機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第8話 無音の凶鮫 -ロベルト・ゴムレー-

 肩部のシールドでガンタンクの砲撃を凌いで見せた、漆黒の陸戦高機動型ザク。その機体を駆るルークの登場に、ルザー隊の面々は息を呑んでいた。

 キャリフォルニアベースからザンジバル級で脱出し、このガダルカナル島に辿り着いたジオン軍の兵士達。その全員を率いていた男が、ついに駆けつけて来たのである。

 

『ルーク大佐……!』

『お前達、ここまでよくぞ耐え抜いてくれたな。俺()が来たからには、もう奴の好きにはさせん。……最後の正念場だ、気合を入れろよ』

 

 多くの犠牲を払いながらも、炎葬隊の暴虐には屈しまいと抗って来た部下達を激励するルーク。彼の愛機である陸戦高機動型ザクは、エリムス機のガンタンクをその一つ目(モノアイ)で鋭く射抜いていた。

 だが、エリムス機は「たかがザク如き」というその傲慢さを崩すことなく、肩部の砲口を向けている。

 

『はッ、何が「好きにはさせん」だ。たかがザク如きがッ――!?』

『――そういう傲慢な台詞は、俺を倒した時まで取っておくのだな』

 

 しかし、その砲口が火を噴くよりも遥かに速く。ザクバズーカの砲弾を素早く胴体へと撃ち込んだルーク機の一撃により、エリムス機は姿勢を崩され照準を乱してしまった。

 それでも、ガンタンクの強靭な装甲は健在であった。その光景を目にしてもなお不敵な笑みを溢しているルークに対し、エリムスは余裕を失って来たのか、苛立ちを露わにしている。

 

『ちッ……そっちこそ、デカい口叩いてんじゃねぇぞ。そんなバズーカで俺のガンタンクの装甲を破れるとでも思ってんのか?』

『……なるほど、一理あるな。外す方が難しいほど鈍い的だが、そのしぶとさだけは本物のようだ。なぁ、「焦熱の爀弾」の偽者よ?』

『おいおい……「黒い三連星」の偽者が、どのツラ下げてほざいてんだァッ!』

 

 正確に照準を定める暇など与えない、というのであれば。正確さよりも手数を優先した弾幕で、永久に黙らせてやる。

 その怒りを乗せた砲撃の連射が、ルーク機の頭上から降り注いで来た。一気にスラスターを噴かした陸戦高機動型ザクは、その弾幕を掻い潜りエリムス機を目指して猛進する。

 

『偽者結構、それで本望ッ! この俺が「紛い物」と化すほどの雷名の持ち主が居たことを、俺は誰よりも誇りに思っているからなッ!』

『あァ……!?』

『他者の異名を妬む狭量な将校に、心の底から付いて来る者などおらんッ! そんな輩に、我がジオン公国軍は決して屈しないッ!』

 

 地を這うように駆け抜ける、漆黒の陸戦高機動型ザク。その圧倒的な気迫と殺意に、この島に来てからは初となる「恐怖」を覚えたエリムスは、咄嗟に乗機の片腕を「射出」する。

 

『オデッサでもジャブローでも、キャリフォルニアベースでもケツまくって逃げ出すしかなかった連中が……この期に及んでなァにをほざいていやがるッ! とっとと丸焦げになっちまいなァアッ!』

『ルーク大佐、危ないッ!』

『……ッ!』

 

 カイナン機のゲルググGを仕留めた、ロッドアーム状の片腕がルーク機に迫って来た。その位置と体勢なら、ルーク機は火炎放射から逃れることは出来ない。

 

『……ふっ。生憎だが、俺のザクなら焦げる前から既に真っ黒さ』

『なッ……! こいつ、不死身かァ!?』

『不死身なら、そもそもこんな無茶などする必要がない。限りある命だからこそ、輝けるのだからなッ!』

 

 だが、ルーク機は炎を浴びながらも一歩も退かず。溶け落ちていくザクバズーカを投げ捨てると、炎を放つガンタンクの片腕を掴み。綱引きのような、力比べの体勢へと持ち込むのだった。

 

『ハッ……ガンタンクとパワーで張り合おうってのか? ザク如きが粋がりやがって、せいぜい踏ん張ってろよ! 今にキャノン砲で粉々にしてやるぜッ!』

 

 両者のパワーは互角。だがロッドアームを両腕で掴んでいるルーク機に対し、エリムス機にはまだ肩部のキャノン砲がある。

 このままでは両手が塞がっている陸戦高機動型ザクは、とどめの一撃を待つだけとなってしまう。それでもパイロットは、不敵な笑みを崩していない。

 

『……張り合うつもりでいるのは、貴様独りだ。せめて孤独というものを知らぬまま、安らかに死ぬが良い』

『なにィ……!?』

 

 その余裕の理由が明かされたのは――この南東部付近の海域から、2隻のユーコン級潜水艦が浮上した瞬間であった。激戦の最中、海岸線の近くまで移動していたエリムス機の視界に、その艦影が突如現れたのである。

