血に濡れた手で操縦桿を握ったまま、シンジ・ミュラーはひび割れたモニターの向こうを見つめていた。
「……みん、な」
自機のガンキャノンを一撃で破壊した、巨大な機動砲座。その大敵に敢然と立ち向かう、レオをはじめとする仲間達。
その光景を見ているしかないシンジを乗せて、四肢をもがれたガンキャノンは懸命にあがき、戦いに加わろうとしていたが。パイロットの想いも虚しく、満身創痍の達磨は為す術もなく地に伏している。
「まだ……! まだだ、俺はまだッ……!」
それでも。
胸に刺さった機材の破片が、動く度に傷口を広げても。その痛みと熱さに、何度苛まれても。決して、操縦桿からは手を離さない。
やがて、合体の維持すら叶わなくなった上半身のパーツが、ずり落ちるように外れたことで。その装甲に隠されていたコアブロックが、露わになってしまう。
「まだ……俺はまだ、
だが、それは彼自身にとっての「天啓」であった。ガンキャノンという殻を失い解き放たれたコアブロックは、シンジの意を汲み変形を開始する。
――長い眠りから目醒めた龍の如く。その鋼翼が開かれたのは、それから間もなくのことであった。
◇
究極のMAの誕生へと繋がる、「アプサラス計画」。その開発に携わったギニアス・サハリン技術少将から得たデータを基に、よりチューンナップされたサナル専用アッザムは、無類の強さを発揮していた。
相手の挙動を先読みしてメガ粒子砲を撃ち込む、偏差射撃の腕。MSの装甲すら溶かす、4000℃のアッザムリーダー。それら全てがパイロットの纏う獰猛な殺意を宿して、連邦軍の精鋭達に襲い掛かっていたのである。
『……ハッハハハ! ガンダムタイプであろうと、何機集まろうと俺の勝利は揺るがない! やはりジオン地上軍最強は、この俺なのだッ!』
額から滴る汗を拭い、呼吸を乱しながらも。サナルは地表に散らばるMSの腕や足を見下ろし、虚勢を張るように高笑いを上げている。
レオ機のピクシー4号機。キョウイチ機の陸戦用ジム。ヨシナオ機の陸戦型ガンダム。アンリエット機のジムスナイパーカスタム。ヒダカ機のザクII。ゾネス機のジム。ディーネ機のジムコマンド。クーナ機のガンタンク。カポル機の専用ジム。
彼らの総力を挙げた攻撃を以てしても、その牙城を完全に崩すことは叶わず。あと一歩というところで、エース達は力尽きてしまったのだ。
全てのアッザムリーダーを潰し、ほとんどのメガ粒子砲を破壊した今。あと1機でも満足に戦うことが出来れば、アッザムを仕留められるというのに。
それが叶う機体はもう、この場には残っていないのである。大破した愛機の中で、全員が悔しさに唇を噛み締めていた。
『……へッ。そんなズタボロの格好で、何を粋がっていやがる。てめぇ……1番肝心な奴を忘れていやがるぜ』
『なに……?』
そんな中で、ただ1人。挑発的に薄ら笑いを浮かべているレオは、その視線をある方向へと向けていた。
エース達の中でも一際ダメージが大きいというのに、それでも余裕の笑みを崩していない彼の言葉に、サナルが眉を潜める。
『――!?』
そして、最初に撃破したガンキャノンの残骸が目に入った瞬間。機体の中核だったはずの、ブロック状の戦闘機が消えていることに気付いたのだが。
『なっ……あぁッ!?』
『侮ったなッ! この機体は、他のパーツを分離してでも戦えるッ!』
その頃にはすでに――ガンキャノンから離脱していたコアファイターが、真下からアッザム目掛けて急上昇していたのである。
衝撃で飛び散った破片に全身を刻まれ、血みどろになりながらも。シンジ・ミュラーはその眼に闘志の炎を宿して、遥か上空の仇敵へと舞い上がっていた。
『ええい、たかが1機の戦闘機如きにこのアッザムが落とせると思うかッ!』
だがアッザムも、まだ全ての兵器を潰されたわけではない。残されたメガ粒子砲の照準をシンジ機に向け、サナルは取るに足らない最後の1機を撃ち落とそうとしている。
猪突猛進とばかりに突っ込んで来る戦闘機など、外す方が難しい。その慢心を露わに笑みを零したサナルが、引き金を引く――直前であった。
『下賤な蝿が、消えてなくな――ッ!?』
突如、最後の砦であったメガ粒子砲が。発射を目前にして、吹き飛ばされてしまったのである。遥か遠方から放たれた、RGM-79SP「ジムスナイパーII」の狙撃によって。
『行け、ミュラー軍曹。如何に奴が戦術的に厄介であろうと、物理法則を超越することはない。俺達という「檻」に迷い込んだ「獣」に、地球のルールを教えてやれ!』
『ルゥトゥ中佐……! ありがとうございますッ!』
かつての上官として、戦友としてこの場に駆け付けてきたリュ・ルゥトゥ中佐の援護を受けて。ロングレンジビームライフルによる洗礼を浴びたアッザムへと、シンジを乗せたコアファイターはさらに近付いていく。
『おのれ、まだ伏兵が……ぐぉッ!?』
『ジャベリンはぁぁッ! こう使うのよおぉッ!』
『……ディーネ、多分違う』
さらに、ディーネ機のジムコマンドが最後の力を振り絞り、放り投げたビームジャベリンの刃が。アッザムの装甲を破り、内部の機械を剥き出しにしていた。
クーナの
『やっちまいな……ミュラー軍曹!』
『おぉぉおおおぉおーッ!』
その好機を目撃したレオが、勝利を確信して瞼を閉じる瞬間。シンジは雄叫びを上げ、ミサイルランチャーとバルカンの引き金を、同時に引くのだった。
『く、来るな……! 俺のアッザムに、寄って来るなぁあぁあぉあッ!』
今になってようやく、自分の窮地を理解したサナルが、悲鳴にも似た怒号を上げた頃にはすでに。
剥き出しにされた内部へと、全弾を叩き込んだシンジ機は――そのまま彼の頭上を取るかのように、アッザムの巨体を抜き去っていた。
――それは、さながら。遥か天空へと駆け昇る、飛龍の如く。
『や、やられた……!? お、俺が……このサナル・アキトが! この「五指」の3位が、落とされたのかッ!?』
そして、機体内部に直接攻撃されたアッザムは、内側からの爆発に炎上し始めていた。黒煙と爆炎に包まれながら、徐々に浮力を失い降下していく乗機の中で、サナルは己の敗北を受け止めきれずわなわなと肩を震わせる。
やがて巨大な機動砲座は、キャリフォルニアベースの沖へと没していき――激しい水飛沫を上げ、爆散していったのだが。
「……バカなァッ! ありえないありえないッ! あんな蝿如きにッ……あんな、MSですらない奴にぃィィィイイッ!」
緊急脱出し、パラシュートを広げて空中を漂っていた彼は――最後の最後まで、この結末を認めようとはしなかったのである。
本章タイトルの「ドラゴン・ライズ」の意味もようやく回収しましたし、このお話も次回で最終話となります。まだ出てない読者応募キャラ達もようやく登場しますので、どうぞ最後までお楽しみにー!٩( 'ω' )و