機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第1話からの登場人物-

-ブルース・ゲイボルグ-
 49歳。サイド3出身。「双天獅」と呼ばれるエースパイロットの1人であり、開戦前から数多の精鋭を育て上げてきた歴戦の古強者。群青色を基調とするザクIIに搭乗する。階級は大佐。

-ジョウ・ヒューガ-
 30歳。サイド3出身。「双天獅」と呼ばれるエースパイロットの1人であり、開戦当初から現在に至るまで、ブルースの部下であり続けてきた最後の1人。枯れ色を基調とするザクIIに搭乗する。階級は少尉。



外伝 デザート・キングダム -0080年5月1日-
第1話 仮面の覇王 -ブルース・ゲイボルグ-


 

 アフリカ大陸南西部に位置する「ナミブ砂漠」は、世界最古の砂漠とも呼ばれる砂の秘境である。

 その地に設けられたジオン地上軍の基地は、終戦から4ヶ月が過ぎた現在においても、拠点としての機能を辛うじて保っている。

 

 戦争ならとうに終わった。その事実を受け止められず、継戦の道を選んだジオンの残党達は、自分達にとっての「オアシス」を求めるかのようにこの基地に流れ着いていたのだ。

 ここを最期の居場所と決めた死兵達の抵抗は、容易い残党狩りだとたかを括っていた連邦軍の想像を遥かに上回る勢いであり。これまでこのナミブ基地に派遣されてきた連邦の地上部隊は、その悉くが為す術もなく撃退されてしまったのである。

 

 いつしかその基地は、難攻不落の砂礫の王国――「デザートキングダム」と呼ばれるようになっていた。

 その王国を滅ぼし、死兵達の無益な抵抗に終止符を打つべく。業を煮やした連邦軍は、アフリカ方面軍最強の遊撃部隊を派遣する決断を下していた。

 

 地球連邦軍アフリカ方面軍所属、第10独立遊撃部隊――通称、「カーマインパンサー」。その精鋭達が今、ジオンの「獅子」を狩るべく立ち上がったのだ。

 

 ◇

 

 ――宇宙世紀0080、5月1日。

 元ジオン地上軍第4ナミブ基地、通称「デザートキングダム」。その荒れ果てた拠点の中央部には、空母としての機能を失った1隻のガウが野ざらしにされていた。

 原型だけは辛うじて留めているものの、2度と飛ぶことは叶わない空母の残骸。その艦橋(ブリッジ)から、遥か遠方に現れた「敵勢」の影を眺めていたかつての艦長――ブルース・ゲイボルグ大佐は、鉄仮面の下で静かに目を細めていた。

 

「……レゾルグ。ジルベルト。サナル。ニコラ。マデラス。ヴィレッツ。ヴァルタル。アドラス。ディートハルト……ガリウス」

 

 先の独立戦争において、雷名を轟かせていた10人のエースパイロット――「十指」。開戦前からその全員を育て上げていた彼は、戦火の中で離れ離れになった「教え子達」の名を独り呟いている。

 髑髏を模した青い鉄仮面で素顔を覆い尽くしている彼は今、このデザートキングダムに流れ着いてきた残党達を率いて、連邦軍の「残党狩り」を撃退する日々を送っていた。ガリウス・ブリゼイドを含む「十指」を鍛え上げた古強者である彼は、MSパイロットとしても突出した実力を誇っていたのである。

 

 だが、終戦から4ヶ月もの月日が流れた現在では、物資もとうに底をついてしまっている。絶え間ない戦闘と渇きに、死すら恐れぬ残党の猛者達ですら、「限界」を迎えようとしている状態だ。

 デザートキングダムとまで呼ばれたこの第4ナミブ基地にも、ついに「終わり」の時が近付いているのである。戦争の終結と共に途絶えた、「十指」に纏わる武勇伝のように。

 

「……『子供達』は皆、俺の前から消えてしまった。今となっては居場所はおろか、生死すらも分からん。もしかしたら、どこかで生きているのかも知れんが……そんな希望に縋れる余地など、今さらあるはずもないな」

 

 開戦当初から最前線で戦い続け、世界の果てのような大砂漠に取り残されながらも。教え子達と肩を並べ、勝利する未来を信じて抗って来た男は。この時すでに、全てを失っていたのである。

 そんな彼が、せめて少しでもこの世界に爪痕を残せればと、「同志達」と共に築き上げたデザートキングダムも。今となっては、砂上の楼閣となっていた。

 

「……大佐、そろそろお時間です」

「あぁ……今行こう、少尉」

 

 己の背に掛けられた「片腕」の声に振り返ったブルースは、深く頷き同志達が待つ格納庫へと足を運ぶ。開戦当初から生き延びてきた唯一の部下――ジョウ・ヒューガ少尉は、そんな彼の傍らを静かに歩んでいた。

 

 格納庫に整列していた同志達は皆、死人のような目であったが。その奥に宿る暗い炎は、「自分独りで死ぬものか」という執念の灯火を燃やし続けていた。

 そんな同志達の姿に、鉄仮面の下で口角を上げたブルースは。大仰に両手を広げ、高らかに声を張り上げる。

 

