機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

54 / 177
 今回はこのお話の後日談に当たるエピソードをお送りしますぞー。本来なら後編に詰め込む予定だったシーンなのですが、ちょっと長くなりそうだったので分割することになりました_(┐「ε:)_



番外編 記憶の語手 -レイジ・ホーネット-

 東京を舞台にしたジオン残党との死闘から、一夜が明けた宇宙世紀0080、12月25日。その日、多くの連邦兵はイブの夜に起きた戦闘の「後始末」に追われていた。

 避難もままならない中での突発的な市街地戦とあっては、民間人への被害は計り知れない。瓦礫の撤去作業、医療機関及び避難所の手配。やらなければならないことは、山のようにある。

 

 あまりにも無情なクリスマスの夜。そんな1日の終わりを疲れ切った身体で迎えていたのは、この戦いで死力を尽くして「十指」を破った英雄達でさえ、例外ではなかった。

 

「あー……いででで。ったく、アンナ大尉も人使いが荒いぜ。普通、怪我人にパシリなんてやらせるか? パワハラだぜ、立派なパワハラ」

「レイジさんはまだ額切ってるだけじゃないですか。俺なんて両腕火傷してるんですよ? 人権ないってレベルじゃないでしょ」

 

 腕や頭に包帯を巻いたまま、食料を詰めた袋を抱えて隊舎を目指すレイジ・ホーネット曹長と、レント・アルマー伍長もその1人。彼らは戦いの傷を癒す暇もないまま、一日中都内の復興作業に従事していたのである。

 軍管轄の病床も民間の負傷者に提供しているため、東京基地の軍人達は重傷でもない限りは入院すらできない状況なのだ。

 

「本当なら今頃、イサミちゃんとナギちゃんと……それからヴィオラちゃんも誘って、アツい聖夜を過ごしてたってのに。やってくれるぜ、ジオンの連中」

「……まぁ、奴らの襲撃がなかったとしても、それが上手く行ってた気はしませんけど」

「火傷してる腕つつくぞてめー」

 

 ある用事(・・・・)のため、アンナ・モチヅキ大尉の指示で軍用糧食(レーション)を詰めた袋を運んでいる彼らは、思い思いにぼやきながら廊下を歩いていた。彼らの視線にふと、窓辺から見える大都市の惨状が映り込む。

 

「……」

 

 激しいMS戦による被害を物語る、瓦礫の山。流れ弾に傷付き、無残な姿となっている東京タワーとスカイツリー。それを目にするたびに彼らは、痛む身体に鞭打ち、手足を動かしてきた。

 口先ではぼやきながらも、その献身を後悔したことはない。これは、自分達の力が及ばなかったが故に起きたことなのだから。

 

「……ま、抵抗する術もなかった連中がこの有様なんだ。ここは一つ、大人の対応ってヤツを見せておこうぜ。なぁ、レント」

「そう……ですね」

 

 まるで他人事のような口振りだが、レイジの手は悔しさに震えている。その様子を一瞥するレントは話題を変えようと、ある人物について思いを馳せた。

 今回東京に現れた、ジオン残党。そのリーダーだったと思われる黄色いザクを討った、リュータ・バーニング少尉のことだ。

 

「そういえば……あの黄色いザクって、エイム少佐でも勝てなかったくらいの強敵だったんですよね。それをただのレプリカで倒すなんて、さすが『ジャブローの守護騎士』です」

「……あいつ、戦時中は『焦熱の爀弾』なんて物騒な異名で呼ばれてたらしいぜ。尾鰭だらけの悪名でな。誤解が解けて守護騎士なんて持ち上げられるようになったのは、ごく最近の話さ」

 

 たまたま現場に居合わせていたリュータが、ガンダムのレプリカに乗り込み黄色いザクを倒したという話は、すでに軍関係者には知れ渡っている。彼のことを知る者達は皆、信頼故か納得したような表情を浮かべていた。

 「焦熱の爀弾」と謗られていた頃も。「ジャブローの守護騎士」と称えられている今も。リュータ・バーニングという男は、そんな貌をさせるだけの働きを積み重ねてきたのだろう。

 

「じゃあ……もしかしたら、レイジさんがオデッサで会った陸戦型ジムも、バーニング少尉だったのかも知れませんね」

 

 そこまで思い至ったレントは、先の戦争でレイジを救ったという陸戦型ジムのパイロットも、リュータだったのではないかと呟く。だが、当時の光景を鮮明に覚えているレイジ本人は、首を横に振っていた。

