機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第19話からの登場人物-

-ユリネ・ダイゴ-
 25歳。神奈川出身。漢字表記は醍醐百合音(だいごゆりね)。フィリップ・D・ダイゴの戦友だったカズマ・ダイゴの実姉であり、戦死した弟の分まで戦い抜くことを誓っている女傑。頭部をガンダムタイプに換装し、ビームジャベリンを装備したジムスパルタンに搭乗する。階級は大尉。
 ※原案はMegapon先生。



第19話 逆襲の熱槍 -ユリネ・ダイゴ-

 

 フィリップ・ダルシアクという名門出身の実直な軍人。彼には、カズマ・ダイゴという無二の戦友が居た。どちらも優秀な成績で士官学校を卒業した有望株であり、期待の的であったという。

 

 しかし、成績で生き残れるほど戦場は甘い世界ではない。開戦から間も無く、連邦軍はジオン軍の地球侵攻を許してしまった。その魔手に抗う戦いの中で、カズマは親友(フィリップ)達を逃がすための囮を引き受け、帰らぬ人になったのだという。

 

 以来、生き残ってしまった男は亡き親友の名を生涯忘れぬため、フィリップ・D(ダルシアク)・ダイゴと名乗るようになった。そして名誉の戦死を遂げたダイゴは2階級特進となり、現在は大尉となっている。

 

『……弟のくせに、姉の私に階級で並ぶんじゃない。全く……』

 

 眼前に迫る同胞達の窮地に、弟の最期を重ねたのか。頭部をガンダムタイプに換装しているジムスパルタンのパイロット――ユリネ・ダイゴ大尉は、どこか自嘲するような笑みを溢していた。勇猛さを感じさせる鋭い眼が特徴の美女は、物憂げな佇まいで艶やかな唇を緩めている。

 

『それにしても……まさか、北米戦線で数多の部隊を葬って来たと言われている「黒坊主」までもがここに現れていたとはな。想定外の伏兵ではあったが……結果として、私が動いたのは正解だったようだ』

 

 濃緑に塗装された彼女の愛機は、ゴールドホーク隊を追い詰めていたクラーク機のアッガイと対峙している。しかし、「黒坊主」の異名を持つクラーク機はユリネ機の様子を伺うばかりで、なかなか仕掛けて来ない。機体もパイロットも「並」ではないのだと、直感で察しているのだ。

 

『……ツキがあるんだか無いんだか。どうやら、とんでもなく腕の良さそうヤツに当たっちまったらしいな』

『光栄な評価だな。……それで? そうだとしたらお前はどうする。潔く退くか?』

 

 ビームジャベリンを装備しているユリネ機のジムスパルタンは、格闘戦に特化した調整が施されているようだ。ガンダムタイプを模した頭部を搭載しているこの機体は、その外観に違わぬ戦闘力を発揮しており、クラーク機のアッガイとも互角以上に渡り合っている。

 

『そうだなぁ……確かに、これ以上の深追いは危険そうだし……』

 

 クラーク自身も僅かな太刀合わせ(・・・・・)の中でそれを理解したのだろう。ユリネ機が装備しているビームジャベリンのリーチを観察しつつ、付かず離れずの間合いを維持している。強力な威力と長さを兼ね備えたビームジャベリンは彼にとってもかなりの脅威であり、おいそれとは近付けない。

 

『そういうわけなんで……ね?』

 

 ――が、だからと言って引き下がるという選択肢も彼の中には無い。むしろこれほどの強敵だからこそ、今この場で始末しておかねば確実に友軍にとっての脅威となる。

 

『……!』

 

 そんなクラークの飄々とした殺意に、ユリネもハッと瞠目する。悍ましいほどに強烈な悪寒がぞくりと背筋を走る瞬間、豊かに実った釣鐘型の乳房がぶるんと上下に揺れ動いた。ノーマルスーツがぴっちりと密着している豊満な肉体が、しとどに汗ばみ芳しい雌臭を滲ませる。

 

