-レベッカ・ターナー-
20歳。コロンバス出身。この作戦に参加していたソノ・カルマの部下である連邦軍パイロットであり、かつてはフェザールの教え子でもあった少女兵。ジムに搭乗する。階級は2等兵。
※ターレス名義で活動していた作者の過去作「機動戦士ヘビーガンダム(http://anotheridea.nobody.jp/HeavyG.htm)」のヒロイン。
それは、砂漠の王としての最後の意地だったのか。
ブルース機は渾身の一閃でエリムス機の腕と脚を同時に切断し、ついに「火葬」の猛攻に終止符を打ったのである。
『ぐ、おッ……!』
片脚をもがれ倒れ伏したエリムス機にはもう、起き上がるための両腕がない。ここに来るまでの「別任務」ですでに消耗していたこともあり、彼の量産型ガンキャノンはもはや、身動き一つ取れない鉄塊と成り果てていた。
『ぬぅうッ……あぁああッ!』
だが、辛うじてエリムス機を大破させたブルース機の方も死に瀕している。
「火葬」を倒したと言っても、フェザール機による狙撃は続いているのだ。エリムスにとどめを刺せるような隙などないのである。
彼は75mmスナイパーライフルの弾丸から逃れるべく、フェザール機からは死角になる施設跡の影へと飛び込んでしまった。熱源反応の動きから、中央部のガウを目指して移動しているのだと看破したフェザール機は、スナイパーライフルを下ろしてゆっくりと立ち上がる。
『……ふん。玉砕を煽っていながら、この期に及んで生にしがみつくか。実に人間臭い真似を見せてくれるじゃあないか?』
死に際に露呈した「王」の本心。この一戦の中でそれを垣間見たフェザールは、コクピットの中で不遜な笑みを浮かべていた。
「火葬」との一騎打ちで消耗しきっている今のブルース機を追撃して、仕留めるのは容易い。だが彼の本懐は、エリムスの阻止にある。
『スコッツマン……! てめぇ、上官の俺を撃っておいて奴は見逃すってぇのか! 軍法会議なんて生温いぜ、今すぐ俺が処刑してやらァッ……!』
『……やれるものならやってみてください。私が動くほどの蛮行を重ねたあなたの言葉に、そんな力があるというのなら』
故に彼は敢えてブルース機を追おうとはせず、エリムス機に視線を移していた。このままでは殺されると予感した「火葬」の男は、そんなフェザールを口汚く罵っている。
『リーフ少尉、大丈夫ですか!? ……こ、これは一体……!?』
すると、そこへ新たな熱源――即ちMSが駆け付けてきた。
フロンレシアの想いを背負い、デザートキングダムの最奥を目指していたレイン機のデザートジムである。彼は四肢をもがれたリーフ機に駆け寄ると、眼前に広がる異様な光景に瞠目していた。
あの「火葬」ことエリムス・ナイドレイブンの機体が無惨に大破していること。1機のナイトシーカーが、ただならぬ雰囲気でその傍に立っていること。
焼け爛れたガンダムが、中央部のガウを目指して疾走していること。どれも、ただごとではない。
『レイン……! お前、よくここまで無事で……!』
『そこのデザートジムッ! このナイトシーカーは俺達連邦軍の裏切り者だ、今すぐ撃てぇッ!』
『エ、エリムス大佐……!?』
そんな彼の姿を目にしたリーフとエリムスが、一斉に声を上げる。
エリムスの口から告げられた真実に顔を上げたレインは、咄嗟にこちらを見つめるナイトシーカーと視線を交わしていた。
戦時中からの知人であるフェザール・スコッツマンが裏切り者だという、その内容に驚愕しているレインに対し。当のフェザールは落ち着き払った様子で、微笑を浮かべている。
『あなたは、ショウ少尉がいる遊撃部隊の……フェザール大尉!?』
『……最後に君と会ったのは、戦時中の頃になるか。見ない間に随分と男らしい顔になったようだな、ウォーミング伍長』
この時代においては、兵士達が生きて再会を果たせることさえ稀なのだと言われている。それ故、戦闘中であっても再会を喜ぶことについては、さしておかしな話でもない。
だが、自身が上官から「裏切り者」だと糾弾されている最中であっても、その追及を無視してレインとの再会を喜んでいるフェザールの姿は、えもいわれぬ異様な雰囲気を纏っていた。
『どうしてあなたがエリムス大佐を……!? こ、これはどういうことなのですか!?』
『偶然にも不幸な誤射が起きてしまってな。大佐殿は随分と動転されていらっしゃるようだ。私を暗殺者だと思い込まれている』
『スコッツマン、てめぇッ……! おい、ウォーミング伍長と言ったか! てめぇもジオン共をぶち殺すためにここまで来たんだろうが! だったら奴らの肩を持つそいつも敵だ! ボサッとしてねぇでさっさとブチ殺せッ!』
