宇宙で見る夢   作:メイベル

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第10話

 ゼロ・ジ・アールのコクピットから気配を探る。

 

「そこ!」

 

 モニターに映った蒼い機影に向かいメガ粒子砲を放つ。

 しかし複数のビームは機影を捉えることなく、蒼い残滓を掠めただけだった。

 

 通信機越しに、少し焦ったようなナタリー中尉の声が聞こえる。

 

「ハマーン、回避行動を」

「分かってる!」

 

 相手を探しつつ、攻撃を喰らわないように機体を動かす。

 自分では素早い機動をしているつもりだけど、ゼロ・ジ・アールの巨体は思うように動いてくれない。

 

「機体が重い!」

「ハマーン! 下よ!」

「しまっ、キャァ!?」

 

 ナタリー中尉の忠告を受けて気づいた時には、下方に居た蒼いリック・ドムから直撃を食らう。そしてコクピット内に警告音と撃破判定の赤い文字がモニターに浮かんだ。

 

 一方的にやられた私に、最後通知が届く。

 

「今の撃墜判定で、ゼロ・ジ・アールの機動試験を終了します」

 

 

 

 

 

 テストが終わり、MSデッキにゼロ・ジ・アールを格納する。

 巨体なのでデッキへの出入りは気を使う。

 

 無事に機体を格納し、コクピットから出て待っていたマリオンとナタリーに合流した。

 

「またマリオンにやられたわ。大きい分小回りが利き難くて、機動力があるMSに近づかれると回避に難があるわね。AMBACシステムにもまだまだ問題がありそう」

「完成すればIフィールドで防御面は今よりましになるわよ」

「実弾や至近距離からのサーベルには無力じゃない。細かい姿勢制御は今以上に必要だわ」

 

 テストして問題に感じた点をナタリーと話し合う。

 彼女を通じて開発部に情報がフィードバックされるので真剣だ。

 

「攻撃に関しても、未だに本物のビーム兵器が未完成なのは何故なの? テストは仮想ビームで出来るからいいけど」

「Iフィールドジェネレーターの出力が安定しないのと、それに伴って高威力でのメガ粒子砲の収束が上手く行かないみたいなのよ。だから暫くは機動テスト中心になるわね」

 

 思ってた以上に問題は山積みだった。

 ゼロ・ジ・アールは、MSを上回る高火力とIフィールドによる防御で編成艦隊並の戦力を持たせるとのことだが……。

 

 実際に艦隊を圧倒したノイエ・ジールを知っている身としては、現状ではあまりにも遠い目標に思えてしまう。

 

「それよりも驚いたわ。ハマーンもマリオンも年の割には凄いんだもの」

「そうね……。マリオンは凄いわよね。私は毎回撃墜されてるし」

「ハマーンも凄いわよ。データを見ると分かるんだけど、殆どの面で正規パイロットの平均を上回ってるもの」

「でも命中率は酷いんじゃないかしら?」

「それはハマーンの問題じゃなくて、マリオンを誉めるべきね。相手の攻撃に対して回避行動に入るのが早いのよ。さすがニュータイプね」

 

 ナタリーは慰めてくれる。

 彼女の言うとおりにマリオンの回避が凄いのだろう。

 でも私も同じNTなのに、何故こうもマリオンに回避されてしまうのだろうか。

 

 疑問に思ったことを察したのか、マリオンが静かな声で回答をくれた。

 

「ハマーン様は攻撃が素直すぎるから。攻撃しようとする意識が真っ直ぐで避けやすいんです」

「それはハマーンが直情的って事?」

「そうではなくて、例えばシーマ中佐のように避けさせる事が目的の攻撃などがないんです」

「監察官のシーマ中佐ね。あなた達と中佐って仲がいいわよね。中佐はちょくちょくテストを見に来てるし」

 

 そう言えば前にシーマ中佐が私に対してマリオンと同じ様な事を言っていた。

 改善してるつもりだけど、性格的な物なのか直っていない様だ。今後は上手く追い込むような攻撃の練習もしようと思う。

 

 だけど私だけの問題だろうか?

