-アドラス・セン-
21歳。サイド3出身。「悲笑の亡者」と呼ばれるエースパイロットの1人であり、「十指」の9位に相当する実力者。ソロモンにおける戦闘で片腕を失い、現在は急造の筋電義手で補っている。左肩を紫に塗装した、予備機のザクIIに搭乗する。階級は少尉。
※原案は影騎士先生。
-アル・ナディスティア-
32歳。ヴェステロース出身。少女のように小柄な女性パイロットであり、その外観に反した年相応の振る舞いを見せている。鹵獲機のリックドムに搭乗する。階級は大尉。
※原案は妄想のKioku先生。
-マミア・ガロウ-
42歳。北海道出身。かつてはマゼラン級の砲術長を務めていたベテランであり、「十指」に沈められたサラミス級の艦長だった夫の仇を討つためにMSパイロットに転向した女傑。ジム指揮官機に搭乗する。階級は中尉。
※原案はダス・ライヒ先生。
-ロウアー・ダウン-
20歳。サンクトペテルブルク出身。「十指」との戦闘で兄を失った過去を持ち、生前の兄が褒めてくれたツインテールの髪型を今でも維持している美少女。ジムコマンドに搭乗する。階級は曹長。
※原案は魚介(改)先生。
ソロモン陥落後、撤退する友軍の殿を務めた際に左腕を失ったこと。傷付いたムサイに流れ着き、そのまま負傷を押してア・バオア・クーに向かう羽目になったこと。
追撃してくる連邦軍を迎え撃つため、即席の筋電義手を付けて操縦桿を握るようになったこと。その義手がすぐには馴染まず、ただ何かを握るだけで激痛に苛まれること。
全てが、アドラス・セン少尉にとっては些末なことだった。
今の彼を支配しているのは、怒り。どんな痛みも気付かなくなるほどの、身体の芯から衝き上がるような怒りであった。
――軟弱な者共なぞ、見捨てればよかった。
それが、片腕を失った自分に投げ掛けた、「五指」の1位――レゾルグ・バルバの言葉だったのである。
かつてオデッサで猛威を振るった10人の戦鬼。その頂点に立つ男の言葉が、それだったのだ。
許せるわけがない。皆、共に同じ地獄を潜り抜けてきた仲間達だというのに。
だが、それ以上に許せないのは。そのレゾルグに頼らねば、連邦軍の追撃から逃れることさえ叶わない己の弱さであった。
事実、傷だらけのムサイに漂流してきた敗残兵の中で、最もパイロットとして優れていたのは彼であり。アドラスやディートハルトが乗機を失っている一方、彼だけは愛機のザクを無傷で保持していた。
ソロモンが陥落した直後だというのに、威風堂々としているその姿に勇気付けられた者も多い。本当にそれだけなら、アドラスも敬意を持っていられただろう。
だが、違うのだ。レゾルグという男は、ア・バオア・クーへの方舟であるムサイも、そこに集まった敗残兵達も、己が勝利を掴むための道具としか考えていない。
先ほどの発言通り。彼にとっては戦力にならない兵士など、生かすに値しないのである。
彼が「介錯」と称して負傷兵を撃ち殺そうとする度に、楯突いては叩きのめされ。止めようと駆け付けてきたディートハルトの肩を借り、辛うじて立ち上がる。連邦軍の接近を報せる警報が鳴れば、筋電義手の痛みに耐えて予備機のザクに乗り込み、力の限り迎え撃つ。
ソロモンを離れてから、24時間以上が経過した今に至るまで、それを何度も繰り返してきた。休む暇もなく。1分1秒が、永遠に感じられるほどに。
それでも心が折れないのは、意地があったからなのかも知れない。
あんな男にだけは、もう頼りたくない。例えどれほど義手の継ぎ目が痛もうと、あんな男に生殺与奪を許してなるものかと。
『……だからオレは、負けるわけには行かねぇってのに。なんなんだよ、
その意地と覚悟に裏打ちされた気迫を以て、これまで幾度となく連邦軍の追手を撃退してきた彼は。今目の前にいるMS-09R「リックドム」に、肩を震わせていた。
鹵獲機として連邦軍に運用されているその機体は、戦力を補うためにソロモンで接収したものなのだろう。番号がマーキングされていた箇所は上から塗り潰され、新たに連邦軍のエンブレムが刻まれている。
だが、かなり急いで間に合わせたからなのか。その塗り潰された箇所の端からは、僅かに元の番号が覗いていたのだ。そしてアドラスは、その番号が意味するものをすでに理解している。
――ソロモンにおける激戦の中で、コクピットに被弾して瀕死の重傷を負った戦友は。ほぼ五体満足な愛機を残して、一足早くソロモンを脱出することを余儀なくされていた。
その戦友の名は、ジェイコブ・ホーク。鹵獲機として運用するためにコクピットを補修している、このリックドムの本来の持ち主である。
『あいつの機体で……オレの仲間を撃とうってのかぁあぁあッ!』
その光景に対する憤怒の、赴くままに。濃い紫に塗装された左肩のスパイクアーマーで、アドラスのザクIIは体当たりを敢行する。
『少し違うわ。……これはもう、私のもの。戦争って、そういうものよ』
だが、慣れないジオン製のMSだというのに。鹵獲機のリックドムを駆るアル・ナディスティア大尉は、紙一重の動作だけでアドラス機の体当たりを回避していた。
『くッ!?』
『……そして相手は、アル大尉だけじゃあない。我々も含めた、3機だ』
『言っておくけど、手加減なんて期待しないでよね』
その直後、背後から迸る殺気を感じ取ったアドラス機は、咄嗟に上昇する。彼がいた座標には、ビームと実弾の豪雨が降り注いでいた。
