-マデラス-
30歳。サイド3出身。「十指」の6位に相当するサナル直属の部下であり、常に彼に付き従っている巨漢。厳つい外見に反した、優しい心根の持ち主でもある。オデッサ基地においては強行偵察型ザクに搭乗する。階級は准尉。
※ターレス名義で活動していた作者の過去作「機動戦士ヘビーガンダム」の中ボス。
宇宙世紀0079、11月5日。オデッサ作戦が始まる直前の夜――ジオンの将兵達は来る戦いの瞬間に備え、英気を養っていた。
満点の星に故郷を想い、月明かりが照らす夜空を仰ぐオデッサ基地の兵士達。彼らは皆、迫る激戦を予感し、悔いのないひと時を過ごそうとしている。
「……皆、元気でいてくれているだろうか」
開かれた
ふと下を見渡せば――同じ基地に集った仲間達が、思い思いの夜を過ごす光景が広がっている。鈍い光を放つ基地内の電灯は、彼らを照らすスポットライトのようだった。
「……言っておくが、私はこれを最後の晩餐にするつもりはない。お前達は生き延びろ、絶対にな」
「今さらそんなこと酒の席で言わないでくださいよ。オレの日課はご存知でしょう? 自分の名前はメモに遺しようがないんですから、死ぬわけには行かねぇんですよ」
「そうそう。それに、何度も言ってるでしょう。……クソッタレのアサクラに鉛玉をプレゼントしてやるまでは、死なねぇって」
「上官に向かって失礼ですよ、全く。お2人とも血の気が多いんですから……」
「……ふっ。いいさ、レノン。どうやら愚問だったらしい」
ニコラ・バルヒェットと共に、資材の箱に腰掛け酒をあおる、アドラス・センとジェイコブ・ホーク。
そんな彼らを嗜めるレノン・マーシュも、ノンアルコールの缶を手にしていた。
「仮にここが落ちようもんなら、地球の勢力図は一気に変わっちまうだろうな」
「……そうはさせんために、俺達が集まったんだろうが。尤も、一兵士に出来ることなどたかが知れているがな」
「知れてはいるが、無意味ではないさ。……この基地に集うた全ての戦力も、一人一人はただの兵士。我々は我々の戦いを全うするだけだ」
「逃げる敵は撃たないっていう、お前の矜持も込みでか?」
「茶化すなよ、ヴァルタル」
「良いじゃねぇか。俺は嫌いじゃないぜ、そういう甘ちゃん」
仲間内で静かに飲むには良いスポットなのだろう。
ニコラ達から少し離れた倉庫前でも、ボーン・アブストとヴィレッツ・ハルトマン、ヴァルタル・フリーデゴードの3人が酒を酌み交わしていた。
「ほらほら、ディー! ゴウっ! アイのお酒が飲めないのかい!? ユー達、そんなんじゃ生き残れないよ〜っ!」
「ロビン中佐……僕達、全員未成年ですよ。というか何で酔っ払ってるんですか、これノンアルコールなのに」
「大丈夫〜? おっぱい揉む〜?」
「ディートハルト殿、よしましょう。もはや対話が成り立つ状態ではありません」
「ニュータイプでも酒が入ると分かり合えないのか……ノンアルなのになぁ……」
愛機達の傍らに置かれたコンテナの上で、未成年なりの愉しみ方を満喫しているロビン・カーター、ディートハルト・クリーガー、ゴウ・サワキ。
戦場では敵を恐怖に突き落とすエースパイロットである彼らも、このひと時においては年相応な表情を覗かせている。
「なぁ、そろそろまともなザクに替えてもらってもバチは当たらねぇんじゃねぇか? こんな荒地にマリンタイプだなんて、死ねって言われてるようなもんだぜ」
「……アースノイドに回された機体としては、むしろ上等なくらいですよ。今さら普通のザクなんて貰えません」
「肩を並べて戦う仲間に、アースノイドもスペースノイドもあるかよ。けったくそ悪い」
