機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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 今話を以て、本作もついに完結! ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!(*≧∀≦*)


最終話 絶世の美姫 -ヴィヴィアンヌ・ル・ベーグ-

 ――リュータの頭上からは、激戦の余波による落石が絶え間なく降り注いでいる。ヴィヴィアンヌの操縦技術がなければ、頭部のキャノピーに直撃しているところだ。

 

「少尉! あの機体、ひたすら暴れるばかりで……これほどの数に包囲されても、全く退く気配がありません!」

「……あぁ。あの図体じゃあ、撤退もままならない。奴には最初から、逃げる気なんてこれっぽっちもないんだ」

「それでは、まさか……!?」

「目立つ姿を利用し、俺達を1機でも多く引き付けて……自分もろとも、地下洞(ここ)を崩して生き埋めにする。アレはそのためだけに作られた、走る棺桶ってところか」

「なんてことをッ……!」

 

 グフタンクの目的を看破するリュータの言葉に、ヴィヴィアンヌは唇を噛み締める。人を人とも思わぬ、卑劣にして残酷な手段を目の当たりにした絶世の美姫は、義憤を露わに操縦桿を握り締めていた。

 

「だから……俺達の手で、あいつを仕留めなきゃならない。ヴィヴィー、ここでケリを付けるぞッ!」

「……はいッ!」

 

 それは、燃え盛るような怒りを胸中に秘めたリュータにとっても同じこと。

 この無益な戦いに終止符を打つべく、ヴィヴィアンヌがグフタンクと向き合うようにキャタピラを回転させた瞬間――2門の主砲が、上体のコクピット付近を捉える。

 

「これで――」

 

「――終わりだッ!」

 

 刹那。

 

 ガンタンクを駆るリュータ・バーニングと――グフタンクを操るガリウス・ブリゼイドの咆哮が、重なった。

 

 120mm低反動キャノン砲。ジャイアントバズ。

 互いを仕留めんと翔ぶ、その砲弾が空を裂いて。轟音と共に、肉迫する。このジャブローを奔る、烈火となって。

 

「少尉ッ!」

 

 だが、相討ちとはならない。発射直後にヴィヴィアンヌは、愛する男を想うが故に――無我夢中で操縦桿を倒し、強引にキャタピラを回していた。

 体勢を崩したガンタンクの頬を掠めるように、ジャイアントバズの砲弾が通り過ぎていく。転倒したようにも見える、無理矢理な回避運動であった。

 

 そして。リュータの狙い通り、上体に直撃した砲弾によって――歪な現地改修機は、機能停止へと追い込まれていく。モノアイから光が消えていくその姿は、糸の切れた人形のようだった。

 

 それから間もなく、着弾の衝撃によってコクピットが剥がれ落ち――同機に搭乗していたパイロットの姿が、露わになる。

 

 20代半ばの青年のようにも見える彼は、コクピット付近に主砲を撃ち込まれた際のショックで、気を失っていた。自分の捨て身が徒労に終わった瞬間から、目を背けているかのように。

 

「少尉……」

「……」

 

 戦いは終わった。地上の様子も、少しずつだが静かになり始めている。現時点なら、崩落の心配もない。

 連邦軍の勝利は、確定したと言えるだろう。だがリュータは神妙な面持ちのまま、気絶しているグフタンクのパイロットを静かに見据えていた。

 

 モニターから窺えるそんな彼の貌に、ヴィヴィアンヌは心配げな声を漏らしている。共にグフタンクを打ち倒した戦友達も、この機体と因縁があるらしいリュータの動向を、静かに見守っていた。

 

「……残念だったな。あんたの目論みは、失敗だ」

 

 やがてリュータは、吐き捨てるようにそう呟くと。ガンタンクのキャノピーを開き、鉄塊と化したグフタンクのコクピットへと乗り込んでいく。

 

 ――この戦いに、真の決着を付けるために。

 

 ◇

 

 グフタンクの機能停止から、約数分。短い眠りを経て目覚めたガリウス・ブリゼイドは、眼前の光景から全てを悟り――自嘲する。

 彼を見下ろすリュータの剣呑な面持ちは、逆らうことを許さない絶対的な気迫を纏っていた。

 

「……ふ、ふふ、そうか。私は結局、捨て駒にすらなれなかったようだな」

「……あんた、あの時(・・・)のグフに乗っていた奴だな」

 

