機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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 今回は先週の告知通り、ユウキの旅立ちに焦点を当てる番外編をお届け致します! 第3部で彼がア・バオア・クー攻略戦に参加していた背景について触れた内容となっております。どうぞ!٩( 'ω' )و



番外編 蒼銀の導者 -ゼファー・アルビオン-

 キャリフォルニアベースを戦場とする死闘から、2日が過ぎた12月17日。リュ・ルゥトゥが搭乗していたジムスナイパーIIを除く機体のほとんどは、先日の奪還作戦で激しく損傷しており、整備士達は絶え間なく修理に追われていた。

 

「……やはり、ピクシー4号機のダメージが特に深刻ですね。次の追撃任務までには間に合わないのではないかと」

「だったら予備の機体を回してもらうしかねぇなぁ。出来ればストライカーが欲しいところなんだが」

「ジムストライカーを予備に欲しがるとは……見上げた贅沢ぶりだな、レオ。通常のジムで我慢しておけ、お前の無謀な接近戦は目に余る。今回の損傷も、良い薬になっただろう」

「ビームダガーでやたら突っ込んでるお前に、それを言われるとは心外だぜ。なぁ、ヨシナオも何とか言ってくれよ」

「私からのコメントは差し控えさせて頂きます」

 

 無惨な愛機の姿を仰ぐレオ・アークライトに苦言を呈するキョウイチ・ヤクモの隣では、ヨシナオ・シンジョウがため息をついている。ジムストライカーという極めて特殊な機体を「予備」に希望するという、ある種の豪胆さは彼の強みなのかも知れない。

 

「うーん、これじゃあさすがに当分は『ショー』って感じの挙動は難しそうだねぇ。あの『トリカゴ』には随分してやられたよ」

「フェイネック少尉の独特な操縦方法は、以前から噂に聞いておりましたわ。よろしければぜひ、修理が終わった暁には(わたくし)にも見せてくださいな」

「もちろんオッケーですよぉ。最っ高のパフォーマンスをご覧に入れちゃいますんで、楽しみにしててください」

 

 その近くでは、カポル・フェイネックとアンリエット・ダルシアクが親しげに談笑していた。周囲から「変わり者」と評されている者同士、通じ合うものがあったのだろう。

 

「あれ? そういえば、ヒダカ少尉とゾネス大尉の姿が見えないね」

「修理を眺めてても暇だから、予備機のジムで訓練してる……とのこと」

「お2人とも無茶するなぁ、まだ怪我も完治してないのに。……それよりさ、愛し(・・)のシンジ軍曹のことはいいの? 彼もどこかに行っちゃってるみたいだけど」

「……何の話か、さっぱり分からない。適当なこと言わないで」

「ふふーん、天才の私の目を誤魔化せると思うわけ? 奪還作戦が終わってからずっと、シンジ軍曹のことジィーっと目で追ってるでしょー。あいつ(・・・)ほどじゃあないけど、『トリカゴ』に突っ込んで行った時は結構カッコ良かったもんねー?」

「……」

「あー、犬耳がぺたんってなってる! それ図星ってことだよねー! クーナ、知ってる? 実はメス犬の発情期って季節とか関係ないらしいん――あだだだだだだっ!」

 

 今回の戦いを通じて発見した相棒の「変化」を、面白おかしく言及していたディーネ・エイムは。無言のまま頬を全力で抓ってくるクーナ・フェニーの反撃に、美女らしからぬ悲鳴を上げていた。

 仄かな恋心を無遠慮に茶化す上、コンプレックスの癖毛にまで躊躇なく触る。そんな芸当が出来るのは恐らく、士官学校からの付き合いである彼女くらいのものなのだろう。

 

 ――そして。彼らが集まっているMS格納庫から、遠く離れた軍港では。

 

「……行くんだな、ユウキ」

「はい。短い間でしたが、お世話になりました。……ローズマリーさんにも、よろしくお伝えください」

「あぁ。……あいつにとってお前は、弟も同然らしいからな。もうお前が心配するほどヤワなタマではなくなったと、俺からも言っておいてやる」

 

 同基地の奪還を果たした連邦軍パイロットの1人――ユウキ・ハルカゼが、これから宇宙に上がるペガサス級揚陸艦に乗り込もうとしていた。

 

 遥か遠方では、奪還作戦の際に輸送機(ガンペリー)の機長を務めていたエリザベート・キャメロットが、宇宙軍へと配備されるMSの移送作業を進めている。その中には、ユウキの新たな「相棒」となるガンダムタイプも含まれていた。

