テラをかける少女   作:NBRK

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第八話 ロドス・アイランド

 天災の襲来前とは一転して、自治団はゆっくりと歩みを進めていた。その原因が自分であることがとても歯痒いが、それを口に出すとズィマーはまた怒りそうなので黙って歩き続ける。

 

 天災の影響でレユニオンの数が減っているのは不幸中の幸いだった。こまめに隠れて偵察を出しながら進んでいるが、まだ一度も戦闘にはなっていない。あれだけの数が居たのなら生き残りが居てもおかしくないと思うが…。

 

「一旦止まりましょう。そろそろ偵察を出さないと危険です。」

 

「ああ、わかった。全員止まれ!あそこの建物に入るぞ!」

 

 なんとか形を保っている建物に身を隠し、偵察隊を送り出す。今回はグムを中心とした3人小隊で行くらしい。

 

「ハイネ、大丈夫ですか?水でもあれば良かったんですが。」

 

「ああ、大分落ち着いた。なんとか歩けるくらいには回復したから大丈夫だ。」

 

 かなり長々と肩を貸されていたおかげで、アタシの体力も大分回復した。とはいえ戦えるかと言われると微妙ではあるのだか。

 

 イースチナもその言葉を聞き安心したのか顔を緩ませて、良かった、と呟く。しかし緩んだ顔は一瞬で引き締まり、ある懸念を口にする。

 

「それにしても…さっきの火柱は何だったんでしょうか。」

 

「分からない…けど、何となくだけど自然に起きたものじゃない気がする。もしあれがアーツなら、絶対に会っちゃならねえ種類の相手だ。」

 

「……あれは西門の方角で発生していましたね。」

 

「祈るしかねえよ。今更ルート変更ってわけにもいかないしな。」

 

 

 

 

 

 

 その後も同じ動きを繰り返し、門までの距離が1キロを切った。途中、火柱が起きたと思われる、熱で焼け焦げた場所を通ったが、それらしき人影どころかレユニオンの1人すら居なかった。そこに存在していたのは熱で溶けた瓦礫と、元の姿が分からない程に焼け焦げた等身大のナニかだけだった。そこから目を背けるようにアタシ達は先へ進んだ。

 

 そして、残り800メートル、あと少しという所で、偵察隊からこれまでとは違った報告がされる。

 

「生存者ぁ?レユニオンじゃなくてか?」

 

「本当だよ!ちゃんとレユニオンの制服を着てないのを確認したから!でも、怪我してて動けなくなってるみたい…。」

 

 グムからもたらされた情報は、まさかのアタシ達以外の生存者の存在だった。まさか生き残りが居るとは思っていなかったからか、団員達からは喜びの声が漏れる。

 

 しかし当のズィマーは苦い顔をしている。確かに、生存者がいるのはいいかも知れないが、現状自治団だけでも危うい所に人が増えるのは得策ではない。しかも負傷しているというのなら尚更だ。

 

 ただ、団員達の喜びようと、ズィマー自身の意思が判断を迷わせているようだ。

 

「助けに行こうよズィマーお姉ちゃん!せっかく此処まで来たんだもん、皆で脱出しようよ!」

 

「待て待てグム、そうは言ってもアタシ達だけでもギリギリなんだぞ?というか、もっと詳しく聞かせろ。人数は?どんな奴らだ?怪我の状態は?」

 

「えっと…多分10人は居たかなぁ?青系のコートを着てる人がいて…皆武装してたよ!何人かは起き上がっていたけど、立ち上がれない人もいるみたい。」

 

「10…多すぎる。しかも立ち上がりすら出来ねえ奴が居るんじゃ無理だ。グム、諦めろ。」

 

「ええ!?そんなぁ、何とかしてあげようよ!ねえ!」

 

 食い下がるグムやそれに賛同する年少組をズィマーとイースチナが説得しようと試みる。自治団のメンバーは16人、半数を超える人数の負傷者を受け入れるのは流石に不可能だろう。説得を手伝おうと腰を上げる。

 

 しかし、ここで何か頭に引っかかる感じがして、動きが固まる。中途半端な姿勢で止まったアタシに、ズィマー達も口論を止めてこちらを見てくる。青いコート、武装、どこかで…?

 

 頭に浮かんだことを確かめるためにグムに尋ねる。

 

「なあグム、その青系のコートってどんなのだったかわかるか?」

 

「へ?えーっとね、確か真っ青!って感じじゃなくてグレーに水色のラインが入ってる感じだったような…どうしたの?何か気になるの?」

 

 それを聞いて、あのうさ耳女の姿が頭に浮かんだ。よく思い出すと、あいつらは同じようなコートを着てる奴が多かった。ただ、10人というのは少なすぎる気がするが。

 

「ズィマー、そいつらはアタシが今日戦った奴らの仲間かもしれない。レユニオンと敵対してたし、接触してみる価値は有ると思う。」

 

「お前もかよ…もしその予想が合ってたとしても、そんだけのリスクを犯す意味はねえだろ。違うか?」

 

「いや、ある。確かにここじゃ意味無いけど、ここを出た後に意味が出てくる。」

 

 そういうと、イースチナは何かに気づいたようでハッとした表情を見せる。

 

「つまり…チェルノボーグを脱出後、その人達の所に保護してもらう、ということですか?」

 

「ああ、あの実力…。少なくともその辺のしょぼい組織では無いと思う。」

 

