殺意と執念、そして技量。その3点において「火葬」ことエリムス・ナイドレイブンは、「双天獅」にも劣らぬ域に到達しているのである。
だが、ブルース機も負けてはいない。施設跡を焼き尽くされた瞬間、装甲を溶かされながらもスラスターを噴かして跳び上がった彼の機体は、腰にマウントしていたハイパーバズーカを引き抜いていた。
『……いつまでも調子に乗ってくれるな、「火葬」ッ!』
『ぬぐぁッ……!?』
自身が出した炎そのものを目眩しに使われたエリムス機は、ハイパーバズーカの砲弾で片腕を吹き飛ばされると、体勢を崩してぐらついてしまう。
『……ビームライフルだけじゃなく、ハイパーバズーカまで持ち出して来るたァ、随分と好き勝手してくれるじゃねえか』
『お前達のお仲間が、素敵なプレゼントを送ってくれたのだよ。大変、癪だがな』
『プレゼントねぇ……輸送隊の連中、今世紀最大のヘマをしやがったな。今度ルゥトゥの野郎に会ったら、どんな嫌味を言ってやろうか』
その隙にエリムス機の背後に飛んで体勢を立て直し、膠着状態に持ち込んだブルース機を睨み付けながら。「火葬」と呼ばれた男は忌々しげに口元を歪め、ブルースの陸戦型ガンダムを手配した
そんな彼の怒りを宿した炎を浴びせられた陸戦型ガンダムは、すでに全身の各部を無惨に溶かされている。
火炎放射器ごと片腕を失ったエリムス機も、持ち味である放火の威力を半減させられていた。
(すでに別の任務を終えた後であり、機体もパイロットも消耗しているはずなのに……操縦が全く散漫になっていないッ! これが「火葬」……エリムス・ナイドレイブンの力だというのかッ……!)
だが、エリムス機はそれでも構うことなく、即座に火炎攻撃を再開していた。
これまでの防戦の中でその要領を把握していたブルース機は、縦横無尽に飛び回り火炎の直撃をかわしながら、ハイパーバズーカを連射している。
威力を半減されながらも勢いだけは止めようとしない、エリムス機の火炎放射。徐々に全身を炙られ溶かされながらも、「先」には倒れまいと撃ち続けるブルース機のハイパーバズーカ。
双方とも、連戦に連戦を重ね疲弊しきっているはずだというのに。互いの命を刈り取らんとする殺意の鋭さは、より増していく一方となっていた。
『……獣は火を恐れる、か。「火葬」ともあろう者が、随分と古い物差しで語るのだな。流石は長年に渡り地球にしがみついてきたアースノイドの戦士だ。その化石のような脳髄、博物館に飾りたいくらいだよ』
『おうおう、宇宙のピエロ様が笑えること言ってやがるぜ。……ジオンのゴミが。墓標すら残さず無残に死ね。水と空気を浪費して地球を汚した罪を悔いながら、砂漠の砂になれ』
『案ずるな、元より俺達には墓標など必要ない。……当然、お前のような人間にもな』
命と装甲を削り合い、殺気を煽り合う。
そんな両者の撃ち合いの余波は、双方のコクピット内にまで及んでいた。
ブルースの鉄仮面は熱を帯びてパイロットの顔面を焼き、砲撃に伴う振動で割れたモニターの破片が、エリムスに突き刺さって行く。
だが、顔の肉を焦がされても。身体のどこに刃を刺されても。彼らはその痛みを顧みようともせず、己が倒すべき仇敵だけを見ていた。
(いかん……! このままではどちらが勝っても、互いを全滅させるまで止まらない泥沼の消耗戦になってしまう……! 止めなければ、どうにかして止めなければッ……!)
この勝負、どちらが制しても希望の持てる未来は来ない。
戦況の推移を目にしているリーフは本能的に、その真理に辿り着いていた。彼らが立っている限り、どう転んでもこの戦いは地獄絵図にしかならないのだと。
――すると、その時。
『……!』
四肢をもがれ、身動き一つ取れなくなっているガンナーガンダムの眼前を――何発もの実弾が通り過ぎていく。
それはジムスナイパーIIが運用しているものと同規格の、75mmスナイパーライフルのようであった。
(スナイパータイプの援護射撃……!? いや、何かがおかしい!)
目の前を瞬時に横切った弾丸を視線で追うリーフは、その弾道に違和感を覚えていた。そんな彼の直感に答えを示すように、放たれた実弾はブルース機とエリムス機の「両方」を撃ち抜いていく。
『ぐぉッ……!?』
『ぬぅ、ぁあッ!?』
その不意打ちを脚部に受けた両機は、同時に膝をついていた。目撃者であるリーフを含む全員が、何事かと瞠目する。
『おい……今のはどういうことだ。誤射にしちゃあ、ちょっとばかし狙いが巧すぎるぜ?』
誤射による手違いではない。それにしては、自機に対する狙いが正確過ぎる。
その「可能性」に瞬時に気付いたエリムスは、このデザートキングダムに降下してから初めて、ブルース以外に煮え滾るような殺意の刃を向けていた。
そんな彼の視線の先には――施設跡の上に膝を着き、狙撃姿勢を取っている1機のMSの姿があった。その機体はエリムス機に視線を合わせ、75mmスナイパーライフルを静かに下ろしている。
『……そう思われるのは、大佐の「おいた」が過ぎたせいではありませんかな?』
その機体を駆るパイロットは、「双天獅」さえ戦慄するエリムスの殺気を向けられていながら。むしろ挑発するかの如く、白々しい微笑を溢していた。
主人公の霊圧が……消えた……?(゚ω゚)