機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第11話 破邪の雷閃 -ディーネ・エイム-

 血に濡れた手で操縦桿を握ったまま、シンジ・ミュラーはひび割れたモニターの向こうを見つめていた。

 

「……みん、な」

 

 自機のガンキャノンを一撃で破壊した、巨大な機動砲座。その大敵に敢然と立ち向かう、レオをはじめとする仲間達。

 その光景を見ているしかないシンジを乗せて、四肢をもがれたガンキャノンは懸命にあがき、戦いに加わろうとしていたが。パイロットの想いも虚しく、満身創痍の達磨は為す術もなく地に伏している。

 

「まだ……! まだだ、俺はまだッ……!」

 

 それでも。戦闘機乗り(・・・・・)としての、意地に懸けて。鉄屑同然の有様でありながら、なおも戦おうとするガンキャノンを駆り、シンジは前へと這うように進んでいく。

 胸に刺さった機材の破片が、動く度に傷口を広げても。その痛みと熱さに、何度苛まれても。決して、操縦桿からは手を離さない。

 

 やがて、合体の維持すら叶わなくなった上半身のパーツが、ずり落ちるように外れたことで。その装甲に隠されていたコアブロックが、露わになってしまう。

 

「まだ……俺はまだ、翔べる(・・・)ッ!」

 

 だが、それは彼自身にとっての「天啓」であった。ガンキャノンという殻を失い解き放たれたコアブロックは、シンジの意を汲み変形を開始する。

 

 ――長い眠りから目醒めた龍の如く。その鋼翼が開かれたのは、それから間もなくのことであった。

 

 ◇

 

 究極のMAの誕生へと繋がる、「アプサラス計画」。その開発に携わったギニアス・サハリン技術少将から得たデータを基に、よりチューンナップされたサナル専用アッザムは、無類の強さを発揮していた。

 相手の挙動を先読みしてメガ粒子砲を撃ち込む、偏差射撃の腕。MSの装甲すら溶かす、4000℃のアッザムリーダー。それら全てがパイロットの纏う獰猛な殺意を宿して、連邦軍の精鋭達に襲い掛かっていたのである。

 

『……ハッハハハ! ガンダムタイプであろうと、何機集まろうと俺の勝利は揺るがない! やはりジオン地上軍最強は、この俺なのだッ!』

 

 額から滴る汗を拭い、呼吸を乱しながらも。サナルは地表に散らばるMSの腕や足を見下ろし、虚勢を張るように高笑いを上げている。

 

 レオ機のピクシー4号機。キョウイチ機の陸戦用ジム。ヨシナオ機の陸戦型ガンダム。アンリエット機のジムスナイパーカスタム。ヒダカ機のザクII。ゾネス機のジム。ディーネ機のジムコマンド。クーナ機のガンタンク。カポル機の専用ジム。

 彼らの総力を挙げた攻撃を以てしても、その牙城を完全に崩すことは叶わず。あと一歩というところで、エース達は力尽きてしまったのだ。

 

 全てのアッザムリーダーを潰し、ほとんどのメガ粒子砲を破壊した今。あと1機でも満足に戦うことが出来れば、アッザムを仕留められるというのに。

 それが叶う機体はもう、この場には残っていないのである。大破した愛機の中で、全員が悔しさに唇を噛み締めていた。

 

『……へッ。そんなズタボロの格好で、何を粋がっていやがる。てめぇ……1番肝心な奴を忘れていやがるぜ』

『なに……?』

 

 そんな中で、ただ1人。挑発的に薄ら笑いを浮かべているレオは、その視線をある方向へと向けていた。

 エース達の中でも一際ダメージが大きいというのに、それでも余裕の笑みを崩していない彼の言葉に、サナルが眉を潜める。

 

『――!?』

 

 そして、最初に撃破したガンキャノンの残骸が目に入った瞬間。機体の中核だったはずの、ブロック状の戦闘機が消えていることに気付いたのだが。

 

『なっ……あぁッ!?』

『侮ったなッ! この機体は、他のパーツを分離してでも戦えるッ!』

 