『あんたの首で最後にしておこうッ!』

 

 両者の機体が動き出したのは、その直後だった。クラーク機のアッガイが素早く両手を伸ばし、その爪でユリネ機を貫こうとする。カイニス機とカナデ機を同時に撃破した、鋭利なクロー。その切っ先が、ユリネ機に集中していた。

 

(生憎、このアッガイの腕はかな〜り伸びる代物でね。スラスターで後ろに跳ぼうが、上に逃げようが俺のクローは確実に届く。そのビーム兵器で斬り払うよりも速くな。……不意打ちみたいで悪いが、その首は貰ったぜ!)

 

 左右両方から挟み込もうとするように唸る爪。後方に飛び退いても追い付くほどのリーチを誇るクローで、クラーク機はユリネ機を確実に仕留めるつもりでいた。今までこの戦法で、彼が落とせなかったMSは居ない。

 

『……やってみるがいいッ!』

『な……!?』

 

 しかしユリネ機は、そんな「黒坊主」の戦術を初めて突破して見せた。彼女のジムスパルタンは上でも後ろでもなく、真正面(・・・)にスラスターを噴かしたのである。空を切ったクロー同士が衝突した瞬間、その轟音を背にしたユリネ機が真っ向からクラーク機に肉薄する。

 

『ぐッ……! おいおい、蛮勇にも程があるだろッ! 連邦にこんな狂犬がいらしたとは驚きだぜッ……!』

『最後に落ちる首というのは、お前の方だったようだな!』

 

 クローをかわしつつ相手に接近するため、敢えて正面に飛び込んで来たユリネ機。その蛮勇に冷や汗をかいたクラークは、操縦桿を握り乗機のアッガイを咄嗟に後退させる。そこへ畳み掛けるように、ユリネ機のジムスパルタンもビームジャベリンを突き出して行った。

 

『そいつぁ……御免だねぇえッ!』

 

 しかしクラーク機もかなりの速度でスラスターを噴かしており、ビームジャベリンが辛うじて届かない距離を保っている。その間合いを維持しながら、クラーク機は伸び切っていた両腕を引き戻そうとしていた。

 

(悪いがお宅の近接武器じゃあ、この間合いは――!?)

 

 だが、両腕を引き戻したクラーク機がクローでの反撃に転じようとした瞬間。先ほど観察した時よりも、遥かに長く伸びた(・・・・・)ビームジャベリンが突き出されて来た。

 

『ぬがぁあッ……!?』

 

 一体、あのビーム兵器に何が起きたのか。思考するよりも早く、攻撃から回避に転じる。しかし動揺による僅かな隙が反応の遅れに繋がり、咄嗟に身をかわそうとしたクラーク機は片腕を斬り落とされてしまった。

 

『長いリーチがお前だけだと思ったか?』

『なっ、が……!?』

 

 両手でビームジャベリンを構えていたユリネ機は、とどめを刺そうと長い大槍を振り上げる。その瞬間、槍の異様な長さを目にしたクラーク機はようやく、彼女の槍が急激に延びた「カラクリ」に勘付くのだった。

 

『……!?』

 

 先ほどまでクラークが観察していたのは、「1本分」のビームジャベリンの長さだったのだ。ユリネ機はクローの挟み撃ちをかわして懐に飛び込んだ瞬間、「2本目」を連結させて「ロングビームジャベリン」を作り出していたのである。

 

『スライフレイルのパイロットが「戦果」を出してくれたおかげで「増産」されたというこの槍だが……なるほど、これは良い。逃げる相手にもよく届く(・・・・)

 

 RX-79[G]F「スライフレイル」の装備として採用されていた、連結式の近接戦用ビーム兵器。同機の戦果が功を奏して「増産」されていたこの大槍が、形勢逆転の切り札となったのだ。俊敏なクラーク機も確実に捉えたロングビームジャベリンの手応えに、ユリネも妖艶な笑みを浮かべている。

 

(おいおいおい……! そんなリーチのビーム兵器、さすがに反則過ぎるだろ……! 俺じゃなかったら死んじまってただろうが……!)

