機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第24話 早撃の巨匠 -カルロ・ジェノヴェーゼ-

 この第4ナミブ基地ことデザートキングダムを中心とする、激戦の余波なのか。中央部に鎮座するガウの近辺は絶え間なく吹き荒れる砂塵に包まれており、そこに辿り着いたレイン機のデザートジムは視界のほとんどが遮られている。

 

(居るな……「双天獅」ッ!)

 

 それでも彼の直感は、このガウのそばにブルース機の陸戦型ガンダムがいることを察知していた。ビームスプレーガンを手に宿敵を追う彼のデザートジムは、ガウの外周を回るような足取りでゆっくりと、動かぬ空母の正面へと向かっていく。

 

 そんなレイン機の姿を、砂塵越しに見つめている影は――開かれたままになっているガウの正面発進口に潜んでいた。

 そこから双眸を輝かせ、デザートジムの挙動を視認している陸戦型ガンダムは、最後の力を振り絞るようにハイパーバズーカを構えている。

 

(……「火葬」とも、奴を狙っていた男とも違うな。まさか、部下達の特攻を潜り抜けてここまで辿り着くような猛者がこれほど居ようとは……!)

 

 這ってでもここに来るであろうエリムスの量産型ガンキャノンでも、自分を追い詰めたフェザールのナイトシーカーでもなく。

 何の変哲もない通常機のデザートジムが現れている。その光景だけ見れば、容易い相手だと油断していたかも知れない。

 

 だが、あのデザートジムはエリムス達がいる方向から現れた。つまり、彼らに追撃を任されるほどのパイロットだという線もあるのだ。決して侮っていい相手ではない。

 そう判断したブルースの操縦桿を握る手にも、力が込もる。

 

(近い……! 感じるぞ、あのガンダムはすぐそこにいる!)

 

 一方、レインもブルース機の殺気を本能で感じ取っているのか。ガウの正面に回りつつある彼の機体は無意識のうちに、ビームスプレーガンの銃口を正面発進口に向けていた。

 

 それでも、確信には至っていないらしく。陸戦型ガンダムの正確な位置までは掴めないまま、その銃口を左右に揺らしている。

 

(だが……まだ青いな。砂塵に遮られたこの視界の中では、俺の正確な位置は分かるまい。だが俺には、お前の位置が手に取るように分かるぞ)

 

 MSパイロットとしての才覚(センス)に関しては、早期にブルース機の殺気を感知したレインの方が優れているのかも知れない。

 それでも、先の戦争における第1次降下作戦の頃から経験(ノウハウ)を積み重ねてきたブルースの方が、圧倒的に優勢であることには変わりないのだ。

 

 未だに相手の位置を掴み切れていないレイン機に対し、ブルース機はすでにハイパーバズーカの発射準備を整えている。ブルースの方に「一日の長」があることは、明白であった。

 

 だが、それでも慢心はできない。

 互いの射程距離内に入っているこの状況では、如何に速く先手を打てるかに懸かっている。

 

 そしてハイパーバズーカに使われている実体弾の「初速」は、ビーム兵器のそれよりも遥かに劣っているのだ。ナイトシーカーに脚を撃たれて機動力を失っているこの状況で、初撃を外せば待っているのはビームの洗練。

 

 ブルースにとっても、レインにとっても。一切の先が見えない、早撃ち対決なのである。

 

(あのガンダムもかなり傷付いてはいるようだけど、エリムス大佐を倒すほどの攻撃能力が今も健在なら……オレのデザートジムでは持たないかも知れない。次の接敵が、最後の決着になる……!)

(さぁ……来てみろ、勇敢なる連邦の兵士よ。このブルース・ゲイボルグの最後の意地、篤と味わわせてくれる……!)

 

 一歩、また一歩と、レイン機が正面に近づき。両者を遮るものが、失われていく。

 

 心音が、高鳴る。汗を拭う暇もない。

 

 何が起きたのかも分からないまま、死ぬかも知れない。そう思うと、呼吸音すらうるさく感じる。

 

 僅かな兆候も見逃すまいと、自然に神経が研ぎ澄まされていく。

 

 さぁ、正面だ。

 

 ――その瞬間、風が吹き。

 

 ほんの僅かだけ、砂塵が晴れる。

 

 全ての視界がクリアになったわけではない。

 

 だが。

 

 それだけで、十分過ぎるほどに。

 

 2人には、お互いが視えていた。

 

『――居たぁあッ!』

『堕ちろぉおッ!』

 

 砂埃が風に流される一瞬。それを合図に、両者は同時に動き出していた。

 待ち構えていたブルース機の砲弾が飛び出し、レイン機のビームスプレーガンから閃光が放たれる。

 

(予測よりも砂が晴れるタイミングが速かった……! だがこの間合い、制するのはこの俺だッ!)

