テラをかける少女   作:NBRK

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第九話 協力関係

 

 フェンに案内された、とは言っても家に入って廊下を歩いただけだが、その先は野戦病院を彷彿とさせる光景が広がっていた。

 

 血と肉が焦げた様な臭いがして、ズィマー達は顔をしかめる。アタシでさえこの臭いにはいつまで経っても慣れないのだから、昨日まで学生だった自治団には相当キツいものだろう。

 

 今はフェンが状況の説明を行なっている。相当手が足りていなかったのか、医師らしき2人の喜びようが凄かった。

 

 挨拶をする間も惜しい、との事で早速治療に取り掛かる。とはいえ経験のほぼない自治団メンバーは主に軽傷者の手伝いに回され、唯一戦場での経験が多いアタシだけが重傷者の治療のサポートに回った。

 

 特に傷の深かったアドナキエルという奴の治療は困難を極めた。どうやら爆弾がゼロ距離で爆発したらしい。破片で体はズタズタに引き裂かれ、普通なら到底生き残れそうもない様子だった。しかし、2人の医師のうちのサルカズの方の医療系アーツにより一命を取り止めた。

 

 医療系アーツというのは特に習得が難しい。優れたアーツ技術の他に、医者としての深い知識が求められるからだ。実際、傭兵仲間に医療系アーツを扱える者はほとんどいなかったのがその証拠だろう。

 

 そんな環境に居たわけだからアタシの知る医療行為というのはだいぶ荒っぽいもので、正直役に立てたとは思えなかった。それでも治療が終わった後2人にはとても感謝された。なんでも指示に対して躊躇いなく従ってくれたのが良かったとか。…まあ確かに傷は見慣れてるからな。

 

 

 

 そうして一つの山場を超えて、相手側の代表者とズィマーが対峙する。

 

「治療への協力に感謝する。私はロドス・アイランド行動隊A4隊長、ヤトウだ。」

 

 ヤトウと名乗った女は、仮面で目元を隠した鬼の剣士だった。左手を吊った状態で頭を下げる彼女からは歴戦の戦士の雰囲気が感じられる。

 

 しかしそこは流石のズィマー、臆することなく堂々と名乗りを返す。

 

「ウルサス東学生自治団団長、ズィマーだ。感謝を言う必要はない。アタシ達にも考えがあってのことだ。」

 

「ふむ…。それで、その考えとは?」

 

「なに、そんな難しい話じゃない。アタシ達はここを脱出した後の居場所を探してる。そこで、あんたらの組織、ロドス・アイランド?とやらにアタシ達を受け入れて貰いたい。その対価として、アタシ達があんたらの撤退を支援する。」

 

 ズィマーが早速本命の要求を切り出す。対するヤトウはその言葉に対し全く表情を変えずにズィマーを見つめる。チッ、こう言うところも一流かよ。

 

 反応がない様子に、ズィマーは焦りと苛立ちを見せる。

 

「どうした、あんたらにとっても悪い話じゃないはずだろ!?16人中まともに動けるのは6人、重傷者が3人。あんたらだけでこのチェルノボーグを出るのは不可能なはずだ!違うか!?」

 

「ああ、確かに悪くない話だ。だが、君たちは私達の実力を知らないだろう?どうしてそう言い切れる?また、君たちがロドスにとってマイナスの因子になる可能性も捨てきれない。君は、自分達がロドスに害を為さないと示せるか?」

 

「ああ?んなこと言わなくとも、アタシ達には他に選択肢がねえんだ。ただで受け入れてもらえるとは思ってねえ。あんたらの指示には従うつもりだし、アタシが不満は言わせねえ、それで十分だろ?」

 

 まずい、ズィマー、それは悪手だ。害意がないことを伝えるのはいいが、こちらから選択肢がないことを教える意味はない。

 

 案の定、ピクリとも動かなかったヤトウの表情が変わり、その口角が上がった。

 

「フフッ、物怖じしないところは良かったが…20点と言ったところか。」

 

 しかし、その口から出た言葉はアタシが予想したようなものではなかった。ズィマーもそこで己の失態を悟り、悔しげな表情でヤトウを睨みつける。それをなだめるように優しい口調でヤトウは話を続けた。

