機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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 長きに渡る本作の連載も、これにて完結! ここまで見守ってくださった読者の皆様、応援誠にありがとうございました! 最後の最後まで、どうぞお楽しみに!(*≧∀≦*)



最終話 献身の勇者 -ケンジロー・カブト-

『おのれェッ……! ザビ家に仇なす不届き者めらが、味な真似をッ……!』

「……貴様のように戦いたい奴らが、戦いたいだけ戦えばいい。だが、それを望まない子供達を巻き込むことだけは許さんッ!」

 

 如何に性能で勝っていようと、技量で勝っていようと、多勢に無勢では勝ち目などない。「戦いは数」というドズル・ザビの訴えは、この戦争の推移を端的に物語っている。

 それは当然、この戦いにおいても例外ではない。ケンジローを中心とするア・バオア・クー攻撃隊に包囲され、すでにレゾルグのザクレロは満身創痍となっていた。彼を守っていたビグロ隊も、すでに全滅している。

 

 しかし、彼はなおも諦めず――憎しみに満ちた眼でケンジロー機を睨み、クーディアに向けて怒号を上げる。

 

『ほざけッ! 地球でぬくぬくと過ごしてきた貴様らに、一体何が分かるッ! ――ブリゼイド、命令だッ! 今すぐその男の頭をブチ抜けッ! そうすれば、今回だけは見逃してやるッ!』

「……!?」

 

 それは、ケンジロー機のコクピットに居るクーディアにしかできない「任務」であった。過去の恐怖に囚われた彼女は、言われるがままにホルスターからピストルを引き抜き、ケンジローの眉間に向けてしまう。

 

「……っ」

「クーディア……君は、どうしたい(・・・・・)?」

「どう……って、私、私は……」

 

 だが、ケンジローは動揺することなく。自分に銃口を向けるクーディアの眼を真っ直ぐに見据え、問い掛けた。

 それは「使命」ではなく、「意思」を確かめるための問い。ジオン兵としてではなく、ただのクーディア・ブリゼイドとしての彼女の真意を暴く、最後の賭けであった。

 

「私は、私はっ……!」

『ブリゼイドォッ!』

「……私には、撃てませんッ! 私を助けようとしてくれる人を……撃つなんて、絶対に間違ってるッ! カブト少尉を……ケンジロー様を撃つことなんて、出来るわけがありませんッ!」

 

 そしてケンジローは、その賭けに勝てると確信していた。クーディアはレゾルグの声を振り切り、ピストルを放り投げ、「任務」を拒絶する。

 連邦軍の一兵士ではなく、自分を救ってくれた唯一無二の男性として。クーディアは、ケンジローを選んだのだ。

 

『なっ……! こ、このッ、裏切り者めがぁあぁあッ! どいつもこいつもぉおぉッ!』

「……これが彼女の答えだ。貴様の思い通りには、絶対にさせないッ!」

 

 その決断に怒り狂い、猛進するレゾルグ機は、激情のままに最後のヒートナタを振りかざしていた。が、度重なるダメージを受け、すでに彼のザクレロは本来の機動性を失っている。

 そんな状態では、ジム1機を仕留めることすら叶わない。

 

『ケン、行ける!?』

「……えぇ、行けます。終わりにしましょう! 今、ここでッ!」

 

 そして。この戦いに決着を付けるべく――バーニアを噴かすケンジロー機の傍らに、リリアーヌのGダッシュが颯爽と駆け付けてきた。

 

「リリ先輩、お願いしますッ!」

『……オッケー! お姉さんに任せてッ!』

 

 リリアーヌ機のブースターユニットに取り付き、彼女の加速を得たケンジロー機が、勢いよくビームサーベルを振り抜いた時。

 この激闘はついに、終幕を迎える。

 

『ぐぉおぉおぉッ!?』

「貴様の思い通りには、俺が……俺達がッ! 絶対にさせて、たまるかぁあぁあッ!」

 

 最初の太刀合わせで、ケンジロー機を跳ね飛ばしたことへのリベンジとして。レゾルグ機は、そのボディに光の刃を深々と突き刺されてしまうのだった。

 

『ぐぅおおぉッ! ち、く、しょおおおおぉがぁあぁあッ!』

 

 やがてケンジロー機を連れたリリアーヌ機が、レゾルグ機とすれ違う瞬間。ザクレロの全身を、爆炎が飲み込み。

 

『……兄者』

 

 残されてしまった、たった1人の兄弟と。連邦軍の戦士達が見届ける中、このア・バオア・クーの宙域を彩る戦火の一つとして消えていく。

 

