機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第29話 縁結の架橋 -グーイ・ノア-

 その後、力無く投降したデザートキングダムの兵士達は全員、サイド3にあるジオン共和国の懲罰部隊として組み込まれることになった。

 

 コバルトキャリバー隊をはじめとする連邦海軍によって捕縛された者達と同様に、「三獣鬼」が引き起こしたテロによる損害を補うための人的資源として利用されることになったのである。レティシアの実家である連邦政府の名門・シェフィールド家の働き掛けがなければ実現し得なかったことだろう。

 

 だが、彼らが辿ることになる道は決して、「帰郷」などという生易しいものではない。むしろ、有事の際は真っ先に矢面にされる「人柱」にも等しい茨の道なのだ。

 

 それでも彼らは、生きるために戦うことになるのだろう。自分達の「父」が遺した、最期の命令に従って。

 

 ◇

 

 ――そして宇宙世紀0080、6月1日。デザートキングダムでの死闘から、1ヶ月もの日々が過ぎた頃。

 ナミブ砂漠から遠く離れた都市・ルアンダにある、クアトロ・デ・フェベレイロ空港のターミナルにて。

 

「少佐、いつまでそんなに固くなってるつもりなんですか。もうすぐ『菫の君』が東京に旅立ってしまうというのに」

「いいんですかぁ? そんなことでいいんですかぁ? 東京の奴らに愛しのレディを射止められたら手遅れなんですよぉ?」

「わ、分かっている……! お前達までデネエルのようなことを言うんじゃあない……!」

 

 ジルバート・ブーガンヴィルは花束を手に、直立不動の姿勢で硬直していた。戦場においては常に冷静沈着であり、如何なる強敵にも毅然とした姿勢で立ち向かっていた彼の貌は今、極度の緊張にかつてないほど強張っている。

 そんな彼の背を囃し立てるように押しているリーフ・T・ライアとグーイ・ノアの視線の先には、怜悧な佇まいでジルバートと向き合っている金髪碧眼の美少女――ヴィオレッタ・エバーグリーンの姿があった。

 

「……」

 

 東京基地への転属が決まった彼女は今日、同じくその地に向かうことになっているフィーネ・エイム、キョウイチ・ヤクモ、イサミ・チネンらと共に、日本の首都へと翔ぶことになっている。

 

 その便のフライト時刻は、もうすぐだというのに。彼女は慌てる素振りもなく、人形のような無表情のままで、真っ直ぐにジルバートを見つめているのだ。彼からの用事が終わるまで、ここから一歩も動くつもりはないらしい。

 

「ヴィ、ヴィオラ」

「……はい」

 

 そんな彼女を、いつまでも私情で引き止めているわけにはいかない。東京に発つフィーネに代わり、カーマインパンサー隊の新隊長を任された者として、恥ずべきことは出来ない。

 

 ジルバートはその一心で、汗だくになりながらも。華々しい薔薇の束を、ヴィオレッタの前におずおずと差し出していく。

 それが、決して器用にはなれない彼なりの、求愛というものであった。

 

「……き、君の東京での活躍を祈っている。フィーネ少佐達も付いているし、向こうには頼りになる凄腕のパイロット達も大勢いるのだ。何も心配することはない。だが、身体には気を付けるのだぞ。どれほど技術が発展しようとも、兵士は身体が資本なのだからな」

「……はい。少佐も、どうかお元気で」

 

 だが、その口から紡がれた言葉にはまるで色気というものがない。

 男女の仲になろうという者達の会話とは思えないほどの、淡々としたやり取りであった。後ろからその行方を見守っていたリーフとグーイは、片手で両眼を覆い天を仰いでいる。

 

「会話の内容が事務的過ぎる……! もはや何を話せばいいのかも分からなくなってるじゃないか……!」

「DD先輩といいジルバート少佐といい、お堅い人達はなんでこうも女心ってものが分かんないんですかねぇ……!」

 

 特にグーイは、身近な先輩(フィリップ)絶世の美女(ブラン)からの求愛を避け続けている光景を日頃から目にしている分、余計に焦ったさを覚えているようだった。

 

「……ふっ。まぁ、あいつはああだろうな」

 

 一方。眉一つ動かすことなく、静かに花束を受け取る美少女の後ろでは――後任(ジルバート)の不器用なアプローチを見守るフィーネが、温かな微笑を浮かべていた。

 

「少佐、別れ際に言うことがそれですか? もっと他に言うべきことがあるでしょう」

「リーフ少尉の言う通りですよ! 『愛してる』の一言も言っておかないでどうするのです! ほら、今言うんですよ今!」

「う、うるさいぞお前達! 私にはそんな歯の浮くような台詞など……!」

 

 だが、当のジルバートは余程余裕がなかったのか。ヴィオレッタから視線を外した彼は、後ろから真顔で煽って来るリーフ達の方へと振り返り、声を荒げている。

 

「……ふふっ」

 

 故に、見逃してしまっていたのだ。

 花束を抱き締める彼女の貌が、かつてないほどの華やかな笑顔に彩られていたことに。

 

「やれやれ……当の2人があの調子では、『挙式』までに3年は掛かるな」

「ふっ、良いではないか。楽しみが延びたと思えば、悪くはない」

 

 不毛な言い合いを続けているジルバート達を一瞥し、フィーネとキョウイチは笑みを溢して踵を返していく。

 少しずつ、それでいて静かに育まれつつある「愛」の成就。いつかは必ず訪れるであろうその瞬間を、心待ちにしながら。

 

 そして。

 そんな2人の小脇には――最近発売されたばかりの、1冊の「本」が抱えられていた。

 




 次回でいよいよ最終話! ここまで続いた長〜いお話も、ついにおしまいです。最後の最後までどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
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