まさか……ここか?
そんな馬鹿な……っ!!
純一は愕然とした。目の前の光景を目にしてこの質問は無意味なことは分かっていたが、彼は念のため彼女に確認した。
「せ、先輩……ここって、ホテル、ですよね?」
「うん、そうだよ」
と聞くやなや、彼は叫んだ。
「ええええぇぇぇぇ!!」
「ど、どうしたの急に!」
いずれ「その時」は来るとは思っていたが、まさか今日「その時」が来るとは思っていなかった。彼は急な衝撃に打ちのめされつつも、恐る恐る聞いてみた。
「ホ、ホテルって……! い、一体、ホテルで何をするんですか?」
「あれ、この前言わなかったっけ? 橘君に私の家族を紹介するって」
彼は力んだ体が一気にしぼんでいくのが分かった。だから、
「あ、ああ! そうでしたね!」
と、何かをごまかすために必要以上に声を出しながら溌剌(はつらつ)と返した。
「でも、それまでにまだ時間があるから……あ、橘君、水着持ってきた?」
「え?」
純一は当然、水着は持っていなかったので、貸し出しをしていたものを身に着けた。こればかりは彼は意表を突かれた。はるかと一緒にいると、どうしても次から次へと意外の感を持たずにはいられないことになるのだが ―― それが純一は好きなのだが ―― 今回の件は予想の片隅にもないことだった。クリスマスイブに水着でプール。しかも見るからに高級そうなホテルの中にあるプールで……と彼がプールサイドで色々と思いめぐらせていると、
「おまたせ!」
後ろから快活な声が聞こえた。
この時、純一がはるかの水着姿を見て受けた衝撃は筆舌に尽くしがたいものがある。それでもあえてその一端を書くとすれば、それはすなわちこうである。
も、森島先輩のビキニ姿! ああ! 何ていう幸せだろう! まさかクリスマスイブに森島先輩の水着姿を拝めるなんて! やっぱり素晴らしくスタイルがいい。お腹はキュッと締まっていているが、細すぎないのがいい。その柔らかそうな感じは優しさをたたえているようだ。そこに頬をあててスリスリしたいくらいだ。
先輩の生脚。脚フェチの僕からしたらたまらない。完璧と言ってもいいほど違和感のない、綺麗に下に流れるようなライン。
そして胸。ここまではっきりと先輩のおっぱいを見たことがあっただろうか? スク水の時よりずっと大きさや形がはっきりと伝わってくる。……やはり先輩のは大きい。プールの爽やかな色をそのまま映したかのような青色の水着が隆起している具合と、豊かに実った果実の真ん中で自然に形作られている谷間で、それがはっきりと分かる。
僕は正直、興奮していた。しかし、同時に狼狽していた。すでに「それ」は始まっていたからだ。僕も正真正銘、男だから、仕方がないとはいえ、このまま無事に先輩に気づかれずに、もしくは上手いこと隠しながらやっていけるだろうかと思い、やむを得ず先輩よりも先にプールに飛び込んだ。先輩も「あ! 待ってー!」と言ってそれに続いた。
この誰が見ても楽しいひと時は、まさに彼にとって夢のようだった。もはや彼にとって「クリスマス」という言葉自体が暗鬱なもので、刻まれた傷は二度と治らずにこの先の人生も引きずって行くのだろうと思っていた。しかし、はるかが純一に手を引かれながら泳いだり、ウォータースライダーで二人そろって勢いよく水にぶつかったり、そのあまりの勢いに何の雑念も交えずに顔を見合わせて笑い合っているこの光景を見ると、そんな彼に、まさしく聖夜の名にふさわしく天から恵みがもたらされたと言ってもいいのではないだろうか。