 それが「五指」の1位、レゾルグ・バルバの最期であり。オデッサから続く「魔王」と「勇者」の因縁に、終止符が打たれた瞬間であった。

 

「レゾルグ、教官……」

「これで良かった、とは思えないだろうな。……済まなかった」

「……いいえ。良いんです、きっと……」

 

 その爆炎と、レゾルグの断末魔を目の当たりにして。クーディアは暫し逡巡した後、ケンジローに向けて儚げな笑みを向ける。

 

 向こう側に残してきた学友達。曲がりなりにも、師だった男の末路。サイド3に残してきた家族への想い。

 その全てを振り返るたびに、自責の念に苛まれながらも。今は生きて、自分に出来ることを見つけていくしかない。それが臆病者の自分に出来る、唯一の奉公であると信じて。

 

「……私に出来ること、あるでしょうか」

「あるさ。……見つけてやるさ」

 

 そんな彼女を肯定するケンジローは、身を委ねる彼女の細い肩を抱き寄せ、燃え上がる宇宙要塞を前に。この戦争の終焉を、悟るのだった。

 プラチナブロンドの長髪を靡かせながら、モニターを通じて彼らの様子を見守っていたリリアーヌは。その表情に複雑な色を滲ませながらも――何も言わず、微笑んでいる。

 

『ちょっと! アンタ、何しれっとボクの機体に引っ付いてんのさ! ジャグラーのユニットに変なもの混ぜないでー!』

『ここしか逃げ場がなかったんだよ! な、なぁイイだろべっぴんさん、このまま戦闘が終わるまでおれとデート……ちょっ、待って、振るな揺さぶるなー!』

 

 その後ろでは、ダイナ機のボールユニットに混じっていたウモンのBガンダムが、左右に振り回されていた。戦闘が終わるまでユニットの一つに混ざっているつもりだったらしいが、巨大なガンダム顔では流石に無理があったらしい。

 

 ――そして、宇宙世紀0080。この戦いの後、地球連邦政府とジオン共和国との間に終戦協定が結ばれた。

 

 ベネッタ・ヒューリンデン。

 

 テオ・アルムガルト。

 

 ダイナ・スレイヴ。

 

 アリスノア・カーター。

 

 タシギ・メスヴェン。

 

 ジュスト・ベルティーニ。

 

 リリアーヌ・ガブリエル。

 

 ジャック・オコーネル。

 

 シエラ・マクナイト。

 

 ウモン・サモン。

 

 ユウキ・ハルカゼ。

 

 バルソー・ブレンダン。

 

 リュート・カドクラ。

 

 ドロテア・ルイーゼ・マルティン。

 

 リューコ・タカスギ。

 

 ルーデル・シャカタク。

 

 カタリナ・キャスケット。

 

 ピーター・バルバ。

 

 マルティナ・テキサス。

 

 アンソニア・W・サイジョウ。

 

 バートル。

 

 カナン・エスペランザ。

 

 ゾネス・ゴルドー。

 

 マサヒコ・イシモリ。

 

 ヨシナオ・シンジョウ。

 

 世界の命運を賭けた彼らの戦いも、ついに終わりを迎えたのである――。

 

 ◇

 

 それから、しばらくの月日が流れ――宇宙世紀0080、5月。

 ヴィヴィアンヌ・ル・ベーグを筆頭とする「パリ防衛隊」の活躍を描いたドキュメンタリー映画が大ヒットを記録し、その第2弾の制作が発表され話題を集めていた頃。

 

「この街のピザ、マイナーな割には絶品なんだぜ。帰りに奢ってやるよ」

「いや、今は遠慮しておく。まずは仲間達を迎えにいくのが先決だ。貴君の誘いは、旅を終えた後の楽しみに取っておきたい」

「そうかい? じゃあ、目処が立ったら連絡しな。団体予約で席取っといてやるからよ」

「あぁ……心遣いに感謝する」

 

 連邦軍に同行し、抵抗を続けているジオン軍残党への投降勧告を続けていたガリウス・ブリゼイドは。連邦の管理下にあるという、ヨーロッパの地方都市を訪れていた。

 

 ソノ・カルマが勧めるピザ屋を通り過ぎ、細長い街道を潜り抜けた彼の前に待ち受けていたのは――古びた1棟の救護院。彼の目的は、この街に搬送されているというジオンの負傷兵達に会うこと。

 彼らのように苦しんでいる同胞達を慰問することも、ガリウスが連邦に恭順している理由の一つなのだ。

 

