ロッドアーム状の伸縮機能を活かした奇襲により、背面に火炎放射を浴びてしまったゲルググG。その機体は火だるまになりながら、密林の中へと墜落してしまっていた。
『ぐぅ、うぅッ……!』
パイロットこそ健在だが、焼け爛れた機体はすでにかなりのダメージを負っている。戦闘の継続が不可能であることは、誰の目にも明らかであった。
『カイナン伍長、大丈夫っ!? 大変、すぐに後退しないとっ……!』
『ち、ちくしょうッ……! ヴァルタル大尉の機体を、こんなところでッ……!』
『そんなこと言ったって、死んだら何にもならないよ! 待ってて、すぐに牽引するからっ!』
そこへ駆け付けて来たのは、ルーシー・ウィルバート曹長のザクタンクだった。
ザクIの上半身をベースとしているその特別機は、両腕に180mmキャノン砲を搭載しており、エリムス機を捕捉した彼女は素早く牽制射撃を開始していた。
それと並行して、車体部分から射出したワイヤーをカイナン機の両肩に絡めると、戦場から引き摺り出すかのように牽引し始めたのだが。エリムス機は彼らを逃すまいと、容赦なくキャノン砲を向けていた。
ルーシー機の砲撃は確実に命中している……はずなのだが。規格外の防御力まで備えているエリムス機のガンタンクは、180mmキャノン砲の砲撃すらも凌いでいるのだ。
『……ふん、豆鉄砲だな。そんな攻撃で俺を落とせると思うか? 放っておいてもくたばりそうではあるが……ゲルググタイプを生かしておくと厄介だ、ここで確実に始末させて貰うぞッ!』
『く……来るッ!?』
『ルーシー曹長、俺を置いて逃げてください! 曹長まで狙い撃ちにされてしまいますッ!』
『そんなこと……出来るわけないよっ!』
狙いが自分であることを理解していたカイナンは懸命に、囮役を買って出ようとするのだが。彼を助けにここまで来たルーシーが、それを聞き入れるはずもない。
そうしている間にも、エリムス機はゆっくりとルーシー機とカイナン機を照準に入れようとしている。その砲撃を阻止するべく、ルザー隊も懸命に援護射撃を仕掛けているのだが、エリムス機は多少の被弾など全く意に介していないようだった。
『くッ……なんて奴だッ! 恐らくは奴こそが、あのガリウス・ブリゼイド中尉を倒した「
先のジャブロー攻略作戦において、「五指」の5位ことガリウス・ブリゼイド中尉を打ち破った人物だと言われている、「焦熱の爀弾」。恐るべき異名を口にしたルザーは、エリムスこそがその正体なのではないかと推測する。
銃身が焼け落ちるまで、容赦なくジオン軍の機体を撃ち続けていたという修羅の化身。
そんな逸話を持つ「焦熱の爀弾」に対する印象は、今のエリムス機にぴったりと合致していたのだ。
『……は?』
だが。ルザーの言葉を傍受したエリムスは、大きく目を見開くと。こめかみに青筋を浮き立たせながら。カイナン達から視線を外し、ルザー隊の方へと向き直っていた。
わなわなと肩を震わせる彼の顔全体に、無数の血管が浮き上がっている。今にもはち切れそうなほどに、彼の血液は頭部へと昇り詰めていた。
『なんだ? さっきから動きが止まっ――!?』
そして。ガンタンクの不審な様子を静観していたルザー隊が、少しずつ距離を詰めようとしていた時。
『……ァアァアァアーッ!』
何かが爆ぜたかのように、突如暴れ出したエリムス機が。天を衝くような憤怒に狂い、全方位に火炎放射を振り撒いたのである。
『なッ……!? ちッ、全機散開ッ!』
『くうッ、なんなの一体ッ!?』
『いきなり炎を……!?』
再び腕部を伸ばし、射程範囲を拡大した上での火炎放射。その強烈な不意打ちを目の当たりにしたルザー隊は、咄嗟に後方に飛び退き、辛うじて炎を回避していた。
