テラをかける少女   作:NBRK

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二章最終話です。長くなってしまったので2話に分けるか悩んだのですが、結局1話として投稿することにしました。

ミーシャ視点から始まります。




二章最終話 雨

 どうしてこうなってしまったのだろうか。…いや、わかっている。こうなったのは紛れもなく私のせいだ。あの子を信じられない私の弱さが原因なんだ。

 

 3日間いつも隣に居たあの子はもう居ない。あの温もりも、優しさも、全部自分自身で過去のものとしてしまった。その代わりに今の私の周りには、全身を重装備で覆った近衛局の隊員の人達と、その隊長さんが居る。しかし彼らは私のことを見ようとはしない。距離も詰めようとしない。私と彼らの間の不自然な距離が、感染者であるということの意味を嫌というほど私に感じさせた。

 

 …やっぱりわからない。どうしてあのロドスの人達は龍門に協力するのか。何故同じ感染者同士で戦うのか。同じ苦しみを知っているはずなのに、どうしてあんなに躊躇いなくレユニオンの人達を傷つけられるのか。それに…あのスカルシュレッダーと言う人は…もしかすると…。

 

 頭の中で疑問が渦を巻いている。そのせいで目の前を歩く隊長さんが足を止めたことにも気付けず、その背中にぶつかってしまった。

 

「痛っ、す、すみません…。」

 

「いえ、問題ありません。ただ、この辺りはまだ敵が展開している可能性があります。気を抜かないように。」

 

「…はい。」

 

 まるで機械のような対応だった。怒りも優しさも感じられない無機質な声。…でも私は知っている。私を受け入れてくれた子達から話を聞いたからだ。

 

「チェンさん…でしたっけ。あのスラムには…他にも感染者の子供がたくさん居ます…。どうか、あの子たちのことを…。」

 

「龍門と龍門の市民を守るのが近衛局の仕事です。…しかし、感染者は龍門の市民ではありません。」

 

「……。」

 

 その言葉を聞いて、私は思わず手をぎゅっと握り締めていた。こうなることなんてわかっていたのに、どうしてそんな馬鹿な質問をしたのだろうか。アタシが目を伏せて黙り込んでいると、小さなため息と共に、再びチェンさんが話し始めた。

 

「ですが…龍門の感染者は間違いなく龍門の一部なんです。」

 

「えっ…?」

 

「今後どうなるかはわかりませんが…、私は私のやるべきことをやるだけです。」

 

 顔を上げると、チェンさんは既に私に背を向けていた。しかし、その声には今までにない感情が込められていた。怒り、悲しみ、優しさ、色々な要素がごちゃ混ぜになったような声だった。

 

 その声の理由が知りたくて、私はチェンさんとの距離を一歩詰めて言った。

 

「…あの子達から聞きました。チェンさん、あなたはこれまでも…。」

 

「それは私がやるべきことをやったまでです。」

 

「………ありがとう。」

 

「……。」

 

 私が全てを言い終わる前にチェンさんは言葉を被せてきた。それはこれ以上話す気はないという意思表明に思えた。

 

 正直、私は誰も信じられない。ロドスも、近衛局も、ハイネのことも。ただ、チェンさんが今までこのスラムの子供達にしてきたこと、それについての感謝だけはしておきたかった。結局、チェンさんは私の感謝の言葉に対して何か反応をすることはなかったけれども。

 

「…どうして我々があなたを探していたかわかりますか?」

 

「わかりません…。でも、もしかしたら…原因は私自身じゃなくて…私の、お父さん。」

 

「そうです。あなたの父親はチェルノボーグで最も高名な科学者であり、同時に政治的にも重要人物でした。…確証はありませんが、あなたの身にもそれだけの価値がある可能性があります。そのため、あなたがレユニオンの手に落ちる事だけは避ける必要があったのです。」

 

 そうか…やっぱり原因は私自身じゃなかったんだ…。その事実に私は納得すると共に、酷く落胆したような気持ちになった。故郷を追われて…感染者になって…酷い扱いを受けて…訳もわからず狙われて…、挙げ句の果てにその理由は私自身じゃなくて私の父親だなんて。私のことなのに、私を無視して物事が進んでいく。誰も私のことを見てくれない。唯一私と向き合ってくれた子は自分で拒絶してしまった。もう、()が生きている意味なんて…()自身の価値なんて…ないんじゃないのか。

 

