機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第2話 狂宴の幽鬼 -ジークヒンメル・ドラヘンハルト-

 ――「炎葬隊」の上陸から僅か5分足らずで、島の東部を警備していたバウムアイン隊は全滅した。だが彼らが遺した断末魔は、島中に展開している全部隊に轟いていたのである。

 この島に訪れた最悪の処刑部隊。その雷名を知るジオンの兵達は全員、「炎葬隊」がいる東部へと集結し始めていた。

 

 島に残されている全ての戦力をぶつけなければ、彼らには勝てない。それを誰もが理解しているが故に、その動きには寸分の迷いもなかったのである。

 共にキャリフォルニアベースの激戦区から生き延びた、同志達の魂に報いるため。やっとの思いで紡がれた命を無造作に踏み躙る、「炎葬隊」の暴虐を終わらせるため。

 

 ジオンの兵達は疲れ果てた身を引き摺り、総力戦に臨もうとしているのだ。「炎葬隊」の上陸地点からは最も遠い、西部に展開されていた部隊もその一つであった。

 

『チィッ、もうこんなところにまで奴らのMSが来てやがるってのか……!? 何て進軍速度だよ、俺達を皆殺しにすることしか頭にないって感じだぜッ……!』

 

 クガ・リュウジ大尉の愛機ことMS-18E「ケンプファー」は、MMP-80マシンガンを手に密林の中を疾走している。緑を基調とする彼の機体は、地を這うようにスラスターを噴かしていた。

 増設していた胸部装甲はすでに「炎葬隊」の火炎放射を受けて無惨に溶解しており、熱核ロケットエンジンの稼働時間延長の為に加えられたプロペラントタンクも、底を尽きかけていた。

 

 西部の部隊は「炎葬隊」の素早い進軍速度に虚を突かれ、予想外のタイミングでの遭遇戦に発展してしまったのである。

 「炎葬隊」の方も2大巨頭(エリムスとマッチ)を欠いたまま進軍しているようだが、それでも容易く倒せるような相手ではない。ただの雑兵の群れ……と扱うには、彼ら全員が使っている火炎放射器があまりにも強力過ぎるのだ。

 

『……戦闘行為の2次被害、なんて生易しいものじゃねぇ。こいつら、島ごと丸焼きにして俺達全員を炙り出す気でいやがるッ!』

 

 すでにこの一帯は、あらゆる箇所から火の手が上がっている。「炎葬隊」は島もろともリュウジ達ジオン軍を火炙りにするかの如く、島の損害などお構いなしに火炎を放ち続けていた。

 

 ――だが、このガダルカナル島まで生き延びて来たジオン軍の兵士達は皆、キャリフォルニアベースの死線を潜り抜けてきた者達なのだ。火の海を目にした程度で戦意を失うような弱卒など、彼らの中には1人もいない。

 

 それを示すかのように駆けるMS-11「アクトザク」は、MS-07B-3「グフカスタム」のものと同じヒートサーベルを振るい、すれ違いざまに「炎葬隊」のジムを一刀両断していた。

 火炎放射を浴びせる暇もなく、上半身と下半身を切り分けられたジムは、為す術もなく爆散していく。その爆炎を背に次の獲物を追うアクトザクのパイロット――ミランダ・ヴェルテ曹長は、不遜に鼻を鳴らしていた。

 

『周りは敵だらけ……ちょうどいいじゃないですか。撃てば当たるってことでしょう? リュウジ大尉』

『……ふっ、確かにな。やはり「十指」と組んでいた奴らは言うことが違うぜ』

 

 そんな彼女の強気な言葉に鼓舞されたリュウジ機も、かつての勢いを取り戻したかのようにマシンガンを構え、前方から迫る黒と白銀のジムを蜂の巣にしていく。

 彼の勇姿を横目で一瞥するミランダ機も、数機のジムが放つ火炎放射を掻い潜りながらヒートサーベルを振るい、撃墜数(スコア)をさらに伸ばしていた。

 

『お望み通り――返り討ちにしてあげる』

 

 矢継ぎ早に舞い上がる爆炎。そこから飛び散るジムの残骸が、彼女が放った一閃の威力を物語っていた。より攻撃に特化した彼女のアクトザクは、「炎葬隊」の機体すらも圧倒しているのである。

 

『……さすが、キャリフォルニアベースでも大暴れしていた女傑様だな。あの攻撃の速さ、性能だけの賜物じゃねぇ』

『でも……彼女は何でわざわざ、マデラス准尉のユーコンから離れて俺達のザンジバルに来たのでしょうか?』

『目を離した途端に死にそうな連中ばかりだから、付いて来ることにしたんだとよ。こっちも負けてられねぇぞ、イルマッ!』

『りょ、了解ッ!』

 