 模擬戦で私の攻撃をあそこまで完璧に避ける人はマリオン以外には居ない。シーマ中佐でさえ被弾させた事があるのだから、やはりマリオンが凄いだけな気もする。

 

 NT同士の戦いで勝つにはどうするべきか考えて居ると、ナタリーから朗報がもたらされた。

 

「ニュータイプと言えば、もうすぐ専用機が出来るらしいわよ」

「それは本当なの?」

「もちろん。エルメスのサイコミュシステムを小型化した物を作ったらしいわ。ハマーンのリック・ドムはそれの実験機にするって聞いてるわよ」

 

 アクシズのNT研究所に協力しているかいがあった。

 

 ゼロ・ジ・アールの開発が難航しているので、その分はNT専用MSの開発を急ぎたい。

 NTは私だけではなくマリオンも居る。自分以外のNTである彼女が居る事で助かる事は多い。気持ちの面でも、実務の面でも。

 

「ゼロ・ジ・アールの開発と平行してNT専用機の方もテストしたいわ」

「ハマーンが頑張らなくてもマリオンが居るわよ?」

「ニュータイプ二人でテストしたほうが、違うデータが取れて開発が進むんじゃないかしら?」

「それはそうかもしれないけど……」

 

 姉妹のように私に接してくれるナタリーの事だから、無理をしてるのではないかと心配なのだろう。でも確実に次の戦いが在ることを知っている私は、なんとしても戦力が欲しいのだ。

 

「大丈夫。無理はしないわ。出来る事をするだけよ」

「ハマーンって可愛い顔して意外と頑固よね」

「ナタリーって美人なのに意地悪ね」

「「……む~」」

「ナタリー中尉、実験機の名称は決まっているんですか?」

 

 軽くにらみ合っていた私とナタリーに割り込むようにマリオンが質問した。

 本気でにらみ合っていた訳ではないので、ナタリーは明るくマリオンに応えた。

 

「えぇ、シュネー・ヴァイスって言うらしいわ」

 

 

 

 

 

 機動性が改善されたというゼロ・ジ・アールのテストの為に、MSデッキにナタリーとマリオンの二人と共に来ると、士官服を着た女性がゼロ・ジ・アールの前に立っていた。

 

 顔の右側を髪で隠した女性士官は、私を見て軽く笑った。

 

「こいつのテストを、あんたの様な子供がしてるとはね。ジオンも落ちた物だねぇ」

「モニカ大尉、お言葉ですがハマーンがテストパイロットをするのは、マハラジャ提督やエンツォ大佐が認めています」

 

 ナタリーは知り合いらしく、明らかに私を馬鹿にする女性士官に対して弁護してくれた。

 しかし相手はそれに満足しなかったようだ。

 

「上がどう考えてるか知らないけどね。私はパイロットとして心配してるのさ。敵と戦ってる時にそこの小娘に後から撃たれちゃたまらないからね」

 

 テストパイロットをするようになってから、MSデッキで私を見て絡む人は少なくなかった。中には目の前の女性士官のように私やマリオンを馬鹿にする人も少なくない。

 

 だから対処には慣れていた。

 

「モニカ大尉、よろしいですか?」

「うん?」

「大尉が私の腕に不安を感じるというのなら、模擬戦でもいかがでしょうか? 是非とも大尉に指導していただきたいのですが」

「ハッ! 言うじゃないか。いいだろう」

「モニカ大尉! ダメですよ! ハマーンも!」

 

 私も最初はナタリーのように言葉で対処しようとしていた。

 でも上手く行かずにソフィアーネに相談したのだ。彼女に相談した結果は『実力を見せて納得させるのが一番だ』と言う事だった。それ以来、模擬戦をすることで相手を納得させてきた。私に負けてまで文句を言う人はいなかったのだ。

 

 シーマ中佐達やマリオンと嫌というほど模擬戦をして、自分の腕にある程度自信が持てたから出来る対処法だけどね。

 

「大尉との模擬戦なんてさせられません!」

 

 いつもは渋々許可をだすナタリーが憤っていた。

 テストで出る時は大抵マリオンと一緒に出て模擬戦のような事をしているので、絡まれた時はそのついでとばかりに許可してくれたのだけど。

 

 相手が自分の知り合いだから止めたいのだろうか?優しいナタリーらしいと思う。

 それとも過去の場合で止めなかったのは、相手が男性だったからだろうか。軍人社会での男性相手にナタリーも思うところがあったのかもしれない。

 

 硬直した状態を、よく知った声が動かした。

 

「構わないさ。許可なら私が出そうじゃないか」

「シーマ中佐!?」

 

 シーマ中佐が現れ、ナタリーとモニカ大尉が敬礼した。

 中佐はモニカ大尉を試すように見て、その次に私を見て微かに笑う。

 

「前線に出るパイロットとしては味方の実力を知りたいってのは尤もな事さね。上には私が許可を取っておくから、ナタリー中尉はモニカ大尉のサポートを。ハマーン様のサポートはマリオンがやんな」

