機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第7話からの登場人物-

-フランベ・ルジェイル-
 17歳。サイド2出身。偽のガルマ・ザビとして友軍を鼓舞するためにサナルが用意したフラナガン機関のニュータイプであり、今では本来の自我すら失われている。ガルマ専用機と酷似しているザクIIFS型に搭乗する。階級は軍曹。
 ※原案は影騎士先生。



第7話 狂気の傀儡 -フランベ・ルジェイル-

 ――諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。何故だ!?

 

 宇宙世紀0079、10月6日。その日に行われたギレン・ザビによるあの演説が、未だに強く耳に残る中で――局地型ガンダムを駆り先行していたユウキは、件の演説を想起させる光景を目の当たりにしていた。

 

『私の名はガルマ、ガルマ・ザビだ……。誇り高きジオンの戦士達よ、今こそ立て……!』

『なんなんだよ、この人はッ……!?』

 

 次々とジムを狩りながら、憑かれたように戦う1機のザクIIFS型。そのカラーリングはガルマ・ザビの専用機そのものであり、まるで死んだはずの彼が屍人として蘇っているかのようであった。

 戦意高揚を誘う文言を譫言のように呟きながら、冷徹なキリングマシーンとして矢継ぎ早に連邦兵を斬り捨てていく。そんな彼の大型ヒートホークは、その一つ目と共に妖しい輝きを放っていた。

 

『……ッ!』

 

 だが、その場面に居合わせたユウキの心を最も強く乱しているのは、目に見える景色ではない。彼が1機仕留めるたびに、頭の奥へと入り込んで来る彼の「思念」であった。

 

 その「声」は、ガルマ・ザビを騙り彼として振る舞っている、「音」としての言葉とはまるで別人のようであり。耳ではなく、脳に響いて来る本心の言葉は、助けを求めている少年のようであった。

 

 ――違う、違うよ! 俺はこんなじゃない、俺はガルマじゃない!

 

 ――俺はフランベだよ、フランベ・ルジェイル! ジオン地上軍の軍曹で、本当の俺は、俺はっ!

 

 ――これは俺じゃない、こんなの俺じゃない、俺、こんなに強くない! 大尉が、大尉がやれって! ガルマになれって言ったんだ!

 

『……この、人は……』

 

 本来の人格とはあまりにかけ離れた、ガルマ・ザビの虚像。その仮面の隙間から滲み出る、フランベ・ルジェイル軍曹という少年兵の叫び。

 その現象は彼を取り巻く状況の異常性が、部外者であるユウキにも伝わるほどの歪さを纏っていた。

 

 しかしどんな事情があれど、連邦軍に牙を剥くジオン兵には違いない。ならば連邦軍に身を置くガンダムタイプのパイロットとして、やるべきことは一つ。

 そこまで理解できてしまう程度には、ユウキ・ハルカゼという少年も、子供ではいられなくなっていたのだ。意を決した彼は照準を覗き込みながら、ショルダーキャノンの砲口を眼前のザクに向ける。

 

 その殺意を敏感に感じ取ったフランベ機は、もはや言語化すら叶わない譫言を叫びながら――大型ヒートホークを振り翳し、ユウキ機に襲い掛かる。

 

『うん……わかった。僕が終わらせるよ、フランベ(・・・・)

 

 そんな彼への介錯は、決して正義などではないのだと知りながら。それでもユウキは精一杯の微笑を浮かべ、労うような言葉と共に、引き金を引く。

 

 至近距離まで引き付けた上で放たれたショルダーキャノンの一撃が、フランベ機のザクを粉々に撃ち砕いたのは、その直後であった。

 

『あっ――』

 

 一瞬にして訪れる死。そんなごくありふれた戦場の一幕の中で、フランベは最期に己自身(・・・)の言葉を呟く。

 

『あぁ……おかあ、さ』

 

 その瞬間の彼は、ガルマ・ザビを演じる傀儡(くぐつ)ではなく。故郷の母を想う1人の少年兵として、瑞々しい頬に雫を伝わせていた――。

 

 ◇

 

 ――フランベ・ルジェイルという少年兵にはニュータイプとしての才覚があり、以前からフラナガン機関での研究対象とされていた。

 そんな彼を「蘇ったガルマ・ザビ」として洗脳し、最前線で仲間達を鼓舞しつつ連邦軍を撹乱する――というのが、サナルの作戦だったのだが。どうやらそれも、ほんの時間稼ぎにしかならなかったらしい。

 

『フランベの反応が途絶えた……か。ふん、マルティン・シャマランのようには行かなかったな。デノーメルの計画は参考になると思ったのだが……所詮、急造の影武者ではこの程度が限界か』

『……なんだ、そりゃあ。てめぇのために……命張ってる仲間達に! 掛ける言葉が、それかよッ!』

 

 フランベ機の反応が消失した瞬間、上空からそれを意味する爆炎を目撃していたサナルは――アッザムのコクピットの中で、不遜に鼻を鳴らしていた。

 

 そんな彼を地表から仰ぐレオは、仲間の死すら意に介さない彼の姿勢に眉を吊り上げ、怒号を上げる。愛機のピクシーはすでに満身創痍であり、片腕はメガ粒子砲に撃ち抜かれていた。

 偏差射撃の達人であるサナルの手で制御される、メガ粒子砲の嵐を掻い潜り。幾度となく死に瀕しながらも、その眼は未だに闘志の炎を灯している。

 

『お前はチェスの駒が一つ減ったくらいで、いちいち騒ぎ立てるのか?』

 

 その様子を見下ろすサナルの、冷酷な眼差しと言葉に。レオの怒りも頂点を超え、冷淡な眼の色に変わっていく。

 

『……あぁ、そうかよ。目眩がしてきたぜ』

『ふん、この絶望的な状況にか? ――ぐッ!?』

 

 渾身の力を以て投げつけられたビームダガーが、アッザムの巨体に突き刺さったのはその直後だった。思いもよらぬ反撃に姿勢を揺るがされたサナルは、僅か一瞬の「恐怖」に動揺し――激昂する。

 

『てめぇの見苦しさに、目眩がしてるって言ってんだ』

『……良い度胸だ。余程真っ先に殺して欲しいらしい』

 

 今までは周囲の連邦兵も攻撃するために狙いが分散していた、8門の連装メガ粒子砲。

 その全てがレオ機へと向けられた瞬間、凄絶な蹂躙が幕を開けるのだった――。

 

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