な戦闘に疲弊し切っている。

 

 ――しかし。精魂尽き果てていようが、ここが戦場である以上は休む暇など与えられないのだ。そんな彼らにとどめを刺すかの如く、それぞれの地点に現れた最後の「刺客」達。彼らは疲れ果てた連邦兵達にも容赦なく牙を剥き、夜襲を仕掛けていた。

 

 ◇

 

 ゴールドホーク隊の所属機である、カイニス機とカナデ機の陸戦型ジム。満身創痍となっている彼らの機体は、傷だらけの身体を引き摺るようにこの場から離れようとしていた。

 しかし、そんな彼らを付け狙う「刺客」は淀んだ河川の水中から一つ目(モノアイ)を輝かせている。驚異的な運動性能を誇る1機のアッガイが、手負いのカイニス達を仕留めようとしているのだ。

 

『ハァッ、ハァッ……! い、いくらなんでも最悪なんてもんじゃないでしょっ……! よりによってこんな時に、「黒坊主」が出て来るなんてぇっ……!』

『カナデ少尉、愚痴は後です! さすがに機体が損耗している今の状態で、これは不味い……! 弾幕を張りつつ後退しますよ!』

 

 しかもそのアッガイはただの「増援」ではなかった。過去に幾つもの拠点を壊滅させて来たジオン地上軍のエース「黒坊主」の機体だったのだ。その雷名を知るカイニス達は戦慄の表情を浮かべながらも、この場から退避しようとしている。

 彼らの機体はすでに「森夜叉」との戦闘で消耗し切った後であり、このまま連戦で「黒坊主」とやり合えるような状況ではない。仮に万全の状態であっても勝ち目が薄い相手なのだから、なおさら今は逃げるしかないのだ。

 

『……すでに手負いだった機体に奇襲まで仕掛けたってぇのに、初撃を避けるどころか反撃まで仕掛けて来るとはなァ。(やっこ)さん、相当デキると見たね。……もし向こうが万全だったなら、こっちが返り討ちにされてたかもな』

 

 一方。そんな両機の動向を水中から観察していたアッガイのパイロット――「黒坊主」ことクラーク・ランドバック中尉は、自分の奇襲を受けても撃破されることなく生還しているカイニス達のタフネスに感嘆の息を漏らしていた。

 夜戦が得意であり、たった1機でビッグトレーを沈めたこともある彼にとっては、手負いのMSを2機撃破することなど造作もないことだった。そんな自分の攻撃をかわし、生き延びているカイニス達は彼にとっても油断ならない相手なのだろう。サングラスの奥に隠れた瞳は、鋭く研ぎ澄まされている。

 

『……ジオンめッ……! コロニー落としでこの星の自然を蹂躙した挙句、不利と分かれば自分達が踏み躙った自然さえ隠れ蓑に利用するのかッ……!』

『汚過ぎて吐き気がするッ……! どういう神経してたら、こんな卑劣でみっともない真似が出来るわけ!? 信じらんないっ……!』

 

 クラーク機が潜んでいる河川に向かって100mmマシンガンを連射し、牽制を試みているカイニス機とカナデ機。彼らの陸戦型ジムは弾切れになったマシンガンを放り捨てると、そのままスラスターを噴かして森の中へと飛び込んで行った。

 

(……確かにこっちのコロニー落としはアレな部分はあるの間違いないが、それをさせるほどの連邦のアレさはあったし………それ言ってたらどっちもどっちな部分が滅茶苦茶出てくるからなぁ……まぁ軍人である以上、任務は任務だ、その辺を置いてやらせてもらうぞ)

 

 少しでも身軽な状態で、この場から離脱しようとしている2機の陸戦型ジム。その動向を観察するクラーク機は、水上から飛んで来た実弾をするりとかわして水中を潜行し、淀んだ川を泳ぎ続けて行く。姿が見えずとも、アッガイの一つ目(モノアイ)はカイニス達の方向を捉え続けていた。

 

『くッ……! 彼らに報復するどころか、こちらが退却することになるとはッ……!』

『ああもうッ……! こんな時、隊長さえ居たらッ……!』

 