わざとらしく肩をすくめ、白々しい態度を取るフェザールにますます殺気立つエリムス。そんな自分達の様子に困惑するばかりのレインを一瞥したフェザールは、やがて笑みを消して冷徹な貌を見せる。
自身を冷たく見下ろす「暗殺者」の眼は、「火葬」と呼ばれた豪傑ですら目を見張るほどの鋭さを纏っていた。
『……大佐。残念ながら彼の思想は、あなたのそれとは対極の位置にある。過激な殲滅思想をひけらかし、残党の徹底抗戦を煽るあなたの存在はもはや、残党そのものにも劣らぬ脅威と化しているのですよ。だから私は、あなたを止めにここまで来たのです』
『な、なんだとォ……!?』
『確かに私は上層部により、必要とあらばあなたを消せと命じられました。……ただ、安易な殺戮に走るような手合いと同じところに堕ちるというのも、些か癪でしてね』
――フェザールはこれまで何度も、エリムスのような軍内部に居る危険な存在を、影から葬ってきた。そんな「汚れ仕事」など、今に始まったことではない。
それでも、殺す気にすらなれないほどの「外道」というのは居るものなのだ。何よりフェザールとしては、理想を求めて戦い抜いてきたレインに、自分達の暗部を見せたくはなかったのである。
殺すことなどいつでもできる。言外にそう告げながら、エリムス機の背を踏み付けるフェザール機は、基地中央部のガウを指差していた。
彼も、レインに賭けているのだ。彼ならば本当に、最小限の犠牲でこの戦いを終わらせることが出来るかも知れないのだと。
『ウォーミング伍長、奴はあの中央部のガウに向かって逃走した。……決着を付けて来てくれ。エリムス大佐は私が抑えておく』
『頼む……レイン。情けない話だが、お前に託すしかないようなんだ……! この戦いのケリ、お前に預けるぜ……!』
『し、しかし……』
『リーフ少尉のことなら心配いらない。丁度、私の元教え子が近くに来ていてな』
フェザールとリーフの言葉に背を押されながらも、レインはカーマインパンサー隊の仲間を置き去りにしていいのかと葛藤している。そんな彼を慮るフェザールは、この戦域の近くで戦闘を続けていた1機のジムを通信で呼び出していた。
『ターナー、こちらにも動けないMSがいる。救助を頼めるか?』
『フェザール教官!? りょ、了解です!』
それから数十秒も経たないうちに、別働隊の女性パイロットが搭乗するジムが駆け付けて来る。彼女の機体はリーフ機のガンナーガンダムを見るや否や、慣れた動作でそのボディを抱え上げていた。
『悪いなターナー、一旦リーフ少尉を安全な場所まで運んでやってくれ』
『こんな時にまで持ち場がどうのって言ってられませんからね! 任せてください、フェザール教官っ!』
『おいおい、私はもう教官じゃあないぞ。……お前のところの、カルマ隊長にもよろしくな』
『はいっ!』
恐らくこれまでの戦いの中で、何度もこうして味方の機体を救助していたのだろう。彼女――レベッカ・ターナー2等兵のジムは、かつての「師」であるフェザールの要請に応え、リーフ機を担ぎながらスラスターを噴かして行った。
専用機のヘビーガンダムを駆る、アフリカ戦線のトップエース――ソノ・カルマ少尉の元へと翔ぶ彼女のジムは、通常機とは思えない疾さでこの戦域を離脱していく。愛する隊長に一刻も早く会いたい、という乙女心が為せる業、なのかも知れない。
『……ッ! すみませんリーフ少尉、フェザール大尉! 後はよろしくお願いしますッ!』
そんな彼女の背を見送ったレイン機は、逡巡の果てに「前進」の道を選ぶ。
スラスターを全開にして、陸戦型ガンダムを追うように飛び出して行った彼のデザートジムの勇姿を、フェザールは優しげな笑みで見届けていた。
『ま……待ちやがれッ! おい、小僧ォオッ!』
そんな彼に対して、血反吐を吐きながらも怒号を上げるエリムスの叫びには意も介さず。フェザールは去り行くデザートジムの背に、小さく呟くのだった。
『よく覚えておきなさい、ウォーミング伍長。この擦り切れた世界において最も難しく、そして尊いのは……力だけに全てを委ねないことさ』
――そして。デザートキングダムを巡るこの戦いは、ついに最終ラウンドへと突入する。
今まで出てそうで出てなかった過去作のヒロインをチョイ役として使いつつ、いよいよ本章もラストバトルとなりました。果たしてレインはブルースを捕まえて、フロンレシアの理想を叶えられるのか。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و