テラをかける少女   作:NBRK

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5/26 一章第五話の本文を一部修正しました。
ストーリーに大きく関わる変更ではないので特に確認しなくても大丈夫だと思います。


第二話 出会い

「参ったなこれは…。どうしたもんか。」

 

 意気揚々として龍門の入り口へ向かったアタシが目にしたのは、設置された検疫所に群がり暴動を起こす人々だった。それを遠巻きに見守っている男に近づき声をかけてみると、男はひぃっ!、と情けない声を上げて飛び上がった。

 

「な、な、何だよ脅かすなよ!ん?子供?どうしてこんな所に…。」

 

「あー、アタシはまあ…旅をしててな。なあ、何でこんなことになってるんだ?」

 

「何でってそりゃああのレユニオンとかいう感染者どものせいに決まってるだろ!あいつらがチェルノボーグを落としたせいで龍門も感染者の取り締まりを強化してるんだ。そしたらどこから来たのか感染者が見つかるわ見つかるわで。しまいには逮捕しようとする近衛局と感染者でドンパチ始まっちまった。あぁ恐ろしい。さっさととっ捕まえて欲しいよ。」

 

 その話を聞いて昂っていた気持ちが一気に沈んだ。ウルサスから出てみても感染者の扱いはどこも同じか。まあ確かに今は警戒されても仕方ない面はあるが…。

 

 男に礼を言って、こっそりとその場から離れる。とにかく正面から入るのは無理そうなので、外周に沿って歩いて何かないか探してみることにした。

 

 そうやって30分ほど歩いただろうか。ここまでは巨大な堀に囲まれていて街並みは遥か遠くにしか見えなかったが、その状況に変化が生まれた。堀の外側に町がある。そこからはとても身に覚えのある雰囲気が滲み出ていた。間違いない、スラムだ。

 

 移動都市の外周には、決まってこういった大きいスラムがある。実はこういったスラムは感染者にとって比較的住み心地の良い場所となっている。

 

 いかに感染者に対して厳しい国家であっても、全ての感染者を捉えることは難しい上に、捕らえた感染者を下手に扱えば都市内部から感染が広まりかねない。そこで、各都市はこういったスラムを黙認することで感染者たちを一か所に集めて管理しているのだ。

 

 感染者側としても、貧しく不衛生な生活を強いられるものの、少なくとも捕らえられたり迫害されたりしないので皆がスラムに集まってくる。こうして、移動都市は上手く鉱石病から身を守っている。

 

 というわけで、アタシはスラムに足を踏み入れた。ひどい臭いがする場所だが贅沢は言っていられない。まだ昼間ではあるが、日没までには寝床を確保しておきたいため、住民の居ない場所がないか探しながら入り組んだ道を歩いていく。

 

 そんな時、突然首筋にピリッとした感覚を感じ、アタシは一度立ち止まった。警戒モードのスイッチを入れ、歩みを速める。

 

「…………。」

 

 右。右。左。2つ直進して左、そのまま引き返す。そうやって歩き続けたアタシは、遂に袋小路へ追い詰められた。

 

「…誰かは知らねえけどやるな。まさかアタシがここまで追手を撒けないとは。しかもその上、袋小路に誘導までするなんてな。」

 

 振り返ってそう言うと、アタシが通ってきた道から2人の女が現れた。1人は180cmはあろうかと言う長身に三角形の大楯を持った鬼、もう1人は二振りの剣を腰に刺した龍の女だった。龍女が口を開く。

 

「警告する。無駄な抵抗さえしなければ命までは取らない。近衛局まで同行願おう。」

 

「それはまた突然だな。ちなみにそれはどういった要件で呼ばれているのか聞いてもいいか?」

 

「フン、残念だがお前の姿は既に近衛局に割れている。対話は時間の無駄だ。ホシグマ!」

 

「了解!」

 

「っ、問答無用かよ…。くっ!」

 

 鬼の女が盾を構えて突進してくる。それを一歩身を引いて躱すも、空いている手がアタシを撃ち抜かんと振り抜かれる。目まぐるしく降り注ぐ攻撃をなんとか防ぐが、一歩一歩と壁に追いやられてしまう。

 

「貰った!」

 

 そして遂にアタシの背中が壁に付いた。それを好機と見たのか鬼女はその盾を大きく振りかぶった。馬鹿め、油断したな。

 

 その見え見えの隙を見逃すアタシではない。アーツを発動して左へ転がり回避しようとする。しかしここでアタシは自分の失敗に気づいた。

 

 鬼の女の体の影から、龍の女が現れたのだ。体勢を崩しているアタシはこれ以上回避はできない。その右手に握られた剣が、側面(・・)を向けて振り下ろされる。アタシは右手を剣と自分の間に滑り込ませた。

 

「ほう?」

 

「峰打ちとは…。舐められた、もんだな!」

 

 力任せに剣を受け止めている腕を振り抜き、剣をかち上げる。そうして生まれた隙に最速でタックルを喰らわせる。体勢が悪く大した威力は出なかったが、相手を数歩分吹き飛ばすことに成功した。

 

 戦況がリセットされ、再び一対二の睨み合いが始まる。…いや、違うか。

 

 いつの間にかさっきまで感じなかった気配が増えている。この場所を囲むように10数人ほどが均等に配置されているようだ。どういうことだ?アタシは初めからマークされていたのか?