 そうだ、私に価値なんかない。それに気付いた時、私は猛烈な息苦しさに襲われた。思わずその場に蹲る。気持ち悪い、目が回りそうだ。

 

 突然の私の異変を見て近衛局の隊員たちに動揺が走る。爆発すると思ったのか、一斉に距離を取り盾に身を隠している。唯一チェンさんだけが、私を恐れずに手を伸ばしてきた。

 

「ミーシャ!?どうした、大丈夫か……ムッ!」

 

 しかし、その手が私に触れることはなかった。

 

「ようやく見つけたわよ!龍門近衛局!あなた達に恨みはないけど…あなた達の為に、最高のシナリオを用意したわ!さあ、開演よ!」

 

 高らかな声と共に現れたのは、赤い服を身に纏ったサルカズの女性だった。そして彼女の宣言と共に、無数のレユニオンの兵士が私達に襲いかかって来た。

 

「くそっ、一体どこにこれだけの数を隠していた…。ミーシャ!私から離れるな!各員、敵を護送対象に近付けるな!」

 

 了解!と揃った声が返って来て、近衛局の隊員も迎撃を開始した。しかし、スカルシュレッダー達と戦った時は圧倒していたはずの近衛局だったが、今は立場が逆転し徐々に劣勢に立たされていった。

 

「ま、まさかこいつら全員サルカズだって言うのか!?隊長!まずいです、止めきれません!」

 

「チィ…特別督察隊の主力部隊に連絡して援軍を急がせろ!」

 

「ダメです!あちらもレユニオンに足止めを食らって動けないそうです!しかもあちらの敵はたったの1人とのことです!」

 

「馬鹿な…!レユニオン如きにそんな連携が取れるはずがない!しかも1人だと!?まさか…!」

 

「そのまさかよ、特別督察隊隊長さん。」

 

 気が付くと、私とチェンさんは5人の敵に囲まれていた。そして正面には初めに姿を現したリーダーらしき女性が立っている。彼女は妖艶な笑みを浮かべて言った。

 

「隊長さん、わかっているわよね?あなたの考えが正しいということは援軍は一生待っても来ないということよ。私も鬼じゃないわ。大人しくそこのミーシャを差し出すなら手を引いてあげるわ。」

 

「ほざけ。この程度の数で私を下せるとでも思っているのか?思い上がるのもいい加減にしろ!」

 

「…ふーん。あっ、そう。それなら仕方ないわね。じゃあ標的を変えることにするわ。」

 

 そう言うと今度は彼女は私に視線を向けて来た。…なんだろう、まるで全てを見透かされているかのような不思議な目だ。言いようのない不安に駆られながらその目を見つめていると、突然彼女は笑い出した。

 

「あっはっはっ!あの子のお気に入りと聞いて気になっていたけれど…。やっぱりあの子の趣味はよくわからないわね。ねえミーシャ、あなたの今の気持ちを当ててあげるわ。不安なんでしょう?当然よね、龍門が感染者にしてきたことを考えれば。信頼できる人もいない、困難を跳ね返す力もない、挙げ句の果てに、追われる理由すらあなた自身を目的としたものではなかった。生きていく理由が分からなくなっているんでしょう?」

 

「……っ。」

 

「図星かしら。その顔、まるで世界で一番自分が不幸だとでも言いたそうな顔ね。そう、確かにあなたは不幸だわ。でもそれを理解してくれる人は龍門には居ないわ。それが何故だか分かる?」

 

「ミーシャ!奴らの話に耳を貸すな!」

 

 チェンさんが私に何かを言っている。しかしそれが聞き取れないほどに、私は彼女の話に魅入られていた。

 

「それはね、あいつらにとってあなたは不幸であるのが当たり前だからよ。あなたが感染者である限り、あいつらはあなたを同じ人間とは見ないわ。でも、私たちなら違う。」

 

 そう言って、彼女は両手を私に向けて広げるジェスチャーをした。

 

「こっちへ来なさい。ミーシャ。私達ならあなたの不幸を分かってあげられる。志を同じくする仲間として歩んでいけるわ。レユニオンはあなたの父親を求める奴らとは違うわ、今の、感染者となったあなたそのものを必要としているわ。もしあなたがこちらへ来たいと思うのなら…自分の足で一歩を踏み出しなさい。」

 

 私が、必要とされている…?その言葉は、言葉にできない様な快感を伴って私の心へ響いてきた。気がつくと、無意識に私は片足を前へ向けて踏み出そうとしていた。

 

『ミーシャ!』

 