 最後の確認として問うリュータの言葉に、ガリウスは力無く頷く。生気を使い果たしたその瞳には、一欠片ほどの光も残されていない。

 やるならやれ。言葉にするまでもなく、彼自身の表情がそう叫んでいるかのようだった。自暴自棄に満ちたその眼を前に、リュータは唇を小さく結ぶ。

 

「やはり、貴様はあの時(・・・)の……なるほど、私自身が生み出した修羅の手によって裁かれることこそが、私に課せられた罰だったということか」

「……俺は、あんたが望んでいるような修羅になんてなる気はない」

「なに……?」

 

 そして、暫しの間を置いて呟かれたその一言が。死を待つ敗残兵の表情を、絶望の色に染め上げる。

 オデッサで部下達の命を奪った自分を、この男が許すはずがない。必ずこの場で、とどめを刺す。ようやく自分も、仲間達の元へと逝ける。

 

 そう信じて疑わなかったガリウスにとって、リュータが示した答えは青天の霹靂であった。あくまで彼は、ガリウスを捕虜として扱おうというのである。

 

 そんなバカな、ありえない、この生き地獄をまだ味わえというのか。言葉にならないその叫びが、震える手をリュータの襟へと導いて行く。

 傍目に見れば、掴み掛かっているようにも見える。しかしその実態は、まるで赦しを乞い、縋っているかのようだった。

 

「……まさか、この期に及んで、まだ私に生きろとでも言うのか!? 貴様の同胞を手に掛けた、この私に!」

「……」

「なぜだッ! かけがえのない仲間を失い、帰る場所も失い、もはや己の命を差し出すことしか……それしか出来ないような、この私にッ! なぜそのような残酷な真似が出来るッ!? なぜひと思いにッ――!?」

 

 殺してくれない。楽にしてくれない。私を憎んでいるはずの貴様なら、必ずそうしてくれると、信じていたのに。

 ――そんな彼の切実な願いが、言葉になることはなかった。言い終えないうちに、渾身の鉄拳によって黙らされてしまったのだから。

 

「死んでいった仲間の命を背負って、生きようとも思わないような奴にッ! お望み通りの死なんて、くれてやるものかよッ!」

 

 ガリウスを前にするだけで蘇る、オデッサで味わった凄惨たる記憶。その痛みが齎す滴を、頬に伝わせたまま――リュータは慟哭と共に、彼を殴り倒していた。

 コクピットのシートにまで突き落とされたガリウスも、嗚咽を漏らしている。殴られたから、ではない。死をも否定されたことへの、嘆きであった。

 

 リュータも、ガリウスも。戦争という時代の中で守るべき者を失い、「悪名」と共に「過去」を背負い続けてきた。

 そして両者はその責任を全うすべく、己の信じる道を選んでいる。本質において、彼らには何の差異もない。

 

 彼らを分けたのは、その道。

 仲間の死を受け止めているからこそ、生きて戦う。仲間の命を重んじるからこそ、死を以て贖う。

 同じ想いから生まれた、全く違う道。それがリュータに理解者達を齎し、ガリウスを孤独へと追いやったのだ。

 

 一瞬の死と、いつ終わるとも知れぬ生。どちらがより辛いかなど、比べるべくもない。故に後者を選んだリュータを支えんと、多くの勇士達が集まったのだ。

 前者こそ最善と信じ、命を投げ出すことでしか己の想いを表現することが出来なかったガリウスには、辿り着けぬ境地だったのである。

 

 だからこそリュータは、手を差し伸べるために。死への執着を、拳で否定した。自決で救われる者など、誰もいないのだと。

 

「……なんという、残酷な男だ」

「……そりゃあ、敵だしな」

 

 だがそれは、エゴの域を出ない強者の論理。その歪さを知るが故に、リュータは神妙に目蓋を閉じ――咽び泣くガリウスの醜態に、背を向ける。

 たった独りでここまで辿り着いた、ジオンの勇士たる彼への敬意だけは、捨てないように。

 

 ――その一方で。リュータを追うようにコクピットから飛び出し、彼らの「決着」を見届けていたヴィヴィアンヌは。愛する男の姿を真摯に見守り、白くか細い指を絡めていた。

 大破したジムから脱出し、彼女の傍らに寄り添っていたカルマも。「過去」に打ち勝った戦友の勇姿に、微笑を浮かべている。

 

「少尉……」

「……今は黙って見ててやれ。あいつがこれから、前を向いて行けるように」

 

 そんな彼らを、そっとしておくべきだという粋な計らい故か。「決着」の推移を見守っていた中隊長(ペドロ)は、この場に居合わせている全ての部下に撤収を指示していた。

 ヴィヴィアンヌ達を残して、各々の「持ち場」へと飛び去って行く、数多の戦友。そのスラスターの輝きは、リュータの勝利を祝しているかのようだった。

 