 

「おい、アタシには心当たりがないんだが、いい加減追われてる理由くらい教えてくれてもいいんじゃないのか!」

 

「フン、この期に及んでまだ惚ける気か。お前の姿がチェルノボーグで目撃されている。それだけ言えばわかるだろう?レユニオンの構成員。」

 

「!、何故その事を!?……いや、なるほど。スパイか。」

 

「察しがいいな。お前はチェルノボーグ軍駐屯地での戦闘で大暴れしたと報告されている。要注意リストを見た時は自分の目を疑ったが…見た目に似合わず実力は確かのようだな。」

 

「お褒めに預かりどうも。ちなみに、もう既にレユニオンから抜けたと言ったら、見逃してくれたりはしないか?」

 

「たわけ。お前の言い分を聞くのは取調室の中だけだ。」

 

 なるほど、どうやらアタシに選択肢はないらしい。会話をしながら状況を打開する方法を探す。

 

 地面は土が剥き出しになっている。雨でも降ったのかややぬかるんでいて動きづらい。そして左右と背後には二階建ての建物、屋根の上にも敵が待機している。正面は大楯持ちの鬼と龍女。

 

 取れる策はとても少ない。アタシは賭けに出た。アーツを最大出力で発動し、前の2人を睨みつけて言う。

 

「それじゃあ行くぜ…。しっかり防げよ!」

 

 そう言い終えた瞬間、全力で地面を蹴り建物の壁に張り付く。落下する前に次の壁へ、まるでピンボールのような動きで相手を撹乱していく。

 

「何て速度だ…。隊長、私の影に隠れてください。」

 

「ああ、任せた。」

 

 龍女が鬼の女の背後に隠れ、鬼の女がどっしりと盾を構えた。そう、それを待っていた…!

 

 狙いが的中した事を確認して、アタシは敵2人の正面の建物の壁に飛び移った。勝負は一度だ…絶対に成功させる!

 

 壁が凹む程の力で壁を蹴り、超高速のドロップキックを放つ。2階の壁から跳び、矢のように進むアタシの先には鬼の女が立ち塞がる。

 

 ゴォン!という激しい音がして足と盾がぶつかり合う。しかし盾は揺るがずに、見事にアタシの蹴りを受け止めて見せた。だが…それがアタシの狙いだ!

 

「足場、借りるぜ?」

 

 衝撃の反動、アーツ発動中のアタシの脚力、そしてぬかるみのない強靭な足場。条件は整った。

 

「ぶっ飛べぇぇぇぇ!」

 

 アタシの足が盾を強烈に蹴り付け、鬼の女が後ろへ吹き飛ぶ。そして、つい先日の焼き直しのようにアタシの体が空高く舞い上がった。待機していた敵達も、自分の頭の上を飛んでいくアタシを見上げるしかできない。

 

 そんな奴らに手を振って、アタシの体はスラムの中央方向へ向けて飛んでいく。落下が始まったアタシの進む先には走る人影が…人影!?

 

「おい!避けろぉぉぉぉ!」

 

 アタシの声がギリギリ届き、その人影が足を止める。その瞬間、その目と鼻の先の地面にアタシが空から飛び込んだ。ぬかるんだ地面がその衝撃を受け止めきれる筈もなく、ずるり、と足が滑る嫌な感覚とともにアタシは地面を転がり、逆さまになって壁に激突した。反転した視界の中、ぶつかりかけた少女と目が合う。

 

「あの…大丈夫?」

 

 これが、アタシとミーシャの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、逃したか。」

 

「すみません、隊長。追いますか?」

 

「ああ。そう遠くには行っていないはずだ。だが無理はするな、見つけたら怪しい動きがないか監視して私に伝えろ。無理して戦闘に持ち込む必要はない。」

 

「なるほど、隊長はどうされますか?」

 

「私はこの後ロドスの代表者を迎えに行かなくてはならない。ホシグマ、後の指揮はお前に任せた。」

 

「了解!」

 




最近とても忙しくなかなか執筆時間が取れません…。次回更新は土曜日の予定です。
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