「フッ……ガリウス中尉も同じようなことを仰っていましたよ。やはり、似た者同士でしたか」
「……よせよ、俺はあいつほど、優しくはなれねぇ」
「そうでしょうか」
「そうだよ」
「では……そういうことにしておきましょう」
その一方で、白い湯気が立ち昇るコーヒーを手に佇む、ユウ・キリシマとチョー・コウの2人は。
このオデッサには似つかわしくないマリンタイプの巨躯を仰ぎ、静かに語らっていた。
「わぁっ……アンナさん、いつ見ても思うんですけど、凄いスタイルですよね。肌もすべすべで、胸も、その……」
「ふふっ、ありがとう。私に言わせれば、君の方が綺麗なのだがな……メリッサ」
「えっ!? い、いえそんな、私なんて全然……」
「そっ、そんなことないですよ、メリッサ少尉! 少尉もとっても綺麗ですっ!」
「イ、イルザっ!?」
同時刻。ガリウスからは見えない
そんな中、同性すら息を飲むアンナの美貌と柔肌に、メリッサ・マイヤーとイルザ・レーナルトも目を奪われていた。彼女達の見目麗しさも決して劣るものではないのだが、当人達にはあまりその自覚はないらしい。
男の情欲を掻き立てる彼女達の美貌に惹かれ、覗きを働こうと企む輩も少なくはないのだが、ここ最近はその目論見が成功した試しはないのだという。バレた先に待ち受けているメリッサの蹴りの威力は、男性陣の間でも噂になっているのだ。
――「オデッサ防衛隊」として招集された彼らは皆、刻一刻と迫る激戦の始まりを予感し、後悔を残さぬよう「今」を愉しんでいる。これが最期であったとしても、化けて出ることなどないように。
「ガリウス中尉〜っ! コーヒーお持ちしましたっ、一緒に飲みましょうっ!」
たわわな双丘とツーサイドアップの茶髪を弾ませながら、溌剌とした笑顔を輝かせているアリア・ホプキスも。グフのコクピットに居るガリウスを見上げながら、二つのコーヒーを手に駆け寄っていた。
「……! アリア、止まりなさっ――」
「きゃっ!?」
しかし、ガリウスの姿しか目に入っていなかった彼女は、視界の外を歩いていた士官の存在に気付くことが出来ず。ガリウスの注意喚起も虚しく、彼女はぶつかった弾みで尻餅をついてしまった。
「……」
そして、不運なことに。そのぶつかった相手というのが――傍若無人さで有名な、サナル・アキトだったのである。
彼は重油の匂いが滲むアリアの作業服を一瞥し、忌々しげに顔を顰めていた。体幹の強さもあって全く姿勢は崩れていないのだが、その機嫌は大きく損なわれているようだ。
「あっ……! ご、ごめんなさいっ! わ、私っ……!」
「……油臭い小娘が。下士官の分際でこの俺の道を阻むとは、よほど死にたいようだな!」
「アリアッ!」
当然ながらそんな状態の彼が、尻餅をついたアリアに、優しく手を差し伸べるはずもなく。制裁とばかりに、彼女を踏み付けようと片足を振り上げていた。
その光景を目にしたガリウスは咄嗟に動き出したのだが、アリアを庇うにはあまりにも遠過ぎる。彼女自身もきつく瞼を閉じ、制裁を覚悟するしかなかった。
「サナル大尉、我々には果たすべき任務があります。体力は温存されるべきかと」
すると、その時。背後からサナルの肩を掴み、制裁を中断させた1人の巨漢が、重々しく口を開く。
その制止に振り返ったサナルは、憎々しげに彼を睨み上げていた。
「……この俺に指図とは、随分と偉くなったものだな」
「申し訳ありません」
「フン……まぁいい。確かに取るに足らん小娘如きに、わざわざ不要な手間を掛けることもないか。行くぞ、マデラス准尉」