 その頃にはすでに――ガンキャノンから離脱していたコアファイターが、真下からアッザム目掛けて急上昇していたのである。

 

 衝撃で飛び散った破片に全身を刻まれ、血みどろになりながらも。シンジ・ミュラーはその眼に闘志の炎を宿して、遥か上空の仇敵へと舞い上がっていた。

 

『ええい、たかが1機の戦闘機如きにこのアッザムが落とせると思うかッ!』

 

 だがアッザムも、まだ全ての兵器を潰されたわけではない。残されたメガ粒子砲の照準をシンジ機に向け、サナルは取るに足らない最後の1機を撃ち落とそうとしている。

 猪突猛進とばかりに突っ込んで来る戦闘機など、外す方が難しい。その慢心を露わに笑みを零したサナルが、引き金を引く――直前であった。

 

『下賤な蝿が、消えてなくな――ッ!?』

 

 突如、最後の砦であったメガ粒子砲が。発射を目前にして、吹き飛ばされてしまったのである。遥か遠方から放たれた、RGM-79SP「ジムスナイパーII」の狙撃によって。

 

『行け、ミュラー軍曹。如何に奴が戦術的に厄介であろうと、物理法則を超越することはない。俺達という「檻」に迷い込んだ「獣」に、地球のルールを教えてやれ!』

『ルゥトゥ中佐……! ありがとうございますッ!』

 

 かつての上官として、戦友としてこの場に駆け付けてきたリュ・ルゥトゥ中佐の援護を受けて。ロングレンジビームライフルによる洗礼を浴びたアッザムへと、シンジを乗せたコアファイターはさらに近付いていく。

 

『おのれ、まだ伏兵が……ぐぉッ!?』

『ジャベリンはぁぁッ! こう使うのよおぉッ!』

『……ディーネ、多分違う』

 

 さらに、ディーネ機のジムコマンドが最後の力を振り絞り、放り投げたビームジャベリンの刃が。アッザムの装甲を破り、内部の機械を剥き出しにしていた。

 クーナの訂正(ツッコミ)が虚しく流される中、シンジ機はその「弱点」へと照準を合わせていく。MAの強固な装甲が剥がされた今なら、戦闘機の武装でもかなりの致命傷となる。

 

『やっちまいな……ミュラー軍曹!』

『おぉぉおおおぉおーッ!』

 

 その好機を目撃したレオが、勝利を確信して瞼を閉じる瞬間。シンジは雄叫びを上げ、ミサイルランチャーとバルカンの引き金を、同時に引くのだった。

 

『く、来るな……! 俺のアッザムに、寄って来るなぁあぁあぉあッ!』

 

 今になってようやく、自分の窮地を理解したサナルが、悲鳴にも似た怒号を上げた頃にはすでに。

 剥き出しにされた内部へと、全弾を叩き込んだシンジ機は――そのまま彼の頭上を取るかのように、アッザムの巨体を抜き去っていた。

 

 ――それは、さながら。遥か天空へと駆け昇る、飛龍の如く。

 

『や、やられた……!? お、俺が……このサナル・アキトが! この「五指」の3位が、落とされたのかッ!?』

 

 そして、機体内部に直接攻撃されたアッザムは、内側からの爆発に炎上し始めていた。黒煙と爆炎に包まれながら、徐々に浮力を失い降下していく乗機の中で、サナルは己の敗北を受け止めきれずわなわなと肩を震わせる。

 

 やがて巨大な機動砲座は、キャリフォルニアベースの沖へと没していき――激しい水飛沫を上げ、爆散していったのだが。

 

「……バカなァッ! ありえないありえないッ! あんな蝿如きにッ……あんな、MSですらない奴にぃィィィイイッ!」

 

 緊急脱出し、パラシュートを広げて空中を漂っていた彼は――最後の最後まで、この結末を認めようとはしなかったのである。

 




 本章タイトルの「ドラゴン・ライズ」の意味もようやく回収しましたし、このお話も次回で最終話となります。まだ出てない読者応募キャラ達もようやく登場しますので、どうぞ最後までお楽しみにー!٩( 'ω' )و
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