憑依転生失敗話   作:天狗道の射干

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16年前のマイナーゲームが原作の二次とか、一体誰得なのでしょうね。
取り敢えず作者得ではあるので、良く分からないまま見切り発車で初投稿です。

それと再度警告。原作カップリングで固定なのは、ウルとアリスだけですのでご注意を。


プロローグ

――1894年12月、露西亜はサンクト=ペテルブルグ郊外――

 

 

 大修道院の敷地内にある一区画。雪が降り続ける寒空の下、並び立つ墓所を前に一人の少年が佇んでいる。

 キャラメルブラウンの髪を短く切り揃えた幼い少年は瞳を閉じて、土の下に眠る母の冥福を心から祈っていた。

 

 だが同時に思う。少年の心の中は、美しい祈りだけではない。勘当した娘とは言え、故人と化せば墓所を用意する程度の情はあったらしいと。失笑する心の中に淀んでいるのは、母の生家に対する恨み。そして、誰も母を助けてはくれなかったと言う憎しみ。

 

 宮中に出入りする貴族の出であった彼の母は、皇太子に見初められ少年を産んだ。

 だが皇太子は彼女を娶る事はなく、故に落胤たる少年は誰にとっても都合が悪いだけの存在となった。

 

 この時代、王族の婚姻と言うのは国家政略の一つ。国同士でより強く結び付く為にも、皇太子が一貴族であった少年の母を娶る訳にはいかない。その理屈は、幼い少年にも分かる。

 認知されていないとは言え、王族の血を宿す少年が厄介な存在なのは間違いない。醜聞になるならまだマシで、最悪は国を割る引き金だ。母の生家が殺せ捨てろと喚くのも当然の事だろう。

 

 だが理解出来ているからと言って、納得できると言う訳ではない。そうとも、二度目の生を受けたとは言え、其処まで大人には成り切れない。

 実家の命に抗って勘当されて尚少年を愛し育てた母への感謝は深まれど、死の間際となっても助けに来なかった実家と父への恨み憎しみは募るばかり。

 

 何せ、母が死んでまだ一月も経っていない。父である皇太子が即位して、英国女王の孫娘を娶った彼の日。少年の母は失意の中で、己の生涯を終えたのだから。

 

 ああ、今になって理解する。“原作”におけるあの男の行動を。あの男は大切な事を履き違えていたのであろうが、それでも根底にはきっと世界への深い憎悪が溢れていたのだ。今の己と、同じ様に。

 叫び出しそうになる程に荒れ狂う思いを抑える為、少年は首から下げたロケットを強く握り締める。その日暮らしの貧民には不釣り合いなそれは、“原作”の知識を使って手に入れた物。

 

 知っていたのだ。ロシアの地下には王宮にまで続く地下水道が存在していて、其処で死した貴族の首飾りが道の途中に落ちているのだと。

 知っていたのだ。サンクト=ペテルブルクの町中には笑ってしまう程に善人な時計技師が住んでいて、まだ珍しいカメラを保有していると。

 

 ロケットを開ける。写真に映る愛しい姿は、柔らかな笑みを浮かべた母。彼女に誓う。必ずや、貴女の未練を果たしてみせると。

 

(或いは物心付いてより、ずっと待ち続けて来た運命の時がやって来る)

 

 ザクザクと積もった雪を掻き分けて、近付いて来る足音に胸を躍らせる。漸くにその時が来たのだと、これが最初の試練である。

 “原作”において少年は、これより現れる男に拾われる。行き場のない少年はこの足音の主の手によって、バチカンの宿舎へと入れられるのだ。

 

(“原作”と同じ、末路などは御免だ。何も為せなかった“ニコル”と言う男には成りたくない)

 

 表向きは聖堂騎士を育てる為の孤児院は、その実秘密結社の先兵を鍛え上げる為の場所。ロシアに巣食う大悪の、手駒を磨くだけの場所。

 其処で育ったニコラス・コンラドは、秘密結社の幹部へと登り詰める。世界を滅ぼす程の力を持った悪魔と契約を交わして、求めたのは皇帝の座。

 

 その最中でニコルは一人の男に執心し、彼に懸想する乙女に歪んだ執着を抱き、果てに悪魔にその魂を喰われてしまう。

 怪物と化して大罪を犯し災厄を振り撒いた後、全てを失った空虚な男の手によって命を終える。何も為せずに、富士の山で没するのだ。

 

