先のジオン独立戦争による甚大な被害は、地球で暮らす多くの人々の心に深い爪痕を残し。その爪痕に残る傷の痛みを怒りに変えた者達の憎しみは、やがて罪のないスペースノイドへと向けられるようになっていた。
そうして、旧い地球人類に追い立てられたスペースノイド達は、欧州のとある小さな自治区へと追いやられてしまったのである。
「……ふん。『火葬』と恐れられたこの俺が、スペースノイド共のお守りとはな」
エリムス・ナイドレイブンはデザートキングダムでの戦いの後、その自治区の近くに設けられた基地の司令官に就任していた。執務室の窓からスペースノイド達が暮らす街並みを眺める彼は、不遜に鼻を鳴らしている。
――度重なる独断専行や、度を越した虐殺行為の数々、メディアを通じて広まっていた「火葬」の醜聞。それら全ての「累積」が、彼をこの「閑職」へと追いやってしまったのだ。
ジオン憎しで戦ってきた彼に対し、スペースノイドを守るという使命を課す。その皮肉としか言いようのない人事に、エリムスは忌々しげに唇を噛み締める日々を送っていた。
「おやおや。この町の防衛を担う基地の司令官ともあろうお方が、そのような発言をされていてよろしいのですかな」
そんな彼の前に立ち、薄ら笑いを浮かべている士官――フェザール・スコッツマンは、相変わらず皮肉めいた声色でエリムスを煽っている。彼を憎々しげに睨み上げるかつての「火葬」は、過去に受けた屈辱を思い起こし、憤怒に肩を震わせていた。
「……第1、なんでてめぇがここにいやがるんだ。改めて俺の首を取りに来たってのか?」
「とんでもない、今の私はこの基地に属しているMS隊の隊長なのですよ? そのような大それたことなど、とてもとても……」
「どの口でほざいてやがるんだ、てめぇッ……!」
白々しく肩を竦めるフェザールに対し、エリムスは今にも掴み掛かりそうなほどの勢いで、デスクから身を乗り出していた。そんな彼を、かつての「刺客」は冷ややかに見下ろしていた。
当然ながらフェザールに与えられた任務は、この基地に常駐するMS隊の隊長――だけではない。エリムスが再び過激な行動を起こし、連邦軍の「品位」を損なうような事態を招くことがないようにと、彼の「監視」を命じられているのである。
その実情を知らずとも、本人の振る舞いから彼の
「おっと、そういえば司令は
「あァ……!?」
彼のそのような姿に口角を上げるフェザールは、やがて自身が小脇に抱えていたとある1冊の本を差し出す。その差し出された本の「タイトル」と「著者の名前」を目にしたエリムスは、思わず目を剥いていた。
「まさか、あいつの……?」
「当時の司令のことも書かれているのですよ。まだ読まれていないのでしたら、これを機に目を通されてみては?」
「……ハッ、誰がそんなの読むかっての。あの小僧が書いた本なんだろう? どうせ、血も涙もねぇ悪党として扱ってるんだろうぜ」
不貞腐れたような態度で椅子を回転させ、背を向けるエリムスに対して。フェザールは静かに目を細め、諭すように言葉を紡ぐ。
「……敵であろうとも救おうとする筋金入りの博愛主義者が、同じ連邦軍人を悪し様に書くと思いますか? この本の中でのあなたは、『勇敢な英雄』なのですよ。辛うじて、嘘にはならない範囲でね」
「な、なにィ……?」
「もったいないですねぇ。えぇ、実にもったいない。他の者達もこの本を手に取ってからは、少しくらいはあなたのことを理解しようという気になっているというのに。当のあなたはどうせ嫌われ者だからと、こんな狭い執務室に独り閉じ籠り、自己憐憫に明け暮れている。あぁ、なんともったいない」
「……」
冷淡に、飄々と、そして白々しく。フェザールは大仰に目を覆い、天を仰いでいた。そんな彼の挑発にまんまと乗せられてしまったエリムスは、そっぽを向きながらも己の手をゆっくりと本へと伸ばしていく。
「……ふ、ふん。まぁ? 別に? あんな小僧の書き物なんざ全く興味もないが? そこまで言うんなら? 仕方なく? ちょっとくらい読んでみてやっても……」
口振りと行動がまるで伴っていない彼の言動に、口元を吊り上げたフェザールは。エリムスの指先が本に触れる寸前で、素早くその場から取り上げてしまうのだった。
目を点にして顔を上げるエリムスに対し、フェザールは愉しげな笑みを浮かべている。その顔が見たかった、と言わんばかりに。
「……そこまでご興味がおありなのでしたら、ご自身で書店に並ばれては如何ですかな? ではそろそろ、私はこれにて失礼致します。部下達の訓練を見に行かなくてはなりませんのでね」