 しかし、頭の中に響いた声にその足が止まった。思い浮かんだのはちょっと荒っぽい口調で話すあの子の姿。()だから助けるんだ、と言ってくれた人。あの子と過ごした3日間が、私の一歩をギリギリの所で引き止めていた。冷静になった私の耳に、チェンさんの叫びが聞こえて来る。

 

「ミーシャ、よく聞いてくれ。確かに龍門は感染者に対し厳しい政策を取っている。だがそれをいつまでも続けるつもりはない。私が、この龍門を変えてやる!だから戻ってこい!」

 

 そうだ…。この人は、感染者である子供達の世話をしてくれていた。感染者も龍門の一部だって言ってくれた。この人なら…。

 

 一度傾いたシーソーが、ゆっくりと戻り、反対側へ傾いていく。そうだ…私は間違えない…。チェルノボーグの悲劇を思い出せ!

 

 

 しかし、拮抗したシーソーゲームは

 

 次の一言によって、一瞬で決着を告げた。

 

 

 

「ねえ、ミーシャ。」

 

「○○○○が、待ってるわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ。」

 

 

 

 私の右足は。

 

 紛れもなく、一歩を踏み出していた。

 

 

 

「決まりね!さああなた達、行きなさい!」

 

 私達を囲っていた敵が一斉にチェンさんに襲いかかった。そしてチェンさんがそれを受け止めている間に、目の前の女性は一瞬で私を抱き抱えて駆け出した。

 

「くそがぁ!舐めるな!」

 

「馬鹿ね!吹き飛びなさい!……皆!作戦目標を回収したわ!撤退よ!」

 

 4人を振り払ったチェンさんが猛烈な勢いで追って来たが、女性は爆発物を投げてその勢いを封じた。そして他のレユニオンの人たちが足止めをしている間に、私は遥か遠くへと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 こうして、私はレユニオンに加入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、ロドスめ…!絶対に…絶対に許さん!喰らえっ!」

 

 スカルシュレッダーの攻撃を至近距離で受け、アタシの体が宙を舞った。そして地面に落下する直前にリスカムに受け止められる。畜生、体が思うように動かない…!アタシの背後に迫る敵を切り裂いたフランカが怒声を上げた。

 

「ちょっと!何やってるのよハイネ!戦いに集中しなさい!」

 

「くそっ、悪い…。」

 

「謝る暇があったら体勢を立て直しなさい!やる気がないなら邪魔なだけよ!」

 

「わかってるっての…!」

 

 ミーシャ達と別れた後すぐに、アタシ達はレユニオンの襲撃を受けた。敵の数は圧倒的で、アタシ達は持久戦を強いられていた。敵集団の頭はやはりスカルシュレッダーだった。ミーシャがいない今、奴の爆撃を止めるものは何もない。その上、アタシは謎の不調に陥っていた。気持ちが戦いに向いて行かないのだ。この戦場で最も足を引っ張っているのは間違いなくアタシだった。

 

 結局ロドスのドクターとやらにアタシは後方へ下がるよう命じられた。そこからさらに時間が流れ、遠くの空に見えていた黒い雲がいつの間にかスラムを覆い、雨が降り始めた。アタシは後方でレユニオンの雑魚を倒していたが、その間に前線ではスカルシュレッダーを今にも追い詰めようとしていた。

 

 しかしここで、突然レユニオンが信号弾を打ち上げ撤退を始めた。突然の行動にロドス側にも動揺が走る。しかしその答えはすぐにもたらされた。

 

「はい、こちらアーミヤです。……えっ?そ、そんな!どういうことですか!?」

 

 ただ事ではない様子のアーミヤに注目が集まる。通信を切ったアーミヤが、深呼吸して口を開いた。

 

「ミーシャさんが…レユニオンに連れ去られました…。」

 

 は?と自分の口から間抜けな声が漏れた。

 

 しかしその音は、地面を打つ雨の音にかき消された。

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!これにて二章は完結です。
正直、二章はどの話も難産でした。いまいち盛り上がりに欠ける展開が続いてしまったのは申し訳ないと思いました…。
その分三章ではバンバン盛り上げていきたいと思っているのでこれからもよろしくお願いします!

二章までの感想、評価等ありましたら頂けると嬉しいです!

それでは、一章同様に図鑑情報を公開したら、二章は完全に終了です。更新は明日を予定しています。二章の展開に関する軽い解説や三章以降の更新予定についてもそこに書く予定なので是非とも覗いてみて欲しいです!
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