今回は本編第1話から数日前の日常シーンを描いた、番外編になります。どうぞ(*´ω`*)
ジオン軍によるジャブロー降下作戦が始まる、数日前。
連邦軍本部の防衛を担う、陸戦中隊に配属されて間もないヴィヴィアンヌ・ル・ベーグは――
「す、すみません……ご迷惑をお掛けしてしまって。アクランド少尉も訓練中でしたのに」
「構わないさ、なにせこの広さだ。新兵の君が迷うのも無理はない。それより、ウチの整備兵達が失礼したな。後でよく言い聞かせておくよ」
――着任早々、道に迷い。
ジャブロー地下の道路を照らすライトの下を、1台の軍用車が走り抜けていく。彼女達を乗せたその車は、陸戦中隊の基地を真っ直ぐに目指していた。
遡ること、約10分前。
陸戦中隊の所属でありながら、航空隊の基地にまで迷い込んでしまっていた彼女は、その美貌もあって女日照りの整備兵達に絡まれていたのだが――通り掛かったローズマリーが助けに入ったことで、事なきを得たのである。ヴィヴィアンヌが「『焦熱の爀弾』のお手付き」だと聞かされた整備兵達は青ざめると、蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行った。
その後、事情を聞いた彼女の計らいにより、ようやく本来の所属先に帰れることになったのだが。中隊の外を彷徨っていたという事実に直面したことで、ヴィヴィアンヌの顔は茹で蛸のように真っ赤に染まっていた。
「……あの中隊の第7小隊、ということはリュータ・バーニング少尉の部下ということか。ふふっ……君といい、噂の種には事欠かない部隊だな」
「えっ……しょ、少尉をご存知なのですか?」
「面識があるわけではないよ。『焦熱の爀弾』、という異名は航空隊でもよく耳にする。君の話を聞く限り、その名に纏わる悪評の類は、やはり眉唾物だったようだがな」
「……」
書類で顔を隠しても、周知の色を隠しきれずにいる彼女の耳を一瞥しながら。苦笑を浮かべて見ないフリをするローズマリーは、彼女を早く部隊に帰すため、徐々にアクセルを踏み込んでいった。
「それに、第5小隊のレイチェルも彼のことをよく話していた。自分よりも強い者すら惹き付けるほどの価値が、彼にはあるのだと」
「レイチェル少尉が……?」
「彼女とは旧知でな。私がリュータ少尉のことを知ったのも、彼女の話がきっかけだった」
――士官学校時代からリュータを知っている、レイチェル・マスタングの話によれば。
同期の中では年長者だった彼は、その面倒見の良さもあり、当時から「頼れる身近な男性」として女子達から慕われていたらしい。特に口数の少ないアッシュ・ヴァンシュタインと、生真面目過ぎるアリサ・ヴァンクリーフの2人は、何かと彼の人柄に頼りがちだったのだとか。
本来のリュータを知る彼女達の気持ちは、彼が「焦熱の爀弾」と呼ばれるようになってからも変わらなかったのだという。
リュータ自身も、エースと呼ぶに相応しい才覚の持ち主であり。射撃の腕に関しては、ガンダム6号機を任されているエイガーにも迫るものがある。同期のカムナ・タチバナやアラン・アイルワードも、彼のことは学生時代から一目置いていた。
が、それでもユウ・カジマやマット・ヒーリィ、フォルド・ロムフェローらのような「本物のエース」には遠く及ばない。MSの操縦技術に関しては、ジャック・ベアードの方が上だろう。
個人としての戦力というよりはむしろ、アッシュ達のような才媛の実力を引き出してきた、その「人柄」こそが。彼の強さの「本質」に、近しいのだという。
周囲からの信頼があってこその戦果を挙げてきた、ボルク・クライやトラヴィス・カークランド、サウス・バニングのように。
「……やっぱり、レイチェル少尉はずるいです。私よりもたくさん、あの人のことを……」
「ふふっ、青春だなぁ。君達のような若い子には、それくらいの青臭さがちょうど良い。
「ユウキ、って……航空隊の管理下に配置されたという、あの局地型ガンダムの?」
「ああ。これからスラスターを増設して、空中戦にも対応出来るようにするそうだが……MSが当たり前のように飛ぶ時代が、これほど早く訪れるとはな」
噂をすれば、なんとやら。
彼女達の視界の端には、カタヤイネンのフライマンタを追うように飛び上がる――ユウキ・ハルカゼの局地型ガンダムの姿が入り込んでいた。恐らくは先ほど話題に上がった、スラスターのテストなのだろう。
『フフッ、どうしたユウキ! そんなことでは、せっかくのガンダムも宝の持ち腐れだぞッ!』