 

 改めてリーチの長さを把握したクラーク機は、大きく飛び退いて追撃の一閃を辛うじて回避する。しかし片腕を斬り落とされた上、アッガイの腕よりもリーチで勝る近接戦用のビーム兵器が相手とあっては、これ以上の戦闘は困難であると言わざるを得ない。

 

『……ダメだこりゃ。すまん味方、これ以上はちょっと無理だから撤退する!』

 

 友軍機の支援といっても、自分が撃破されては意味がない。そのように割り切った考えを持っているクラークの判断は迅速だった。彼のアッガイは形勢不利と見るや否や、素早く河川に飛び込み何処かへと泳ぎ去ってしまう。

 

『む……思いの外潔いな。まぁ、今は友軍機の安全確保が最優先だ。今日のところはここまでにしておいてやる』

 

 瞬く間に退却して行く、ある種の「潔さ」。その様子を目にしたユリネは複雑な表情を浮かべながらも、自身の勝利を確信して微笑を溢していた。コクピットのシートに背を預けた彼女は、その弾みで豊かな乳房をぷるんっと弾ませている。ノーマルスーツの内側で汗ばんだ釣鐘型の果実は、しとどに汗ばみ芳醇な雌の香りを放っていた。

 

『……』

 

 そして、辺りが少しだけ本来の静寂さを取り戻した頃。彼女はどこか神妙な面持ちで、足元に倒れ伏している友軍機を見下ろしていた。

 

 頭部を破壊され、転倒しているカイニス機とカナデ機。パイロットが気絶しているため、その両機は全く動き出す気配が無い。しかしパイロットが存命であるという事実は、ユリネにとっては何物にも代え難い勝利を意味している。

 

『……いつもこうして、間に合えば良いのだがな』

 

 この戦争で弟を失った、1人の姉として。ユリネは操縦桿を握り締めたまま、独り自嘲するように苦笑していた。

 「黒坊主」さえ退けた彼女の力が早期に完成していたなら、彼女の弟が戦場で死ぬことも無かったのだろう。その「たられば」が如何に無意味であるかを理解していながら、彼女はそれを考えずにはいられなかった――。

 

 ◇

 

 連邦軍の精鋭達によって構成された追撃部隊と、それを迎え撃つ「森夜叉」の戦鬼達。双方の死闘が佳境を迎えつつある中、隊長格同士の「決闘」も決着に向かい始めていた。

 

『……期待以上の戦い振りだな。この俺とここまで渡り合える強者達が連邦軍に居たとは思わなかったぞ』

『はぁ、はぁッ……! それは、こっちの台詞だぜッ……!』

『俺達3機が一斉に仕掛けても、まだ堕ちないザクがこの世に居るなんてなッ……!』

 

 ルーク機の黒いザクと対峙している、ラゼルやフランツ達の機体は激しく消耗しながらも、未だに斃れることなく「漆黒の戦闘鬼」に食らい付いている。

 その執念に苦戦を強いられているルーク機もまた、過剰な出力の反動により自壊し始めていた。機体の各部から黒煙を立ち昇らせている漆黒のザクは、その暗闇の中から妖しく一つ目(モノアイ)を輝かせている。

 

『へっ……強者気取りではしゃいでる割には、てめぇの方もズタボロじゃねぇかッ! 今度こそ、その減らず口をだまらせてやらァッ!』

『……何度来ようと同じだ! もう一度寝かし付けてくれる!』

 

 そんな中、ルーク機の消耗を悟ったJ.J.機はスラスターを噴かして一気に殴り掛かって行く。力押しで畳み掛ければ押し切れると判断したのだろう。ラゼル機とフランツ機も彼の突撃を援護するべく、ブルパップマシンガンやビームキャノンを連射している。