 キャリフォルニアベースで共闘した「十指」の6位ことマデラス准尉の元を離れてまで、自分達を守ろうとしているミランダ。

 そんな彼女に負けじとマシンガンを撃ち続けるリュウジ機の隣では、イルマ・ライナー曹長が搭乗するMS-06F「ザクII」が、懸命にザクマシンガンを連射していた。

 

『その意気だぞ、お前達! この戦いを無事に生き延びたら、秘蔵のウィスキーをくれてやる! ミランダの奴に遅れを取るなッ!』

 

 その勇姿を遠方から見守りつつ、ヒートロッドを振るい次々とジムを薙ぎ払っている機体――MS-07B-3「グフカスタム」。そのパイロットであるアデリーナ・バラノヴァ少佐は、部下達の活躍に豪快な笑みを浮かべている。

 

『あらあら……少佐ったら、相変わらずお元気ですこと。もう機体は潰さないでくださいね、私達の部隊も「後」がないのですから』

『ははっ、済まん済まん! 部下達の活躍に、つい私も熱くなってしまっているようでなッ!』

 

 そんな彼女を穏やかに嗜めている、セリナ・マイヤー大尉。彼女の愛機であるMSー08TX「イフリート」は、パイロットの佇まいに反した獰猛な挙動で、2本のヒートサーベルを振るっている。

 灰色を基調としつつ、アクセントに黒を添えているそのボディは、悪魔の如き威圧感を放っていた。

 

『……うふふっ。あなた達、おいたはダメよ?』

 

 その灼熱の刃は、アデリーナ機を背後から狙っていたジムを瞬く間に焼き斬っていた。セリナ自身は妖艶な微笑を溢しているが、その眼は全く笑っていない。

 

 ――イフリートを受領する前、ザクIIに搭乗していた頃。彼女は一度連邦軍の捕虜にされ、女性としての尊厳を踏み躙られていた。腰までふわりと伸びているナチュラルブラウンの長髪と、白く豊満な肉体が覚えているその屈辱の記憶が、彼女の心に静かな憤怒を宿しているのだ。

 生き別れた従姉妹(メリッサ・マイヤー)と再会するまで、こんな連中に「屈服」するわけには行かないのだと。

 

 無論。連邦軍の横暴に積年の怒りをぶつけているのは、彼女だけではない。

 セリナ機のすぐ近くでは、ジークヒンメル・ドラヘンハルト大尉が搭乗する旧型機――MS-05B「ザクI」が、ジムに馬乗りになりながらヒートホークで滅多斬りにしていた。

 

『オラァッ、もっと恐怖しろッ! 小便垂れ流しながら命乞いをしろッ! コクピットでガタガタバイブレーションしながら、神に祈りやがれェッ!』

『……アデリーナ少佐より、ジークの方がよっぽどアツアツね。祈る暇も与えない勢いじゃない』

 

 獰猛な雄叫びと共に、粉々になるまでジムのボディを叩き斬っているザクIは、現地改修を重ねた彼女の専用機なのだ。その外観に反したポテンシャルを以て「炎葬隊」のジムを圧倒しているジークヒンメル機は、セリナ機のぼやきなど全く意に介していない。

 柔らかな物腰の淑女という印象のセリナとは対照的な、男勝りそのものといった女傑。それがジークヒンメルなのだが、彼女は決して獰猛なだけではない。

 

『……ハッ、俺様を舐めてやがるな? 連邦のカス共がよ』

 

 滅多斬りに夢中になっているのだと油断した1機のジムが、背後から火炎放射器を向けた瞬間。彼女のザクIは振り向き様に、シュツルムファウストを撃ち込んだのである。

 あまりの素早い判断に、火炎放射を放とうとしていたジムは何が起きたのかすらも分からないまま、上半身を消し飛ばされてしまうのだった。

 

『ククク……たかがザクI、って思ったんだろう? 面白えくらい引っ掛かってくれてるぜ、こいつら』

『あなた……相変わらず無茶するわねぇ。見てるこっちの肝が冷えちゃうわ』

『ハハッ、良いではないかセリナ! 私の部下たるもの、これくらいのことはこなしてもらわねばな!』

『へっ、そういうこった。お前もやってみるかい? セリナ』

『私は遠慮しておくわ。そういうギリギリを攻めるような作戦、私の肌には合わないもの』

 

 所詮は旧型機。その油断を誘い、狡猾に敵の首を取る。それこそが、ジークヒンメルの基本戦術なのである。

 そんな彼女の戦い振りにため息をつくセリナに対して、アデリーナは豪快な笑い声を上げるのだった。

 

『ああもうッ、なんであんな処刑部隊がこんな辺境に来るのよ……どう考えてもあの戦争狂共が原因じゃないぃぃッ!』

 