 そんな美しさすら感じられる光景を仰ぎ、頬を緩めたカルマは――雰囲気(ムード)が作る流れに乗って、ヴィヴィアンヌの肩に手を伸ばし。

 

「気安く触れないでください」

「……い、今ってそんな感じの空気だったじゃん……」

 

 素っ気なく抓られてしまう。冷ややかに彼を一瞥するヴィヴィアンヌの眼差しは、軽蔑の色すら湛えていた――。

 

 ◇

 

 ――そして。この戦いから約1ヶ月後の、宇宙世紀0080。

 地球連邦政府とジオン共和国の間に、終戦協定が結ばれた。

 

 ヴィヴィアンヌ・ル・ベーグ。

 

 ソノ・カルマ。

 

 コタロウ・ニシズミ。

 

 カタヤイネン。

 

 ゲルハルト・ファン・バイエルン。

 

 アルベルト・ビュヒナー。

 

 レイチェル・マスタング。

 

 マコト・カザマ。

 

 ペドロ・ガルシア・ペレス。

 

 クリム・ブッディ。

 

 アッシュ・ヴァンシュタイン。

 

 マルティナ・テキサス。

 

 マテウス・クルマン。

 

 パスカル・ネヴィル。

 

 キアギルク・ギルボード。

 

 ラグナス・ギルボード。

 

 サイウン・レツ。

 

 エディン・ギルス。

 

 ローズマリー・アクランド。

 

 ユウキ・ハルカゼ。

 

 レオ・アークライト。

 

 ネロ・ダイル。

 

 アリサ・ヴァンクリーフ。

 

 ヒダカ・アマサキ。

 

 アクセル・ウィルマン。

 

 カルロ・ジェノヴェーゼ。

 

 ミナト・ヒヤジョウ。

 

 そして――セフィラ。

 

 ジャブローの戦いを終えてからも続いていた、彼らの物語も。ついにこの日を以て、終幕を迎えたのである。

 例えこの平和が、束の間のものだったとしても。せめて今だけは、この安寧を謳歌するために。彼らは、それぞれの故郷へと帰って行った。

 

 それから、しばらくの月日が流れた頃。戦争の終わりを経て、何者でもなくなった2人の男は。

 夕焼けに彩られた海辺を一望できる、とあるテラスにて再会を果たす。

 

「……そういえば、あの時は互いに名乗らぬままであったか」

「あぁ……そうだっけ」

 

 もはや彼らは「焦熱の爀弾」でも、「氷魔の蒼弾」でもない。ただの男達は、戦争の匂いなどない平穏な地で――この日、ようやく互いを知るに至った。

 

「……俺は、リュータ・バーニング」

 

「ガリウス……ブリゼイドだ」

 

 傷付け合い、奪い合っていた激動の時代。その頃から止まっていた彼らの時間が、今ようやく、動き出していく――。

 




 どうも皆様、作者のオリーブドラブです。この度は拙作「機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-」を楽しんで頂き、誠にありがとうございました!(*≧∀≦*)

 当初はリュータをはじめとする各キャラの後日談も色々書こうかなー……とも思っていたのですが、そこは皆様のご想像にお任せしたいところでしたので、敢えてこのふわっとしたラストにさせて頂きました(>_<)
 歴史通りならこの後はデラーズ紛争を経て、グリプス戦役に繋がっていくわけですが。同じ連邦軍同士でも、そこから大きく命運が別れてしまいますからね……(´・ω・`)
 果たしてこの後、彼らはエゥーゴに参加したのか。ティターンズに入隊したのか。あるいは退役したのか……可能性は無限にありますぞ(´-ω-`)

 そして、当時のキャラ募集企画にご参加頂いていた皆様! ご協力、誠にありがとうございました! おかげさまで、リュータとガリウスの因縁にもきちんと決着が付きましたぞ(*´ω`*)
 機会がありましたら、また皆様とお会い出来れば幸いであります。ではではっ、この度は拙作を最後まで読み進めて頂き、誠にありがとうございました!(*゚▽゚*)
 失礼致しますっ!٩( 'ω' )و


【挿絵表示】


Ps
 もうしばらく待てばPS4でマキブONの発売! そして閃ハサ劇場公開! 40周年を過ぎてからも、ガンダムはまだまだアツゥい! ですぞー!(゚∀゚)
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