「共に今日まで生き延びてきた、ジオンの勇猛な戦士たる諸君。まずは、先程確認された最新の情報を伝えておく。先日まで我々が連邦の謀略と断じていた、『グラナダ条約』なる終戦協定の件だが……これが、偽りのものではないことが明らかとなった! つまり我々は今、『ジオン公国軍の兵士』ですらないということだ! いわば『テロリスト』……この世界の誰にもその存在を許されない、絶対悪だ!」

 

 ただ滅びに向かうしかない、何の救いにもならない真実。それを耳にしても、同志達の暗澹とした瞳は全く揺らいでいない。

 彼らが求めているのは生きる道などではなく、自分が死ぬに値する「理由」だけなのだから。

 

「だが、そうと分かった今になって降伏の道を選んだとして……南極条約を律儀に守る必要もない連邦軍が、丁重に我々を受け入れると思うか!? 否ッ! 今ここに居る者達は皆、己の眼で見てきたはずだ! 奴らという存在の歪さと恐ろしさを! ダルシア・バハロは確かにこの戦争を終わらせた! 誰もが望んだ平和を現実のものとした! だが我々は今、その礎として消え去れと強いられているのだ! ……尊き平和のための人柱になろうという勇者は、即刻この場を立ち去るがいい! 俺が誰にもその邪魔はさせん!」

 

 これから共に死ぬ者達に、せめてもの「理由」を与えるために。ブルースは誰1人乗らないことを承知の上で、「別の道」を用意する。彼らが真の同志達であることを、最後に確認しておくために。

 

 そんな彼の思惑通り、格納庫に集まっている残党の兵士達は、誰もその場から逃げ出そうとはしていなかった。死兵と化して久しい彼らにとっては、もはや命そのものに値打ちなどないのである。

 如何にして生き延びるか、ではなく。如何にこの命を使い切るか、しか頭にないのだ。

 

「……そうだ! 俺が欲するのは諸君らのような、共に滅びようという愚か者だけだ! そのような愚か者共には、最期の餞別としてMSという名の棺桶をくれてやる! もはや我々は何者でもない。故に得るものもなければ、失うものもないのだ! 進め、ただ思い知らせるために! この世界にはまだ、地獄があるのだということをッ!」

 

 ブルースの演説に煽られ、この死地に意義を見出してしまった同志達は、瞳に宿した暗い炎を滾らせ雄叫びを上げる。彼らはブルースの言葉に導かれるまま、自分達の愛機に続々と乗り込み、基地から飛び出して行ってしまう。

 死すら恐れぬ人型の弾頭と化した彼らを見送った後。ブルースとジョウもそれぞれの愛機に飛び込み、最期の戦いに臨もうとしていた。

 

 防塵処理を施した上で、群青色に彩られているブルース専用のザクIIに続き。枯れ色を基調とするジョウ専用のザクIIも、ガウの格納庫から飛び出して来る。

 彼らの機体はザクの外観ではあるものの、「別物」と呼んで差し支えないほどにまでチューンナップされている特別仕様であった。その一つ目(モノアイ)は、砂塵を巻き上げ迫り来る連邦軍の「残党狩り」を静かに捉えている。

 

 数隻のビッグトレーに加え、ペガサス級の強襲揚陸艦までこちらに迫ろうとしているのが伺えた。これまでの「残党狩り」とは明らかに別格であり、連邦軍の「本気」が垣間見える戦力である。

 特に異彩を放っていたのが、先頭を飛ぶペガサス級の巨大な艦影だ。かの「木馬」を彷彿とさせるそのシルエットは、明らかに今までの相手とは違う。だが、その巨影を目の当たりにしても、ブルースとジョウは全く動じていない。

 

『……実に空虚なものだ。ジオンの正義を信じ、「子供達」を送り出し……俺は全てを失った。この基地すらもはや、砂上の楼閣に過ぎん。ナミブという言葉には……何もない、という意味が込められているそうだ。まさしく、俺達のようだとは思わんか』

『えぇ。……そして、何もない我々だからこそ、何一つ失うことを恐れることなく、ただ攻めることにのみ全てを注ぎ込むことが出来る。それは、今でなければ出来ないことなのでしょう』

 

 これから最期の戦いが始まろうというのに。2人は穏やかに語らいながら、砂地を踏み締め死地に赴かんとしている。

 開戦当初から、多過ぎる「別れ」を味わってきた彼らにとっては。無惨な死など、恐れるようなものではなくなっているのだ。

 

『どの道、虚しさしか残らん戦いならば……せめて。滅されるべき絶対悪として、然るべき末路を飾るとしよう。構わんな? 少尉』

『私はコロニーを落としに関わった頃から、とうにそのつもりでしたよ……大佐』

 

 やがて2人の愛機は同時にスラスターを噴かして、戦場の大地へと勢いよく飛び出していく。

 これまで幾度となく「残党狩り」を蹴散らしてきた、ジオンの「双天獅(そうてんし)」が――再び、その牙を剥こうとしているのだ。

 




 現在、作者の活動報告にて本章に登場する新キャラを募集しております! 機会があればお気軽に遊びに来てくださいませ〜(о´∀`о)

Ps
 本章は完結後、外伝「コバルト・キャリバー」と第1.5部「トーキョー・ファランクス」の中間辺りに移動させる予定です。ご了承くださいm(_ _)m
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