 一方、島の小規模物資集積地から急いで出撃してきたライミューダ・アゲイン中尉は、PVN.42/4「マゼラアタック」のコクピット内から悲鳴を上げていた。物資全般の管理を任されている責任者でもある彼女は、ただでさえ過酷な現状に対する「追い討ち」に、呪詛の言葉を吐き出している。

 主砲と35mm機関砲から飛び出す砲弾と弾丸は、彼女の怒りが具現化しているかのような勢いで、眼前のジムを粉砕していた。そんな彼女の傍では、肩に兎のエンブレムを刻んだザクIIがザクマシンガンでの援護射撃を続けている。

 

『あぁあ〜ッ! もう、リュウジ大尉ったらまぁた被弾してるじゃないッ! アデリーナ少佐もなんて無茶な挙動を……! こんなところに高性能機なんて持って来ても、まともに維持出来るわけないってのにぃ! ちょっとアッシュ、ちゃんと迎撃してるんでしょうねッ!? 物資も部品も医薬品も、何もかもが尽きかけてるのよ!? これ以上被害が拡大したって、私もう知らないんだからねッ!』

『心配するな、ライミューダ。こいつら、パイロットの練度も機体の性能もかなりのものだが……それ故の「慢心」が見える。僅かな挙動からそれを消せぬうちは、我々を倒すことは出来んよ』

 

 そのザクIIを駆るアッシュ・クロウ中尉は昔からの腐れ縁(ライミューダ)の泣き言にため息をつきながらも、鋭い眼差しで迫り来るジムを撃ち落としていた。さらにその後方では、もう1機のザクIIが135mm対艦ライフルでの遠距離射撃で、アッシュ機を狙っていたジムの頭を撃ち抜いている。

 

『……人類が宇宙に進出する以前から、この島には多くの英霊が眠っているというのに。奴らは……「炎葬隊」は、静かに眠ることすら許さないのかッ!』

『ハルーディ、深追いはするなよ! 奴らの火炎放射器は射程こそ短いが、ザクの装甲など容易く溶かす火力だ! 迂闊に近付けば命はないッ!』

『くッ……!』

 

 対艦ライフルを構えているザクIIのパイロット――ハルーディ・コリオス曹長は、ガダルカナル島が辿ってきた歴史を知るが故の怒りを胸に、さらに密林の奥へと進もうとしていた。そんな彼を冷静に嗜める上官(アッシュ)の言葉に、若きパイロットは唇を噛み締めている。

 

『アッシュ中尉の言う通りだな。戦場で確実に生き残り、勝利を掴むのは……常に己の役割を見失わず冷静さを保てる者だ』

『ロニー少佐……!』

 

 彼らの通信を近場で傍受していたロニー・コーツ少佐のMS-14A「ゲルググ」は、スナイパー仕様に改修された専用のビームライフルで、「炎葬隊」のジムを次々と遠方から撃ち抜いていた。

 深緑に塗装された彼女の愛機は密林の影に深く溶け込んでおり、敵方の機体は彼女を見つけることはおろか、何が起きているのかすら把握出来ていない。

 

『お前等に──負ける私ではない』

 

 そんな愚者達への裁きの光が、彼女の銃口から絶えず閃いていた。やがて、捕捉できる範囲に居る全てのジムを撃破した彼女は、何かに気付いたかのように顔を上げる。

 

『……む。ガルム少尉、キャロル中佐の部隊はどうした? 先ほどから機影が見えんが……』

『すでにバウムアイン隊が居た東部を目指して、先行しています! いつもながら、凄まじいスピードです……!』

 

 敬愛すべき「上官」が率いている部隊の姿が見えないことに気付いたロニー機は、傍で援護射撃に徹していたガルム・シュドガー少尉のゲルググに声を掛ける。灰色一色のゲルググに搭乗している彼は、遥か向こうへと先行している「キャロル隊」を指差し、その進行速度に目を見張っていた。

 

『……さすがは「青白(せいはく)の怪物」、と言ったところか。相変わらず、血の気が多いお方だ』

 

 「炎葬隊」の火炎放射を恐れることなく突撃し、矢継ぎ早に敵機を撃墜している「青白の怪物」。

 そんな異名で恐れられている上官の、噂に違わぬ勇姿を目の当たりにしたロニーは、その頼もしさに不適な笑みを浮かべるのだった。

 




 第11弾キャラ募集企画にご参加頂いた皆様、この度は本企画にご協力頂き、誠にありがとうございました! 大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません……。少しずつですが、ようやくこのエピソードも更新再開であります(´-ω-`)
 今回も募集枠数に上限があったため、大変残念ながら主要人物としては採用出来なかったキャラ案もありましたが……それでもどうにか物語に組み込んでいきたいなーと思っております。次回以降もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و


Ps
 久々のジオンサイドのお話ということもあり、今回は特に難産でありました……(;´д`)
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