(何も為せないまま、終われはしない。その為に、始まりがこの時だ。此処で一歩を踏み出す事で、私は私の未来を変える)

 

 原作知識を手に入れたのは、少年が3歳の誕生日を迎えた日。最初はそれが一体何を意味するのか、物心付いたばかりの子どもには分からなかった。

 まるで映画を見ているように、流れていくのは見知らぬ誰かの生涯。実体験など欠片も存在しない記録を見続け、それが何かと初見で検討が付く筈もない。

 

 何処かの誰かの生涯は、毎晩目を閉じる度に脳裏に過ぎった。一晩と言う短い時間の中で、見知らぬ他人の生まれてから死ぬまでを映し出した走馬燈。

 そんな誰かが学生の時分に、遊んでいた一つのゲーム。シャドウハーツ2と言う作品。その意味を知った時にはまるで、気が狂うかと思うような衝撃が胸に走った。

 

 この世界が、ゲームだなどとは思わない。余りにリアルな質感は、画面の向こう側とはまるで違っていると分かるから。

 だがそれでも、何もしなければ同じ結果になるだろう。未来の予知に等しい知識であるのだと、知ってしまった少年は変わった。

 

 理解は怯えと戸惑いに、恐怖は悲痛と憤怒を経て、果てに至るは一つの覚悟。此処に至るまでに、3年と言う月日が掛かった。

 齢六つの少年は、己の至る未来を知ったのだ。原作における彼と、今此処に居る彼の違いなどその程度。知識の有無以外にない。だから分かる。同じ道を辿ったならば、必ずや同じ結果に終わると。

 

 唯漫然と流されるまま、バチカンに向かう様では駄目なのだ。より貪欲に、より強欲に、多くを求めて掴み取る。違う道を辿って進み、出来る事を増やしていかねばならない。

 その為の一歩として今、運命は此処から始まろうとしている。近付いて来る雪を掻き分ける足音が止まったのを確認した後、少年は閉じていた碧眼を開いて振り返る。其処に佇む男に向けて、万感の想いで告げるのだった。

 

「お待ちしておりました。グレゴリオ・ラスプーチン猊下」

 

「ほう。待っていた、と。小僧が、面白い事を言う」

 

 少年の目の前に立つのは、青白い肌をした細身の男。司教服に身を包み不敵に嗤う彼こそは、怪僧グレゴリオ・ラスプーチン。

 史実においては帝政ロシアを破滅に導いた元凶の一つにして、“原作”においてもロシアの乗っ取りを企てていた秘密結社の頂点。

 

「私を待っていた、と。おかしな話だ。お前は私が此処に来ると、知っていたとでも言うのか?」

 

「はい」

 

 グレゴリオは愉しげに嗤う。少年の言を確かに理解して、だがその瞳は全く笑っていない。他者を見極める為の瞳は、機械の様に冷たい色だ。

 それが分かって、少年も笑う。予定通りに興味が惹けたと。そして不敵な笑みを浮かべると、手慣れた所作で懐から3枚のカードを取り出した。

 

「示されたカードは三つ。運命の輪。法王。魔術師。どれも正位置。意味合いは、今更語る必要もないでしょう」

 

「ふむ。占い、か」

 

「趣味として少々、嗜んでおりまして」

 

 これもまた、お人好しな時計技師に頼んで譲って貰った物。彼には頭が上がらないと内心で苦笑しながら、3枚のカードを人差し指と親指で器用に動かす。全ての絵柄を見やすい様に、少年は右手に持った。

 

 博識なラスプーチンは当然、見せられた大アルカナの意味合いを知っている。幾つも解釈が分かれる物であるが、聡明な彼には少年が何と言いたいのかも理解出来ていた。

 運命、幸福な出逢いに恵まれる意。法王、師事すべき者と言う意。魔術師、何かを始めると言う意。

 詰まり学ぶべき人物との出逢い、師事を乞う事を予知していたと語っているのだ。この余りに幼い少年は。

 

「何を言い出すかと思えば下らん。そんな事で、分かる物か」

 

 鼻で嗤いながらもラスプーチンは、内心で少年への評価を引き上げる。力量と言う意味では決して、男に届く事はないだろう幼子だ。

 だがしかし、その頭脳の聡明さには感嘆が漏れる。年の若さに不相応な知識の量と、このラスプーチンを前にして語ってみせる豪胆さも有している。

 

