冬は苦手だ。朝はベッドから起きるのも辛い。いっそこのまま布団にくるまって何もかも忘れてしばらく冬眠出来たらと思う。でもそれができないからしぶしぶ諦めるところから一日はスタートするけれど、その後はその後で、着替えの時がまた寒いのなんのって。体中の肉という肉を震わせながら寝間着を脱いで制服に体を通さなくてはいけない。完全に着終わるまでのあの必ず凍えなければいけない時間が嫌いだ。
眠気の残る頭と顔で階段をとんとんと降りていくと、目の前でちょうど妹が鏡を見ながらボブヘアーの丸っこい髪型を整えているところだった。まだ出てなかったのか。何も言わずにこのまま後ろを通り抜けて登校するのもなんだか気まずい気がしたので、とりあえず確認にもならない言葉を言った。
「今から出るのか」
「うん」
鏡を見ながら美也はさらに言葉を続けた。
「じゃあせっかくだから一緒に行こうよ」
頬を擦るような冷たい空気。もういよいよ冬本番って感じだ。毎年この時期になると、なんだか物悲しいというか物寂しい気持ちになる。心が欠けた感じというか、何かが足りないっていう感じがして、何かで埋めたくなる。何でこんな気持ちが起こってくるのか ―― まぁその理由は心当たりがあるけれど ―― 今年こそはそれを癒せるのではないか、それどころか、完全に埋めることができるのではないか。何も欠けることなく、不平不満が湧き上げってくることなく、じれったさを感じることなく、“そこ”にすっきりと綺麗な形のピースを当てはめることができるのではないか。そして凍えるような体を抱えてじんわりと温まっていく心を確かめながら、賑やかできらびやかな街中でほっと幸せなため息がつけるのではないか。そんな予感を、探るようにして感じていた。
「珍しいこともあるもんだねぇ~。高校生になってからにぃにと朝一緒に家を出ることなんてめっきり少なくなったのにね」
と、僕の大事な考え事を突き破って美也が訊(き)いてきた。
「そうだな」
割と広めの道路と、わずかな緑で飾る街路樹、表面がきちんと整備された歩行者通路。その道を沿っていくつもの一軒家が並んでいる。自慢ではないがここ一帯は結構、小奇麗(こぎれい)でいい感じの家がずらっと並んでいる地域だ。そこに僕の家はある。両親の仕事のおかげで小さくない、というか比較的大きめの一軒家で、過不足ない暮らしができている。
代り映えのない、見慣れたいつも通りの通学路を淡々と歩を進めていく。前方には同じく学校へと向かう制服の姿の人がちらほらと見える。
「ねぇ、にぃにと森島先輩って、仲いいの?」
前だけ真っ直ぐ見たままの美也が僕に訊いた。何を聞き出す気だよ。
「なんだよ、急に」
「この前にぃにが変質者みたいにみゃーを襲った時、うれしそーに森島先輩に『妹です』って紹介してたじゃん」
数日前に、僕が朝食の仕返しを込めて、登校中の美也を驚かせようとちょっとした早朝ドッキリを仕掛けた時のことだ。
「人聞き悪い言い方するな……。っていうかあの時、何でお前、先輩が話し掛けてるのにすぐどっか行っちゃったんだよ。先輩、がっかりしてたぞ」
「……あっそ」
「なに怒ってんだよ」
「怒ってないっ」
そこでこの会話は打ち切りになった。道中、この前美也に紹介してもらった友達の中多さんを混ぜて三人で登校した。中多さんは終始また恥ずかしそうにしていて、美也が一方的に話す形になったせいでまともに会話になっていなかった。あの子、いつもあんな調子なのかな?