 

「では……行ってきます」

「……あぁ」

 

 「FLAMBE(フランベ) ROUZIERE(ルジェイル)」という名を刻む、焼け爛れた認識票(ドッグタグ)を首から提げて。最低限の荷物を背負う少年兵は、ペガサス級の白い巨躯を背にしながら、共に戦い抜いてきた上官に敬礼する。

 

 それに応えているゼファー・アルビオンは微笑を浮かべながらも、その瞳に寂しげな色を滲ませていた。踵を返し、艦へと向かう少年の背に声を掛けたのは、その直後である。

 

「一応聞いておくが……なぜ宇宙軍行きを志願した? お前が徴兵された時期ならともかく、戦局が安定しつつある今なら、ガンダムを降りることも不可能ではなかったはずだ」

「……」

 

 彼の問いに足を止めたユウキは、暫し逡巡した後。静かに振り返り、ゼファーへと真摯な眼差しを送る。

 その眼の色はもはや少年のものではなく、幾多の死線を潜り抜けてきた「兵士」のそれであった。

 

「誰もが、自分のことで精一杯な時代なのに。ダファーズさんのように、苦しんでいる人達が大勢いるのに。僕は……大きな間違いを犯しました」

「……」

「敵兵を助けようとして、もっと多くの残党を逃してしまった。その残党はいつか、この地球にいるどこかの仲間達を襲うかも知れないのに」

「……アストレア・ティルビッツのことか」

 

 先の奪還作戦の渦中。ユウキはジムの鹵獲機「ゲファンゲナー・ゲム」に搭乗し、味方に攻撃されていたアストレア・ティルビッツを保護していた。

 そしてそのために、自分達が追撃していたジオン軍の残党を見逃してしまったのである。

 

 その件で、ゼファー自身がユウキを責めたことは一度もない。彼もまた、残党の追撃よりも少女兵の救助を優先した1人なのだから。

 それでもユウキにとっては、自分の勝手な行動に上官を巻き込んでしまったことには違いない。暫し目を伏せ、再び向き合った時、彼はより強い「決意」を瞳に宿していた。

 

「僕の力では、残党を逃した責任を取ることも出来ません。その上で僕は、彼女を助けて欲しいと虫の良いことを言っているんです。……ここで降りるような奴のそんなワガママ、誰も聞いてはくれないでしょう」

「それが、お前のけじめ(・・・)か。……そんな()をしていい年頃では、ないだろうに」

 

 ユウキという少年は決して、自ら望んでガンダムに乗ってきたわけではない。それでもやらざるを得なかったこれまでとは、状況が違う。その上で彼は、より厳しい最前線で戦うことを選んでいたのである。

 

 ――アムロ・レイを想起させる経緯で、局地型ガンダムのパイロットとして徴用されてから間もない頃。

 彼のような活躍を期待する周囲からのプレッシャーに苛まれていた自分に手を差し伸べ、あるがままのユウキ・ハルカゼとして戦うことを肯定してくれた、リュータ・バーニング。カタヤイネン。ローズマリー・アクランド。

 そして、厳しくも暖かな指導で「兵士」としての在り方を示してくれた、ゼファー・アルビオン。

 

 そんな頼れる大人達の背中を見て、拙いなりにガンダムタイプのパイロットとして、精一杯の働きを尽くしてきたからこそ。彼は他の誰よりも、己の不手際を許すことが出来なかったのである。

 リュータ達の背中を見て戦ってきた彼だから。今回の失態を取り戻すには、「戦闘」で挽回するしかないという結論に至っていたのだ。

 

 そういうやり方でしか、力がありながら責任を果たせなかった自分に対する、けじめ(・・・)を付けることは出来ない。その考えに達していた彼の精神は、もはや一介の少年兵のそれとはかけ離れていた。

 紛うことなき、連邦軍の期待を一身に背負う「ガンダムタイプのパイロット」。アムロ・レイ達に続く、その1人となっていたのである。

 

「あの娘を助けた責任を取りたいというのなら、必ず生きて帰って来い。……お前のけじめは、お前が生きていなければ果たせない責務だということを忘れるな」

「……はいッ!」

 

 やがて、今度こそゼファーの前から立ち去ったユウキを乗せて。轟音と共に飛び立ったペガサス級揚陸艦は、キャリフォルニアベースを発ち遥か天空へと上昇していく。

 

「……行ってしまいましたね、ユウキ君。良かったのでしょうか、本当に」

「もはやあいつは、俺達大人が守らなければならないような子供ではない。……子供では、いられなくなったのだ」

 