『くッ……! まだまだ、こんなものじゃありませんよッ! カタヤイネンさんッ!』
フライマンタを捉え切れずにいるその挙動を見るに、どうやらまだまだ改良の余地があるらしい。なかなか、アムロ・レイのようには行かないようだ。
『ローズマリーさんも、リュータさんも……「ガンダムを任されたパイロット」じゃなくて、「ユウキ・ハルカゼ」という
『ならば借りを返すためにも、その熱意を技量に繋げて見せることだ。……さらにスピードを上げるぞ、付いてこれるかッ!』
『行けますよッ!』
だが、やる気だけは負けていない。右往左往する間もなく徴兵され、局地型ガンダムのパイロットとして戦わされてきた彼だが――それでも今は、「戦士」としてここにいる。
その気迫は、遥か遠くの道路から一瞥しているローズマリーとヴィヴィアンヌにも伝わるほどの熱気を宿していた。
「……飛ぶといえば、第2小隊にいるギルボード兄弟の機体がまさにそれでしたね。確か、ガンダム……えぇと……」
「RX-78E、ガンダムGT-FOUR。空軍の主導で開発された機体だからな、私もよく知っている。……飛ぶどころか、可変式のMSと来たものだ。もはや私のセイバーフィッシュなど、化石のようなものなのかも知れん」
「そんな……でも、セイバーフィッシュの攻撃力ならザクの装甲だって!」
「もちろん分かってるさ、私もただの化石で終わるつもりはない。……君達のような若者を守る、最強の化石。それが『北欧の荒鷲』としての、私の意地というものだ」
「……アクランド少尉も、お若いではありませんか」
「ふふっ、褒め言葉として受け取ろう」
そんなユウキの勇ましさをきっかけに。
車の中で会話を弾ませ、次第に華やかな笑顔を咲かせていく彼女達の車は――歩道を歩いていた2人の兵士の傍らを、素早く抜き去っていく。
「あれ? 今のって、航空隊の『北欧の荒鷲』ですよね。なんで陸戦中隊のアイドルと……?」
「ガンダム絡みで何かあったんじゃねぇか? 陸戦中隊にはGT-FOURにピクシー、航空隊には局地型と来たもんだ。俺達のところにも1機くらい回してくれないものかねぇ」
その車に乗っていた美女達に振り返る、サイウン・レツとエディン・ギルスの2人は。狙撃銃等の装備を抱えながら、自分達の所属先――ホワイトディンゴ隊の基地を目指していた。
マスター・
◇
やがてローズマリーの運転する車は、陸戦中隊の基地まで無事に辿り着き。車から降りたヴィヴィアンヌは、改めて深々と一礼する。
「アクランド少尉、この度は本当にありがとうございました。本当に、何とお礼を申し上げれば良いのか……」
「ふふっ、そう気負わなくても構わないよ。……礼と言うなら、これからの働きで返してくれると期待しておこう。君の活躍、楽しみにしているよ」
「はいっ!」
「それと……幸せになれるといいな、彼と」
「えっ……あっ、はっ……はいっ!」
含みを持たせた一言に頬を染める、ヴィヴィアンヌの初々しい姿に笑みを浮かべて。ローズマリーは軽く手を振り、自分の基地へと走り去っていく。
その姿が見えなくなるまで、ヴィヴィアンヌの方もぶんぶんと手を振り続けていた。
――そして、ようやく陸戦中隊の基地に帰ってきた彼女の眼前に。いつも通りの「日常」が、広がっていく。
「おーう、帰ったかヴィヴィーちゃん! そろそろHカップのブラもキツくなってきたじゃろう? なんなら儂が新しいのを……いだだだだ! 何すんじゃコタロウ!」
「アルさんの方こそ、何を言ってるんですか何を。いいから戻りますよ」
「全く……度し難い男だ、相変わらず」
「何じゃいお前まで! 寄ってたかって年寄りを苛めるんじゃないわい!」
挨拶がわりにセクハラを働いては、コタロウ・ニシズミとゲルハルト・ファン・バイエルンに引き摺られていく、アルベルト・ビュヒナー。
「ちょ、ちょっと、ダメですってば隊長……! そ、その、むむ、胸が背中に……!」
「うふふっ……これはね、マコト。
「レッ、レイチェルゥウッ! あなたったらまたそんな、い、如何わしいことをッ! もう許せない、ヒダカッ! 今日こそあのハレンチ少尉を取り締まるわよッ!」
「……はぁ、なんで俺が……」
「やだぁー、こわぁーい。リュータに守ってもらおうかしらぁ」
「んなっ!? よ、よりによってリュータにそんなっ……許さない! 絶対に許さないからッ!」
