機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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最終話 追撃の大斧 -カゲツ・クロダニ-

 対地ミサイルによる爆撃を受けたエリムス機を中心に、激しい爆炎が広がっていく。その猛火に飲み込まれ、伸び切った片腕も焼き切られてしまったガンタンクは――見るも無惨な姿に変わり果てていた。

 

『バ、バカな……! この俺が、「炎葬隊」が、こんな便所の蛆虫にも劣る敗残兵共に負けるはずがないィッ……!』

 

 装甲のほとんどが損壊し、内部の機構が剥き出しになってもなお、軋む音を立てて動き続けている。その姿はさながら、機械仕掛けの生ける屍(リビングデッド)のようだった。

 そんなエリムス機を冷ややかに見据えている、漆黒の陸戦高機動型ザクも。爆炎の余波を浴び、装甲のほとんどが溶解していた。やがてその機体も、膝から崩れ落ちるように力尽きてしまう。

 

『……ふっ。さすがに、この俺の愛機も音を上げてしまったらしい。後は任せたぞ、「お前達」』

 

 だが、こうなることを理解した上でエリムス機を引き留めていたルークの貌に、後悔の色はない。愛機を犠牲にしてでも眼前のガンタンクを追い詰めて見せた「漆黒の戦闘鬼」は、不敵な笑みを浮かべていた。

 そんな彼が、部下達に「後始末」を託した時には。すでにエリムス機が最後の力を振り絞り、両肩のキャノン砲をルーク機へと向けていた。もはや、動くことすらままならない漆黒のザクには逃げる術もない。

 

『ええいッ! だったら、てめぇだけでも地獄に叩き墜としてッ――!?』

 

 だが、その砲口が火を噴くことはなかった。それよりも早く、内部機構が露出しているエリムス機のボディが小さな爆発を起こしたのである。

 ルークの意思を汲んだルザー隊の「後始末」が、始まっていたのだ。

 

『――地獄に墜ちるのはお前独りだ、「炎葬隊」。宇宙世紀最高の名機が為せる力、今こそ思い知れッ!』

 

 装甲が剥がれ、内部が剥き出しになっている部分へと確実に命中させるため。ザクマシンガンを連射しながら接近していたルザー機が、「名機」の意地を見せていたのである。

 

『「パーブ」の皆の分まで、私は生きて戦い抜く……! お前達なんかに、やられてる場合じゃあないんだからッ!』

 

 そんな隊長機に続き、マゼラトップ砲を撃ち放つスティレット機も。この戦争で散って行った同胞達の無念を背負い、妖しく輝く一つ目(モノアイ)で憎き仇敵を貫いていた。

 

『この戦いで死んでいった、バウムアイン隊の皆のためにも……俺の家族のためにもッ! 俺達は生きて、お前を倒すッ!』

 

 そして。肩部のキャノン砲を撃ち尽くしながら、全ての火炎放射器を失ったエリムス機の眼前へと飛び込んだカゲツ機は。「炎葬隊」の所業に対する裁きを下すかの如く――逆手に構えたヒートホークで、ガンタンクの胸を切り裂くのだった。

 

『くそッ……たれ共がァアァアーッ!』

『……ッ!?』

 

 だが、カゲツ機の一閃によりガンタンクが機能停止する寸前。上半身を切り離したエリムス機の「腹部」から、1機の戦闘機が飛び出したのだった。

 FF-X7「コアファイター」。黒と白銀を基調とするその特別機は、恥も外聞もなく一目様にその場から飛び去ってしまったのである。つい先程までジオン兵達を皆殺しにしようとしていた男は、一切の躊躇いもなく逃走を図ったのだ。

 

『脱出機能ッ!?』

『あの戦闘機で逃げるつもりかッ!?』

『くそォッ……待てぇえぇッ!』

 

 誇りや信念といったものをまるで感じさせない、卑劣極まりない脱出。その行為に怒りを露わにするルザー隊は、持てる限りの弾を尽くして撃墜しようとするのだが――最高速度マッハ3を誇るコアファイターを捉え切ることは、叶わない。

 

『ハァッ、ハァッ……ま、間に合った……! クソったれ共め、今度会ったら必ず皆殺しにしてやるぜェッ……!』

 

 一方、間一髪で脱出に成功したエリムスも、上空から窺える戦況に歯軋りしていた。

 島全体を飲み込もうとしていた火の海は、延焼する木々の根元をザクバズーカで消し飛ばすという「荒療治」により、少しずつ鎮まり始めていたのである。

 その消化活動が追いつきつつある、ということはつまり――火を放っていた「炎葬隊」のジムは、すでに全滅しているのだ。母艦のユーコンも沈められた今、もはやエリムスは「炎葬隊」最後の生き残りなのである。

 

『どいつもこいつも、使えねぇクズ共ばかりだぜ……! この俺が離脱するための囮にもなれねぇとはッ――!?』

 