『まァァアたァァアだァアッ! まァたこの俺をジャブローの小僧と間違える奴が出て来やがったッ! 何度目だ! えぇッ!? これで何度目だッ!? 心外ッ! 心外の極みだぜッ! 一体何をどうトチ狂えば、あの尾鰭だらけの甘ったれと俺を混同出来るってんだッ!? 本物の「炎」って奴を、これでもかってくらい見せてやってんのによォオォ〜ッ!』
一方、エリムス機は「焦熱の爀弾」という異名の持ち主――リュータ・バーニング少尉と混同された怒りに飲まれ、激昂するままに密林を焼く業火を撒き散らしていた。火の海は彼の怒りを体現するかの如く、ますます拡大している。
「焦熱の爀弾」。それは先のオデッサ作戦から始まった、リュータ・バーニングとガリウス・ブリゼイドの因縁に由来する異名なのだが。その実像は、異名に纏わる逸話とは裏腹なものなのだ。
リュータ自身は争いを好まない穏やかな人物であり、噂のほとんどは尾鰭が付いたものに過ぎないのである。だがそれを知らないルザー達には、逸話のイメージを再現しているエリムスこそが、「本物」に見えていたのだ。
それ故にエリムスは今、怒り狂っているのである。この時代に生まれ落ちていながら、戦いを好まない不適合者の若造と、一緒くたにされているのだから。
『な、なんだあいつッ!? いきなりキレ散らかして、何を叫んでるッ!?』
『隊長、来ますッ!』
『カイナン伍長達から注意が逸れたのは良いけど……俺達もなんとかあいつを迎え撃たないとッ!』
当然、そんな背景など知る由もないルザー隊は、自分達に襲い掛かろうとしているエリムス機を迎え撃つことにのみ神経を注いでいた。
ルザー機をはじめとする3機のザクタイプは、懸命にザクマシンガンやマゼラトップ砲、肩部のキャノン砲での迎撃を試みているのだが――エリムス機の堅牢な装甲は、その悉くを容易く受け止めている。
『どいつもこいつもくたばりやがれぇぇえッ!』
『うわッ……!?』
『カゲツ、ザクキャノンの装甲では保たないッ! 避けろォッ!』
やがて、火を噴くキャノン砲から飛び出した砲弾が――カゲツ機のザクキャノンへと向かって来た。回避は間に合わないと判断したカゲツ機は、咄嗟に肩部のシールドでの防御を試みる。
だが、度重なる戦いで消耗し切っているそのシールドでは、エリムスの殺意を乗せた砲弾を凌ぎ切るのは難しい。砲撃をかわすことだけで精一杯のルザー機は、「避けろ」と叫ぶことしか出来ずにいた。
『……!?』
すると、その時。カゲツ機を庇うように飛び込んで来た1機の「新手」が、肩部のシールドで砲弾を受け流してしまった。
その黒き大楯を掠めた砲弾はカゲツ機の後方へと着弾し、大きな爆炎を上げている。一瞬のうちにザクキャノンを守り抜いた「新手」――MS-06G「陸戦高機動型ザク」のパイロットは、エリムス機を前に不遜な表情を浮かべていた。
『ふん……何を喚き出したかと思えば。他人と間違われた程度で心を乱されるとは、笑止千万。それほどの雷名の持ち主が同胞に居るということを、なぜ素直に誇れんのだ』
『あ、あなたは……!』
そのパイロットの声を耳にしたルザー隊の面々は、畏敬の念を込めた表情で「新手」の機体に視線を向ける。彼が搭乗している陸戦高機動型ザクは、その全身が漆黒に塗装されていた。
『あァ……? 「黒い三連星」のザク……? いや、違うな。なんだァ、お前……』
一見すれば、ルウム戦役で猛威を振るった「黒い三連星」の専用機を想起させるカラーリングだが。そのボディに使われている塗料は、「黒い三連星」のそれとは似て非なる印象を与えていた。
肩部のシールドで砲弾を受け流す、という離れ業を当然のことのように披露した機体に、訝しむような視線を向けるエリムス。
そんな彼と真っ向から対峙している、ザンジバル級の元艦長――ルーク・アルフィス大佐は、不敵な笑みを溢していた。
『……「漆黒の
エリムス、キレた――! 的な展開も盛り込みつつ、まだもう少しだけ続きますぞ(´-ω-`)