――それから、僅か数日後。「四海竜」の時間稼ぎによって沖縄に逃れたユーコンを含む、その島々に潜んでいたジオンの残党は全て、連邦海軍によって呆気なく制圧された。
彼らにとっての精神的支柱であり、不屈の象徴ともされていた「四海竜」。その4人が戦死したという報せが、著しく士気を削いでいたのである。戦闘らしい戦闘すら起こらないまま、敗残兵達は憔悴しきった様子で、銃を捨ててしまったのだ。
決して、本人達が望んだ形ではなかったのだろう。それでも「四海竜」は最後に、仲間達の命を繋ぐことに成功していたのである。
結果として残党の多くは血を流すことなく降伏し、後年にはサイド3へと送還されたのだから。
――そして。補給を終えたコバルトキャリバー隊のユーコンを筆頭とする、連邦海軍の艦隊は。「四海竜」との最終決戦に臨んだ、坊ノ岬沖に再び訪れていた。
「……静かなものですね。あの日の戦闘からは、想像もつきません」
「海は本来、こういうものだ。……やっと、あるべき姿に戻ったんだよ」
淑やかな佇まいで、澄み渡る海原を見渡しているヴィオレッタ・エバーグリーン。その肩に手を置くゼファー・アルビオンも、ようやく長い戦いに一区切りが付いたのだと、安堵の息を漏らしている。
「あいつらだって……さっさと銃を捨てて、降伏すりゃあ良かったのによ」
「未来を悲観し過ぎると、ああなってしまうものなのかも知れませんね」
「じゃあ、せめて俺達だけは信じてやりましょうよ。これから先の世の中は、ほんのちょっとくらいはマシになるって」
残されたジオン残党の未来を憂いていた、「四海竜」の決断と最期。その瞬間を目の当たりにしていたヴァイス・ヴァレンタイン、ネルヴァー・オム、ガルダ・ゴードンの3人は、勝者らしからぬ物憂げな表情で、静かな水面を見下ろしている。
「……『四海竜』、ですか。思い返してみれば、残党と呼ぶにはあまりにも精強な者達ばかりでしたね。『十指』と呼ばれていたエースパイロット集団も、まだ全滅したわけではないという噂もあります。それに……」
「第1次降下作戦の時に大暴れした挙句、未だにアフリカ大陸に居座ってるっていう……『
「だとしても、俺達の手でしらみ潰しに仕留めていくだけですよ。本当の平和が来るまで……ね」
「無論、俺もそのつもりです」
「そのための連邦軍、だからねぇ」
かつてはオデッサの戦地で猛威を振るい、戦後を迎えた今もなお、一部の生き残りが各地で暗躍していると噂されている、ジオンの「十指」。独立戦争の当初から、地球の人々を恐怖に陥れていたという、「双天獅」と呼ばれる2人の古強者。
「四海竜」をも遥かに凌ぐ脅威の影は、終戦を経た今もなお存在し続けているのだ。それでも、完全なる終息の兆しが見えない中でありながら、バーン・ヘミング、クレア・ブランドロール、スクアーロ・ヴァレッティの3人は、静かにその闘志を燃やし続けている。
「……『双天獅』、それに『十指』……か。せめて、この海を汚すような戦いだけは、これで最後であって欲しいものですな」
「えぇ……。好き好んで、この生命の源を荒らしたい人など、居るはずがありませんもの」
そんな部下達の会話に耳を傾けているマサミ・カイエダと、白い花束を手にしているシャンデルローズ・アラベスクも。これが決して「最後」などではないのだと肌で感じつつも、目の前に広がる大海に祈りを捧げていた。
せめて今日のような穏やかな1日が、僅かでも長く続くようにと。
「……終わったんだね、ギーア。君はこれから……どうするんだい? 戦争が終わったら軍を辞めて、沼津に帰るつもりだったって聞いたけど」
「いえ……やっぱり俺、残ります。この5ヶ月で、はっきり分かりました。戦争が終わっても、この地球はちっとも平和になってないって。銃を捨てられない人達が、こんなにも大勢いるんだって。だから……辞めるわけには行かないんです。故郷の皆が安心して、暮らしていける日が来るまでは」
「そっか……じゃあ、ボクも
「もちろん良いですよ。ミコト少尉も一緒なら、俺も心強いです」
そして。ミコト・W・サイジョウの胸中に気づかないまま、ギーア・ギアは帰郷よりも優先せねばならない使命を、この海に見出していた。今はまだ、終わった気になって帰るわけにはいかないのだと。
そんな彼の凛々しい横顔に見惚れ、人知れず頬を染めるミコトは。気づかれないようにそっと、彼の肩に身を寄せていた。逞しい腕に押し当てられたHカップの巨乳が、むにゅりと形を変えている。
「……で、でかい……ずるい……」