 その旅立ちを見送るゼファーの隣には、全身のあらゆる箇所に包帯を巻いた、1人の負傷兵が佇んでいた。先日の奪還作戦で瀕死の重傷を負いながらも、戦闘機でMAを撃墜するという前人未到の大戦果(ジャイアントキリング)を成し遂げた「英雄」――シンジ・ミュラーである。

 彼と共に青空を仰ぐゼファーは、僅かな憂いを帯びた眼差しで、ペガサス級の勇姿を見つめていた。

 

 コロニー落としによって、遺体も残さずこの世から消え去った最愛の妻と――生まれたばかりの息子、ユウキ。

 その息子と同じ名前を持つ少年兵と巡り会った頃から、何度も思ってしまうのだ。戦争など起こらなければ、せめて彼くらいの年頃までは生きていたのかも知れないのに、と。

 そんな無意味な幻想に縋りでもしなければ、己を保てなくなるほどに憔悴していた彼にとっては。ユウキ・ハルカゼという少年兵との別れは、2度も(・・・)身を裂かれるような痛みを伴うものだったのである。

 

「ならば大人と子供ではなく、男と男の話をするしかないだろう。……あいつに選ばせてしまったのは、そういう茨の道だ」

「……だったら、俺達がやるべきことは一つですね」

 

 だが、いつまでも俯いてはいられない。シンジの言葉を受け、そう決意したゼファーの眼は――かつてない闘志の炎を静かに、そして厳かに燃やしていた。

 宇宙に旅立ったユウキの分まで。まだ傷が癒えないシンジの分まで。そう、言わんばかりに。

 

「ああ。あいつが逃したと言っていた残党共を見つけ出し、1人残らず確保する。あいつ1人では背負い切れない責任ならば、俺達で取ってやる。……それが、あいつを『兵士』に成長させてしまった不甲斐ない大人に出来る、けじめの付け方だ」

 

 そして。シンジに背を向け、歩み出していくゼファーの全身からは。

 殺意にも似た闘争心が、絶え間なく滲み出ていたのだという――。

 

 ◇

 

 ――同時刻。キャリフォルニアベースから遠く離れた海中を潜航する、潜水艦(ユーコン)の艦内では。

 

「……連邦軍の機影、確認出来ません。なんとか撒けたようですね」

 

 ソナーの反応を凝視していたアイレ・トゥルエノが、神妙な面持ちで追手の動向を見据えていた。2日間に渡る逃亡劇を経て、HLV防衛隊はようやく連邦軍の追撃から完全に脱したのである。

 

「やぁっと抜けたかぁ……何度心臓が止まると思ったことやら」

「全くですよ。機体もほとんど棄てちゃったし、生きた心地がしませんでしたね」

「だったら私が改めて止めてやろうかい? こないだの礼がまだだったねぇ!」

「げぇっ!」

「もう勘弁してくださいよっ!」

 

 その報せにガルド・ルーデンドルフとサトル・コガは胸を撫で下ろしていたが、彼らの後ろではヨゼフィーネ・ミュールマイスターが妖艶な笑みを浮かべていた。

 どうやらまだ、彼女の「お仕置き」は終わっていなかったらしい。

 

「……姉さん、無事だったのね」

「あいつとも、いつかは決着を付ける必要があるのかも……な。だが今は、俺達全員で生き延びることが先決だ。いつか戦争が終わったら、胸を張って姉に会いに行けばいい」

「うん……分かってる。ありがとう、ユリウス」

「……ふっ。天下の『暴風』様がいつまでも不調では、俺達の今後も危ういんでな」

 

 ヒダカ・アマサキとの戦いを経て、この場に逃れていたミランダ・ヴェルテは、生き別れた姉を想い憂いを帯びた表情を浮かべている。

 そんな彼女に寄り添うユリウス・ヴォルケンシュタインは、切れ目の眼差しで「相棒」を一瞥しつつ、軽いジョークを飛ばしている。

 

「私のゴッグも破棄しちゃったし、まともに戦えるMSなんてほとんど残ってないってのがキツいですよねー……」

「なぁに、いざとなれば身体一つで戦うまでさ。男も女も、銃を持てば互角というものだ」

「元歩兵の曹長と一緒にしないでくれません? 私は元々、後方のテストパイロットだったんですからね!」

 

 一方、乗機を失ったことで今後の戦況に不安を覚えていたアクア・ハーフェンは、隣で力強く白い拳を握り締めているシャティー・トゥリープの発言内容に辟易していた。

 いざとなれば白兵戦、という思考に躊躇いがない上官のスタンスには付いていけない、とばかりにため息を零している。

 