 

『……ガダルカナルの連中に恩を売れば、他方面軍の基地でも大手を振って物資を補給出来るというものだ。VLS対地ミサイル、発射! MS隊は島の連中の援護に向かえ! 我が潜水艦隊の実力を、ルーク大佐殿にご披露して見せろッ!』

 

 ジオン潜水艦隊オーストラリア方面軍所属、ユーコン級潜水艦U-701号艦長――ロイ・メーベルト大尉。

 彼の指揮により艦内から出撃した数機のMSが、続々とガダルカナル島に上陸し始めていた。ルークはルザー隊と合流する前に、近海を航行していた彼ら潜水艦隊に助力を要請していたのである。

 

 海を割くように飛び出して来たMSM-03C「ハイゴッグ」は、エリムス機の援護に向かおうとしていたジムの部隊へと一気に襲い掛かっていた。その強襲を受けてしまった彼らでは、エリムス機の元へと辿り着くことは出来ないだろう。

 

『あ、あいつらァ、いつの間にこれほど近くまでッ……!』

『……俺達の艦は無音潜航が売りでねぇ。お宅らの母艦(ユーコン)なら、先に片付けさせて貰ったよ』

 

 さらに2隻目のユーコンは、無音での航行を実現した改修型でもあった。そのU-702号の艦長を務めるロベルト・ゴムレー中佐は、歯噛みするエリムスに冷ややかな声を浴びせている。

 彼ら潜水艦隊の言う通り――「炎葬隊」の機体を運んでいたユーコンは、すでに遥か彼方の海域で黒煙を上げていた。

 

『そういうこった。あんたも意地張ってないで、さっさとトンズラこいた方が良いんじゃあないか? ……もっとも、こっちは逃す気なんてさらさら無いんだがなッ!』

 

 海から現れた脅威は、2隻のユーコンだけではない。

 ――MSM-07「ズゴック」。U-702号から出撃したその機体を駆るグラン・ヴァル・ザーミー中尉は、海中から勢いよく飛び出すと、エリムス機の真横から奇襲攻撃を仕掛けていた。

 

(ズゴックだと!? それに加えて……海の連中(ユーコン)の対地ミサイルッ!?)

 

 左手に巻き付けられた2丁のザクマシンガンから放たれた実弾の嵐が、ガンタンクの装甲に直撃する。

 それ自体はさほど効いていなかったようだが――グラン機の攻撃により集中を乱されていたエリムス機は、上空から迫る対地ミサイルへの反応が遅れてしまっていた。

 

『チッ……! ジオンのクズ共も少しはやるようだが、俺のガンタンクがただの戦車もどきだと思ったら大間違いだぜ。こいつの移動速度は、そこらの通常機とは比べ物にッ……!?』

 

 それでも、辛うじて回避することは出来るはず。そう判断したエリムス機は急速にキャタピラを後方へと回転させ、ミサイルの着弾位置から離脱しようとする。

 

『おっと……どこへ行こうと言うのだ? せっかくこの島に来たのだ、最期(・・)まで楽しんでいくがいい』

 

 だが、それは叶わなかったのだ。伸び切った片腕を掴んで離さないルーク機は、満身創痍になりながらもその場に踏み止まっていたのである。

 エリムス機のキャタピラは地面を削るばかりであり、その位置からは全く動けていない。ルーク機がザクバズーカを捨て、丸腰になってでも腕を掴んでいた理由をようやく察したエリムスは、顔面蒼白になってしまう。

 

(こ、こいつゥウッ! 対地ミサイルの着弾点から距離を取りつつ俺の動きを封じるために、わざと伸ばした腕を掴んでいたのかァアッ……!?)

 

 両機の距離は約10m程度であり、例えミサイルがエリムス機にだけ命中したとしても、ルーク機もタダでは済まないだろう。しかし、覚悟の上でガンタンクの腕を掴んでいるルーク機の挙動に、躊躇いはない。

 彼はこの好機を得るために、腕を伸ばせるというエリムス機の特性を逆手に取っていたのだ。

 

『……跳ね返って来るものなのさ。付け上がった代償はな』

『こ、このッ……ゴミクソ野郎共がァァアーッ!』

 

 そんな彼に対し、恨み節を吐き捨てることしか出来なかったエリムス機の頭上に。ユーコンから放たれた対地ミサイルが降り掛かって来たのは、その直後だった――。

 




 次回でいよいよエリムス戦も決着です! 本章も想定より大分長くなってしまいましたなー……。そろそろ最終話になるかと思われますので、どうぞ最後の最後までお楽しみにー!٩( 'ω' )و

Ps
 本章に登場したパッキーことジーン・パチョレックを主人公とする3次創作作品「機動戦士ガンダム 羽虫兵士の四ヶ月戦争」が新たに連載スタートとなりました! 作者の神谷主水先生、ありがとうございます!(*≧∀≦*)
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