一方。ユーコンの隣を航行している艦艇の甲板に立っていた褐色肌の美少女――モニカ・スターベライズは、その光景を目の当たりにして可愛らしく頬を膨らませている。
そんな彼女をはじめとする連邦海軍の精鋭達も、各々の想いを胸に、「四海竜」が散った海原を見下ろしていた。
ロウアー・ダウン。
ツグイ・オハリ。
リーネ・エイム。
カツヨシ・アズマ。
ティア・ローレンス。
バレェン・ホワイツ。
ショウ・マカベ。
ノーフェイス。
マイナ・ウミノ。
レイノ・シヴォネン。
ドミナウ・ハウ。
そして、海を隔ててシャンデルローズと頷き合っている、レーナ・タイカ。彼女の手にも、白い花束が握られていた。
「この海を巡る戦いに散った、全ての魂に……敬礼ッ!」
やがて。彼らを代表して、2人の隊長が鎮魂の献花を放り投げた直後。
コバルトキャリバー隊、そして彼らと共に「四海竜」と戦った精鋭達は、大海に散った魂に敬礼を捧げる。せめてこの海に沈んだ魂だけは、穏やかに眠れるように、と。
(……安心してくれて良いぜ。あんた達の眠りは、絶対に邪魔させない。そのために、俺達がいるんだから)
それから暫しの時が過ぎ、鎮魂を終えた艦艇は次々とこの海域から離れて行く。その中でギーアは独り、「四海竜」が眠る海の底へと想いを馳せていた。
死んでしまった今となっては、敵も味方もないのだと。共に命を懸けて戦った「戦友」として、彼は人知れず誓いを立てている。
「……さぁ、行こうか。ギーア」
「……はい」
そんな彼の胸中を慮りつつも、艦内へと戻るよう促すミコトと微笑み合い。その括れた腰に手を回すと、ギーアはユーコンの内部へと引き返して行くのだった。
静かな海原に咲き誇る、純白の献花に背を向けて――。
◇
「それにしても……沖縄に居た残党を共和国に送還して、懲罰部隊に組み込もうだなんて。いくら共和国軍が人手不足だからと言って、そんな話がよく通ったモノですね」
「……2ヶ月ほど前、サイド3の町が『
「サイド3の町中で、そんなことが……?」
「えぇ。おまけに連邦の進駐軍も、そのテロリスト共を鎮圧するまでにかなりの損害を受けたらしいのよ。使えそうなものは何でも使いたい、っていう気持ちはむしろ連邦の方が強いのかも知れないわね」
「『四海竜』の全滅を受けて大人しくなった彼らなら、共和国軍の言いなりにもしやすい。それで懲罰部隊、ということですか」
「結果として、『
「そのきっかけになったのが、例の『三獣鬼』ですか。『四海竜』といい、銃を捨てられない方々にはほとほと困り果ててしまいますね」
「……まだ終わりじゃないのよ、ローズ。『四海竜』の上を行く『十指』にはまだ、生き残りがいるって噂もある。それに……」
「アフリカ大陸に留まり、抵抗を続けている『双天獅』……ですね。第1次降下作戦の時から暴れ続けて来たという、砂漠の悪鬼……」
「奴らとは航空隊に居た頃、カタヤイネンやローズマリー達と一緒に戦ったことがある。だから分かるよ……奴らはハンパじゃない」
「レーナがそこまで言うのだから……恐らく、彼らに纏わる逸話も尾鰭ばかりではないのでしょう。例えば……」
「『
今話を以て、外伝「コバルト・キャリバー」は完結となりました! 最後まで本章を見届けてくださった読者の皆様、キャラ募集企画にご協力頂いた参加者の皆様、応援誠にありがとうございますー! おかげさまで、本章も無事に完走となりました!(*≧∀≦*)
今回はこれまでのお話よりもスケールが控えめだったこともあり、話数も少なめな感じで書かせて頂いておりました。その代わり……というわけではないのですが、さらっと次の企画への「匂わせ」も含めた最終話となっております。「双天獅」とは何者なのか? っていうところを掘り下げるお話になるかと(´-ω-`)
そのうちどうにか開催したいなーという思いはありますので、機会がありましたらまたお気軽に遊びに来て頂けると幸いです(о´∀`о)
また、第1話公開時にお知らせした通り、本章は後ほど第1部と第1.5部の中間辺りに移動させる予定です。ご了承くださいm(_ _)m
ではではっ、本章を最後まで楽しんで頂き、誠にありがとうございましたー! もしよろしければ、そのうちやると思われる次章でまたお会いしましょうー!٩( 'ω' )و
【挿絵表示】
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Ps
ジオン残党は無限にスポーンしてるっていうのに、呑気に軍縮までしてる連邦には反省を促すべきだと思います(例のダンス