 

「いや、違うな。あいつはオデッサ作戦の時は、陸戦型ガンダムに乗ってたって話だ。……それに、なんか、あいつとは違うんだよ」

「……違う?」

「あいつよりもっと……なんていうかこう、ガツガツしてるような。そんな感じの気迫だったぜ。あの陸戦型ジムのパイロットとはそれっきりだし、今となっちゃあ安否も分からねえけどよ」

 

 絶対的な力と恐怖を誇示していた、「五指」の1位たる黒と金のザク。その存在を「魔王」に例えるなら、レイジの窮地に駆けつけた件の陸戦型ジムは、さながら「勇者」のようだった。

 リュータではない、その何者かに思いを馳せながら。自分達の居室に辿り着いたレイジは、ドアノブに手を掛ける。

 

「……できりゃあ、生きてて欲しいもんだ」

「……ですね」

 

 そして、その一言を合図にドアを開き。神妙な貌を消し去り、いつも通りの能天気な笑みを浮かべるのだった。

 

「うぃーっす、遅くなりましたぁー!」

「お疲れ様ですっ!」

「おっ、来たな2人とも。ようやく役者も揃ったようだし、そろそろ始めるぞ!」

 

 その先に待っていたのは、すでに糧食を床中に広げて酒盛りの用意をしていたアンナ・モチヅキ。そして彼女の誘いで集まった、東京基地の英雄達だった。

 

 リゼ・ラングリフォン少尉。

 カジ・ヤマグチ伍長。

 シンタロー・カネダ伍長。

 シトリ・ハルパニア曹長。

 イザベル・ファリントン少尉。

 マリナ・ヴァネッサ・エルロン少尉。

 トウカ大尉。

 キョウイチ・ヤクモ少佐。

 ヴェルディア・アステリオン中尉。

 ライゾウ・ホリウチ大尉。

 ヴィオレッタ・エバーグリーン伍長。

 カリス・ベイル准尉。

 アシェリー・スカイ大尉。

 アレクサンドラ・W(ウィリアムズ)・サイジョウ中尉。

 ジャンナ・セルペンテ少尉。

 イサミ・チネン少尉。

 ナギ・シミズ准尉。

 ミカナ・ユズリハ中尉。

 

 彼らは皆、身体のどこかに包帯を巻いている負傷者だが――その姿に、傷を負っている者としての弱々しさは微塵も感じられない。レイジ達と同様に復興作業に励んでいた彼らは今日、自分達だけのささやかなクリスマスパーティーを催すために集まっていたのだ。

 

「ほらアシェリー大尉、冷めないうちに頂いちゃってくださいよ! 味は保証しますんでっ!」

「ん……確かに、悪くないわ。どこで教わったの?」

「パリ基地にいるダチからレシピ貰ってんすよ。そいつ、元調理兵なだけあって何作っても超絶美味いんです! ……あ、もうおかわりっすか? 大尉ってクールな雰囲気出してる割には、結構食いしん坊ですねー」

「……う、うるさいわね」

 

 こんな苦境の中だからこそ、せめて今夜だけは全てを忘れよう。そんなアンナの気遣いに端を発するこの場では、多くの兵士達が笑みを浮かべている。

 ジャンナお手製の「ソバ」も、この催しに彩りを添えていた。その味はかなりのものらしく、アシェリーはすでに2杯目に突入している。

 

「でも大尉、良かったのですか? クリスマスの今日くらい、家族水入らずで過ごされても……」

「……お前達も家族の1人さ。今日の分の埋め合わせなら、年末にたっぷりさせてもらう予定だ。相変わらず私には勿体ないくらいの、優しい旦那様だよ」

「……ふふっ、円満なのですね」

 

 アレクサンドラの気遣いにも笑顔で応えるアンナは、部下達のことも「家族」なのだと言い切って見せる。そんな彼女の変わらない在り方に、アレクサンドラも頬を緩めていた。

 

「ああ、おかげでますます惚れてしまった。2人目(・・・)の名前も今から考えておかんとなぁ……ふふっ」

「は、はぁ……」

 

 すでに酔いが回っているのか、度々飛び出して来る赤裸々な発言に恥じらうこともあったが。それも含めて、ようやく彼女達の日常が少しだけ帰ってきた……と、言えるのかも知れない。

 

「……ヤクモ少佐。エイム少佐の姿が見えないようですが……モチヅキ大尉は声を掛けなかったのでしょうか?」

「フィーネの奴は遅れて来るそうだ。……バーニング少尉に、渡しておくものがあるらしくてな」

 