「……ここか、負傷したジオン兵を看ているという救護院は」

「あぁ、結構ボロいがな。戦時中からよく現地のジオン兵を受け入れてる病院だったから、あんまり周りからはよく思われてなかったのさ」

「そうか……。オデッサに居た皆は、アリアは無事だろうか……」

「そいつを確かめに来たんだろ。ほら、行こうぜ」

 

 その施設に足を踏み入れた2人の眼前に広がっていたのは、血の滲む包帯に巻かれたジオン兵達が、累々と横たわる姿だった。彼らを救うべく、多くの看護師達が絶え間なく病室を行き交っている。

 

「存命のジオン兵達が、これほど……!」

「どんだけ連邦に嫌われようが、患者は患者……ってのがここのポリシーだからな。敵だろうが、野垂れ死になんてさせるかって連中の集まりなんだよ」

「そうか、良かった……! なんと礼を言えば良いのか……!」

「礼なら、こいつらが全快してからでいいだろう。ほら、何か声掛けてやれよ」

「あぁ、そうだな……!」

 

 例えどれほど傷付いても、生きることを投げ出さず、今日に至るまで戦い続けてきた将兵達。そんな同胞の姿に感涙を浮かべ、ガリウスが病室に入ろうとした……その時だった。

 

「すみません、今は誰も面会出来る状態では……えっ?」

「……!?」

 

 彼の前に立ち、制止しようとしていた看護師の少女が。ガリウスの顔を目にした途端、驚愕の表情を浮かべたのである。

 それは、ガリウスも同様であった。白銀の髪と蒼い瞳を持つ彼らは、固まったまま、互いの顔を見つめている。

 

 ツーサイドアップに纏められた、艶やかな銀髪。サファイアの如く、透き通った碧眼。Hカップにも及ぶ巨峰、くびれた腰、大きな臀部。本人が昔から気にしていた、歳不相応な発育。

 見間違えるはずもない。

 

「お、兄様っ……!」

「クーディアッ……!?」

 

 それは思いがけない、兄妹の再会。何故ここに、という詮索など忘れて、彼らは頬に滴を伝わせていた。

 

(今頃……かな)

 

 ――同時刻。遥か遠方のテラスで、独り空を仰ぐリュータ・バーニングが微笑を浮かべていることなど、彼らには知る由もない。

 

 この場に居合わせているカルマも、ただ静かに一歩引いた場所から、穏やかに見守っている。彼だけは、知っていたのだ。

 

(……ったく。リュータもケンジローも、青臭えこと考えたもんだぜ)

 

 この巡り合わせが、リュータ・バーニングとケンジロー・カブトの計らいによるものだということを――。

 

 ◇

 

 ――そして、数日後。サイド3のブリゼイド家に届けられた1枚の写真を手にした1人のメイドは、両膝を着いて泣き崩れていた。

 

「お嬢様……! ガリウス、様ぁっ……!」

 

 かつては悲しみの色を帯びていた、白い頬を伝う雫は。身を震わせる喜びの色へと、変わっている。

 

 そのか細い手にある写真には――銀髪を靡かせる見目麗しい兄妹達が、肩を寄せ合い微笑む姿が写し出されていた。

 





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 ここまで読み進めて頂き、ありがとうございます! そして、今回の第3弾キャラ募集企画にご参加頂いた皆様、ご協力誠にありがとうございました!(*≧∀≦*)
 連邦サイドのお話に始まり、ジオンサイドのお話に続き、再び連邦サイドに戻ってきた本作ですが、これで今度こそ完結です。これ以上引っ張ったらいよいよ収拾つかなくなりそうなので(;´д`)

 まさかリュータとガリウスの決着までで終わるはずだった本作が、なんだかんだでここまで続くことになろうとは、予想だにしておりませんでした。それもこれも、本作を今まで応援してくださっていた読者の皆様のおかげであります( ˘ω˘ )
 読者参加型ありきのシステムでの連載という、ちょっと変わった試みのガンダム小説でしたが、終わってみれば楽しかったなぁという思いで一杯でした。ほんの少しでも、読者の皆様にも楽しんで頂けたのであれば、幸いでございます(о´∀`о)
 これまで、リュータやガリウス、ケンジロー達の歩みを見守ってくださった皆様。改めて、最後まで見届けて頂き誠にありがとうございました。もし機会があれば、またどこか、別の作品でお会い出来ればと思っております(*´ω`*)
 ではではっ、失礼致しました!٩( 'ω' )و


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Ps
 色々語り出すと長くなってしまいますので、連載を終えてみての雑感は私の活動報告にて( ;´Д`)

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