「よっ、監視お疲れさん」

「ひゃいんっ!? ……もぉっ、スティクス軍曹! 何するんですかいきなりっ!」

 

 そして。ようやく安全圏まで逃れたという安堵から、緊張の糸が切れてしまったこともあってか。

 背後から頬に当てられたドリンクの冷たさに、アイレは素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「ははっ、やぁっといつもの調子に戻って来たな。今日もばるんばるんとイイ揺れだぜ」

「やぁっ、視線がえっちぃですよ! あんまりひどいと、またヨゼフィーネ曹長に言い付けますからねっ!」

 

 その犯人であるスティクス・ウィンストンは、表情がころころと変わる彼女の姿にほくそ笑みながら、上下に弾むIカップの大山脈を一瞥していた。

 そんな彼のセクハラにアイレがぷりぷりと怒るところも含めて、ようやく彼らの「日常」が戻って来たのである。

 

「……いつもの調子、か。俺としてもそう言いたいところだが……あの2人が抜けた穴は相当デカイぞ。スティクス」

「『十指』にも……ヴァルタル大尉にも負けない強さだった、バルドさん達は……もう、ここにはいないんですから」

 

 ――だが、その一方で未だに神妙な面持ちでいる者もいた。「十指」にも迫る、バルド・シディスとフランベ・ルジェイルの強さを知るが故に。

 クイ・バーバランドとカイナン・トバルカインは、絶えず剣呑な表情を浮かべている。

 

「あぁ……お前らの言う通りだよ、クイ。カイナン。だからこそ今だけでもヘラヘラしてなきゃあ、俺達を生かしてくれたあいつらに申し訳が立たねえってもんだ。そうでしょう? 隊長代理のマデラス准尉殿!」

 

 そんな彼らの様子に、もっともだと頷きながらも。スティクスは笑みを崩すことなく、隊員達の後方に座していたマデラスに視線を移していた。

 彼の言葉を受け、全員の眼差しを浴びることになった歴戦の巨漢は、重い腰を上げて立ち上がると。今もなお昏睡状態に陥っているサナル・アキトに代わり、高らかに宣言する。

 

「……あぁ。何度拠点を失おうとも、仲間達と別れようとも、我々にもはや退路はない。辿り着く場所もない。命ある限り、ただ進み続けるのみだ」

 

 決して終わることのない、永遠の旅路。その道を歩んでいるという現実を、改めて周知した上で。

 彼は真っ先にその先頭に立ち、己の身を「地獄」に沈める決意を表明するのだった。

 

「付いてくるがいい。……地獄の、果てまでな」

 

 ――そして、彼とサナル・アキトは。やがて真の宿敵であるソノ・カルマとの死闘を経て。

 

 その宣言通りの末路を、辿ることになる。

 

 ◇

 

「ハルカゼ曹長は一足先に地球を離れたようだな。初めて会った時はひ弱なガキだと思ったものだが……随分と、骨のある男に成長したではないか。なぁ、ヒダカ」

「……まぁ、ジャブローにいた頃よりもかなり成長してるみたいですからね。でも、重力下での戦闘とは勝手が違うんですよ?」

「なに、心配はいらん。……じきに俺とシンジョウ中尉も、宇宙に上がる。それに宇宙軍(むこう)には、あのバカ弟子(・・・・)もいることだしな」

「ゾネス大尉の? ……あぁ、聞いたことありますよ。確かオデッサでは、前線の兵士達から『勇者』とか呼ばれてたんでしたっけ」

「『勇者』? ハッ、それは傑作だな。まさか俺が生きている間に、あいつがそんな風に担ぎ上げられる時代が来るとは思わなかったぞ。……あの士官学校きっての『落ちこぼれ』だった、ケンジロー・カブトが……なァ」

 




 この後ユウキ、ゾネス、ヨシナオの3人は宇宙に上がり、第3部で大暴れしてくれることになります。本章は第2部と第2.5部の中間に当たるお話なので、今後のストーリーにつきましてはその辺りから読み進めて頂ければ幸いです(о´∀`о)
 ではではっ、最後まで楽しんで頂き誠にありがとうございましたー!٩( 'ω' )و


Ps
 ファーストガンダムの放送がフランスでも始まっているとのこと。今のご時世もあってガンプラ人気が高まりつつあるようですし、海外でも色々盛り上がってくれるといいですなぁ(*´ω`*)
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