 

 「弾」の初速はビームの方が速い。

 それでも僅かに速く発射された弾頭の方が、先にレイン機の肩に着弾していた。

 

 ビームスプレーガンの閃光がブルース機の肩を掠めた瞬間。爆音と共にデザートジムの片腕が吹き飛び、その衝撃のあまり機体が横転してしまう。

 

『あぐぅッ!』

『勝ったァッ!』

 

 転倒というあまりに大きな「隙」ならば、この距離からの弾頭をかわすこともできない。今度直撃すれば、デザートジムは確実に吹き飛ぶ。

 

 その可能性に勝機を見出し、ブルース機は「2発目」の照準をレイン機のコクピットに向けていた。

 

『……撃ちさえ、すればァァッ!』

 

 そんな中。レイン機も仰向けに倒れながら(・・・)、「2発目」の銃口をブルース機に向けていた。当然、まともに狙えてなどいない。

 数さえ撃てば当たる、という苦し紛れの悪足掻き。それも、一つの事実ではあった。それでもレインは己の判断に誤りはないのだと、確信している。

 

 撃ちさえすればいずれは当たる。

 その思考回路は、彼に射撃のイロハを伝授した師匠――カルロ・ジェノヴェーゼの教導によるものなのだから。

 

 ――いいかレイン。早撃ち対決ってのはな、狙おうとする方が負けるのさ。狙わなくたって当たる、とにかく撃ちさえすれば俺が絶対に勝つ。結局最後に立ってるのはいつも、そういう自信過剰な馬鹿野郎なんだよ。

 

 ――そういう馬鹿野郎が、「氷魔の蒼弾(ガリウス・ブリゼイド)」を倒したのさ。「焦熱の爀弾(リュータ・バーニング)」っていう、特級の馬鹿がな。

 

『撃ちさえすれば……撃ちさえすればッ! オレが、絶対に勝つッ!』

 

 その愚直なほどの迷いなき「確信」の一閃が、ビームスプレーガンの銃口から翔ぶ瞬間。不安定な体勢からの反撃を受けたブルース機に、衝撃が走る。

 

 ハイパーバズーカの砲口に入り込んでしまったビームが内部の砲弾に直撃し、内側からの誘爆を引き起こしたのだ。

 

『なッ……何ィイッ!? 弾頭がァッ!』

 

 咄嗟にバズーカを手放し距離を取ろうとしたが、遅かった。陸戦型ガンダムのそばで爆ぜたバズーカの破片が、溶けた装甲に次々と突き刺さったのである。

 

 その一つはコクピットを守る壁すらも貫通し、内部にいるブルースの肉体にまで沈み込んで行った。

 

 これまでの所業に対する、報いであるかの如く。ハイパーバズーカの鋭利な破片はコクピット内の機構を避け、ブルース本人だけを貫いたのだ。

 

『うごぉ、あ……!』

 

 鉄仮面から覗いている口もから鮮血が吹き出し、コクピット内が血の臭いで充満していく。本来なら即死しているはずの致命傷でありながら、彼は操縦桿から手を離すことなく、無軌道に自機を歩かせていた。

 

 ハイパーバズーカの破片がコクピットにめり込む瞬間を目の当たりにしたレインは、脚を引きずりガウの艦内へと消えていくブルース機の後姿に、戦慄を覚えている。

 

『……くッ!』

 

 まだ戦うつもりなのか。それとも、連邦には屈しないと自決するつもりなのか。いずれにせよ、このまま放っておくわけにはいかない。

 辛うじて片腕の力で起き上がったレイン機は、ブルース機を追うように正面発進口から、ガウの艦内へと突入していく――。

 




 長かったブルース戦もこれにていよいよ決着! 本章のラストも近づいて参りました。いやー、まさかここまで長いお話になろうとは。よもやよもやですε-(´∀`; )
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