 陸戦型ジムで森の中を走るカイニスとカナデは、憎き仇敵であるジオン兵に背を向けて逃げなければならない屈辱に唇を噛み締め、肩を震わせている。

 ラゼル機がこの場に残っていれば、3機で協力してクラーク機を撃破する道もあったのだろう。しかし、それは所詮机上の空論。今は生き延びるためにも、逃げるしかないのだ。

 

(復讐っていうのはやった本人にやるべきだと思うんだが……まぁ、そもそも復讐自体が自分が納得するためのものだしなぁ)

 

 カイニス達の強烈な報復心は、戦いを通じてクラークにも伝わっていたのだろう。相手の機体から迸る憎悪の感情を感じ取っていたクラークは、飄々とした佇まいでその邪気を受け流していた。彼を乗せたアッガイは、そのまま猛烈な勢いで濁った川の中を突き進んで行く。

 

『……抜けたッ!』

『ここまで下がればッ……!?』

 

 そして、カイニス機とカナデ機はようやく森を抜け、先ほどの地点からは遠く離れた河川の前に辿り着く。

 ここまで移動すれば、先ほどのアッガイも振り切れたはず。そう確信した2人が、ほっと胸を撫で下ろした――その時だった。

 

『……!』

『だが、その納得の材料にされるのは勘弁だからな。……抵抗させて貰うぞ』

 

 激しく水飛沫が上がり、彼らの眼前からクラーク機が跳び上がって来る。その瞬間を目の当たりにしたカイニス機とカナデ機がビームサーベルを抜こうとするよりも速く、クラーク機の両腕が同時に伸びていた。

 

 右腕はカイニス機へ、左腕はカナデ機へ。唸りを上げて突き出されたアッガイのクローが、2機の陸戦型ジムの頭部を同時に粉砕してしまう。

 そのまま首をもがれた両機は、轟音を上げて倒れ込んで行く。2人は、悲鳴を上げる暇さえ与えられなかった。

 

 ◇

 

 かつてない窮地に陥っていたのはゴールドホーク隊だけではない。フランツ機とカズサ機が抜けた後のプラチナファルコン隊も、予期せぬ強敵に圧倒されていた。2本のビームダガーを振るうダークブルーのピクシーが、突然彼らに襲い掛かって来たのである。

 

『く、くそぉッ……! 一体これは……どうなっていやがんだ!? なんでガンダムが俺達を……ぐあぁあッ!』

『エドガー!? ……このぉおぉおッ!』

 

 戸惑いの中で展開された弾幕を潜り抜けたピクシーは、エドガー機のザクキャノンを容赦なく切り刻んで行く。すれ違いざまに両脚を切り落とされ、達磨となって地を転がる僚機。その姿を目の当たりにしたヴィルヘルミーナ機の重装型タイプDは、怒りのままに肩部のキャノン砲を連射していた。

 

『ボクの機体を見て、味方のガンダムだとでも思ったのかい? だったら騙したみたいで悪いけど、生憎こっちは「敵」なんだよねぇッ!』

 

 このピクシーを駆るボーイッシュな美少女――ルティラ少尉は、ダークブラウンの髪を掻き上げて不敵に笑っている。彼女はフラナガン機関から「森夜叉」に派遣された、ニュータイプの資質を持つ元諜報員であった。

 

(本当はこのピクシーも上官に渡すはずだったんだけど、「そんな目立つ上に慣れない機体に乗れるか」って言われちゃったんだよねぇ。ま、それならそれでボクが「有効活用」してあげるだけさっ!)

 

 開戦初期から連邦軍に潜伏して諜報活動を行っていた彼女は、当時ジャブローに輸送する途中だったピクシーの予備機を奪取し、それを手土産にジオン軍へと帰還していた。その功績をきっかけにニュータイプの素質を見出された彼女は、フラナガン機関での訓練を経て、自身の「戦利品」であるピクシーのパイロットとなったのである。

 

『あれは暫く前に奪取されたっていう……ピクシーの予備機!? まさかよりによって、こんなタイミングで遭遇することになるなんてッ……!』

『ボルド大尉を殺ったのは君達だろう!? 借りはたっぷりと返させて貰うよッ!』

 