 対するルーク機は敵方からの射撃をかわしながら、威風堂々とした佇まいで左肩のスパイクアーマーを構えていた。先刻のように、J.J.機のコクピットに強烈なショルダータックルを当てるつもりなのだろう。しかし、何度も同じ技を喰らうJ.J.ではない。

 

『らぁあッ!』

『ぬッ……!?』

 

 J.J.機のジムキャノンIIは左腕ではなく右腕を突き出し、ルーク機のスパイクアーマーをその太い鉄腕で受け止めて見せた。J.J.は相手と激突する直前で防御に転じ、自機のダメージを最小限に留めたのだ。さらに彼の愛機はルーク機の左腕を掴み、その動きを封じている。

 

『まさか、この俺の技を……!?』

『この俺ってどの俺だぁ? ……実力はこっちの方が上ってのを前提にしてるその驕りが、俺は何より気に食わねぇんだよッ!』

 

 自身のショルダータックルを阻止したJ.J.機の動きに瞠目するルーク。彼の言葉に苛立ちを露わにしたJ.J.は、咆哮と共に操縦桿を一気に押し込んで行く。

 彼を乗せたガンキャノンIIは、勢いよく左腕を振りかぶっていた。次の瞬間、J.J.機による渾身のラリアットがルーク機の頭部に炸裂する。

 

『うぐぉあぁあッ!?』

 

 その轟音が天を衝く瞬間、漆黒のザクは激しく転倒してしまった。ガンキャノンIIのパワーに物を言わせるラリアットは、「漆黒の戦闘鬼」さえ圧倒するほどの威力だったのだ。

 さらに、J.J.機に掴まれていたルーク機の左腕はこの衝撃に耐えられず、無惨に引き千切られてしまっている。これまでラゼル達を圧倒し続けていたルーク機の牙城が、ついに崩れ始めたのだ。

 

『や、やったぞ……! ついに奴に一泡吹かせてやったぜ……!』

『さすがはJ.J.だな……!』

『ハーッハハハハハ! ザマァ見やがれ黒焦げ野郎が! 部隊(ウチ)のバカ共が焦がしたトーストみてぇな色しやがって! やぁっとザクらしい無様な格好になって来たじゃあねぇかーッ!』

 

 援護射撃に徹していたラゼルとフランツが戦友の勇姿に感嘆する中、当のJ.J.はここぞとばかりに倒れ伏したルーク機を嘲笑している。左腕をもがれて地に伏した漆黒のザクを、ガンキャノンIIが冷酷に見下ろしていた。

 

『……このルーク・アルフィスにとって、最も許し難いこと。それは、尊敬されるべき強者に相応しい「品位」が伴っていないことだ』

『あァ……?』

 

 しかし、ルーク機はなおも立ち上がって来る。ゆらりと身を起こした漆黒のザクは、肩越しにJ.J.機を睨み付けている。一つ目(モノアイ)の眼光が、ガンキャノンIIのバイザーを鋭く射抜いていた。

 真に強き者であるならば、それに相応しい品位を持たなければならない。その信条を持つルークにとって、J.J.の言動は到底許し難いものだったのだろう。パイロットの憤怒が伝播したかのように、黒いザクは一つ目(モノアイ)を赤く輝かせている。

 

『力さえあれば如何なる振る舞いも許されると言うのなら……! それは、弱肉強食の肯定に他ならないッ! 俺達ジオン軍は……「森夜叉」は! そんな残酷な摂理を打ち砕くために……独立を掲げて戦っているのだッ!』

『……ッ!』

 

 これまで精神的にも技術的にも優位に立っていたルークは、ラゼル達の前で勢いよく声を荒げていた。平静を装うことすら忘れ、怒りのままに吠える黒い戦鬼。その圧倒的な覇気に、ラゼル達は思わず息を呑む。

 

 ――どうやら自分達は、与えたダメージ以上の怒りを引き出してしまったらしい。ラゼル達がその事実を悟った時にはすでに、漆黒のザクは目にも留まらぬ疾さで襲い掛かって来ていた。

 




 スライフレイルかっこいいですよね〜(*´ω`*)
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