ジルバート機を貫かんと迫る、ビームナギナタの刃。その一閃を間一髪で阻止したのは、デネエル機のヒートサーベルだった。
光刃の行手を阻む熱刀が勢いよく振り上げられた瞬間、今度はジョウ機が意趣返しの如く体勢を乱されてしまう。
『む……!』
『……そんな後ろ暗い理由で命を懸けているような奴らに、勝利なんざくれてやるかよ』
『心外だな、私は勝利など欲してはおらん。今の私に欲するものがあるとすれば、それはお前達の命のみだッ!』
そこから畳み掛けるように、デネエル機は追撃の一太刀を振り下ろすのだが。回避は間に合わないと瞬時に判断したジョウ機は、敢えて前のめりになるように左腕を突き出していた。
そこにヒートサーベルが沈み込んだ瞬間、彼は左腕を犠牲にしながらその刃を払い除けると。ビームナギナタを振るい、熱刀を握っていたデネエル機の右腕を斬り落としてしまう。
一切の保身を捨て、相手の命を絶つことにのみ心血を注いでいる者ならではの攻撃だ。とどめとばかりに突き込まれたビームナギナタの刺突だけは辛うじて回避したデネエル機だったが、ジョウ機はさらに執拗な追撃を仕掛けて来る。
『こッ……の、バケモンがッ!』
『化け物で結構! これがかつて「双天獅」と呼ばれた敗残兵の、つまらぬ底意地というものだッ!』
そんなデネエル機の窮地を目の当たりにしたジルバート機は、体勢を立て直すとビームサーベルを構え直し、再びジョウ機に斬り掛かって行く。グフカスタムにとどめを刺す寸前でその気配に気付いたゲルググキャノンは、振り向きざまにビームキャノンを撃ち放って来た。
近距離で撃つには、あまりにも高火力な一撃。ジルバート機は咄嗟にその砲撃をシールドで受け止めるも、防ぎ切れずに頭部を吹き飛ばされてしまう。
それでも、足だけは止まらなかった。砂礫の地を踏み締め、前へと突き進むデザートジムは、例えメインカメラを失っても
(ヴィオラ……!)
脳裏を過ぎるのは、感情を表に出すのを苦手とする、人形のような金髪碧眼の美少女。最愛の女性――ヴィオレッタ・エバーグリーンだった。
彼女と出会ってから、つまらない堅物と言われてきた自分も、少しは変われたような気がする。何があっても表情一つ変わらなかった彼女も、ごく稀にだが微かな笑みを零すようになった。
そんな小さな変化の先にある未来を、これからもずっと見つめていたい。
だから、死ぬわけにはいかない。その純粋にして激しい情動が、彼の愛機を突き動かしていた。
『彼女を守るためなら軍のトップにでも上り詰めるし、家を捨てることも辞さない! それが今の、私の覚悟だァッ!』
『ぐ、おぉおッ……!?』
より多くの武功を上げ、身元不明の少女兵上がりであるヴィオレッタを正式に家に迎え入れるため。その際に発生するであろう、周囲の雑音を黙らせるため。
ジルバートは愛する女性と築く未来を胸に、光刃を振るいジョウ機のボディを斬り裂いて行く。
首を失ったデザートジムとすれ違った瞬間、上下に両断されたゲルググキャノンの上半身は、力無く砂漠の大地へと落下していた。
『……私が死ねばヴィオラは悲しむだろう。だから死ねない。特に貴様ら自殺志願者共の道連れなど、御免被る』
視界は鮮明ではないが、確かな手応えはあった。結果は、分かっている。
故にジルバートは辛辣に、死を拒絶する言葉を吐き捨てていた。
『……悲しむ、か。お前にはまだ、生きるに値する理由があるのだな』
『ある。故に、死ねんのだ』
愛する女性の存在が生んだ、生への執着。その情動が生み出した力を目の当たりにしたジョウは、斬り落とされたゲルググキャノンの上半身の中で、独り笑みを溢していた。
『ふっ……ならばお前は、それで良い。失うなよ、その理由を』
そして、その言葉を最期に。ジョウ・ヒューガは、跡形もなく爆散したゲルググキャノンと運命を共にする。
かつてサイド2に恋人が居ると知りながら、ジオンの大義を信じてコロニー落としに加担していた男は。過ちと知りながらも、恋人を犠牲にしてまで選んだ道に堕ちるしかなかった男は。
正しい道を選べた男に討たれ、ようやく
その背景を知らずとも、死に際に遺した彼の言葉に対して思うところがあったのか。ジルバートはこの勝利に浸ることなく、憂いを帯びた面持ちでビームサーベルを収めていた。
「双天獅」の1人は仕留めたが、まだ戦闘の終息には程遠い状況が続いている。死兵の大群はジョウが倒れた今もなお、破滅に向かって突き進んでいた。
何隻ものビッグトレーを護衛している別働隊の中には、ジルバートの想い人であるヴィオレッタも居るのだ。一刻も早くこの戦いに終止符を打たねば、いずれは彼女の身も危うくなってしまうだろう。
『所属している部隊が異なる以上、側に居られないのもやむを得ないが……やはり、直接君を守れないことに忸怩たる思いはある。……死ぬなよ、ヴィオラ』
『ほぉ、例の「菫の君」もこの作戦に参加してるんですかい。ククッ、なるほどなるほど。そりゃあ確かに彼女のためにも、早く戦いを終わらせなくてはなりませんなぁ?』
『ちゃ、茶化すなデネエル! いいからお前も自分の
『へいへい、分かってますよぉ』
その懸念を抱えているジルバート機は休む暇などないのだと、頭部を失ったままペガサス級の護衛に戻って行く。一時的に持ち場を離れていたデネエル機も、軽口を叩きながら部下達が待つ母艦へと引き返して行くのだった。
思いの外長引いたジョウ戦もこれにて決着となりました。死に場所を見つけようとしてる方より、生きて添い遂げようとする方が強いに決まってますからね(`・ω・´)