機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第10話からの登場人物-

-アストレア・ティルビッツ-
 16歳。グローブ出身。衛生兵として学徒動員された少女兵であり、以前はプロパガンダに起用されていたほどの美少女。連邦軍カラーのままにされている、ゲファンゲナー・ゲムに搭乗する。階級は上等兵。
 ※原案は秋赤音の空先生。



第10話 悲愴の生贄 -アストレア・ティルビッツ-

 RGM-79「ジム」は決して、突出した性能があるわけではない。いくらザクよりは優れているといっても、数機に包囲されては勝ち目などあるはずもない。

 

『ひ……ひぃっ! 来ないで、違うの、私は違うのぉっ!』

 

 全身にザクマシンガンの弾丸を浴び、死に瀕しているジムのパイロットはそれすらも理解できないのか、半狂乱になりながら懸命にビームスプレーガンを撃ち返している。

 だが、素人に毛が生えた程度の狙いでは、死線を掻い潜ってきた猛者達を仕留めることなどできない。

 

『来ないで、来ないでっ! あたしに敵意を向けないで! いやだ、あたしは間違ってない、死にたくないぃっ!』

 

 その無情な現実を前に、ジム――否、ジオンの鹵獲機「ゲファンゲナー・ゲム」に搭乗しているアストレア・ティルビッツ上等兵は、柔らかな黒髪を振り乱して泣き叫んでいた。

 

 シミュレーターでの成績だけを根拠に、サナルによって同機での出撃を命じられた彼女は、敵と誤認した仲間達によって撃ち殺されようとしていた。

 識別用に持たされていたグフのシールドも戦闘で失われている今となっては、彼女がジオン軍であることを一眼で認識させる手段が何もないのである。

 

『違うのに、私、敵じゃないのにっ! なんで!? なんで誰も分かってくれないのっ!? 助けて、誰か助けてぇぇっ!』

 

 かつてはプロパガンダを目的とする部隊で、広告塔(アイドル)としての役割を担っていた美少女は。その整った貌を悲痛に歪めて、銃を向ける仲間達に助けを求めている。

 

『……! 待ってください、ゼファー中尉! あれッ!』

『あれは……』

 

 その場面に遭遇したユウキ機の局地型ガンダムとゼファー機のザクは、思わずスラスターを止めてしまう。

 仲間(ジム)がやられているようにしか見えないその光景を前に、ユウキ機は即座に動き出そうとしていたが、ゼファー機に肩を掴まれ阻止されていた。

 

『ゼファー中尉、味方のジムが攻撃されています! 助けないとッ!』

『いや、あれはただのジムではない。ジオン軍が撹乱用に鹵獲したジム――「ゲファンゲナー・ゲム」だ。どうやら同胞に敵と間違われているらしいな』

『え……!?』

 

 後方攪乱に利用するため、同士討ちのリスクも厭わず連邦軍カラーのまま鹵獲機を運用している。そんなジオン軍の噂は、以前から耳にしていた。

 そして、それが単なる噂ではないことは目の前の状況が証明している。ゼファーは現場の兵士のことをまるで考慮していないやり方に、眉を顰めていた。

 

『同士討ちじゃないか、こんなの……! ゼファー中尉、なんとかならないんですか!?』

『放っておけ、自業自得だ。あんな誤認されやすいカラーリングで前線に出た以上、ああなるのは自明の理。俺達は残存部隊の行方を追うだけだ』

『でもっ……!』

『ユウキ。お前のその優しさは、この戦場においては甘さにしかならん。行き過ぎた博愛主義は、いつか味方を殺す。……行くぞ』

 

 一方、ユウキはなおも鹵獲機のパイロットを救おうとしている。そんな彼の優しさを否定することに、心苦しさを覚えながらも――ゼファーは軍人としての責務を優先するべく、先行しようとしていた。

 

 自分達は人である前に兵士なのだから、敵を倒すことだけを考えろ。そう、言わんばかりに。

 

『嫌、嫌ぁ! ……帰りたい、グローブに帰りたいよぉっ、ママ……!』

『……ッ!』

 

 だが、それが正しいことなのだと頭で理解していながら。啜り哭くアストレアの声を傍受してしまったユウキは――正しく在ることが、出来なかった。

 

『……すみません、ゼファー中尉。先に行っててください、すぐに後を追いますからッ!』

『おい、ユウキッ!』

 

 ゼファーの制止も聞かず、スラスターを噴かしたユウキ機は――アストレア機を庇うように、ザクの前に降り立ってしまう。

 そんな部下の勝手な行動に舌打ちし、ゼファー機はもう知らんとばかりに背を向けるが。彼もまた、その場から立ち去ることは出来ずにいた。

 

 ――今ここで足止めされていては、残党の脱出を許してしまう。逃した敵兵は必ず準備を整え、逆襲してくる。故に決して容赦せず、敵は殲滅せねばならない。

 

『……ふん。俺も、ユウキのことをどうこう言えたクチではないな』

 

 それが真理と理解した上で、ユウキ機に続きアストレア機の救護に向かったゼファーも。正しく在ることを捨てた、兵士ならざる()であった――。

 

 ◇

 

 ――余談だが。

 

 この後、ユウキとゼファーを通じて連邦軍の捕虜となったアストレアは、過度の恐怖によって精神を病み、数年に渡る療養生活を送ることになる。

 そのため終戦後も故郷(グローブ)に帰ることは叶わず、地球の病院で成人を迎えたのだが――それが結果として彼女の命と貞操を守る結果に繋がるとは、この当時は知る由もないのであった。

 




 本章もいよいよ大詰めとなって参りました! この物語のクライマックスとなる第11話及び最終話につきましては、今週の土日辺りに更新する予定となっております。しばらくお時間を頂くことになりますが、ゆっくりまったりお待ち頂けると幸いです(´-ω-`)
 ではではっ!٩( 'ω' )و

Ps
 別に「シンジ機のガンキャノン作りたいなー」ってガンプラにうつつを抜かしてたから更新が遅れてるとかそういうわけではありませんぞ:(;゙゚'ω゚'):
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