『やっぱりオレも行きます! いくらレーナ隊長も一緒だからって、ギーア准尉をあんな怪物と戦わせるわけには行きませんって!』
ギーア・ギアのジムスループと、レーナ・タイカの水中用Gファイター。その2機に望みを託すことに、反対する者がいた。
「四海竜」の侵略から
『モニカ曹長……あなたの機体だって、まともに戦える状態じゃない。その状態であそこに行っても、格好の的にされるだけ』
『それでも良いんです! オレ、ギーア准尉のためなら盾にだってなりますっ! だって、だってギーア准尉は……!』
モニカは目尻に悔しさの涙を浮かべ、操縦桿を握る手を震わせている。ミコト・W・サイジョウの水中型ガンダムは、そんな彼女の機体にゆっくりと寄り添っていた。
『……愛してるんだね、彼を』
『あ、愛っ!? い、いやそんな、オレ、全然そんなんじゃないですからっ!』
『恥ずかしがることなんてないよ。……ここだけの話、ボクも彼のことは、ちょっとイイなって想ってるんだ。努力家だものね、彼』
『な、なぁっ……!?』
『だから、モニカ曹長も少しは信じてあげてくれないか? 彼の強さを』
はにかむように口元を緩めるミコトの言葉に、モニカは顔を真っ赤にして声を上擦らせている。だが、彼女がギーアの身を案じているのは、「女」としての気持ちだけが理由ではない。
『だ、だってギーア准尉は……大っ変失礼ですけど、コバルトキャリバー隊の中では1番弱いじゃないですかっ! マサミ中尉の火力でも仕留め切れないような奴とぶつかっても、勝ち目なんてないですよっ!』
『……!』
無礼を承知で、モニカは不安の理由をミコトに打ち明ける。その言葉には、大人の余裕を保っていたミコトも目を丸くしていた。
事実、単独での撃墜数に限れば、ギーアの戦績は決して目覚ましいものではない。この5ヶ月間にも及ぶ航海の中で、他の隊員達は全員、10機以上の敵機を撃破しているのだが――ギーアだけは、たったの4機しか墜とせていないのだ。
アッガイを2機、ゴッグを1機、ズゴックを1機。コバルトキャリバー隊の一員として半年近くも戦い続けていながら、独力で撃破した敵機はそれだけなのである。他部隊の視点から見れば、最も実力のない隊員だと「誤解」されるのも無理からぬことであった。
『……ぷ、くくっ。なるほどなるほど、そういうことだったのかい』
『な、なんですか。何が可笑しいって言うんですか! ミコト少尉は、あの人のことが心配じゃないんですかっ!?』
『あぁ済まない、決して彼の身を案じていないわけではないんだよ。……要するに君は、ギーアの撃墜数がボク達よりも劣っているから、彼が弱いのではないかと思っているのだね?』
『だ、だからどうだって言うんですか。実際、ギーア准尉はあまり墜とせていないじゃないですかっ! それはあの人の優しさなのかも知れないし、そういうところも大好き……ですけど! 奴らにはそんな優しさなんて通用しないんですよっ!?』
その「齟齬」があまりに可笑しかったのか、ミコトは懸命に笑いを噛み殺している。一方で、モニカは狼狽した様子で彼女の反応に噛み付いていた。
そんな純粋な乙女の姿に、微笑ましさを覚えながら。ミコト機はモニカ機を宥めるように、ゆっくりと肩部に掌を乗せる。心配する必要はないのだと、諭すように。
『……大丈夫だよ、モニカ曹長。堕とした「数」だけを見れば、確かに不安になるかも知れない。それでもボクが保証する。彼は強いよ。少なくとも、このコバルトキャリバー隊の中では誰よりもね』
『ど、どうしてそんなことが言えるんですか……!?』
『どうしてって……そうだねぇ。根拠なら色々あるけど、強いて一つ挙げるなら……』
恋する乙女の希望的観測。などと言える柄ではないな、と内心で自嘲しながら。ミコトは暫し逡巡した後、からかうような笑みを溢して口を開く。
『この5ヶ月で彼が堕とした4機全てが、「四海竜」の専用機だったから……かな?』
◇
相手の手の内を理解していても、それを活かして攻略出来るだけの技術が伴わなければ、勝利を得ることは叶わない。その点において、ギーア・ギアの成長速度は常軌を逸していた。