 率直に言って、既に気に入り始めていたのだ。上手く扱えれば、これはとても良い手駒と成れる。そして己ならば、上手く扱えるに決まっているとも。

 だからこそ、放つ圧を高めて挑発的な罵倒を浴びせる。この少年の底が知りたかった。何処まで喰らい付いて来れるのか、男は心底から愉しんでいたのである。

 

「さて、それはどうでしょう。唯少なくとも、聡明であられる猊下は既にご存知の筈だ。未来を視通すかの如き、優れた占い師の存在を」

 

(カルラの事か、それともヨウィスか……この小僧、一体何処まで知っている?)

 

 闇の魔王をその身に宿すラスプーチンの威圧は、大の男でも震え泣き喚くであろう程の物。

 加減しているとは言え、それを一身に浴びて尚も涼やかに微笑む少年。その異常さや異質さは、最早言語に絶する程だろう。

 

 ラスプーチンは当然、少年の素性を知っている。ロシア皇帝の子として産まれながら、母と共に貧民に身を落としていた子どもであると。

 そんな子どもが、どうして知ると言うのだろう。百歩譲って有名なラスプーチンの顔を知っていた可能性は確かにあろうが、少年にカルラの存在が分かる筈もない。

 

 表向きは、直接的な繋がりなどないのだ。それでどうして分かると言う。ロシア正教の大司教として宮廷に勤める裏で、動かしている秘密結社の構成員の存在が。

 カルラだけでも在り得ないのに、少年が語る誰かがヨウィスであるなど更に在り得ない。あれは嘗てラスプーチンに敗れ、歴史の裏へと姿を隠した世捨て人に過ぎないのだから。

 

 明言はしていない。事実占いの技術だけで切っ掛けを掴み、言葉巧みにラスプーチンの思考を操っているのかもしれない。

 だがもしも、真実在り得ない知識を持つのだとすれば。少年の危険度と有用性は、計り知れない程の物となるだろう。ラスプーチンは己の中で、複雑な情が湧き立つ事を実感していた。

 

「とは言え、私はまだ未熟。偶然知ったに過ぎません。貴方の事も、彼女の事も」

 

「……それで、貴様は私に何を望む? その様な言葉を態々口にして、何の意図もない訳ではなかろう」

 

 これは期待か。これは恐怖か。いいや後者は在り得ない。仮にもしもそうだとしても、ラスプーチンの誇りが決して認めまい。

 何の力もない少年の、言葉に踊らされて怯えるなどと。世界を手中に収めんと画策するこの男にとって、最も似付かわしくない物であろう。

 

「高みを!」

 

 ならばそうとも、これは前者だ。力強い瞳で願いを叫ぶ少年の言葉に、全身が震えているのは歓喜の一種だ。

 好奇が溢れる。興味が尽きない。既に異常の片鱗を示すこの少年が、何処まで行けるのか気になって仕方がないのである。

 

「私は高みに立ちたい! 絶対的な力を求めている! 母を虐げ、この身を貶めた、全てを乗り越える圧倒的な強さを!」

 

 爛々と輝く瞳で少年は語る。彼は“原作”で知っているのだ。このシャドウハーツと言うゲームの世界に、存在する絶対的な力の数々を。

 破壊神アモン、魔王アスモデウス、堕天使アスタロトと言う三大悪魔の力。七福神や銅鐸と言った大和に眠る神々の力。超神、天凱凰、アウェーカーと言う三冊の禁書が齎す力。

 

 どれもが世界を滅ぼすに足る強大な力であり、その内の一つを宿す者が目の前に居る。魔王アスモデウスに浸食された、グレゴリオ・ラスプーチンと言う名の男が。

 

「貴方ならば、それを私に与える事が出来る! いいや、貴方にしか出来ない事だ!!」

 

 内の一つすら、巡り合うにはどれ程の幸運が必要になる事か。敵としてではなく、師事を仰げる環境など奇跡に等しい。

 そうであるが故に、原作知識を得た少年は決めたのだ。救えなかった母の未練を晴らす為、何時か必ず出逢えるこの男を利用し切ってみせるのだと。

 