 正直これは賭けだ。何しろアタシが見たのは相手の実力だけで、あいつらが何者なのかは全くわからない。しかし、ズィマーはもう決断したようだ。

 

「イースチナ、今チェルノボーグに1番近い都市がどこかわかるか?」

 

「確か…龍門が今1番近かったはずです。でもここからだと徒歩なら5日はかかると思います。今私達には殆ど物資もありませんし、無事にたどり着くのは困難です。」

 

「はぁ、どの道選択肢はない、か。わかった。グム!案内しろ!すぐに出るぞ!」

 

「うん、任せて!よーし、皆、グムについて来て!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グムの先導で歩くこと数分、例の場所に着いたが、そこには瓦礫が広がるばかりでは人の姿は見えない。

 

「おい、本当にここだったのか?誰もいねえじゃねえか。」

 

「あれぇ?おかしいなぁ…確かにここだったはずなんだけど…。」

 

「身を隠しているのかも知れません。少し辺りを探してみましょう。」

 

 イースチナの提案により、手分けして周囲を探す。相当な重症だったらしいから、そう遠くには行っていないはずだ。

 

 それにしてもこの辺り一帯は特に崩壊が激しい。戦闘があったのだろうか、所々に爆弾が爆発したような跡がある。爆弾…か。

 

 脳裏に以前出会ったサルカズの傭兵の姿が浮かぶ。いや、まさかあの人がこんな所に居るはずが…。苦々しい記憶が思い出される。同じサルカズのよしみとか言って、当時駆け出しの傭兵だったアタシを鍛える…という面目で散々弄んで笑っていたっけ。散々罠に嵌められて爆破されて…、お陰で戦場に慣れるまでは早かったけど。

 

 そうこうしている間に、探索は進み、アタシはある一軒家の前にたどり着いた。ボロボロになってはいるが、概ね形は保たれてるし、身を隠すならうってつけかも知れない。

 

「おい!誰かいねえのか!」

 

 …返事はない。誰も居ないのだろうか。入り口の扉に耳を当てるも、アーツなしでは特に聞き取れるものはなかった。

 

 仕方ない。開けるか。

 

 ドアノブを回し、慎重に扉を開ける。特に罠もないようだ。

 

 僅かにだけ開けた扉を一気に開け放つ。開けた視界に映ったのは、槍を構えた青髪の女……!?

 

「はぁぁっ!」

 

 裂帛の気合と共に突き出された槍がアタシの頬を薄く切り裂く。間髪入れずに2撃、3撃、豪雨のような連続の突きが体を貫かんとする。

 

 防戦一方となり、そしてついに致命的な隙を晒してしまう。まずい、獲られる!

 

 その隙を見逃さんとばかりに槍使いが強く踏み込む。しかしそこでバランスを崩し槍はアタシの体の横を掠めるに留まった。…足か!

 

 体勢を立て直そうとする槍使いに今度はこちらから接近する。苦し紛れに放たれた払いを体を屈めて躱し、肉薄、狙うは…踏み込み足!

 

 渾身の蹴りがその場所を捉える。予想した通り、足を負傷していたらしい槍使いは苦痛の声を上げて崩れ落ちた。なおも抵抗しようとするが、その前にアタシに組み伏せられる。

 

 騒ぎを聞きつけて、他の団員も集まって来た。

 

「おいおい、こりゃ一体どういう状況だ?」

 

「アタシに聞かれても困るって…。コイツが急に攻撃して来たから対処しただけだよ。」

 

「は?……って当たり前だろうが!自分の格好思い出せ!」

 

 あ、やばいまた忘れてた。…制服はともかく、このマントだけでも脱いどくか。

 

「え…ウルサスの学生?なんでレユニオンと…。」

 

 槍使いは女だった。困惑した様子で会話するアタシとズィマーを交互に見ている。

 

「あー、アタシはズィマー。見ての通りウルサスの学生で、こいつらのリーダーだ。そこのレユニオンの服を着ている奴はハイネって言うんだが、色々あってチェルノボーグ脱出に協力してもらってる。アタシ達に敵対する意思はない。こっちの偵察隊があんたらを見つけたから確認しに来たんだが、他の奴らはどこに居る?」

 

 ズィマーの言葉を聞いて、槍使いの体から力が抜けた。それを確認して拘束を解く。おっとっと、気が抜けたのか忘れていた疲労が襲ってきてよろけてしまう。

 

「すっ、すみません!私、早とちりしてしまって。」

 

「いや、気にすんな。自分の格好忘れてたアタシが悪い。それで、どうなんだ?」

 

「は、はい。私達はレユニオンと戦っていて…それで敗北してしまって。とどめは刺されなかったものの身動きが取れなくなっていました。なんとか動ける者たちでさっきの家まで避難していた所でした。」

 

「で、こいつが来た、と。」

 

「本当にすみません…。」

 

「ハイネも言ってただろ?あんまり気にしないでくれ。とにかく案内してくれるか?アタシ達も余裕がある訳じゃねえが、治療の手伝いくらいは出来る。」

 

「それは助かります!私はフェン、見ての通りの槍使いです。仲間の所まで案内します、付いてきてください。」

 

 そう言ってフェンは家の中へ歩き出す。足の痛みがあるだろうに、それを悟らせない様子は流石によく訓練されているなと思う。

 

 そして予想通りのデザインのコート、その背中に刻まれた文字。

 

"RHODES ISLAND"

 

 その名前を、アタシはひっそりと心に刻み込んだ。

 

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