『こ、こいつら……一体いつまで突っ込んでくるんだよッ! いつになったら……どうしたら諦めるんだよォォーッ!』
『もうこっちは持たねぇぞォォーッ!』
デザートキングダムから続々と迫り来る、ザクやドムで編成された死兵の大群。その脅威を迎え撃つ防衛隊は、全てをかなぐり捨てた狂人達の絶え間ない特攻により、限界を迎えようとしていた。
ペガサス級やビッグトレーの護衛に奔走していたエース達も、例外ではない。カイト・マクラウドのドムトローペンが、基地の中央部から噴き上がった爆炎を目撃したのは、まさにその戦線が崩壊しかけた頃であった。
『……!? ヴァイス、アレを見ろ!』
『デザートキングダムの方向か……!? 一体、何が起きてる!?』
敵方の本拠地である、デザートキングダムの中央部に鎮座しているガウ。そこから衝き上がった火柱と、全てを黙らせる爆音には、ヴァイス・ヴァレンタインのジムストライカーも脚を止めていた。
彼だけでなく、敵であるデザートキングダムの残党達までもが、自分達の基地で起きた大爆発に目を奪われていた。
今だけは敵も、味方もなく。
この戦場に立つ全ての兵士達が、大破炎上しているガウに注目していたのである。
『中央部のガウが……爆発したのか!?』
『見てください、あそこ! ガウの上に……MS!?』
エディン・ギルスのジムストライカーの視界が、ガウから昇る爆煙を捕捉した瞬間。装甲強化型ジムを駆っていたシルフィア・ラウテルが、ガウの上に立つMSの機影を目撃し、声を上げる。
そこに居た、満身創痍の陸戦型ガンダムは――紛れもなく。ブルース・ゲイボルグの最終兵器にして、デザートキングダムにとっての切り札でもある「王」の機体であった。
凄惨に焼け爛れても、双眸の輝きを絶やさないその勇姿に残党達が釘付けになった瞬間。コクピットハッチが開かれ、機体を操縦しているパイロットが現れる。
それは、彼らが心酔するブルース・ゲイボルグではなく。彼の鉄仮面を両手で掲げている、レイン・ウォーミングの姿であった。
彼は周囲の注目を集めるため、乗機のデザートジムをガウの艦内で自爆させることにより、艦内に残っていた不発弾を全て誘爆させていた。それを利用することで、戦闘中の轟音すら掻き消すほどの大爆発を引き起こしたのである。
『デザートキングダムに与する、全てのジオン軍残党に……ブルース・ゲイボルグ大佐より預かった言葉を、お伝えします』
そして。陸戦型ガンダムに搭載されている専用の回線を開いた彼は、この場にいる全てのMSに対して。
静かに、力強く、そして優しげに。
ブルース・ゲイボルグから託された遺言を、告げようとしていた。
『レ、レイン……!? 「双天獅」を……お前が倒したというのか……!?』
『しかし、あそこから一体何をしようと……!?』
その、誰もが予想だにしなかった光景にヴァイスとカイトが息を飲む中。レインは自分に殺気を込めた眼差しを向ける全ての残党達に、悲しげな表情を浮かべると。
敬愛する「父」を失った「遺族達」の心情を慮るように、ブルースに託された言葉を紡いでいく。
『
それは、ブルース・ゲイボルグという男をよく知っているデザートキングダムの兵士達にしか、決して伝わらない言霊であった。
さして特別なことは言っていないように感じている連邦軍の兵士達は「そんな言葉でこいつらが止まるのか」と疑念を抱き、どよめいている。
レインの人となりを知るエース達ですら、それだけでは彼らを説得し切れないのではないか、と心配げな表情を浮かべていた。
当然レイン自身も、この言葉の意味をそれほど深く理解しているわけではない。
ただそれでも、本気で「子供達」を救いたいと願ったブルースが託した言葉ならば、届くはずだと信じたのである。
そんな彼の言葉を――嘲笑うかのように。ヴァイスの近くで戦っていた1機のザクが、ザクバズーカの砲口を彼に向けようとしていた。
その砲弾が届くような距離ではないが、「拒絶」の意を示すものとしてはこれ以上ない「メッセージ」であろう。
『……! くそッ!』
『お前達は一体どこまでッ!』
やはり届かなかったのか。レインがあれほど身体を張っても、ブルースの遺言を聞いても、お前達は破滅に向かおうというのか。
そんなやり場のない、怒りと悲しみを込めて。ヴァイス機とカイト機がザクの射撃を阻止しようと、ツインビームスピアとヒートサーベルを振り上げた――次の瞬間。
『……!?』
バズーカを構えていたザクは、逡巡するかのように砲口を揺らすと。やがて断念したかのように砲身を下ろし、そのまま得物を投げ捨ててしまうのだった。
それを皮切りに他の残党達の機体も、続々と自分達の武器を砂漠の地に落としていく。心なしか、その際の動作は項垂れているかのようにも見えていた。
『奴らが、武器を捨てていく……!?』
『どういうこったよ……!?』
シルフィア機とエディン機の周囲でも、同様の事象が起きていた。戦意を失った彼らの機体は次々と、自ら武装を解除して行ったのである。
――ガウが爆破され、ブルースの最終兵器であるはずの陸戦型ガンダムが、連邦軍に奪い返されたという事実だけなら。デザートキングダムの残党達は動揺こそするものの、戦意まで失うことはなかっただろう。
レインの説得など、ブルースの遺志を騙る戯言と断じていただろう。
だが、そうはならなかった。残党達の機体は闘志を抜き取られてしまったかのように、続々と手にしていたザクマシンガンやジャイアントバズを落としていく。
それはレインの口から出てきた、「我が子ら」という単語が原因だったのだ。
――かつてブルースがその才能を見込み、手塩に掛けて育て上げたという10人のパイロット。後に「十指」と呼ばれるようになった彼らの存在は、師であるブルースにとっては「実子」も同然だったのである。
ブルースに心酔しているデザートキングダムの兵士達も、そのことはよく知っていた。そして自分達はあくまで「その他の部下」でしかなく、「十指」のような大きな存在には、「息子達」にはなれないのだということも分かっていたのだ。
ブルースにとって、「我が子」という言葉がどれほど重いものなのか。
それを理解しているからこそ、彼の「遺言」を聞いたと主張するレインの口から出てきたその単語に、思い知らされてしまったのである。
自分達にとっての父であるブルースは、本当に、この青年に己の最期の言葉を託したのだと。自分達もようやく、「子供達」だと認められたのだと。
その真実に辿り着いてしまった以上。失ったはずの、人としての拠り所が生まれてしまった以上。かつての死兵達はもう、破滅に向かって突き進むことは出来ない。
この人と共になら死ねる。例え真には認められずとも、命を捧げることは出来る。そう信じてきた相手から直々に、生きろと告げられてしまったのだから。
過去最長となった本章もようやく完結の取っ掛かりまで辿り着きました。あと僅かで連載も終了になるかと思われますので、最後まで生暖かく見守って頂けると幸いであります〜(*´ω`*)