キャリフォルニアベースでの初戦から5ヶ月。ガッツだけが取り柄の新兵に過ぎなかった彼は、実戦を重ねるたびに飛躍的な成長を遂げ、「四海竜」の専用機すらも撃破するほどの技量を身に付けていたのである。
「四海竜」と対峙して来た多くのパイロット達は、経験を重ねて対策を講じても、純粋な実力の差を埋め切れずに敗れ去っていったのだが。ギーアは培った経験を十二分に活かして、彼らと対等以上に渡り合うことが出来たのである。
『パラオで俺のズゴックを潰してくれやがった時から、確信していたぜ。やっぱり最後は坊主が、1番の障害になるってよォッ!』
『障害? ……いつまで
暗黒の海中を激しく泳ぎ回りながら、ハープーンガンとサブロックガンを撃ち合うギーア機とカリュブス機。一瞬の油断が命取りとなる死闘の中で、両者は獣の如き咆哮を上げていた。
3ヶ月前、グアムでイーサンとアスピードのアッガイを沈めた時より。2ヶ月前、ハワイでポルセのゴッグを倒した時より。1ヶ月前、パラオでカリュブスのズゴックを撃破した時より。ギーアの操縦は磨き抜かれた宝石の如く、鮮やかに洗練されている。
まるで水と対話し、機体を通してその流れを肌で感じているかのように。彼のジムスループは、緩急自在の挙動でカリュブス機の弾頭をかわしていた。
一方、蘇芳色のザクマリンタイプは増加装甲を失ったことに加え、度重なる被弾により満身創痍となっている。すでに何発もの銛を受けているその機体の各部からは、内部の機構が覗いていた。
『チッ、流石の俺もそろそろ年貢の納め時ってかァ……!?』
『コバルトキャリバー隊だけじゃない。海軍の皆が、俺をここまで連れて来てくれたんだ……! 今日までに散って行った大勢の仲間達のためにも、お前だけは必ず俺が倒すッ!』
『……言うようになったじゃねぇか。いいぜぇ、思う存分やって見な! 坊主……いや、
死なば諸共。その精神で突っ込んで来るカリュブスは、この局面で初めてギーアを名前で呼ぶ。それは彼が、眼前の男を対等の
サブロックガンとロケットポッドを、全弾惜しみなく撃ち尽くしながら迫るカリュブス機の巨体。その気迫に真正面から向き合い、ギーア機も執拗にハープーンガンでコクピットを狙う。
あまりの弾幕に、さしもの彼でも回避運動が追いつかないのか。全身の各部に被弾しながらも、ギーア機は懸命に銛を撃ち続けていた。やがて鋭利な切っ先がカリュブス機のコクピット付近に突き刺さり、爆発を引き起こす。
『ぐおおぉおッ!』
『があぁああッ!』
その衝撃で破損したモニターの破片が、カリュブスの全身を切り刻んだ瞬間。弾頭に直撃してしまったジムスループのコクピット内でも、同様の事態が発生してしまう。
それでも2人は血塗れになりながら、互いの機体を一瞬でも早く潰すことだけを考えていた。殺意も技術も互角。一騎打ちの明暗を分けたのは、機体の体格差であった。
『ぐぅおあぁあぁあーッ!』
命すらもかなぐり捨て、「好敵手」を討つべく振るわれた蘇芳色の鉄拳は、ジムスループの頭部を容易く捻り潰してしまったのである。
まるで、キャリフォルニアベースでの戦いを再現するかのように。
『あぐぅうッ!』
『お前の名前も一緒に、この海に刻んでやるよォッ! ギーアァアッ!』
カリュブス機のザクマリンタイプは、原型機よりも遥かに大型化されている。ギーア機のジムスループと比べれば、大人と子供のような体格差があるのだ。
コクピット付近に命中した銛でカリュブスを仕留め切れなかった時点で、すでに一騎打ちの勝敗は決していたのである。技量は申し分なかった。ただ運だけが、味方しなかったのだ。
それを呪う暇もなく――コクピットを殴り潰そうとする、カリュブス機の「とどめ」が迫る。
この辺りで最終話になるかなーとも思っていたのですが、今回も長くなりそうだったので、3話に分けることになりました。もうちょっとだけお付き合いくださいませ(´-ω-`)
ギーアも頑張ってはいるのですが、ラスボスともなるとなかなか一筋縄にはいかない様子。果たして彼は因縁の宿敵に勝てるのか。次回もお楽しみにー!٩( 'ω' )و
Ps
旧キットのジムはなぜにああも撫で肩なのか……(´・ω・`)