ブルース機のザクはジェイムズが言っていた通り、通常機のそれを遥かに上回るパワーを発揮していた。無惨に引きちぎられたダイナ機の両腕が、その威力を如実に物語っている。
『……叔父さんのザクなら確かに泣いてるよ。でもそれは、ボクの不甲斐なさに対してだけじゃあない!』
『む……!』
『戦争が終わっても戦いから離れられない! そんな哀れなお師匠のことだって、悲しくてしょうがないんだよっ!』
だが、ダイナ機もただで倒れはしない。
両腕を失った彼女の陸戦高機動型は3撃目の膝蹴りで吹っ飛ばされながらも、左脚に装備されていたミサイルポッドをブルース機に向けていたのだ。
そこから射出された1発のミサイルは、瞬く間に群青色のザクへと迫っていく。咄嗟に右肩のシールドで防いだ彼の愛機は、着弾に伴う爆煙で視界を塞がれてしまうのだった。
ダイナ機が刺し違える覚悟で放ったミサイルの一撃は、シールドを破壊する程度のダメージしか与えられなかった。爆煙に飲まれたブルース機の損害が軽微であることに悔しさを覚えながら、彼女の機体は背中から砂漠の地へと墜落してしまう。
『……ほう。未熟とはいえ、さすがは我が愛弟子の1人……アドラスの姪と言ったところか』
『ふんっ……! そう言ってくれるのは光栄だけどさ! ちょっとばかり、褒めるのが早過ぎるんじゃないっ!?』
『なんだと……!?』
だが彼女の攻撃は、ブルース機を確実に撃破するための「布石」として活かされていたのだ。彼の視界が封じられている間に動き出していたジェイムズ機を目にしたダイナは、悔し涙を頬に伝わせながらも口角を上げて不敵な笑みを浮かべている。
『ブルースゥウゥウッ!』
『ジェイムズゥッ……!』
ブルース機を飲み込む煙が晴れた頃には、すでにビームサーベルを引き抜いていたジェイムズ機が、ホバーを噴かして急接近していたのだ。
ドムに匹敵する走行力を得ている彼の愛機は、一瞬のうちにブルース機の右腕を斬り落としてしまう。
『何が死に様だ……! かけがえのない教え子達を失った悲しみに耐え切れず、自暴自棄に陥っているだけの男が! さも矜持であるかのように、己の破滅を正当化するんじゃあないッ! お前は滅びたいのではないッ! ただただ、悲しいだけなのだろうがッ!』
『……抜かせぇえッ!』
だが、ブルースもまだ勝負を捨ててはいない。残された左手でクラッカーを投げ付けた彼も、爆煙でジェイムズ機の目を眩ましてしまう。それが晴れた頃には、すでにブルース機は姿を消していた。
(……ブルース! 俺には分かっているぞ!)
それでもジェイムズには、旧友の行き先が分かっている。すでにここはデザートキングダムの目の前であり、彼の機体は基地の各施設を視認できる位置にいた。
追い詰められた王は、自らの城に逃げ込んだ。ジェイムズはとうに、その確信に至っているのだ。
『ジェイムズ大尉ッ!』
『ダイナ、お前は直ちに帰投しろ! 奴はまだ策を隠している……! その状態で付いて来たところで、叔父に会うまで生き残ることは出来んぞッ!』
『……ッ! りょ、了解ですっ……』
だが、ブルースの強さとしぶとさを知るジェイムズにとってはまだ、油断できる状況ではない。彼はダイナ機に退却を命じると、ゲルググを基地に向けて前進させていく。
ダイナ個人の意思としては、最後の最後まで戦いたかったが。その我儘を押し通したところで、望む結果など得られないのだということも理解していた。血が滲むほど唇を噛み締める彼女は、やがて意を決してスラスターを噴かすと、ペガサス級の方向へと飛び去っていく。
その様子を見届けたジェイムズ機は視線を前方に戻すと、足元に潜む「熱源」を睨み付け、ビームサーベルを引き抜く。
彼はそのまま躊躇うことなく、砂中に潜んでいるのであろうMSを仕留めんと、光刃を突き立てた。
『……お前がよく使う手だな。付き合いの長い俺に通じるとでも思ったかッ!』
砂の下に隠れようと、強化されたジェイムズ機のセンサーは誤魔化せない。ブルースはジョウと同様に、秘密兵器を砂中に隠していたのだ。
そう看破したジェイムズは、砂から出てくる前に彼を仕留めようと、ビームサーベルを地面に突き刺したのである。その狙い通り、彼の光刃には確かな「手応え」があった。
『聞こえるか、ブルース! コクピットは外したはずだ。お前にもし、僅かでも命を惜しむ心が残っているのなら――!?』
だが。砂中に潜んでいたMSの頭部だけを突き壊したジェイムズ機が、その肩を掴んで砂から引き上げたのは。
『こ、これは……』
ブルースの「予備機」としてはあまりにも心許ない、MS-04「プロトタイプザク」だったのである。しかもその機体は、ただ起動しているだけの無人。熱源を発してジェイムズ機を欺くためだけの、
『……懐かしいだろう、ジェイムズ。かつて俺達が共に愛用していたプロトタイプザクだ。いつかお前がここに来た時、必ず渡してやりたいと思っていたのだよ』
『……ッ!』
刹那。基地の入り口に立っていたジェイムズ機の背後から、もう一つの「熱源」が現れる。だが、咄嗟に振り返った彼の眼には、何も映っていない。
今この瞬間に起動したブルースの「予備機」は、自らの「懐」に踏み込んで来るまで、エンジンを切ったままジェイムズ機の足元に潜んでいたのである。
『ぐわぁあッ!?』
そして、その「予備機」が砂塵を巻き上げ、一気に砂中から飛び出した瞬間。不意を突かれたジェイムズ機は、瞬く間に頭部を握り潰されてしまうのだった。
ブルースは砂の中に、MSを「2機」隠していたのだ。
『――冥土の土産になァアァーッ!』
右肩のアーマーを群青色に塗装している、YMS-09D「ドムトロピカルテストタイプ」。
その専用機を駆るブルースの奇襲を受けたジェイムズ機は、為す術もなく倒れ伏していく。
かけがえのない部下達も、教え子達との勝利を目指していた過去も。そして、愛機さえも捨て去ったブルース・ゲイボルグは。
ただ破滅に向かって邁進するだけの、修羅と化したのだった。
ここでブルースも乗り換え! ちょっとラスボスらしからぬチョイスかも知れませんが、ドムトロピカルテストタイプの参戦となりました。いやー……改めて色々調べてみると一年戦争時代に絞っても、MSのバリエーションってとんでもないのですなぁ(ノД`)