 部下達の死を悼むどころか、その非力さに罵声を上げる。そんなエリムスを乗せたコアファイターのボディを――「ヒートホークの刃」が掠めたのは、その直後であった。

 後方からあり得ない手段での攻撃を受けたエリムスが、驚愕と共に振り返った先には、憤怒の叫びを上げるカゲツ機の姿があった。

 

『逃げるなァッ! 暴れるだけ暴れて、部下も見捨てて独りだけで……逃げ出すなァアァッ! この卑怯者がァアァーッ!』

『……こ、のッ、クソガキがァア……!』

 

 全ての力を振り絞り、地上からヒートホークを投げ付けていたザクキャノン。その機体を駆る少年兵は、悔し涙を零しながら雄叫びを上げ続けている。彼はこの土壇場で、エリムスを相手に一矢報いるほどにまで成長して見せたのだ。

 一方。見るからに「未熟」な彼の攻撃で死にかけたエリムスは、自分のプライドを激しく傷付けたカゲツ機を睨み付けながらも――そのまま海の彼方へと飛び去っていく。彼は己の誇りより、保身を選んだのだ。

 

『卑怯者ッ、卑怯者ォオーッ! 逃げるな、逃げるなァアーッ! ちっく、しょぉおーッ……!』

 

 音速を超えた疾さで逃げ去ってしまった、「炎葬隊」のコアファイター。消え行くその機影に手を伸ばしていたザクキャノンは、やがて力尽きたかのように膝から崩れ落ちてしまう。

 その傍らにルザー機とスティレット機が駆け付けて来た頃には、カゲツはコクピットの中で己の非力さを悔やみ、嗚咽していた。そんな彼の無念を汲む2人は、沈痛な表情を浮かべている。

 

『う、ぐぅうぅっ……! ちくしょう、ちくしょうッ……!』

『……もういい、もういいんだカゲツ。奴らは撃退した。もう、終わったんだ。俺達は……勝ったんだ』

 

 ルザーが労いの言葉を掛けると同時に、3機のザクタイプが黄昏の輝きに照らされた。夕暮れを目前にして、ようやく鎮火を終えたガダルカナル島は――「炎葬隊」の脅威から救われ、静寂を取り戻している。

 

 だが、戦いに勝利したからといって失われた命が甦ることはない。バウムアイン隊をはじめとする、この戦いの犠牲者達の無念を背負ったまま、カゲツ達はこれからも戦い抜かねばならないのだ。

 

『……ルザー隊長。俺、絶対に生き延びます……! この戦争で死んでいった、皆の思いを……無かったことになんて、絶対にさせないッ……!』

『あぁ……そうだな。それは、生き残った俺達にしか……為し得ない仕事だ』

 

 ルザー・ヴァハーク。

 スティレット・リズナムル。

 カゲツ・クロダニ。

 キャロル・ジャヴォック。

 ゲイル・ヴィクター。

 マイ・シマムラ。

 ウルガ・オックス。

 ホウカ・ツクヨミ。

 ユイ・カーマイン。

 ハルーディ・コリオス。

 ロニー・コーツ。

 ガルム・シュドガー。

 ミランダ・ヴェルテ。

 ライミューダ・アゲイン。

 リュウジ・クガ。

 アッシュ・クロウ。

 イルマ・ライナー。

 アデリーナ・バラノヴァ。

 セリナ・マイヤー。

 ジークヒンメル・ドラヘンハルト。

 ダリウス・フォン・メルダース。

 フィルト・ファッツィ。

 ロギー・グラーツ。

 マーリィア・マリアドネス。

 ジーン・パチョレック。

 ルーク・アルフィス。

 カイナン・トバルカイン。

 ルーシー・ウィルバート。

 

 辛うじてこの死闘を切り抜けた彼らは「炎葬隊」を壊滅させ、島を大火災から救うことには成功したものの――戦闘が終了した頃には、そのほとんどが乗機を失ってしまっていた。

 

 それでも彼らは、生きて戦い抜くことを諦めようとはしなかったのである。

 この戦いの後。グラン・ヴァル・ザーミーと共に、ロベルト・ゴムレーとロイ・メーベルトの潜水艦隊と合流した彼らは――それぞれ新たな部隊へと配属され、終戦まで生き延びて見せたのだ。

 

「さぁ、行くぞカゲツ、スティレット。……俺達はまだ、立ち止まるわけには行かないんだ。この戦争が、終わらない限りは」

 

 死んでいった仲間達の分まで、必ず生き残ってやる。「十指」と「四海竜」に救われたこの命、決して無駄にはしない。

 離れ離れになろうとも、その信念だけを頼りに。彼らは、この激動の時代を渡り切ったのである――。

 

 ◇

 

 ガダルカナル島での戦闘がジオン軍の勝利に終わり、数時間が経過した頃。闇夜の海を潜航していた地球連邦海軍のユーコンは、着水したコアファイターからの救難信号を受信していた。