 

「すまなかった、試すような真似をして。だが許して欲しい。私としても助けは欲しいところだったが、ロドスに不穏分子を持ち込む訳にはいかないからな。今の言葉で安心したよ。こちらからも是非ともよろしくお願いしたい。」

 

 そう言って差し出された手を、ズィマーは乱暴に握った。しかし地力が違うのか、ヤトウは涼しげな表情を崩さない。それがズィマーの苛立ちを加速しているようだ。ありゃあ大変だ、イースチナ頑張れ。

 

 ヤトウはそっぽを向いてしまったズィマーに満足げに頷くと、今度は視線をアタシに向けてきた。

 

「それで、君はどうする?協力者ということは聞いているが、私達が脱出した後はレユニオンに戻るのか?」

 

「アタシは…、わからない。けど、レユニオンに戻ることは無いと思う。アタシの目的は果たされたからな。また流れの傭兵にでも戻るかもな。」

 

「いいのか?どうにもお仲間は君について来て欲しそうだが…。」

 

 確かに自治団から凄い視線を感じる。特にグム、その握りしめたフライパンは何に使うつもりだ。

 

「バカ言え、レユニオン上がりの奴なんてあんたが認めても上の方が認めないだろ。」

 

「いや、ロドスは経歴を問わないのだが…。まあいい、気が変わったら言ってくれ。こちらとしては君のような精鋭が入ってくれると嬉しい。」

 

 こうして協力関係は成立した。ロドスが感染者の治療を目的とした組織と聞いた時はどうなるかと思ったが、自治団の反応は思ったよりも普通だった。なんでも、「ハイネと会う前なら断ってたかも」だそうだ。調子が狂う。

 

 気になっていたうさ耳女たちについて聞くと、なんとあのうさ耳女はアーミヤといってロドスの最高責任者だそうだ。どうにもこいつらは元々アーミヤ達の本隊との合流地点を守っているところを攻撃されたらしい。

 

 そしてヤトウ達を襲ったレユニオン、これが問題だ。

 

「白髪に赤い角、爆発物を使うサルカズですか…。」

 

「ああ、しかも手榴弾に時限爆弾、地雷となんでもござれだ。こちらからの接近は配下の兵士たちに阻まれて、一方的に爆破されてしまった。何より恐ろしいのは味方の兵士を巻き込むことも厭わないあの残虐さだ。」

 

「くそっ、普通のレユニオンですら面倒なのに…、ハイネ?どうした、頭抱えて。」

 

 ああ最悪だ。よりにもよってあの人か。どうしてこうも上手くいかない。

 

「…それは多分、Wって言う傭兵だ。アタシの傭兵としての師匠みたいな人だ。」

 

「師匠?それなら何でそんな嫌そうな顔してんだ?それだけ強いってことか?」

 

「それもある…けど、とにかく性格が悪い。いっつも人を馬鹿にして、嫌味を言わずには喋れないのかって何度も言いたくなった。その癖強いし罠に嵌めてくるしで毎日死ぬ思いだった…。」

 

 アタシの恨みのこもった話に室内の雰囲気が一段と暗くなる。これから脱出だってのに勘弁してくれ。悪いのはアタシだけど…いや違う、全部Wが悪い。

 

 しかし一つ疑問が残る。6年前、偶然出会ったWと過ごした日々は1か月にも満たない短い時間だった。その時の記憶では、あの人がレユニオンのような思想に染まるタイプでは無いように感じた。何故あの人がレユニオンに?

 

 その疑問を隅に追いやり、とにかく彼女と出会わないことを祈る。気まぐれなあの人のことだ、きっとどこか別の場所に行っているはず…。

 

 しかしそんな都合の良い祈りが届くはずもない。

 

「あ〜ら、さっきのロドスの奴らじゃない。しぶといわねー全く。」

 

 西門を目の前に置いた広場、夕日を背に、最後の砦がアタシたちの前に立ちはだかった。

 

 




フェンたちの部隊の正確な規模がわからなかったので、とりあえず行動隊A4、行動予備隊A1、A4にプリュムとジェシカを足した人数としています。何か矛盾があったらすみません。
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