「ハッ! ナタリー・ビアンキ中尉、了解しました!」

「マハラジャ提督のご息女だからね。念の為にうちの艦隊員のMSを数機出して監視させてもらう。モニカ大尉、それでいいかい?」

「ハッ! 中佐のお心遣い感謝します!」

 

 場を一瞬で纏めて仕切った中佐は、マントを翻して去っていった。

 

 模擬戦は試験予定のゼロ・ジ・アールを使わずに、マリオンのリック・ドムを借りて行う事になった。自分用ではない機体だけど……。私を信頼して場を作ってくれた中佐やリック・ドムを貸してくれたマリオンの為にも、全力を持ってモニカ大尉と戦おうと思う。

 

 

 

 

 

 モニカ大尉との模擬戦が終わった。

 

 結果は私の勝利だ。

 大尉の腕は良かったが、シーマ中佐やマリオンと模擬戦を何度もしていたおかげで勝利する事ができた。しかし途中幾度か危機感を抱かされたのは、さすが実戦経験者というべきか。

 

 リック・ドムから出ると、ヘルメットをとったモニカ大尉が握手を求めてきた。

 

「手こずるどころか、まさか私が負けるとはね」

「いえ、たまたまです」

「そう言う事にしとこうか」

 

 デッキに迎えに来てくれたナタリーとマリオンの所へ二人並んで向かう。

 その時にフワっとモニカ大尉の前髪が浮かび、顔の右側が眼に入った。髪で隠していた場所は火傷のような跡が……。

 

「モニカ大尉、火傷ですか?」

「あぁ、これか。昔任務中にちょっとね」

 

 驚いて反射的に口に出してしまった。

 女性の顔にある怪我の跡なのだから、もっと慎重になるべきだったのに。

 

 申し訳ないと思い後でソフィアーネにフォローの仕方を相談しようと考えて――ある事を思い出した。こういう時の為に、アクシズへ持って来た技術があるではないか。

 

「モニカ大尉、私の知り合いに医療用のクローン技術に関するデータを持っている人がいます。もしかしたらお顔の傷跡を治せるかもしれません」

「え?」

 

 常に強張ってたモニカ大尉の表情から毒気が抜けた。

 それを見て率直に言わせてもらえば、可愛らしいと思ってしまった。

 

「同じ女性として、アクシズの仲間として、お顔の傷跡を治したいと思うのですがダメでしょうか?」

「い、いや、出来るなら頼みたいけど……」

「では一緒に私の知り合いの所へ」

 

 今度は私の方から手を前に出して握手を求めた。

 戸惑いながらも大尉は私の手をとってくれる。

 

 後は持ってきた技術が使えるようになっているかなんだけど、その点は心配していない。ソフィアーネの事だ。使える物は使えるようにしているはずだ。

 

 後日、試験中に髪を上げたモニカ大尉が挨拶しに来てくれた。

 

 

 

 

 

 ゼロ・ジ・アールとシュネー・ヴァイスのテストを行う日々が続く。

 

 ゼロ・ジ・アールは機動性が大幅に上がり、巨体でありながらも高機動を実現した。その分パイロットの負担が大きくなり、複数在るメガ粒子砲の制御と合わせると操作が複雑になってしまった。以降の開発方向としては、回避行動のオート化か各操作の可能な限りの簡易化に進むらしい。

 テストパイロットの意見として簡易化の方を推しておいた。ミノフスキー粒子下ではレーダー類が乱される為に有視界戦闘になるのだから、機器に頼るオート回避の信頼性は低いと思ったからだ。

 

 NT専用機シュネー・ヴァイスの開発テストはマリオンと交代で行った。マリオンは新型機としてケンプファーも動かしていたので、交代で行うのが丁度良かった。

 シュネー・ヴァイスはリック・ドムの背中に小型化されたサイコミュユニットを取り付けた機体だ。小型化と言ってもエルメスの3分の1程度なので、MSにしては大きすぎた。その上にビットが内蔵できず、専用の運搬ユニットという外部オプションが必要だ。テストは主にパイロットとサイコミュとビットの親和性を試験しているが、不具合がでて中々上手くいっていない。完成にはまだ時間がかかりそうだった。

 

 忙しい日々の中、嬉しい情報が飛び込んできた。

 

 停戦が決まり、連邦の支配を良しとしない人々や軍艦がアクシズに来るようになっていた。

 そうした一団の中のひとつに、知人が居たのだ。

 

 

 

 ――80年12月。

 

 私の誕生日の前の月にその艦はやってきた。

 

「ソフィアーネ、アイナ様がやってくるって本当?」

「はい。シーマ中佐にも確認して頂きました。ザンジバル級機動巡洋艦ケルゲレンを旗艦として、同艦と共に複数艦来たそうですが、その中の責任者の一人にアイナ・サハリン様のお名前がありました」