 その一方。ヴィオレッタが静かに注ぐ盃を手にした、ライゾウの問い掛けに――キョウイチはそう答えていた。

 窓辺から伺える東京の街には今も、この戦いを終わらせた贋作(ガンダム)が雄々しく佇んでいる。人々に勇気を与える、希望の象徴であるかのように。

 

「ガンダムという神話を壊そうとした者達が、その神話を確固たるものにしてしまった。……皮肉な結末があったものだな」

 

 ◇

 

 その頃。重傷者を優先的に治療するために多くの民間人を招き入れている、軍管轄の病院では。

 

「我々が対処した幹部格のザクに乗っていたパイロットが、君にこれをと渡してきてな。……どうやら、今回のテロの首謀者の遺品(もの)らしい」

「……そう、ですか。わざわざ届けて頂き、ありがとうございます」

 

 フィーネ・エイム少佐が、入院を余儀なくされていたリュータ・バーニングの病室に訪れていた。肋骨が数本折れていた彼は、その重体故にここへ運び込まれていたのである。

 彼の容体から、命に別状はないのだと悟ったフィーネは微かに頬を緩めながら、彼にあるものを手渡していた。

 

 それは、先日の戦闘で捕縛したザクのパイロット――ヴィレッツ・ハルトマンが持っていた、本人のものではない認識票(ドッグタグ)。そこには、「GILBERTO(ジルベルト) LORDVOLT(ロードボルト)」という名が刻まれていた。

 ヴィレッツによると、これは首謀者が決行直前に自分に託したものなのだという。黄色いザクのパイロット――ジルベルトは初めから、生きて帰るつもりなど毛頭なかったのだ。

 

「奴を倒した君にこそ、これを持っていて欲しいと……あの男は言っていた」

「……」

「戦争が終わっている以上、どのような御題目を掲げていようが、奴らが起こした騒乱はテロ以外の何物でもない。……奴らの行いは、決して許されない」

「……はい」

「……だからもう、奴らを……奴を覚えていてやれるのは、我々しかいないのだ。何一つ変えられず、諦めることもできなかった奴らが、確かにこの世界にいたのだと……覚えていてやれるのは」

 

 オデッサの頃から、ジルベルトと戦ってきたからこそ、思うところもあったのか。絞り出すようにそう呟くフィーネは、ドッグタグを握るリュータの手を包み、瞼を閉じる。

 そのひと時はさながら、鎮魂の祈りのようであった。遺体も残らず、墓標すらない男の魂を、鎮めるための。

 

「……すまないが、私はそろそろ行く。騒がしい仲間達を、待たせているのでな」

「はい。……ありがとうございました、少佐」

「礼を言うべきは、非番の君を働かせた我々の方だ。……お大事に、な」

 

 やがて踵を返した彼女は、去り際に謝意を述べながら病室を後にしていく。その背を見送ったリュータは暫し、託された認識票に視線を落としていた。

 

「……覚えてるよ。俺は、ずっと覚えてる」

 

 失った部下達のことも。乗り越えようとしている遺族のことも。ジャブローの仲間達も、ここにいる勇士達も。

 そして。ジルベルト・ロードボルトという名も、決して忘れない。

 

 今はその決意だけが、胸に軋む痛みを忘れさせている――。

 

 ◇

 

 それから、さらに数日後。

 リュータの入院を知った「パリ防衛隊」の女性隊員数名が、血相を変えて駆け付けて来たことを受けて、メディアがざわつく事態へと発展したのだが――それはまた、別のお話である。

 




 これにて第1.5部もひと段落。もう少ししたら、ナンバリング通りの順番に並び替える予定です。いい加減わかりにくくてしょうがないですからね(ノД`)
 このエピソードから新たに出てきた設定等を第2部以降に反映させる加筆作業も、今はほぼ完了しております。出来れば「十指」全員の強敵感を魅せるシーンは押さえておきたいなーという思いもありますし、いずれまた何か、新たなお話も書けたらいいなーって感じですね_(┐「ε:)_
 もしその時が来ましたら、またお気軽に遊びに来て頂けると幸いです。ではではっ、読了ありがとうございました!٩( 'ω' )و


【挿絵表示】


Ps
 リュータはジルベルトと戦う前から民衆に踏まれて肋骨骨折。レイジはヴィレッツ戦で額を切って流血。レントはヴァルタル戦で両腕火傷。このお話怪我人多いなー(´・ω・`)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。