 圧倒的な機動性で自在に跳び回るルティラ機のピクシーは、ヴィルヘルミーナ機からの砲撃を巧みにかわし続けている。弾幕を潜り抜けながら重装型タイプDに近付きつつある彼女は、2本のビームダガーを振り上げて一気に襲い掛かろうとしていた。

 

『中尉、下がってくださいッ!』

『カキザキ!? あんたこそ逃げなさい! 機動性に特化した相手に、そんな機体じゃあ……!』

『男が……女を守ろうとすることに! 理屈は関係ないんですよッ!』

 

 そこへ、カキザキ機のバストライナーがビームランチャーを連射しながら割り込んで来た。1人の男として、女を守りたいと思ったからには退くわけには行かない。その一心で吼えるカキザキは、無我夢中でピクシーに突っ込んで行く。

 

『……悪いんだけど、黙ってて貰えないかなッ! 暑苦しいのは苦手なんだよッ!』

 

 その気迫に一瞬だけ押されながらも、即座に気を取り直したルティラ機は、ビームダガーをバストライナーの機体下部に投げ付けて行く。その刃はスラスター噴射口の付近に命中し、激しい爆発と推進力の異常によって、バストライナーの体勢を大きく狂わせてしまう。

 

『なッ……!? う、うわぁあぁあーッ!?』

『カキザキぃいーッ!』

 

 突然スラスターの片方が失われたこともあり、制御が効かなくなってしまったカキザキ機は、猛スピードで地上を疾走しながら激しく横転してしまう。それだけでは勢いが止まらず、彼のバストライナーはそのまま森に激突していた。その光景に、ヴィルヘルミーナも思わず悲鳴を上げている。

 

『あぐ、ぅ、うっ……!』

 

 木々を薙ぎ倒してようやく止まったカキザキ機は、黒煙を上げて大破している。パイロットは辛うじて生き延びているようだが、戦闘不能であることは誰の目にも明らかであった。

 

『最後は……1番厄介そうな君だッ!』

 

 そして、最後に残ったヴィルヘルミーナ機を倒すべく。ルティラ機は一振りのビームダガーを手に、彼女の期待に飛び掛かって行く。

 

『……ガンダムだからってぇえぇえッ!』

 

 肩部のキャノン砲を撃ち尽くしてしまったヴィルヘルミーナ機も、仲間達の無念を晴らすべく、渾身の力を込めて鉄拳を振り抜くのだが――その拳は、ピクシーを捉えるにはあまりにも遅過ぎた(・・・・)

 

『見えてるんだよッ!』

 

 フラナガン機関によって素養を見出されたニュータイプの1人であり、鋭い「勘」を持っているルティラは、ヴィルヘルミーナ機の鉄拳を容易く見切っている。大振りなフックをかわして懐に飛び込んだルティラ機は、その勢いのまま流れるようにビームダガーを横薙ぎに振るう。彼女の光刃は、堅牢な重装型タイプDの両脚さえ、温かいバターのように切り裂いてしまうのだった。

 

『きゃあぁあっ!? ち、ちく、しょおぉおおっ……! この私が、こんなぁあッ……!』

 

 両脚を切断されてしまったヴィルヘルミーナ機は、そのまま力無く倒れ込んでしまう。衝撃で豊満な爆乳をばるんっと揺らしている彼女は、あまりの屈辱に唇を噛み締めていた。

 

『……負けが見えてもやるだけやらないとね。ボクはそのためにここまで来たんだから』

 

 そんな彼女の様子を冷酷に見下ろしているルティラ機は、足元に倒れているヴィルヘルミーナ機のコクピットに狙いを定め、静かにビームダガーを振り上げていた。

 

『まずは……ボルド大尉の仇だ!』

『……っ!』

 

 例え敗色が濃厚だとしても、今は仲間達の思いに少しでも報いたい。そのためにも、ボルドの仇だけはここで殺す。彼女はその報復心を胸に、その光刃を振り下ろそうとしている――。

 




 アッガイは08小隊でも陸ガンの首を吹っ飛ばしてましたからね。本当は怖いMSなのです。可愛いだけではないのです(´-ω-`)
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