 

 ザンジバル級のケルゲレン。

 08MS小隊ではジム・スナイパーに撃沈された病院艦だったと記憶している。

 

 まさかケルゲレンがアクシズに来るとは思わなかった。

 私の知る史実と違う何があったのかという疑問と、同時に無事なアイナ様に会える嬉しさを持って宇宙港へ向かう。

 

 ケルゲレンが収容された宇宙港に着くと、士官数人を連れた短髪の女性がお父様やエンツォ大佐と挨拶をしていた。

 

「本来の責任者であるギニアス・サハリン少将に代わり、代理を勤めていたアイナ・サハリンと申します」

「兄上のギニアス少将の事は残念でした」

「いえ、兄もジオン将兵を宇宙へ逃がし、連邦の部隊を道連れにしたのですから本望だったと思います」

 

 アイナ様の言葉の後に短い黙祷があった。

 

 お父様達の後ろに立って聞いていた私は驚愕していた。

 アイナ様には失礼かもしれないが、妹すら手にかけたあのギニアス少将が味方を逃す為に行動したように聞こえたからだ。アイナ様の優しさから来る名誉の為の嘘ではなく、真実身を挺したのだと伝わる感情から分かって余計に混乱してしまう。

 

「このエンツォ・ベルニーニ、ギニアス少将の我が身を省みぬ行動には感服します」

「共に来た方々の受け入れは早急にしましょう。エンツォ大佐」

「お任せを。士官の方やご家族から順次移って頂きます。サハリン家のアイナ様には特によいご自宅を提供しましょう」

 

 私が混乱する中でどんどん話は進んでいた。

 受け入れの話が終わると、アイナ様の後ろに立っていた軍人達の紹介に移る。

 

 そして一人の軍人が前に出た。

 

 アジア系の黒髪の若い士官。

 アイナ様が居るからもしかしたらと思ったが、まさか一緒に来て居るとは。ジオンの士官服を着ている為に気づかなかったが、彼は……!

 

「彼は追手の連邦軍との戦いを指揮してくれた方です」

「聴いていますぞ。到着前に戦闘データを見せてもらいましたが、見事な指揮でしたな。自らもMSで出て何機か撃墜したらしいではないですか。シロー・アマダ少佐」

 

 エンツォ大佐が彼をべた褒めしていた。

 

 それを聞いてホっと安堵の息を吐く。連邦兵だった彼の正体を心配したが大丈夫なようだ。ジオン所属のケルゲレンに乗ってきたのだ。アイナ様か誰かがジオン用の身分を作ったのだろう。

 そう安心したが、私は彼の性格を失念していた。不器用に真っ直ぐな彼ならば言うかもしれない事を。

 

 一度目を瞑り、覚悟を決めたように敬礼した彼が口を開いた。

 

「自分は、元連邦軍東アジア方面軍機械混成大隊第08MS小隊所属、シロー・アマダ少尉であります!」

 

 事前に知っていれば言わせないように動いたかもしれない一言。

 

 歓迎ムードだった港は、騒然となった。

 

 

 

 




ここで重要なお知らせです。

わたくし、ハマーン様の年齢を間違えておりました!
ごめんなさい!すいません!
87年に20歳になるハマーン様。
誕生日が1月なので、作中79年では12歳ですよね。
1歳年を取らせていました!
すいません、ごめんなさい。修正しておきました!
m(__;)m


さて、Zのアニメをやっと見終わり更新再開。
ご飯中や寝る前に見続けてようやっとです。
映画1~3とTV版50話は長かった……。

見直した感想。
色々ありますが~、結局シロッコは何がしたかったのでしょう?
パプテマスさんのキャラがただの詐欺師にしか思えず、とっても困ります。
女性の敵だと言うのは分かるんですが。大物なんですよね?
(;'-')


あとがきが長くなるのですが、C.D.Aを読んでない方のために軽く説明。

シュネー・ヴァイス。
背中に大きなサイコミュユニット、肩に補助用ショルダーブロックをつけた白いリックドム。
ビットは運搬用キャリアーで別途運ぶし、ビット以外録に攻撃手段がないしと、まさに試作機。

モニカ・バルトロメオ大尉。
エンツォ大佐の側近の一人。
MS部隊隊長で気が強く、操縦の腕に自信を持っている人。

C.D.A補足以上。


女性ばかり活躍するこのお話ですが、やっと待望の男性登場!
性格的にジオンの為には積極的に戦わないだろうシロー少尉ですが……。

次回はギニアス少将の話を挟むか悩みます。

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