「ようこそいらっしゃいました」
侍女と共に港に着いた私を恭しく迎える中年のやや太り気味の男。
「貴女の到着を心待ちにしておりましたよ」
「機関の最高責任者自ら出迎えていただけるとは、ありがとうございます」
皮肉を篭めて返した返事に男は笑う。
私がそれだけ価値があるモルモットと言うことか。
或いは大事にしたい人質と言うことかもしれない。
「キリシア閣下に何か言われています?」
「貴女を直接私が迎えに来たのはキシリア閣下の事は関係ございません。優秀なニュータイプである貴女自身に期待しての事です」
何も言われていないはずがない。
お父様は中立的な立場だったとは言え、ダイクン時代の高官。さらにデギン公王と懇意にしているとは言え、明確なザビ派ではなく、あくまで今現在も中立派なのだから。
ジオン暗部を司るキシリアなら私を人質にと考える事だろう。
中立宣言したコロニー内に作られたジオン施設の責任者だけはあるのか、中々の狸らしい。
NTの研究の被検体として扱われる事を拒否していた私の精一杯の二度目の皮肉さえもかわし、中年の男は手を広げて言った。
「我がフラナガン機関へ、歓迎いたしますよ。ハマーン・カーンお嬢様」
サイド6へ来て早々、実験をされることになった。
手術台のような物に座らされ、体にコードのついた何かをぺたぺたと貼り付けられる。
そして腕に何かを注射された。
「今のは?」
「精神をリラックスさせて感覚を広げやすくする薬ですよ。気持ち良くなって眠くなったら寝ても構いません。その間の脳波を測るのが目的ですので」
そう言って白衣の科学者らしき男は離れていった。
強制的に精神を弛緩させる薬を使われ嫌悪感がわいてくる。
ニュータイプの研究所らしいが、やってることは前時代的で野蛮だな――と思いつつ、意識があやふやになっていく。
『ハマーン、ゆっくり眼を閉じ、意識を自分の体から出すイメージを浮かべてみるんだ。その部屋だけではなく、コロニーの外、宇宙空間がどうなっているかを考えてみなさい』
スピーカーからフラナガン博士の声が聞こえる。
素直に従ってやる義理はないのだが、薬の影響か私は言われた通りにした。
眼を瞑り、周りを、世界を想像する。
『おお、これは!』
スピーカー越しに驚いているフラナガン博士の声が聞こえた。
何故か見えるはずのない興奮し歓喜している姿が頭に浮かぶ。
見えないのに見える不思議な感覚はもっと広がる。
コロニー内を歩く人、動く車、港に停泊してる艦船に作業している人々。その感覚はどんどん広がり、コロニーの外の宇宙が頭の中で見えた。
その瞬間、私の中に記憶が入り込む。
日本で生まれ、幼稚園小学校中学校に通い、高校はミッション系の高校に入り、大学では友人達に囲まれている。社会人になって、それから――。
「ぐぅぅ、これは何っ!!!」
頭に激痛が走った。
ゲームやマンガやドラマが好きで、中学の時に塾の先生に『ガンダム』の録画ビデオを渡され見させられた思い出が蘇る。
「これは……私は……ァァアアア……」
『何をやっている! すぐに――――』
激痛に耐えられず気絶する寸前に全ての記憶を思いだした。
こことは違う世界で育った、前世の自分の記憶を。
ハマーン様に転生した一般人が、割とテキトーな原作知識を基に頑張っていくお話予定です。
「俗物が!」とかはそのうち言うかもしれません。
でもしばらくは前世がただの一般人なのもあって、年相応の少女かも?
上手く描けるかわかりませんが、よろしくお願いします。
m(__)m
ぶっちゃけ偉そうで傲慢で孤高で高飛車なハマーン様が好きなのですが!
ハマーン様主役の長編小説があまりないので書いてみました。
(つд`)