「ハッ」
だが、副官として長く自身に仕えている巨漢――「十指」の6位・マデラスの言葉とあっては、無碍にも出来ないらしく。やがてサナルは渋々足を下ろすと、アリアの傍らを素通りして行った。
彼に付き従い、その後に続いていくマデラスは、上官と共にMS-06E「強行偵察型ザク」に乗り込もうとしている。どうやら2人には、これから哨戒任務があるらしい。
「あ、あのっ、ありがとうございます!」
「……」
その大きな背に、アリアは精一杯の声を張り、感謝の意を告げる。マデラスはそんな彼女に僅か一瞬だけ視線を向けると、「気にするな」と言わんばかりに手を振って見せた。
「アリア、怪我はないか!? あのサナル大尉に目を付けられたら、面倒なことになっていたぞ……!」
「ごめんなさい、心配掛けちゃって……。でも、マデラス准尉が助けてくれたんです!」
「……あぁ、そのようだな。次に会った時は、私からも礼を言わねばならん」
やがて、グフから降りたガリウスがアリアの側へと、心配げに駆け寄って来た頃には――すでにサナルとマデラスを乗せた2機の強行偵察型は、基地の外へと飛び出していた。
アリアと共に、その姿を見送るしかなかった彼は、静かに決意する。大切な部下を守ってくれた礼は、必ず告げねばならないと。
――だが。
「次に会った時」は。
永遠に、来なかったのである。
◇
「間違いないか?」
「あぁ……彼らだ。間違いなく、彼らだよ」
宇宙世紀0080、4月。
ジオン軍残党に投降を促す「説得要員」として、連邦軍の地上部隊に同行しているガリウスは――ソノ・カルマと共に、今は亡き戦友との再会を果たしていた。
かつてはジオン地上軍の基地の一つだったという、砂礫の荒野。その只中に立てられた簡素な墓標には、先の戦争で命を散らした者達の名が刻まれている。
「……そうか。彼らは見事に、最期まで戦い抜いたのだな」
「俺の知る限り、じゃあな。……いいんだぜ、恨み言の一つくらい」
サナル・アキト。マデラス。彼ら2人は第6陸戦小隊を苦しめる強敵として、カルマ達の前に立ちはだかり。互いに死力を尽くした激戦の果てに、命を落としていた。
だが。墓標に祈りを捧げたガリウスは、憑き物が落ちたように微笑を浮かべ、カルマの方へと振り返っている。
「いや……むしろ貴君には感謝しているのだよ、カルマ。貴君が教えてくれなければ、私は彼らの最期はおろか……安否すら分からなかった」
「……そうかい」
生きているか、死んでいるか。それすら分からないとあっては、折り合いを付けることも出来ない。
そんな状況の中にいたガリウスにとっては、この結末でさえも「救い」だったのだろう。その胸中を汲み、カルマはそれ以上何も言わず、踵を返していた。
「……だから今、ようやく彼に言えるのだよ」
そして、不器用なりに自身を気遣うカルマの姿に、苦笑を向けた後。
「アリアを守ってくれて、ありがとう……とな」
改めて墓標に視線を向けたガリウスは、あの日、伝えられなかった感謝を。
今ようやく、告げるのだった――。
【挿絵表示】
今回はオデッサ戦が始まる前のお話になりました。応募キャラ達の日常シーンは連邦サイドでも書いたことですし、ジオンサイドでも何か書けないかなーと思いまして(о´∀`о)
これで今度こそキリよく終われたような感じでもあるのですが、なんだかんだで書きたいネタが浮かんで来たら、また何か書き始めるかも知れませんねー。ではではっ!٩( 'ω' )و
Ps
そろそろジャブロー関係ない話の方が多くなってきたかなぁ。一応「烈火のジャブロー」なのに(;´д`)