RGM-79「ジム指揮官機」に搭乗する、マミア・ガロウ中尉。RGM-79G「ジムコマンド」を駆る、ロウアー・ダウン曹長。
彼女達のビームスプレーガンとブルパップマシンガンによる一斉射撃は、直撃こそしなかったが。掠っただけで大きく装甲を削られたアドラス機にとっては、かなりの脅威となっている。
『こいつら、
『兄さんの仇は、1人でも多く私の手で討つ。……逃がさないわ、絶対に!』
『貴様に沈められた艦隊の者達と、彼らを率いていた夫のためにも……まず貴様を討つ!』
すでにエース級の実力を備えている彼女達は、その全力を以てアドラス機に襲い掛かっていた。しかし、ただ感情任せに攻撃しているわけではない。
『動き一つ一つに、一切の乱れがねぇ……! ただ怒りに任せて攻撃するだけなら、どこかに隙が生まれるはずなのにッ……!』
『マミア中尉、お願いしますッ!』
『あぁ、任せろッ!』
彼女達は交互に射撃と装填、冷却を繰り返すことで、反撃する暇を与えないように立ち回っているのだ。激しく、そして冷たい復讐の炎は、彼女達の殺意をより鋭利に研ぎ澄ましているのである。
これまで、アドラス達3人が撃滅してきた連邦軍艦隊とMS隊。そこに愛する家族がいた彼女達は今、冷静にして獰猛なキリングマシーンと化していた。
『だが……こっちだってなぁ、負けられない理由なら腐るほどあるんだぜッ!』
『あうッ!?』
『おのれッ……!』
それでも、たった2機のジムにいつまでも気圧される「十指」の9位ではない。2人の攻撃が切り替わる
脇腹や頬の辺りを、ビームや実弾が掠めていく中で。ほんの少しの迷いもなく、彼は反撃に転じていた。
『くッ、マミア中尉ッ!』
『私に構うな! ロウアー曹長、防御に集中しろッ!』
いくら復讐に燃えていると言っても、機体のダメージを無視することは出来ない。それに僚機の被弾を顧みないほど、彼女達も報復だけに囚われているわけではない。
実弾の嵐を浴びた彼女達は、シールドを構えてお互いを守り合うように後退する。戦いの流れを変えるなら、今しかない。
『それで満足?』
『――ッ!』
その直後だった。優しく問い掛けるようなアルの声と共に――ジャイアントバズの発射音が響いたのである。
彼女のリックドムは、アドラスが2人に気を取られている隙に死角へと潜り込んでいたのだ。もはや、回避は間に合わない。
『ぐぉあぁあッ……!』
『……投降しなさい。戦争が終わっていない今ならまだ、捕虜として丁重に扱えるのだから』
咄嗟に右肩のシールドで防御するも、すでに損耗している予備機のザクでは受け切れるはずもなく。アドラス機は爆炎と共に、右腕をもがれてしまうのだった。
『ハッ……ジェイコブの機体でオレをブチのめしたかと思えば、投降勧告かよ。……いちいち癪に障るマネしやがるぜッ!』
『あうッ……!?』
だが、それでもアドラスは折れない。「悲笑の亡者」と呼ばれ、「十指」の9位にも数えられたエースの1人としての譲れない矜持が、彼を突き動かしていく。
彼の機体のトレードマークとも言うべき、紫のスパイクアーマー。その棘がアル機の顔面に炸裂した瞬間、アドラス機はその胴体に最高速度の飛び蹴りをお見舞いする。
『降伏なんざしねぇし、アンタらの手で死んでやる謂れもねぇ。……なんて言ったら、どうするよ』
『……聞くまでも、ないでしょう?』
そして、右腕を失い窮地に立たされていながら。アドラスは不敵に笑い、自分に全ての敵意を集めようとする。
それが、ムサイへの注意を逸らすための陽動に過ぎないということは、彼女達もすでに看破していた。そのような安い挑発に乗る道理などない。
『だったら……2度とそんな口が叩けなくなるように、粉々になるまで撃ち抜いてあげる。速やかに後悔しなさい』
『夫を殺しておいて、謂れはない……か。面白い、そこまで言い切るとはよほど死にたいようだな』
が、彼女達は敢えてそれに乗る。この地獄のような戦場を駆け抜けてきた者同士としての、シンパシー故か。
ロウアーとマミアは、初めて復讐心だけではない何かを理由に、アドラスへの闘志を燃やしていた。そんな部下達の変化を一瞥するアルは――深く息を吐き、アドラス機を静かに見据える。
『……降伏を望まないというのであれば、仕方ないわ。私達は私達の、使命を果たすまでよ』
『……やってみな。その機体を、使いこなせるってんならよ』
やがて、そのやり取りを合図に。3対1の集団戦法とも渡り合う、アドラス機の奮戦はさらに激しさを増していくのだった。
――そして、航行不能となる寸前まで消耗しているムサイの前では。
『我が裁定を以て、死罰を下す。……逃れられるとは、思わぬことだ』
最後の砦ともいうべき、「五指」の1位――レゾルグ・バルバが。連邦軍の追撃隊を前にして、その肩書きに違わぬ猛威を振るっていた。
このお話の本筋も次回の後編で概ね完結となります。第3部へ繋がる「魔王」ことレゾルグ・バルバの暴虐と、その行く手を阻むエース達の奮闘。どうぞ最後までお楽しみにー!٩( 'ω' )و
Ps
「十指」内の序列こそワースト1、2を争ってるディートハルトとアドラスですが、実際のところ「五指」のメンツにも引けを取らないくらいには強いです。序列の決め方はあくまで撃墜数の差であって、当人同士がガチンコでやり合って出来たランキングではないので(´-ω-`)