 艦橋(ブリッジ)でその報せを耳にした、第9海上MS実験小隊――通称「コバルトキャリバー」の隊長、シャンデルローズ・アラベスク大尉は。信号の内容を耳にして、怪訝な表情を浮かべている。

 

「……母艦を失ったコアファイターからの救難信号、ですか」

「えぇ……ですが、あの『炎葬隊』のナイドレイブン中佐の機体です。如何致しましょう?」

 

 副隊長のマサミ・カイエダ中尉も「炎葬隊」が重ねて来た数々の蛮行を知るが故に、眉を顰めていた。だが、友軍機からの救難信号を無視するという選択肢はあり得ない。

 

「悪名高い曰く付きの部隊とはいえ、友軍機には違いありません。救助活動に秀でているレーナのGファイターか、ロウアー曹長のグラブロがあれば良かったのですが……やむを得ませんね。私達の機体で、丁重(・・)に出迎えるとしましょうか」

 

 ならば、その情けない面を拝みに行ってやろうではないか。シャンデルローズの冷たい笑みは、そんな彼女の胸中を如実に語っていた。穏やかに微笑んでいるようにも見えるが、その眼は全く笑っていない。

 

「……りょ、了解しました! 直ちにコアファイターの回収に向かいますッ! ギーア准尉、ミコト少尉! 聞いての通りだ、すぐに発進するぞッ!」

『了解! ……正直、気は進まないんですけどね』

『滅多なことは口にするものではないよ、ギーア。……ただ、少しくらい揺れる(・・・)のはやむを得ませんね? 隊長』

「えぇ、海の上でのことですもの……多少(・・)は仕方ありませんわ。友軍の前で情け無く嘔吐したとしても、誰も彼を軽蔑することはありません。えぇ、ありませんとも」

 

 怜悧な美女の隣に立つマサミは、その微笑から迸る悪寒に肩を震わせ、背筋を伸ばしていた。彼女を敵に回すと、命が幾つあっても足りない。マサミ自身の生存本能が、そう訴えかけているのだ。

 そんな彼の指示で動いているギーア・ギア准尉とミコト・W(ウィリアムズ)・サイジョウ少尉も、含みのある笑みを溢している。友軍に対しても横暴の限りを尽くして来た「炎葬隊」に対しては、2人も思うところがあったのだろう。

 

 ――そして。

 「炎葬隊」唯一の生き残りとして、コバルトキャリバー隊に救助されたエリムス・ナイドレイブンは――辛うじて一命こそ取り留めたものの。かつてないほどの屈辱と怒りに、その貌を歪ませていた。

 

 「炎」が一つ欠けようとも、「火」が絶えることはない。

 その執念を糧に、ジオン軍の殲滅を誓った彼は――マッチ・シュッポー達を失った分まで、取り戻そうとするかの如く。怒涛の勢いで次々と戦果を上げ、やがては「火葬」と恐れられるようになっていた。

 

 そんな彼もいずれは、アフリカ大陸南西部のナミブ砂漠で、数奇な運命を迎えることになるのだが。この当時はまだ、知る由もないことであった――。

 




 今話を以て、外伝「ガダルカナル・ストレンジャーズ」はめでたく完結となりました! 最後まで本章を見届けてくださった読者の皆様、キャラ募集企画にご協力頂いた参加者の皆様、応援誠にありがとうございますー! おかげさまで、本章も無事に完走となりました!(*≧∀≦*)

 本章は久方振りとなるジオン軍サイドのお話ということもあり、かなり難産でしたねー……。それでも皆様の応援のおかげで、なんとか無事に完結まで辿り着くことが出来ました。ありがとうございますε-(´∀`; )
 今回の企画を通じて新エピソードのアイデアもいくつか浮かんできたことですし、機会があれば新たな企画等も立ち上げていきたいところですなー。とはいえ今はリアルがべらぼうに忙しい時期なので、しばらくはゆるゆるとお休みを頂くことになりまする_(┐「ε:)_

 また、第1話公開時にお知らせした通り、本章は後ほど外伝「ドラゴン・ライズ」と第2.5部「リメンバー・ソロモン」の中間辺りに移動させる予定です。ご了承くださいm(_ _)m
 ではではっ、本章を最後まで楽しんで頂き、誠にありがとうございましたー! いつかまた、どこかでお会いしましょうー!٩( 'ω' )و


【挿絵表示】



Ps
 現在、神谷主水先生が掲載されている「羽虫兵士の四ヶ月戦争」のリメイクに相当する短編作品「機動偵察兵ワッパ奇伝」が公開中であります! さらにただのおじさん先生も、ジークヒンメル・ドラヘンハルトにスポットを当てた短編作品「Natürliches Ende」を新たに公開されております! どちらもぜひご一読ください!(*≧∀≦*)
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