 何れアスタロトを宿す器だ。転生した魂すらも取り込んで見せた存在だ。才気は十分。知性も発達していれば、この怪僧を魅了してみせる事も決して不可能な望みじゃない。

 そう信じて、短くはない時を費やした。唯この一時、ほんの一瞬しかない邂逅の為にこれまで積み上げた全てを賭けた。そんな小さな少年の身の丈に合わぬ意志が積み上げた努力は――

 

「ヒッ、ヒヒッ、キヒヒ」

 

 確かに、此処に結実する。心底から愉しそうに笑うラスプーチンと言う姿を取って。

 ()は興味を抱いたのだ。早熟に過ぎる存在が、果てに何処まで至るのか。気になって気になって仕方が無いと。

 

「良いだろう、小僧。皇帝の落胤に過ぎぬと思っていたが、どうやら私の想像以上だったらしい」

 

 好奇と期待に嗤うのは、人としてのラスプーチンであるのか或いは内なる魔王アスモデウスであるのか。

 僅かな恐怖と破滅の香りを感じ取り、それでも嗤ってしまうのは既にそれ程までに成り果ててしまっているからなのか。

 

 どちらにせよ、構わない。今は唯、この愉悦に浸りたい。故にラスプーチンは、少年に背を向け告げるのだった。

 

「付いて来い。私が貴様を、望む高みへ連れて行ってやろう」

 

 歩き出すラスプーチンに一礼して、少年は深い笑みを浮かべる。最初の試練を乗り越えた。賭けに勝利したのだ。

 踊り出したくなる程の歓喜を、まだこれからだと自制する。スタートラインに立っただけに過ぎないのだから、どうしてこれで歓喜に浸れよう。

 

「はい。有り難き光栄」

 

 それでも、口にした言葉は嘘偽りない真実だった。そうして少年は、ラスプーチンの背中を追う。何時かその背を踏み付けて、更なる高みへ至る為。

 

 

 

 これは――ウルムナフ・ボルテ・ヒューガと言う男が、運命と出逢い幸せを見付ける物語ではない。

 これは――シャドウハーツ世界に憑依転生した現代人が、様々なキャラクターを救済する物語でもない。

 

 これは――憑依に失敗した転生者の影響で、知識だけを獲得した事で早熟してしまったニコラス・コンラドと言う名の男。彼が本当の幸福を掴み取ろうと、藻掻き苦しみながらも進み続ける物語なのだ。

 

 

 

 

 




憑依ニコル、スタート年齢は六歳。幼児にしては信じられないくらい冷静ですが、創作の世界では五歳で嵐を呼べるので僕は悪くありません。


~原作キャラ紹介 Part1~
○ニコラス・コンラド(登場作品:シャドウハーツ2)
 原作ではバチカンに所属するエクソシスト。強大な力を持つ修道騎士団の筆頭。原作開始時の年齢は27歳。
 だがその実は悪の組織の幹部であり、主人公のウルに解呪不可能な呪いを与えた存在。

 発売前のPVでは主役のように扱われており、チュートリアルでも操作キャラであった。
 だが蓋を開けてみれば、チュートリアル終了後に速攻で裏切り行為を披露する。なのでPVに出てくるダンジョンで、ニコルは使えない。CVは子安。

 父はロシア皇帝で、母は宮中に出入りしていた有力貴族の娘。庶子であり、認知はされていない。
 母の死後、ラスプーチンに拾われる。その配下として育てられるが、裏で暗躍。皇帝の座を奪おうとしていた。

 作中でその理由が明かされる事はないが、主人公のウルに強い執着を抱いている。父や母や妹よりも、ウルの事ばかり口にする。
 更にヒロインであるカレンに横恋慕していた理由は、彼女が“ウルを愛していたから”という事が設定資料集にて明言されてしまったヤンホモ。

 序盤から中盤に掛けて存在感をアピールするも、Disc1のラストで捕まってから終盤までは割と悲惨。
 父への復讐も、筋の通らぬ横恋慕も、宿敵との決着も、何も為せないままラスボスの手で頭を握り潰されて死亡する。

 悪党で、外道でもある。だが救いようがないかと言えばそうではなく、何とも言い難いキャラクター。
 彼を表現する上で一番的確な言葉は恐らく、原作でカレンが彼を拒絶する際に放った台詞なのだと思われる。

 救いようのない悪党ではなく、許せない外道でもなく、唯何処までも哀れな男。それがニコルと言うキャラクターなのだろう。

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