あの後、傭兵として正式に契約したアタシはメフィストの推薦で50人規模の分隊長として駐留軍への強襲を命じられた。
初めはこのチェルノボーグへの攻撃を馬鹿げていると思っていたアタシも、メフィスト達から聞いたレユニオンの戦力に思わず舌を巻いた。これだけの頭数を一体どうやって集めたのか。ぽっと出の傭兵なんぞにポイと50人を預けられるだけはある。
予定時刻を迎え、他の分隊と共に混乱の治まらない軍の駐屯地に奇襲をかける。流石に正規軍だけあってこちらの戦闘員は次々と倒されていくがそれを数の力で押しつぶしていく。
そしてアタシは1人敵陣に切り込み、建物へ侵入し、敵兵を1人捕らえて憎い男の居場所を問う。抵抗されるが、掌を果実を絞るみたいに握り潰してやると、半狂乱になって命乞いをして、居場所を吐いた。
その部屋の前に辿り着き、ドアを蹴破ると、中には大袈裟なくらいの重装備で身を固めた男が、今にも出陣しようと準備していた。
突然のことに身を固めるそいつに全力で殴りかかる。吹っ飛んで壁に衝突したところに追い討ちをかけるように腹部にもう1発。拳が鎧を突き破り、腹を貫いて血の花を咲かせた。
そしてその首を掴み、問う。
「おい、痛えか?後悔したか?なんか言ってみろよ!オイ!」
「っ!感染者のクズ共が…やはり貴様らなんぞ生かしてお…」
その言葉を言い終わる前に、全身鎧の上から首を潰され、その男は絶命した。
あの日から6年、アタシの復讐はあまりにも呆気なく終わりを告げたのだった。
制圧が完了し、駐屯地の建物の屋上にレユニオンの旗が立つと、周囲から地鳴りのような歓声が上がった。アタシはそれをどこか他人のことのように感じていた。
本当にこれが、こんなものがアタシが追い求めたものなのか?
嬉々として次の殺戮と強盗を為さんと動き出す仲間たちを尻目に、死体の転がっていない場所を見つけて座り込む。どれくらいそうしていただろうか、今まで少しも使う場面の無かったインカムに初めて通信が入る。メフィストからだ。いやに上機嫌な声が聞こえてくる。
「やあ。そっちは片付いたかな?それなら西地区のポイントA-6で合流してくれないかい?」
「はぁ?予定にないぞ。どういうことだ。」
「いやね、面白いものを見つけてね。とにかくそういう事だから、僕たちは先に行ってるよ。」
それだけ言って通信が切れる。クソッ、つくづくムカつく奴だ。だがこれでも一応は雇い主、複雑な思いを隅に追いやり、指示されたポイントに向かう。
10分ほどかけてポイント付近に到着すると、何やら戦闘の音が聞こえてきた。様子を見るために近くのマンションの屋上に飛び乗りポイントを確認すると、二つの集団がまさに激突している最中だった。
片方はメフィスト率いるレユニオン、もう片方は…何だ?チェルノボーグの軍とは違うみたいだが。
その中でも一際屈強な男の指示で放たれた砲撃が高台を撃ち抜くと、メフィストの怒りがピークに達する。その脇を突破しようとする謎の集団。…そろそろ出て行かないとまずいか。
様子見のために登っていた建物から一っ飛びで謎の集団の前に躍り出る。
「なっ!?子供?」
「アーミヤ!今は関係ない!突破する!」
先頭を走る白髪の騎士が躊躇う事なく盾を構えて突進してくる。それにタイミングを合わせて、しっかりと腰を落として真っ直ぐに打ち抜く!まさか反撃されるとは思っていなかった様子の騎士は吹っ飛ばされて後続集団に受け止められる。
「にっ、二アールさん!大丈夫ですか!?」
「くっ、油断した。大丈夫だ、戦闘行動に支障はない!」
「へぇ、やるじゃん。アタシの拳を受けて無事なんて。」
様子見の一撃とはいえ、まさか盾の1つも壊せないとは思わなかったので、素直に驚く。ここでメフィストがアタシの到着に気づき、表情を一変させる。
「は、ははははは!そうだ、そうだよ。僕としたことがつい取り乱してしまったよ…!ハイネ!そいつらを殺せぇ!」
「うわぁこれ絶対アタシのこと忘れてたなあいつ。つー訳だ。あんたらに恨みはないけど……ブッ潰す!」
今度はこっちから、1番実力の高そうに見える、先ほど狙撃を指示した男に突貫する。しかしさっきの騎士がもの凄いスピードで男の前に立ち塞がり再び盾と拳がぶつかり合う。
今度は互いに油断なしの激突。一瞬の攻防の末、拳が僅かに力で勝り、騎士が体勢を崩す。そこに追撃を加えようとするが、それを許さんとばかりに、騎士の体勢が崩れたことで開けた斜線から男がナイフを投げてくる。
慌てて身を反らして避けたところに今度は横から迫っていた犬耳の女の音速の鞭が襲い掛かる。なんとか顔面で受けることは避けるが腹に強烈な一撃を受け、よろめく所にうさ耳女の黒いアーツが追い討ちをかけてくる。
「(こいつら…強い…!)」
たった一度の激突で分かるだけの練度の高さ。ここで仕留められてもおかしく無かった。しかしここでメフィストの部隊の一部が相手集団に攻撃をかける。それに乗じて体勢を立て直す。
「はは、面白ぇ!」
こりゃあこの状態のままじゃ負けるな。そう判断して、一旦距離を取り、目を閉じて自分の体に意識を集中させた。
瞳の裏に映るのはあの日の炎、あの日の熱さ、苦しさ、絶望が心を黒い炎で炎上させる。
パチッ、と頭の中で何か弾ける感覚がして、思考が一気にクリアになる。そして、自分指先、筋肉、骨、髪の一本一本までの状態が手に取るように理解できるようになる。
砕けた肋骨はより強固に、筋肉はゴムのようにしなやかで鋼のごとき強さに、アーツが体中を回ってアタシの体を作り変えていく。
目を開けて、トントン、と体の調子を確かめるように爪先で床を叩く。完璧にコントロールできている。今日のアタシは絶好調だ。
「(準備完了…ブッ飛ばす!)」
体から赤い蒸気を巻き散らし、こちらを警戒する騎士の目の前まで、一瞬で移動する。そして右足を振り上げ、全力のかかと落としを放つ。間一髪避けられたが、その余波で地面は陥没し、アスファルトが盛大にめくれあがる。
唖然とする謎の集団に笑みを送って言い放つ。
「さあさあ、こっからが始まりだ。楽しもうぜぇ!」
基礎情報
[コードネーム] ハイネ
[性別] 女
[戦闘経験]6年
[出身地]ウルサス
[誕生日] 3月27日
[種族] サルカズ
[身長]151cm
[鉱石病感染状況]メディカルチェックの結果、感染者に認定。