小説版アマガミ ~森島先輩はそこにいる~   作:橘美夜

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コイブミ

 何で僕が他人のラブレターを渡さないといけないんだよ……。

 

 ついさっきだ。あの“ハナヂ王子”が僕の教室へ来た。

 二年生の有名人が教室の扉のところまできて僕を呼ぶものだから何事かと思って驚きながら用件を聞くと、森島先輩にラブレターを渡せって? むしろ僕が渡したいくらいなのに ―― まぁ、渡さないけど ―― ラブレターを直接渡せない度胸もない奴が森島先輩に好きになってもらえるわけ……

「ん? 橘君、何か用?」

 あ、塚原先輩。

 森島先輩も一緒だ。

 三年の階に上がってすぐに廊下で先輩たちと出会った。

 探す手間が省けたというわけだ。 

「あ、森島先輩。丁度良かったです」

「あら橘君も私にラブレター?」

「え? 何で分かったんですか?」

「え?」

 まさか本当だとは思わなかったという風な驚きの顔で森島先輩は答えた。

 そのやり取りを見て塚原先輩は興味深そうに、顎(あご)に手を添えた。

「……へ~、なるほど面白いね」

「ど、どういうことですか?」

 そこで僕は、ついさっき塚原先輩も三年生の中で一番もてるという男子生徒からのラブレターを森島先輩に渡したところだということ、ちょうどそこに僕が二通目を渡す形になったということを聞いた。

「それで、君のラブレターってのは誰からなのかな?」

「橘君からだったりして?」

 と塚原先輩が僕の持っている手紙の話題に切り替えた時、すかさず森島先輩が僕をからかった。

「ち、違います!」

 ここはちゃんと否定しておきたかった。

 そこらへんの男とは違う、と

「大体、僕は手紙で告白とかしませんから! 知ってますよね?」

 すると先輩の目はみるみる動揺を浮かべ、視線は僕の目を外れて廊下の方を見た。

 三人の間に少し沈黙が漂った後、

「う、うん……」

 と先輩が答えた。

 その声にどこか嬉しそうな響きが聞こえたのが僕の心を躍らせた。

「へ~……」

 そのやり取りを見ていた塚原先輩は面白がるような、また、からかうような声を漏らした。

 塚原先輩に相談に行った時に聞いたあの「へ~……」と同じだ。

 これは、恥ずかしい。

「そ、それで誰からなのかな?」

「あ、ハナヂ王子からです……」

気を取り直して話題を戻した森島先輩の好奇心に答えて、何故か僕がハナヂ王子の説明をする羽目になった。

 説明が終わると、その決して良いとは言えない彼の噂を聞いたからか微妙そうな顔をした。

 女子からはともかく、男子からは好かれてるとは言い難いからなぁ。

「そうだ、はるか。とりあえず手紙読んでみたら?」

「あ、うん」

 僕が受け取った分も森島先輩に渡した。

「えっと……ふむふむ……」

 先輩が手にしている手紙を読んでいるその様子は、恋文を読んでいるとは思えない、事務的に処理されている感じがあった。

 これも百戦錬磨であるが故か。

「あっ?」

「ど、どうかしましたか?」

「ありゃ、これはまずいかも」

 どうやら森島先輩が読んだその手紙にはどちらも同じ日で、しかも同じ時間に会いたいという旨が記されていたようだった。

 しかし先輩方二人はさほど狼狽の体(てい)というわけではなかった。こういった事態に慣れているからなのか、それともこのお二人の年上としての大人な対応力から来るものなのかは分からなかった。分からなかったが、その冷静さには少しく目を見張るものがあった。

「あ、そうそう。下手にふると怖いから、ちゃんと優しくふってあげなよ」

「怖いこと言わないでよ。もう……」

なるほど、塚原先輩からのこういう陰ながらの適切なアドバイスがあったから、これまでの森島伝説はつくられてきたのだなと感心していた時、僕の中で急激に差し迫るものを感じ、我に返ったように二人の話に食いついた。

「あ! や、やっぱり断るんですか?」

「う~ん、どうしようかなぁ……」

「高校三年間で一度も付き合わないままでいいの? 試しに付き合ってみれば?」

 つ、塚原先輩……。

「いやぁ……そう言われてもなぁ……」

「誰かと付き合っちゃえば、もう告白されることもないと思うけど?」

 確かにそうだ。

 森島先輩に恋人ができれば、もうこれまでのような“撃墜女王”じゃなくなるんだ。それに、森島先輩がいつどの男にOKを出すかなんてビクビクする必要なんかなくなるんだ。

 その役こそ僕が担(にな)わなければ意味がない。

「むむむ~……いやはや、人気があり過ぎるもの困りものねぇ……」

「全く、ぜいたくな悩みね」

 と言って塚原先輩は笑った。

「あら? もしかして妬いてくれてるの?」

「ええ、とても羨ましい。私も同級生や後輩からラブレターを貰ってみたいわ。それで同じ日同じ時間に呼び出されて、校内を全力疾走したいわね」

「もう、ひびきのいじめっ子!」

「目の前の二年生もはるかにお熱みたいだしね。何かもてるコツでもあるの?」

「え?」

 僕は再び我に返った。

 心の中を隅から隅まで言い当てられたような気がして、何も言い返すことが出来なかった。

 塚原先輩は、そんな一言も発せずにいる僕の表情を見ながら微笑した。

「図星だったかな?」

「そ、それはその……」

 森島先輩がいる前で、そんな、何て言えば……。

 体温がみるみる上がって、頭のてっぺんまで熱くなったのが自分でも分かった。

「もう知らない! ひびきの意地悪!」

 最初にいたたまれなくなったのは森島先輩だった。先輩は逃げるようにしてその場を去って行った。

 僕の側(そば)をよぎる瞬間、その白い顔がほの赤く染まっていたのを認めた。

 その背中を追って塚原先輩も駆け出した。いかにも森島先輩の保護者みたいな台詞とともに。

「もう、はるかったら……ちゃんと最後まで話を聞きなさ~い」

 え? あ、あれ? 

 もしかして喧嘩? 

 まずい! 追いかけて止めないと!

 僕も二人の後を少し遅れて追いかけた。

 

 

 二人を捜しまわって校舎を歩いて回ったけど、すぐにテラスで和やかに過ごす二人を見つけて、一安心した。

 あのやり取りはなんだったんだろう。

 喧嘩じゃないのか。

 それにしても、森島先輩と塚原先輩の関係ってなんか不思議だよな……。

 あの様子だと僕が思っている以上に二人の距離は近いのかも。

 

 ――ラブレターの話の時にはあれだけ余裕な顔だったのに、僕の事になると、森島先輩ははじめて動揺したような表情になるんだよな……。

 って、考えすぎか!

 

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