「んなっ、なぁッ……!」
そこでエリムス自身が、いいように転がされていたのだと気付いた頃には。すでにフェザールは愉悦の笑みを溢しながら踵を返し、執務室を後にしていた。
「……スコッツマァァアンッ!」
やがて執務室に憤怒の絶叫が轟き、外の廊下を歩んでいた士官達は何事かと戦いているのだが。当のフェザール本人はそんな彼らを尻目に、涼しげな貌で廊下を闊歩している。
そんな景色もまた、この基地における「日常」の一つとして馴染みつつあった。
◇
「諸君ッ! よくぞ集まってくれたッ! 今日は朕の愛読書を、ぜひ皆の者にも手に取って欲しいと思ってなッ!」
その頃。ルアンダの連邦軍基地に常駐している、カーマインパンサー隊の格納庫には――数多のパイロットや整備士達が集められていた。
フロンレシア・ノートンの一声によって招集された彼らの前では、コンテナの上に立ち、透き通るような声を響かせる1人の美少女が、自身の「愛読書」を熱く語っている。
格納庫の近くを通り掛かり、そんな彼女の「演説」を目にした者達は皆、「また始まった」とため息をついている。
カイト・マクラウド。
シルフィア・ラウテル。
エディン・ギルス。
ガンド・オロシュゲン。
ハテム・ザキ。
リーガル・ウォルバーグ。
アリア・ヤグモ。
レティシア・シェフィールド。
チャン・ズーロン。
アルカ・M・カルヴァーン。
スナイパー。
フィリップ・D・ダイゴ。
グーイ・ノア。
ランダ・バーロン。
クルト・クニスペル。
ライヤ・ペオニー。
カナタ・アマサキ。
イコ・シュタイナー。
ジルバート・ブーガンヴィル。
デネエル・オルダス。
カルロ・ジェノヴェーゼ。
ジェイムズ・キャラウェイ。
ダイナ・スレイヴ。
ショウ・カナタ。
ブラン・ドゥルジー。
リーフ・T・ライア。
マリアンネ・アケチ。
ソノ・カルマ。
レベッカ・ターナー。
ハリー・シールズ。
クラウディオ・メロ。
そして――ジャブローへの帰還を明日に控えていた、リュータ・バーニング。
デザートキングダムの戦いに参加していた彼らの中には、その「日常風景」に頭を抱えている者すらいた。わざわざフロンレシアに推されるまでもなく、すでにその本を手に取っていたのだから。
「……ったく。いちいちそんなことしなくたって、あいつの本なら買うっての」
その1人であるヴァイス・ヴァレンタインは、心底から辟易するように踵を返し、格納庫から離れようとしている。そんな彼の小脇にも、その1冊が抱えられていた。
――それは、ある1人の兵士の視点から綴られた戦争体験記。そして、戦争が終わってもなお銃を捨てられなかった者達の悲哀と情緒を描き出した、真実の記録であった。
「デザート・キングダム」というタイトルを冠するその本の表紙には、鎮魂を祈る花束の絵と、蒼い髑髏状の鉄仮面が描かれている。
そして。その著者であるレイン・ウォーミングは今日も、故郷のバトンルージュで独り筆を走らせていた――。
今話を以て、外伝「デザート・キングダム」はめでたく完結となりました! 最後まで本章を見届けてくださった読者の皆様、キャラ募集企画にご協力頂いた参加者の皆様、応援誠にありがとうございますー! おかげさまで、本章も無事に完走となりました!(*≧∀≦*)
前章「コバルト・キャリバー」の時とは打って変わり、今回は過去最長のエピソードとなりましたねー。まさかここまで長いお話になろうとは(ノД`)
当初は前章との差別化として、残党全滅ENDを考えていたのですが、企画参加者の皆様から様々なキャラ案を頂いたことで徐々に考えも変わり、最終的に今の形に着地する運びとなりました(´-ω-`)
恐らく本作におけるキャラ募集企画は本章で最後……ということにはならずとも、これまでよりは規模を縮小したプチ企画になっていくものと思われます。今のところは次の企画を設ける予定は全くないのですが、もし再び募集企画を始められる機会がありましたら、またお気軽に遊びに来て頂けると幸いです(о´∀`о)
また、第1話公開時にお知らせした通り、本章は後ほど前章「コバルト・キャリバー」と第1.5部「トーキョー・ファランクス」の中間辺りに移動させる予定です。ご了承くださいm(_ _)m
ではではっ、本章を最後まで楽しんで頂き、誠にありがとうございましたー! いつかまた、どこかでお会いしましょうー!٩( 'ω' )و
【挿絵表示】
【挿絵表示】
Ps
私、この連載が終わったら……撮り溜めしたまんまだったヴァイオレット・エヴァーガーデンを観るんだ……!_:(´ཀ`」 ∠):