そんな彼女を真っ赤になりながら追い回しているアリサ・ヴァンクリーフと、隊長の取り締まりに付き合わされ辟易しているヒダカ・アマサキ。
「フフッ、どうだねテキサス中尉。次の休暇はぜひ私と食事……」
「中隊長、前を見て歩いてください。ここは滑りやすいので」
「ハッハハ、確かに! 君の美しい瞳に見惚れる余り、足元がお留守だったようだ! これはいかんなぁ、ハッハハハ!」
「……全くこの人は、諦めが悪過ぎるといいますか……」
マルティナ・テキサスに毎度毎度アプローチを仕掛けては、にべもなく袖にされているペドロ・ガルシア・ペレスと。そんな中隊長の姿に顔を覆う、クリム・ブッディ。
「……よし、良い感じ。兄貴、出来たぜ!」
「おう! ……俺達の自信作、こないだ
「戦争が終わったら、リュータさんと一緒に会いに行けば良いさ。あの娘、出発ギリギリまでリュータさんにべったりだったからなぁ」
「ハハッ、そうだな」
不味い野戦食を美味しく再調理している、キアギルク・ギルボードとラグナス・ギルボードの兄弟。
「……これ、美味しい。後でリュータにも……」
「んまっ! これうんまっ! キアっ、ラグっ! これおかわりっ!」
「はいはい! ……毎回美味そうに食べるし、ミナトさんって作り甲斐あるよなぁ」
「アッシュさんもよく食べに来るけど……あっちはリアクションがね……」
「……聞こえてる」
「ハ、ハイッ! こらっ、ラグナスッ! そんなこと言っちゃダメだぞっ!」
「今言ったの絶対俺じゃないよね!?」
その味見を黙々と引き受けるアッシュ・ヴァンシュタインと、豪快に平らげながらおかわりを要求するミナト・ヒヤジョウ。
「……騒がしいですか?」
「賑やかというんだよ、ああいうのは。……私は、嫌いではない」
「それは良かった。……俺も、同じ気持ちでしたから」
女傑と恐れられている普段の姿からは想像もつかない、可憐な笑顔でマテウス・クルマンに寄り添う、パスカル・ネヴィル。
「……むにゃ……キア、ラグ、俺にもおかわりぃ……」
「はぁ……全く、お前の見る夢は相変わらずそんなのばっかりだな」
ブルーディスティニー0号機のコクピットで、眠りこけているネロ・ダイルと。格納庫の手摺りに背を預け、そんな彼に苦笑を零しているレオ・アークライト。
「よぉ、ヴィヴィアンヌ。そうかそうか、ようやく俺に会いたくなったか……。確かにあの坊主もいい男だが、俺はもっといい男だからな」
「……」
「なぁに、君の気持ちなら聞かずとも分かるさ。今夜は俺の部屋に来な、忘れられない夜にしてや……おい! やめろ、ちょっ、離せよ隊長! 今最高にいいとこ……ちょ、待てよ!」
「……すまない、こいつはお前が絡むといつもこの調子でな。バーニングのところに行くのだろう? 邪魔したな」
「ちょちょっ、まだ話の途中っ……ヴィヴィアンヌっ! 愛してるぜっ! 俺が誰よりも愛してるんだぜっ!?」
美女を見つけては気障に声を掛けているカルロ・ジェノヴェーゼと、慣れた手際で彼を引き摺っていくアクセル・ウィルマン。
彼らの姿を目にする度に、ヴィヴィアンヌは自分の頬が緩んでいくのを感じていた。一度道に迷ったことで、彼らの姿が見えないことへの不安を知ったからか。
このジャブローの守りを託された、陸戦中隊の皆の変わりない姿が。今はただ、愛おしい。
「やぁーっと帰って来たのかよ。そろそろ探しに行こうかと思ってたところだぜ」
「お帰り、ヴィヴィー! 遅かったじゃないか、心配したぞ!」
だが、やはり。何よりも愛おしいのは。
見間違えようのない、艶やかな黒髪と燃えるような紅い瞳を持つ、最愛の青年――リュータ・バーニングの笑顔だった。
親友のソノ・カルマと共に自分を出迎えてくれた彼に、書類を差し出して。ヴィヴィアンヌも精一杯の笑顔を咲かせて、その隣に身を寄せていく。
確かに彼はここにいるのだと、確かめるかのように。その温もりを、追い求めるかのように。
「……はいっ! ヴィヴィアンヌ・ル・ベーグ、ただいま戻りましたっ!」
絶世の美姫とも呼ばれる、陸戦中隊のアイドルが。その豊満な胸と、透き通るような声を弾ませていた――。
最後まで読み進めて頂き、誠にありがとうございました! 機会がありましたら、またこういう番外編も書いていきたいところですねー(*´꒳`*)
ちなみに今回の番外編には本作の応募キャラだけでなく、公式作品に登場したキャラ達の名前もばんばん出ておりました。誰がどの作品に出ていたか、全部わかる人はかなりのガンダム博士ですな(*´ω`*)